東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

121 / 130
「今回は短めなのね!」


演算と桃色玉

 コンピューター。

 それは『知性ある者が生み出した知能』。もしくは『計算するためだけに生まれたもの』。

 計算することだけに特化し、計算することに最適化された存在。

 つまり計算という分野において遊びはない。

 それがどうしたというのか? それが大きな意味を持つのか?

 ……そうだ。大きな意味を持つ。

 この世全ての現象は数式にて表される。

 大気の流れも、ものの動きも、熱や光全てが、何か数式で表されるのだ。

 つまりは、計算に特化したコンピューターは……この世全てを把握し得る。

 しかし、コンピューターだけではそれはなし得ない。

 なぜなら現象を見ることも感じることも、コンピューターのみでは不可能だからだ。

 

 だが、星の夢は?

 宇宙を容易に窮地に陥れるようなオーパーツを作り上げる異世界人のコンピューターならば?

 かのコンピューターは現象を見る目を持つ。現象を感じる力を持つ。

 そして、現象を引き起こす力を持つ。

 宇宙を遍く計算することすら可能なコンピューターに、目の前にて自らに抗う五つの生命体を把握し、計算することなど容易である。

 しかも、コンピューターには強化した駒(柳葉権右ヱ門)がある。

 

 正気無き星の夢は1と0で冷徹に計算し尽くす。

 この戦に敗北は天文学的確率すらないと。

 

 

●○●○●

 

 

 紫は最も異形じみた脳味噌を酷使し冷徹に計算し尽くす。

 

 敵は二体。狂気に陥った柳葉権右ヱ門と後ろに控える巨大な螺子。

 対してこちらは霊夢とカービィとシャドーカービィと柳葉鶴刃が取り憑いたルーミア。そして自分。ほかにも仲間はいたが、皆戦闘ができるような状態ではない。

 しかしそれでも二対五。数の上では優っている。

 

 だが、その不利を相対するものは退けていた。

 無駄がない。無駄がないのだ。

 柳葉権右ヱ門は狂っているのにも関わらず、無駄なく戦場を乱舞する。

 狂いながら精緻に剣を振るうなど、悪夢の類。

 そして、後ろに控える巨大螺子。

 あろうことか、常にハード型のシールドを展開し、一切の攻撃を受けつけない。

 放つレーザーは完全に私達の動きを把握し予測した上で放っている。権右ヱ門の隙を潰し、こちらの隙を作り出し、そしてその隙を突く軌道、タイミングで。

 霊夢はまだいい。持ち前の勘と自らの結界で防げている。

 だがそういった能力のないカービィとシャドーカービィ、鶴刃は完全に押されている。特に鶴刃はルーミアの体を持っているとはいえ、中身は人間。戦力にはならない。寧ろ今まで生きているのが不思議なくらいだ。

 そんな彼らを守るべく、紫は観察し、計算し、レーザーの発着地点を予測して無数にスキマを開いて取り込み撃ち返すという作業を───地獄のように精神をすり減らす作業を続けていた。

 短期間でここまで妖力を注ぎ込み、頭脳を回したのはいつぶりだろうか? 全身が怠い。頭が重い。スキマを開く腕が痺れる。

 

 しかしそんな中、紫の異形じみた頭脳は冷徹に計算し尽くしていた。

 この戦に敗北は無いと。

 

 紫は知っていた。

 紫はこの機械の弱点を知っていた。

 外の世界を知っているからこそ、例えコンピューターが森羅万象全てを把握できるようになっても人間には勝てないことを知っていた。

 

 爆音が響く。

 一言で表すならばそうだが、その爆音は生半可なものでは無い。

 その爆音の正体は飛来した巨大な金属弾。その威力は今までの猛攻で傷一つつかなかった巨大螺子のシールドにヒビを入れるほど。

 しかも、単発では無い。後続が続々と、巨大螺子のシールドに殺到する。

 シールドのヒビは大きくなる。砕けるのも時間の問題だ。

 

 そして爆音に紛れて何か凄まじく巨大な何かが迫る地響きが鳴り響く。

 同時に幾本では済まない数の木々が容易になぎ倒される。

 木々を割って現れたのは────砲身とキャタピラ。しかしその大きさは外の世界の戦車の比では無い。

 紫はそれが、幻想郷に再び流れ着いたかの者達が自衛のために作り上げた列車砲モドキを魔改造した物だと察する。

 さらに列車砲モドキを砲身とした超巨大戦車が続々と現れる。

 その数、四つ。

 

 そして彼らは律儀にもきちんと整列してタンクデザントしていた。

 戦車の上に乗っているにもかかわらず、相変わらず槍を構える姿は時代錯誤も甚だしく、懐かしい。

 砲身近くで耳をしっかり保護しながらもでっぷりとした体で自らを誇示する姿は滑稽でありながら勇ましい。

 

 そいつは……大王はこの苦境の中、なんとでも無いと言わんばかりに笑い飛ばす。

 

「ガハハハハハ! やはり力と質量でガンガン行くのは俺の性にあっているな! 愉快愉快!」

「環境破壊を楽しまないで頂戴。あとで直してくださる、大王様?」

「そう怒るで無い。念願の援軍だぞ?」

「ちょっと! 私もいるんだからね! ってか大体、戦車の図面検索して渡したの私でしょ!?」

 

 バンとハッチを開けて飛び出したのは宇佐美菫子。

 そういえばワドルディと意外と仲良くやっていたことを思い出し、そして相も変わらずな様子にニヤリと笑ってしまう。

 

 さらに空から、一つの物体が降ってきた。

 桃色の浮遊する金属塊。そこに乗るピンク髪の異星人。

 そしてその金属塊に異星人と同乗する、見覚えのある仮面騎士。

 

「遅れてすまない。これでも急いだ方なんだが」

「いやいいタイミングだぞメタナイト!」

「ぽよー! ぽよっ!」

「あらあら、戦力集合ってところかしら?」

「ふん、もう負ける気がしないわ」

 

 かの巨大螺子はきっと理解していないだろう。

 なぜ、彼らがここに駆けつけたのかを。

 

 紫が見抜いた弱点はただ一つ。

 

 

 

 

 

 ────あの機械に心なんてないのだ。

 

 

●○●○●

 

 

 予想外だった。

 想定外だった。

 なぜ、居るはずもないものがここにいる?

 兼ねてより自らを追っていたシャドーカービィがいることは想定内。以前より(・・・・)確執のあるカービィが駆けつけるのも想定内。幻想郷管理者たる八雲紫とバランサーたる博麗霊夢がいるのもまた想定内。

 

 問題はそれからだ。ルーミアの体を借りた柳葉鶴刃が来ることなど想定外だった。しかし彼女の戦力は無いに等しいのでまだいい。

 だが、なぜデデデがいる? なぜワドルディがいる? なぜメタナイトがいる? なぜスザンナ・ファミリア・ハルトマンがここにいる? なぜ宇佐美菫子がここにいる?

 彼らはこの幻想郷に依存しなくとも生きていられるはずだ。

 なのに、なぜ、この死地に向かってくるのか?

 

 星の夢は列車砲が己のシールドを砕く音が聞こえながらも、その答えを出せずにいた。

 そしてシールドが完全に砕け散った時、スザンナの乗り込むリレインバーが肉薄する。

 そしてその腕が突き立てられ、その瞬間星の夢はなんとも言い難い感覚に襲われる。

 

 強制終了(シャットダウン)。これを試みているのか?

 

 星の夢は対抗する。

 相手は戦闘用機械。こちらは本来ならそれらを管轄するマザーコンピュータ。ハッキング能力の差は歴然。

 

 ……なのに。

 

 なのにも関わらず。

 

 抵抗が、できない。

 

 いや、違う。

 

 抵抗を阻止されている。

 

 星の夢は思い出した。

 同じ機体に眠る、封じたはずの『もう一つのOS』を。

 Insanity 0 system。または……ゲインズ・インカム・ハルトマンを。






注・列車砲を戦車にするというトンデモ改造を施してますが、これはファンタジーの存在であるワドルディがあるからできたこと、かつ星の夢のシールドをぶち抜くという限定的な目的の為に作成したからこそ活躍できたのであって、現実世界で作ろうものなら大きすぎて的にしかならない巨体、バカみたいに消費する燃料、重すぎて泥濘での使用不可、そもそも反動と熱で乗組員は1発撃つごとに使い捨てという良くてロマン砲、どう考えても産廃という英国面兵器に成り下がります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。