東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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なんだか幽々子様は横文字に弱そうな気がします





収拾と桃色玉

 夜は明けた。

 日は登り、暗い狂気をその光で打ち払ってゆく。

 狂気と願望のままに蠢く幻想の人間たちは光とともに理性を取り戻す。

 

 光あれ、光あれ。

 幻想郷に再び光は満ち満ちた。

 暗がりに生き、夢見、幻想に縋り、望み託し、忘却を恐れ、畏れを糧に生きる妖怪達は、己が理想郷を守り通した。

 

 狂気に陥り目を覚ました人間達は、きっと夜中のうちに何が起きたのか慄くものもいることだろう。

 妖怪との不幸な衝突で命散らした者もいることだろう。

 しかしそれでも、彼らは逞しく生きてゆくことだろう。

 なぜなら彼らは、常に飢獣(妖怪)を隣人として生きているのだから。

 仲間を失ったくらいでは折れることはない。ただ幾万回も立ち上がり、再興を目指すのみだ。

 

 そして今まさに再興を遂げようとしていた。

 

 

●○●○●

 

 

「結局、あれは何だったんだ?」

 

 幻想郷の東の端、幻想と現実、内と外、どちらとも言えない場所にある博麗神社。

 その縁側に座り込み、魔理沙が茶を啜っている。周りにも紅魔館の主人とメイドと魔女や白玉楼の主従二名、宇佐美菫子、そして地霊殿の主人とペット。さらにはカービィ、メタナイト、デデデ大王、バンダナ被りを含むワドルディの群れも博麗神社に集まっていた。大人数集まり過ぎて神社の巫女である霊夢はさぞ不愉快そう……かと思えばいつもの事なのでもはや諦めているようだ。

 

 そんな人妖霊異星人入り乱れる中、魔理沙は足を揺らしながらふと気になったことを尋ねた。

 答えたのはメタナイトであった。

 

「星の夢の怨霊が実体を持ったもの……とでもいうべきかな。あのマルクと同じようなものだ」

「でもあれ、生物じゃないよな? それの怨霊とかあり得るのか?」

「ありえるわよ〜」

 

 答えたのは意外な人物。団子を頬張る幽々子であった。

 その隣では同じようにカービィやワドルディが団子を頬張っていた。

 

「そうなのか?」

「ええ。あれには確かな生物の精神……魂があったわ。確か……元気・いんすます・春雨?」

「幽々子様、ゲインズ・インカム・ハルトマンです」

「そうその……ゲン……ハルマンの魂。それが宿っていたのよ。ならばあの星の夢とかいう螺子を依代に怨霊化してもおかしくはないわ」

「なるほど……カービィのいた世界の怨霊化した機械か……と言うことはマルクと融合していたんじゃないのか?」

「どうやら融合しなかったらしい。なにせボディは機械。物質的なものだ。だから完全に怨霊であったマルクとは融合せず、あの時は幻想郷のどこかを漂っていたのだろう」

「そしてマルクがスターロッドを使って自分含めカービィのいた世界を幻想に変えた時……」

「星の夢も幻想の存在となり、この幻想郷に定着した、というわけだ」

「はぁあ、なるほどなぁ。饅頭もらうぜ」

「ちょっとは遠慮しなさいよ」

「客はもてなすもんだぜ?」

「押しかけてくる奴らを客とは言わないわ」

 

 いつのまにか卓袱台までにじり寄っていた魔理沙はひょいと置かれていた饅頭を取って食べ、霊夢が不満そうな目つきで睨む。

 そんないつものやり取りを他所に、レミリアは憤っていた。

 

「それにしても癪だわ。誇りある吸血鬼たる私を洗脳しただなんて」

「全くです」

「ま、完全に異世界の力だし諦めなさいな」

「あら? いつものパチェなら是が非でもその力を自らのものにしようとすると思ったのに」

「技術体系が違い過ぎて無理よ。っていうかあれはどちらかというと外の世界よりの力よ? 魔女じゃ無理ね」

「そういえば私のペットもいつのまにか洗脳されてたみたいなんですよね」

「ああ、そこのカラス?」

「カラス言うな! 私は地下間欠泉センターを管理する地獄鴉の────」

「はいはいお空は黙ってようねー」

「……うちのペットが失礼。とにかく、洗脳されたみたいなんだけど、どうも貴女と違って星の夢の破壊に手を貸してたみたいなんですよね」

「それはあれでしょ。うちの妹みたいな」

「二重人格とでも言いたいのですか? 失礼ながら、貴女の妹様は二重人格ではない気が……」

「レミィ、フランは二重人格とは違うわよ」

「え、そうなの?」

「まぁ、先のメタナイトの話を聞くに、おそらく私たちに敵対し、貴女を洗脳していたのが星の夢の機械的側面、私たちに味方し、うちのペットを洗脳していたのがゲインズ・I・ハルトマンの人間的側面なのでしょうね。おそらく心の奥底までは怨霊化していなかったのでしょう。その鶴刃という少女の怨霊と同じく」

「ともかく、星の夢の一つの体に意見の相反する存在が二つあったと。難儀ねぇ」

 

 そんなねじくれた話を近くで聞かされた霊夢の顔はさらに不機嫌なものになる。

 

「ともかく! 面倒ごとは全て解決された! それでいいわね!」

 

 と、メタナイトの方に詰め寄る。

 その勢いに若干メタナイトはたじろぐ。

 

「……ああ、恐らくは」

「『恐らく』ってなによ」

「いや、そもそもなぜマルク達の怨霊が幻想郷に流れ着いたのかわからなくてな」

「はぁ? どういうことよ」

「『幻想的な存在を引き寄せる』のが幻想郷の一つの特性だとしても、プププランド、及びポップスターにも霊くらい存在する。果たしてその中でマルク達の怨霊は引き寄せられる確率はどの程度なのか?」

「確率論は意味をないわよ。あの吸血鬼の言葉じゃないけど運命とはそういうものよ」

「……だとしてもだ。ポップスターは幻想郷よりも輪をかけて幻想的存在に近いものが大量に存在する。熱エネルギーが低いところから高いところへ行かないように、マルクの怨霊も果たして幻想郷に自然に流れ着くものなのか……」

 

 そう言ったきり、メタナイトは思考の渦に囚われる。

 

 きっと押してもビクともしないであろう状態になったメタナイトを前に憮然とした態度をとる霊夢に、ふと声がかかる。

 その声は幽々子のものであった。

 

「そういえば霊夢、紫を見てない?」

「紫? 復興作業で忙しいんじゃない?」

「あぁ、それもそうね。最近見てないから────」

 

 心配だったの。そう言おうとしたのだろう。

 しかしその声は突然の轟音によって掻き消される。

 その轟音は長くはなかったが、収まった途端、全員が静まり返る。

 そしてしばし硬直した後、皆弾かれたように外へ出た。

 外に出て周りを見渡し、すぐさま“ソレ”を見つけた。

 誰もがそれに釘付けになった。

 

 博麗神社を半分飲み込むように、空間に文字通りの“裂け目”が開いていたのだ。

 

「……一難去ってまた一難、か? 冗談じゃないぜ」

「全くよ。うちの神社になにしてくれてるのよ」

 

 異変に次ぐ、異変。

 その光景に誰もが呆れている中。

 

「ぽぉよ!」

「あ、待てカービィ!」

 

 カービィは迷わずその裂け目へと飛び込んだ。

 その様子はまるで、何かを察知したかのように。

 あるいはその先になにが重大な失態があるかのように。

 

「……行きましょう。嫌な予感がする」

「ほぉ、メタナイトもか。俺もなんかデジャヴなんだよな」

「ボクもボクもー」

 

 そしてプププランドの面々もまた、その裂け目へと入り込む。

 残された者達は互いに顔を見合わせる。

 

「……どうするんだ、これ」

「行くに決まってるでしょ。こんなの開かれたらここに住む私の気が散って仕方ないわ!」

「その中で生活すれば精神の修行にはなりそうじゃないですか」

「あ、いいわねそれ。霊夢、貴女集中力ないからいいんじゃない? 私のメイドがいいアイデア出してくれたわよ?」

「私は私のやりたいようにやるわ。とにかく邪魔だから撤去してもらわないと」

 

 霊夢はその裂け目に足を踏み入れる。魔理沙もカービィを追い、後続も興味本位でその裂け目へと足を踏み入れる。

 

 しかし、それは過ちであった。

 

 何処が果てなのかもわからない漆黒の空間。そこに何か星のように瞬く、星ではない何か別の微かな輝き。

 足元にあるのは空を鏡面のごとく映す、果てなき大地。

 

 そして、その大地に屹立する大いなるもの。

 万年の樹木すら劣るような太く頑健な足で立ち、城塞を一撃で粉砕せしめんばかりに重厚な拳。それをしっかりと支え制御する体。

 それは、頭を白いハートのような仮面で覆った、“赤い”巨神であった。

 いや、誰かが神と説明したわけではない。

 だがわかるのだ。裂け目より踏み入れた矮小なるものはその力を体で受け止めたのだ。

 

 かのものこそ神であると。

 

 大いなる神であると。

 

 冒涜的な呼び声はその神の内より木霊する。

 

 さぁ、立ち上がれよ、覚醒せし神よ

 幻砕き、(ぼう)を滅せよ

 さぁ、地を(ぼう)で包め

 己が望むまま、蹂躙を

 幻想を巡り、醒覚を奏

 彼方楽園に、忘却を…永遠に

 

 内と外、幻想と現実、夢と現。その狭間にある博麗神社に開いた裂け目。

 そこに鎮座するは、幻想郷を、妖怪の夢を、砕き醒めさせる神であった。






???「待たせたな!」
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