東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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吸血鬼のメイドと桃色玉

「門番をあんなにして……侵入したからには、それなりの覚悟があってのことよね、ピンク玉。」

 

 シャラン、という金属同士がぶつかる澄んだ音が鳴る。

 出所は、メイドの持つ無数のナイフ。

 無数のナイフを、メイドは投げつけた。

 

 その数、三本。

 

 戦闘の心得があるものなら、簡単に避けるなりいなすなりできる数である。

 

 だがしかし。

 

 その数は飛来する途中で、まるで分裂したかのように莫大な数へと膨れ上がった。

 最早、ナイフの雨が降り注いでいるのに等しい。

 流石のカービィも、これには無い尻尾を巻いて逃げるしかない。

 まだ密度の薄い方へと走って逃げる。

 

 だが、あろうことか、まるでカービィを迎撃せんばかりに前方からもナイフが飛んでくるではないか。

 いや、前だけではない。右からも左からも、まるで囲むかのようにナイフが飛んでくる。

 

 ナイフが飛んでくる仕掛けが、このエントランスにはあるのか?

 いや、そんな仕掛けは見たところはない。そもそもナイフの射出口らしきものも見当たらない。

 とすると、このナイフはメイドが投げたもの。

 一体いかにして、この数のナイフを投げているのか。

 

 ふとメイドのほうを見てみる。

 すると、そのメイドはまるで瞬間移動するかのように、見るたびに位置が大きく変わっているのだ。

 

 そこでカービィは理解した。

 メイドは超高速で動けるか、時を止められる、と。

 雨あられと降り注ぐナイフは、一つ一つ高速で動くことによって投げているに違いない。

 そして床に刺さっているナイフの数が増えないあたり、どうやらナイフは逐一回収して投げているようだ。

 

 ならば、カービィにとって対処は容易い。

 

 ヒュゴウ、とカービィは吸い込みを開始する。

 ここに来てカービィの初めての自発的行動に咲夜は若干身構えるが、しかし行動の不可解さから迂闊に動けなくなる。

 その隙をつき、カービィは床に突き刺さるナイフを吸い込みだした。

 カービィの吸い込みは、床や壁に突き刺さるナイフを引き抜くほどの吸引力があった。

 故に、カービィが向いた方向に突き刺さるナイフ、全てがカービィの口の中に収まる。

 そして一通り吸い終わった後、カービィは咲夜に向け、口に含んだナイフを吐き出した。

 

 いや、それはナイフなどではない。

 輝く星型の弾であった。

 ナイフが変質したものであろう星型の弾は咲夜に向け飛んで行き、しかしいとも容易く避けられる。

 そして壁に衝突し、破裂する。

 

 咲夜にダメージはなかった。

 ではカービィの行動は徒労か?

 断じて否。

 それは咲夜の額に浮かぶ冷や汗が証明している。

 咲夜の能力は時間を操ること。決して、ナイフを生み出す能力ではない。

 つまりナイフは有限なのだ。

 そしてそのナイフの大半が先の星型の弾となり、破裂した。

 ようやくカービィの思惑が咲夜にもわかった。

 

 カービィの先の行動の目的は、咲夜の無力化だ。

 

 そしてすでに、先ほどのようにナイフの雨を連続で降らせるような量のナイフは残っていない。

 ならば。

 

 咲夜は両手にナイフを逆手に構える。

 そしてそのナイフで、時を止めることによってゼロ時間移動、つまりは瞬間移動を行い、斬りつける。

 

 別に、大量のナイフが無くとも、咲夜には戦う術がある。

 何せ、時間を止められるのだ。格闘においてもその力は脅威となる。

 

 だが、当のカービィはその瞬間移動による斬撃を、まるで予測していたかのように避けた。

 最初は偶然かと思った。

 しかし、何度も、何度もかわされていると、それは偶然ではなく、瞬間移動する咲夜の動きを完全に読みきっているかのように見える。

 

 しかしそれも当然だ。

 カービィは、長い時を戦ってきた。

 その戦闘の中には、瞬間移動をする相手との激闘も数多く含まれる。

 そしてカービィはそんな連中にすら、勝利を重ねて来た。

 つまり、咲夜の瞬間移動からの攻撃は、カービィにとって“既知の攻撃”であったのだ。

 カービィの戦いの経験が、咲夜の攻撃全てを避けてさせていたのだ。

 それを咲夜は知らなかった。ただそれだけのことだ。

 

 この膠着状態に焦りを感じた咲夜は、残り少ないナイフを投げつける。

 そしてカービィはそれらを吸い込む。

 だがそれこそが、咲夜の狙い。

 その隙を狙って、咲夜は瞬間移動をし、そのナイフを振り下ろした。

 

 だが、そう簡単にはいかなかった。

 

 カービィは、そのナイフを吐き出さず、飲み込んだのだ。

 そして淡い光が集まり、しかし咲夜はそれでも構わずナイフを振り下ろす。

 

 手応えはあった。

 しかし、期待していたのとは違う。

 その感触は、金属を切りつけた時と同じ。

 これは、どういうわけか。

 

 そのナイフの一撃を受け、重量差で吹き飛ばされたカービィの姿を見て、咲夜は理解する。

 頭に被るのは、日本古来より存在したスパイ、影を行く者である忍者の頭巾。

 そして背中に背負う、日本刀。

 その日本刀ではじき返したのだ。

 

 突然の姿の変化に戸惑うものの、咲夜もまた優秀な戦士であった。

 両手のナイフによる連続攻撃を敢行する。

 そして近づけまいとカービィが投げつけるのは、小さなクナイ。

 不可思議なことに、刺さると幻夢のように消えてしまう。

 そんな不可思議なクナイを、咲夜は時を止めて避け、弾き、カービィへと肉薄する。

 

 そして抜き身の刀とナイフが交錯する。

 散る火花、耳をつんざく金属音。

 しかしそれは長くは続かず、咲夜の姿は搔き消える。

 そして現れた場所は、カービィの背後。

 

 完全な死角。

 咲夜は音もなく、ナイフを突き出す。

 

 だが。

 

 突如としてカービィはその場で跳ね上がる。

 そして、なんの前触れもなく、桜の花びらが視界を埋め尽くしたのだ。

 その直後、大きな衝撃が咲夜を襲う。

 

「くぅ!」

 

 しかしダメージを受けながらも、タダでは受けない。

 吹き飛ばされながらもナイフをカービィがいると思わしき場所へ投げる。

 そして、わずかに花弁が揺れた。

 

 手応えあり。

 

 咲夜は再び時を止め、体勢を整える。

 そしてカービィへ追撃しようとし、あることに気がついた。

 

 姿がどこにも見当たらない。

 どこを見ても、あの桃色玉の姿が見えない。

 逃げたか?

 あの短時間で?

 

 みすみす逃したことに歯噛みしながらも、咲夜は時間停止を解除する。

 

 その途端、咲夜の背後で爆発が起きた。

 不意討ちだった。

 それ故、何故自分が吹き飛ばされているか、全く理解できなかった。

 だが、何かに腰を掴まれたことで、ようやく時間の再停止を行う余裕ができた。

 

 腰のあたりを見てみる。

 するとそこには、腰をしっかりと抱えたカービィの姿があるではないか。

 

 一体いつの間に背後に回り込んでいたのか?

 咲夜のその問いに答える者はいない。

 

 では、一体何をする気か。その小さな体で組み技ができるとは思えない。

 だが、時間が止まっているがために、引き剥がすことができない。

 許されたのは、時間停止を解除し、その上で力で引き剥がすこと。

 

 咲夜は自らの呼吸を整え、その用意をする。

 そして再び時間停止を解除し、そのままの流れで引き剥がそうとする。

 

 だが、その手がカービィに届くよりも早く、体は上へと強力な力で引き上げられる。

 

 一体何が起きたのか。

 視界はみるみる床から離れて行く。

 

 まるで、目に見えないような大きな力で釣り上げられているかのような、そんな感覚。

 その力がなんなのか理解するよりも早く、今度は床が目前へと迫ってくる。

 

 そして、何も分からなくなった。

 

 

●○●○●

 

 

 床に突っ伏し気絶しているメイドから離れ。カービィは辺りを見回す。

 そして適当に扉を選び、その中へと突撃して行くのであった。

 

 

●○●○●

 

 

「大丈夫かなぁ、チルノちゃん、カービィ……」

 

 紅魔館の外では、大妖精がやきもきしながら右往左往していた。

 気がかりなのは、当然友人たるチルノと、それを助けようとしてくれるカービィだ。

 

 そんな大妖精に、間の抜けた声がかかる。

 

「おーい、大ちゃーん!」

「あれ、チルノちゃん!?」

 

 振り向いた先にいるのは、なんとカービィが探しているはずのチルノではないか。

 訳が分からず、大妖精はチルノに問い詰める。

 

「どうしたの? 無事なの!? 何もなかったの!? カービィにはあったの!?」

「え? ちょっと眠った後に戻ってきただけだよ? って、そんなことより、さぁ桃色玉! さっきはよくやってくれたね! あたいと勝……あれ? 桃色は?」

「吹き飛んだチルノちゃんを追って屋敷に入っちゃったよ! 連れ戻さなきゃ!」

「なんだあたいに恐れなして逃げたのかー! あたいったら最強ね!」

「話を聞いてよチルノちゃん!」

 

 そしてそのまま、大妖精はチルノに引きずられるようにしてその場を去っていった。

 当然、カービィは知る由もない。




乱れ花吹雪→木っ端微塵の術→イヅナ落とし(決まり手)

こんなところでしょうか。

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