東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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注)ネタが多いのは気のせいです。多分。


新メイドと桃色玉 ☆

 そいつらはぞろぞろ列になってやってくる。

 そして先頭がラウンドテーブルの近くに到達すると、突如としてその列は止まる。

 

 一体なにをする気か。

 

 そう思った瞬間、なんと後ろ側にいたものがその前にいるものの上に乗り始めた。

 まるで組体操だ。

 そしてそれが幾度となく繰り返され、出来上がったのはラウンドテーブルへと続く階段であった。

 その階段を、今度はティーセットを持ったものが登り、ラウンドテーブルに置いて行く。

 全て置き終えると、その階段はわらわらと崩れ、ラウンドテーブルから離れたところで横一列に整列する。

 ずらりと同じ顔が並ぶなか、霊夢と魔理沙は唖然とすることしかできなかった。

 

「どう?」

「……いや、『どう?』じゃないわよ。なにこいつら。」

「やけにカービィに似てないか?」

「新しいメイド達よ。紅魔館の近くを集団でうろついていたのを、言葉が通じたので色々と話して雇ったのよ。言葉は発しないけどね。」

 

 非常に楽しそうなレミリア。

 しかしこのメイド、小さくてラウンドテーブルまで登れないが故に、紅茶を注いだりするなどの机の上でする仕事ができない。

 そのため今は咲夜がティーカップに紅茶を注いでいる。

 もはやペット感覚で雇っているに違いない。

 

 いや、そんなことよりも重要なことがある。

 

「なんなの、こいつら?」

「よちよち歩いててかわいいでしょ? だから、『Waddle Dee』って呼んでるの。あ、別に個々に名前はないわよ。同じ顔しているから識別できないし。」

「わ、わどぅ?」

「『Waddle Dee』よ。『ワドルディ』って言ったら楽かしら?」

「ワドルディ……いやそうじゃなくて、こいつらの正体は何かって聞いているの!」

「うーん? わからないわ。気づいたらいたから。」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 ダメだ、全く要領を得ない。

 というより世間知らずなお嬢様に事情を聞くのもおかしな話か。

 

「まぁ、可愛いっちゃ可愛いんだがな。」

「妖精メイドよりかは大分仕事できるわ。時々ドジを踏むけど、ま、ご愛嬌ね。」

「となると妖精メイドは皆失業ね。あんたもまずいんじゃない?」

 

 霊夢が嫌味のこもった目で咲夜を見つめる。

 しかし咲夜はそれをさらりとかわす。

 

「いえ、私はこの館の拡張に関わっておりますので。それに、ワドルディ達の食費は妖精メイドの食費よりもかさみます。コスパでははっきりいってどっこいどっこいです。」

「え、こいつら飯食べるのか? 口もないのに?」

「そうよ、割と食べるのよ。口がないから食費もかからないと思って雇ったんだけどね。」

 

 レミリアはワドルディのうち一体を近くに呼ぶ。

 そして皿に乗ったクッキー一つをワドルディの口と思わしき場所に近づける。

 すると、するりとクッキーはワドルディの体内へと消えていった。

 そしてぽりぽりと咀嚼音が聞こえてくる。

「……カービィも中々不思議なやつだとは思っていたが、こいつらも大概だな……」

「なんか、また変なのが湧きだしたわね……」

「ねぇ、さっきから気になっていたんだけど、カービィって何?」

 

 引く霊夢と魔理沙達。彼女らに対して、先程から気になっていたワードについて、身を乗り出すようにして問いかけるレミリア。

 別に同じ人外のレミリアなら、その存在を話してもいいだろう。

 そう霊夢と魔理沙は目配せし、カービィについて説明しようとする。

 

 だが、その前にふと、気がついた。

 

「……あれ、咲夜は?」

 

 

●○●○●

 

 

「わははは! 楽しー!」

「やめようよチルノちゃん!」

 

 霧の湖の畔。

 そこで二人の妖精と桃色玉が戯れていた。

 いや、妖精が桃色玉にじゃれついていると表現する方が正しいか?

 桃色玉はただ寝息を立てるのみ。

 

 さて、話は変わるが妖精とは、自然の象徴たる存在である。

 氷の妖精チルノは当然氷の象徴だ。

 そして自然の象徴たる妖精は、その自然がなくなってしまわない限り、たとえ死してもすぐさま蘇る。

 チルノなら、この世から氷がなくならない限り、消滅することはないだろう。

 大妖精は、もしかしたら自然の象徴たる妖精がいなくならない限り、消滅しないのかもしれない。

 

 つまり、彼女らにとって『死』とは恐れの対象ではなかった。

 

 そして彼女らは愚かであり、他の存在にとって『死』は恐れの対象であることを知らない。

 もし、豚を不浄な生き物として食さないイスラム教徒と、豚肉を好むことで知られるドイツ人が、お互いが『そういう嗜好、信仰を持っている』と知らずに暮らしたら、どうなるか。

 想像しなくてもわかるだろう。知らぬが故に、ドイツ人は平気でイスラム教徒のタブーを侵し、衝突が起こるだろう。

 

 つまり、妖精達もそういうことだ。

 

 妖精達は他の存在が『死は恐ろしいもの』と知らぬが故に、平気で相手が死ぬような悪戯をする。

 

「これを湖に浮かべて凍らせてみようよ! 乗れるかもよ!」

「ダメだよ! 勝手にそんなことしちゃ!」

 

 例によって例のごとく、チルノは大妖精の言うことを聞かない。

 チルノがワンマンなのは太古の昔からだ。

 尤も、地球が氷で覆われた時はカリスマ性も備えてはいたのだが。

 

 モニュモニュと寝ている桃色玉を揉みしだくチルノ。

 しかしそんなことをしたが故に、天罰でも降ったのか。

 その桃色玉は寝惚けたまま、チルノを吸い込んだ。

 

「ああっ! チルノちゃん!!」

 

 大妖精の悲鳴か、それともいきなり冷たいものを口に含んだせいか。

 桃色玉は驚き目を覚まし、そして口の中のチルノを吐き出した。

 

「ぷえっ!」

「うわぁぁぁああああ!」

 

 輝き、回転しながら空を舞うチルノ。

 そして、チルノは近くにあった紅い不気味な館の敷地へと飛んで行ってしまった。

 

 茫然とする桃色玉。

 その隣では大妖精が大慌てであたりを右往左往している。

 

「たいへんたいへん! どおしよぉ!」

 

 その様子を見て、寝ぼけた頭でも桃色玉は理解した。

 どうやら自分はその子の友人にとんでもないことをしてしまったらしいと。

 桃色玉は大妖精の肩を叩く。

 そして、まかせて! と言わんばかりに、体を張る。

 

「……チルノちゃんを助けてくれるの?」

「ぽよ!」

「あなたの名前は?」

「ぅ? カービィ!」

「わかった。カービィ、本当はチルノちゃんが悪いんだけど……あそこは危ないところなの! だからお願い! チルノちゃんを連れ戻してきて!」

「ぽよっ!」

 

 桃色玉、カービィは勇ましく頷く。

 そして、その声に呼応して空からそれは舞い降りた。

 妖怪の山で活躍した、ドラグーンである。

 それに乗り込むと、カービィは一気に飛翔したのだ。

 

 名も知らぬ妖精の、友人を助けるために。

 

 

●○●○●

 

 

「あー、暇だなぁ。」

 

 美鈴はその場で伸びをする。

 その場でずっと立っているというのは、なかなか暇な仕事だ。

 とはいえ、防御という面で欠かせない仕事である。

 というより、サボったら咲夜に色々と叱られるのだ。

 

「はぁ、真面目にやりますか。」

 

 両頬をペチペチと叩き、気を引き締める美鈴。

 

 すると、彼方で何か光った気がした。

 美鈴の動体視力はそれを見逃さない。

 だが、その光を見た時点で、すでに手遅れなのかもしれないが。

 

「ぐふぁぁっ!!」

 

 突如として、爆裂音と強い衝撃を感じた。

 鉄柵は弾け飛び、美鈴も紅魔館の壁へと叩きつけられる。

 

「な……ぜぇ……」

 

 薄れゆく景色の中、美鈴は確かに見た。

 主人が戯れで雇ったワドルディなる存在(やや色が違うような気もする)が、何かに乗って突撃してきたのを。

 

 そのまま、美鈴の意識は闇に包まれた。

 

 

●○●○●

 

 

 カービィは空へと帰ってゆくドラグーンを見送り、紅魔館へと近づく。

 そして玄関扉を見つけると、ジャンプしてそのノブにへばりつく。

 その反動で、扉が開く。

 その小さな隙間から、するりと中へ入る。

 

 その先は、広いエントランスになっていた。

 赤い壁と床が目に刺さる。

 カービィもあまりよくは思っていないようだ。

 

 とりあえず、早くチルノという妖精を探し出そう。

 

 そう思ってか、足を一歩踏み出した時。

 カービィは転がるようにしてその場から離れる。

 すると、スコンと軽い音とともに、カービィがさっきまでいた場所にはナイフが突き刺さっている。

 

「まったく、意外に素早いわね。」

 

 そして投げかけられる、冷たい声。

 そこにいたのは、銀髪の空飛ぶメイドであった。




この挿絵を投稿する際、直前になってレミリアの羽を書き忘れていたことに気がつきました。
羽がないレミリアなんてただのおぜうさまですね(?)

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