東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
アズレンの摩耶が出なくてつらい。赤賀と夕立はいるんだけどなぁ。
「……アレは何だ?」
「……知らないわよ。でも分かるわ。アレは神よ」
白磁の仮面の赤い巨神は鏡面の如き大地を揺らし、こちらへ迫る。
轟音は、振動は、徐々に大きくなり、その巨体が威圧感を増して行く。
なるほど。この威圧、この御姿、確かに神と言われても納得できる。
だが、こんな神などいたのか? 果たしてこのような姿の神が存在していたのだろうか?
それとも新たに生まれた落ちた神なのか?
それとも今の今まで人に触れられることなく眠っていた神なのか?
答えは出ない。誰もがその答えを導くには至らない。
いや、四人。四人だけ、その神を知っていた。
ポップスターより夢を通じて幻想郷に降り立った、メタナイト、デデデ大王、バンダナワドルディ、そしてカービィ。
「……エンデ・ニル」
「エン……? それがあいつの名前なのか!?」
「間違いないな……あの時は邪神として召喚されたが……今回はどうなんだ?」
「赤いね。赤く染まってる。関係あるのかな?」
「ぽよっ!」
「つまり、どういう事なのよ! 敵なの、味方なの?」
霊夢は札とお祓い棒を構えて臨戦態勢のまま、視線を神……エンデ・ニルから離さずに問いただす。
メタナイトは唸り、珍しく自信なさげに答えた。
「すまん。はっきりは分からない。とにかくエンデ・ニルは受けた力、召喚者の性質によって神としての性質を変化させ慈悲を与える虚無の神だ。だから善神にも邪神にも破壊神にもなり得る」
「なら今はどういう性質なの!?」
「全く分からん」
「もう! 肝心なところを!」
そう霊夢が嘆いた時。
エンデ・ニルはその剛腕を振り上げた。
振り上げられた拳をどうするのか? 当然、振り下ろすだろう。
大地は揺れ、その大地を砕きながら衝撃波が目に見える形で迫り来る。
「邪神か破壊神じゃないか! 皆退避だ!」
魔理沙は悲嘆の篭った声で叫び、裂け目に足を踏み入れた者達はその衝撃波を身一つでかわす。
しかし安心はできない。エンデ・ニルはその巨体でありながら信じられない高度まで飛び上がり、こちらを踏み潰しに来た。
幸い、踏み潰されたものはいない。しかしその風圧、衝撃は凄まじく、避け切ってもなお吹き飛ばさんとする凄まじい力が身体にかかる。
「くそう、筋肉野郎め!」
魔理沙は悪態をつきながらも箒に乗り、空へ舞い上がる。
その側にドラグーンに乗ったカービィも滞空し、エンデ・ニルを睨む。
「メタナイト! デデデ大王! アレのこと知っているんだろう! どうにかする方法は知らないのか!?」
「“目”だ! 奴の体を構成する要である文字通りの“目”を探せ!」
「おい、それはティンクルスターアライズ無しで出来るのか!? そもそも俺のハンマーでは高すぎて届かんぞ!
「賭けるしかあるまい! 届かないならばミサイルでも用意して狙撃してくれ!」
目。目だと?
恐らくは仮面に開いた目のような穴ではないのだろう。
魔理沙はエンデ・ニルの体をくまなく探す。
すると、その腹部に妖しく赤く光る目があるではないか。
「あれだな! マスタースパーク!」
先手必勝。そう言わんばかりにその目玉めがけてマスタースパークを撃ち込む。
瞬間、若干だがエンデ・ニルの体がこわばったように見えた。
「効いてる……効いてるぞ!」
「アレだね! ツブれろ!」
そしてフランが自らの能力を使い、目玉の“目”を握り潰しにかかる。
だが、確かに“目”を握り潰したのにもかかわらず、目玉は健在。確かにマスタースパークを撃ち込んだ時よりも損傷は激しくなっているが、その程度。
「一回じゃ、壊しきれない……の?」
「邪魔だフラン! グングニル!」
レミリアがフランの後ろから赤く光る神槍を持ち出し、投げつける。
そして神槍は目玉を貫き、確かに破壊した。
エンデ・ニルはよろめき膝を付く。
……が、すぐに何事もなかったかのように立ち上がる。
「なんで!? 目を潰したじゃない!」
「今度は右肩だ! 同じように潰せ!」
「……何回もやらなくちゃならないのか!」
拳は轟音を轟かせて幻想の住人を蹴ちらさんとする。
その健脚は巨体を高々と持ち上げ、踏み潰さんとする。
当たらずとも衝撃で吹き飛ばされる中、死を持つ蝶が、剣圧が、魔法が、ナイフが、神槍が、破壊そのものが、怨霊が、核の輻射熱が、レーザーが、札が、その目玉に殺到する。
衝撃波で掻き消されながらも目玉に直撃し、右肩の目玉を潰す。
しかし、それだけではまだ倒れない。
「次は左肩だ! 同じようにやれ!」
「行け、ワドルディ! 掃射だ!」
左肩に目玉が現れた時、今度はデデデ大王がワドルディ達を引き連れ戻ってきた。
それも、星の夢のシールドを貫くのに活躍したかの超巨大戦車を裂け目に突っ込ませながら。
左肩の目の破壊に右肩ほど時間はかからなかった。
やはり慣れと戦車という戦力が大きいのだろう。
あの巨体と正体不明さに慄いたが、これならいけるのでは?
そう、思った時だ。
エンデ・ニルの両手が光に包まれる。
その光は伸び、そして対となる巨大な剣が腕と一体化して現れた。
変化はそれでは終わらない。幻想郷の住人から驚愕の目が向けられる中、仮面から炎が噴き出し、その剣に噴きかけられる。
そしてその剣は常に燃え続ける剣へと変化した。
「まずい、来るぞ!」
剣は凄まじい速度をもって空気を切る。
そのまま大地へ叩きつけられ……爆裂する。
上がる悲鳴。何名か巻き込まれ、吹き飛ばされる。
阿鼻叫喚の中、さらなる追撃を加えんとエンデ・ニルはもう片方の剣を振るう。
……が、エンデ・ニルはその場でたたらを踏んだ。
見れば、叩きつけた剣が根元から折れている。
その折れた剣の根元にいるのは……
「獄炎の熱さなんて、私にはサウナ程度にしかならない!」
霊烏路空が、燃ゆる腕にへばりついていた。
その業火を身に浴びながらも平然としていた。
折れた剣はエンデ・ニルの力によってすぐさま再生する。
しかし、それで空のやったことが無駄になったわけではない。空によって大きな隙を生み出した。
「今だ、やれ!」
次の目玉は背中。その目玉も空の生み出した隙によって、ありとあらゆる力の斉射により潰された。
そして、その白磁の仮面に目玉が浮き上がった。
「次は額だ!」
「一体何回やれば……なんだ?」
何度も弱点と言われた目玉を潰してもなお倒れないエンデ・ニルへの恐怖が高まる中、当のエンデ・ニルはその両手を大きく持ち上げる。
何をするのか。
いいや真っ当な事ではないのは確かだ。
大きくあげた腕は振り下ろされ……十字の炎の剣圧が飛来する。
「キャアッ!」
どこからか悲鳴が上がる。誰かが被弾したのだろう。
誰が被弾したのか。後ろを向いて確認したい衝動に魔理沙は駆られる。
だが、そうしている間にもエンデ・ニルは剣をめちゃくちゃに振り回し、炎を飛ばしまくっている。
「くそう、早く倒さないと……!」
魔理沙は八卦炉を構え、暴れるエンデ・ニルの額に標準を合わせる。
こうしている間にも、自らに向けて炎が飛んで来る。
だがその炎をギリギリで回避し、髪を焼きながらも力を溜める。
そして、溜め終えた力は、渾身の一撃となる。
一条の光輝は額を貫き、目を潰した。
そして仮面がぐるりと回り……ついに、エンデ・ニルは前のめりに倒れた。
やった。
無尽蔵の体力を誇ると思われた巨神が地に伏せた姿を見て歓喜する者達。
だが、これは始まりに過ぎなかった。
突然発生した、仮面に隠れていた暗い穴へと向かう強力な引力。
その引力はこの世界すべてに及び……この場に居たものは声を上げる間も無く、エンデ・ニルの体内へと引きずりこまれた。