東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
皆さんも疑問を感じたらどしどし質問を送ってください。
もうもうと上がる煙。
そこからころころと転がるものがあった。
それは、カービィであった。
一撃。たった一撃で、カービィはすでに満身創痍であった。
いや、あの一撃を受けて耐えられたのは、一撃の攻撃では死ぬことのないカービィだからこそ、だろう。
その姿を見て、フランは狂気に任せた笑みを浮かべる。
「あははは! 凄い凄い! 今の耐えるんだ! カービィは壊れないんだね! フラン、嬉しいよ!」
フランは狂気に呑まれている。
しかし、それと同時に、フランからは安堵の感情すら見えた。
それが、満身創痍のカービィには不思議でならなかった。
しかし、休んでいる暇はない。
「じゃあ、これならどうかなぁ!」
手から光が溢れ出す。
そして現る、無数の光球。
それは全てカービィめがけて飛来してきた。
傷だらけの体に鞭打って、カービィはなんとか避ける。
着弾するたびに爆発が起き、最早視界も遮られた状態。
そんな中で、ベッドの下に潜り込めたのは、幸いと言える。
「あははは! どこ? どこ行ったのかなぁ?」
フランは一時的にカービィを見失ったようだ。
だがそれでもなお、フランはその爆撃を続けている。
自分の部屋が壊れていくことなど、気にもとめずに。
完全に八方塞がり。
やり過ごして体力回復を待つのも良い。
だがカービィは、自らを傷つけたフランのことも気がかりだった。
放っていたら、自壊してしまう。そんな危うさを感じたのだ。
と、その時。目の前にあるものが転がってきた。
それはファンシーな風呂敷に包まれた四角い物。
それに目がいったカービィは、その風呂敷に何か取り付けられているのに気がついた。
『Happy Birthday by Remilia』
それは、誕生日プレゼントに他ならなかった。
だが、その風呂敷は爆煙の煤に混じり、埃を被っていた。
長らく放置していたのだ。
そんな時、フランの声の調子が変わる。
まるで、親を探す子のような声に。
「カービィ、どこにいるの? 出てきてよ……みんな、みんなわたしを置いていくんだ。お姉さまも、みんな……」
カービィは包みを開ける。
その包みには『香霖堂』と彫られた桐箱があった。
その桐箱の中には、綺麗なティーカップが入っていた。
普通のティーカップではない。細かい作業によって作られた名品なのだろう。少し触っただけで、普通のものとは違うことがわかる。
このレミリアという女性は、じっくり選んで買ってきたに違いない。
ただ残念なことに、爆発の衝撃で二つに割れてしまっていたが。
なぜ、この誕生日プレゼントは放置されていたのだろう。
なぜ、フランは孤独なのだろう。
それが、今わかった。
フランは、『愛』を感じられていない。
誕生日プレゼントからも、『愛』を感じられていないのだ。
だからこそ、フランは孤独なのだ。
『愛』は十分注がれているというのに。
彼女は『愛』を感じられていない。
『愛』を知らぬ哀しき少女を、救わねば。
カービィはその風呂敷と割れたティーカップを手に、ベットの下から這い出た。
すぐに、フランはカービィの姿を見つける。
「ああ、そこにいたんだ、カービィ。いなくなっちゃったんじゃないかって心配したよ?」
「……」
「ん? なぁにそれ? ああ、割れちゃったティーカップね。陶器は壊れやすいの。しょうがないね。……でもそんなティーカップ、あったかな? まぁ、いっか。壊れちゃったし。さ、遊びの続きをしよう!」
カービィは割れたティーカップを桐箱に戻す。
そして、風呂敷を飲み込んだ。
そしてすぐにカービィの姿が変わる。
そう、機械とバイザーのついた帽子をかぶった姿に。
フランの反応を待つ間もない。
そのバイザーから、不可思議な光が迸る。
もはや行動による対話は望めない。
これからは始まるは力の対話。
無理矢理にでも、目を覚まさせねば。
たとえ手段が無理矢理でも、フランを放って置けなかった。
これもまた、カービィなりの『愛』の一つだった。
カービィの姿が変わる。
白いモブキャップを被り、その背中からは枯れ枝に七色の結晶がぶら下がったような翼が生える。
その姿は、まさにフランそのものだった。
果たして、狂気に満ちた目で、フランには見えるのだろうか。
目の前にいる、狂気に囚われていない、『愛』に満ち満ちた自分の姿が。
「……あはっ、もしかして真似っこ? それじゃあ、これはできるかな?」
変化したカービィの姿を見て若干驚いたものの、すぐに笑みとともに襲いかかる。
しかも、その姿は霞んでいる。
それは動きが速いからだけではない。実際に、そのシルエットが霞んでいるのだ。
そして、その霞は大きくなり、やがて四人のフランが姿を現した。
禁忌『フォーオブアカインド』。そう名の付けられたスペルカードに使われる分身の能力。
これで純粋に戦力は四倍……いや、連携も考えればそれ以上になりうる。
だが、忘れてはならない。
カービィは、その力をすでに模倣しているのだ。
「禁忌『フォーオブアカインド』!」
突如としてカービィはスペルカードを詠唱する。
そして、まるで先ほどの光景をもう一度再生するかのように、カービィの姿が四人に増えた。
「すごい、すごいすごい! わたしの技も、全部真似できるんだ! あははっ! 楽しいよぉ!」
それでもなお、突貫する四人のフラン。
そしてそれを、四人のカービィが受け止める。
●○●○●
「早苗、あんたなんでずっとワドルディ見てるわけ?」
「いや、どこかで見たデザインだなー、っと。」
時折じーっとワドルディを見つめる早苗に、「そんなことしている場合じゃないでしょ」と霊夢は一喝する。
だが、そんな会話は魔理沙とレミリアの耳には入っていなかった。
それぞれには、それぞれの不安の種があるためだ。
「何事もないといいんだけれどね。」
「全くだぜ……」
しかし、現実は無情である。
「こうなって欲しくはない」という願いほど、その願いは裏切られてしまう。
ひときわ大きな振動が、館を揺らす。
しかも、それだけで終わらない。
二度、三度と断続的に起きる。
「な、何だこりゃ!?」
「も、もしかして紅魔館って欠陥住宅なんですか!?」
「そんなわけないでしょ。それより……」
「……来るわね。」
ドウ、振動とともに黒煙が階段から上がる。
そして、その黒煙を突き破り、八つの影が飛び出した。
それは、四人に分裂したフランと、四人に分裂したモブキャップをかぶったカービィ。
それらが、それぞれの手に捩じくれた時計の針のようなものを持ち、入り乱れるようにして乱戦していた。
「カービィ! 何でここにっ!」
「やめなさい、フラン!」
しかし、魔理沙とレミリアの静止は、両者に届かない。
フランがけたたましく笑いながら、『目』を握りつぶす。
と同時に、カービィの一体が爆炎に包まれる。
しかし、傷を負ったカービィは、瞬く間にその傷を再生させる。
吸血鬼の再生能力。それすらも模倣しているのだ。
「あははは! 本当に頑丈!」
「壊れないんだね、カービィ!」
「もっと、もっと遊んでよ!」
「あははははははは!」
未だ狂気的に笑うフラン。
そんな中、突如として早苗はワドルディとカービィを見てポン、と手を打った。
「あ! 思い出した! ワドルディって、カービィと同じゲームに登場するキャラクターだ!」
「今そんなことどうでもいいわよ! 目の前のこと何とかしなさい!」
早苗のいつものどこか吹き飛んだ台詞が炸裂する中。
状況は更に予想だにしなかった事態へと突入する。
レミリア達の背後から、フランとカービィめがけて飛ぶ、火炎球。
それは炸裂し、さらに黒煙が辺りを満たす。
その火炎球が飛来した方を反射的に見る。
そこにいたのは紫色のモブキャップを被り、紫色の長い髪から覗く眠そうな目が特徴の、紫色の部屋着を着た少女。
その少女は、紅魔館の住人の一人、種族としての魔女、パチュリー・ノーレッジだった。
「全く、呼ばれて来てみれば……レミィ、何これ。」
「こっちが聞きたいわ。それより珍しいわね、貴方がここに出張るなんて。」
「門番が呼んだからね。」
パチェリーが少し横にずれる。
するとその後ろには、傷だらけの者がいた。
「あいつです! あいつが裏切ったワドルディです!」
それは、門番の紅美鈴だった。
美鈴生きとったんかワレェ!
いやぁ、皆さん気づきましたか?
早苗さんの登場時、倒れた咲夜は気づいて拾って来たのに、何故美鈴に気づかなかったのか。
逃げてたんですね〜、パッチェさんの所に。
レミリアの所に行かなかったのは、レミリアが霊夢と魔理沙と面会中だからです。原作ではちゃんと門番してますからね、美鈴さん。それに準じてきっと礼儀は守るだろう、と。