東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
「裏切り……? 美鈴、あんた何を……」
「お嬢様、騙されてはいけません! そのワドルディには反乱の兆しがあります!」
「美鈴、あいつね? 貴方を門もろとも吹き飛ばしたワドルディというのは。……あれってワドルディなの? まぁ、変わりはないか。」
新たに介入して来た美鈴とパチュリー。
しかし彼女らとは、致命的に話が噛み合っていなかった。
「どうやらフランにちょっかい出したみたいね。丁度いいわ。まとめて黙ってもらいましょう。」
パチュリーの背後から巨大な魔法陣が現れる。
それは幾重にも重なり、そして無数の魔力球が形成される。
「ちょっと待て、パチュリー!」
「丁度試して見たかった魔法だし、やってみるか。捕縛術式。」
魔理沙の制止もパチュリーには届いていない。
やがてその魔力球は、フランとカービィへ向けて放たれる。
その射線上近くには、霊夢達も居るというのに。
だが、結果から言えば、その魔力球が誰かに害なすことはなかった。
その魔力球を防いだのは、無数の槍。
いつの間にか取り出した、ワドルディ達の持つ槍だった。
パチュリーはその光景を無言で観察する。
その間にワドルディ達は槍を構えながら、霊夢や魔理沙、早苗にレミリアを庇う形で槍衾を形成した。
しかも、いつの間にか数も増えている。
言葉なき彼らは、彼らなりの方法で、館に散らばる同胞を呼びよせたのだろうか。
「くっ、パチュリー様、下がってください!」
美鈴がパチュリーの前に出て、構えを取る。
その美鈴に対して、ワドルディ達はゆっくりと進軍を始める。
美鈴はそれを微動だにせず待ち構える。
パチュリーもまた、魔道書を開く。
そして……
「やめなさい、愚か者供。」
レミリアから言葉が発せられる。
それも、凄まじい重圧とともに。
それはまさに、この館の主人としての本当の威厳を示した瞬間であった。
ワドルディの進軍は止まる。
パチュリーの魔道書は光を失う。
美鈴は油断なく、構えを解く。
「今解決すべきは、あっちでしょ?」
レミリアの指差す方。
そこでは未だに、カービィとフランの激戦が行われていた。
交錯する、レーヴァテイン。
そして彼らに向けて、霊夢は周囲に札を浮かせ、既に準備を整えていた。
魔理沙もまた、ミニ八卦炉に魔力を注いでいた。
早苗も霊夢を真似て、札を周囲に浮かせている。
「言っておくけど、全部フランにあたる保証はないからね?」
「私も狙撃はやったことないんだがな。」
「こっちは準備オーケーです! 」
「ありがと。さぁ、パチェ、これが何のための準備なのか、貴方ならわかるわよね?」
「……理解したわ、レミィ。でも言っておくけど、私も全てを当てる確証はないわよ?」
「十分よ。」
パチュリーはワドルディ達の方へ進む。
美鈴が声を上げるが、気にもしない。
それもそのはず。ワドルディは、無言でパチュリーに道を開けた。
彼らもわかっているのだ。
何を最優先にすべきなのか、を。
パチュリーが、札や八卦炉を構える霊夢達の隣に立つ。
そして魔道書から、淡い光が漏れ出した。
「吸血鬼は流水を超えられない……行くわよ。」
魔道書の光はやがて収束し、そして魔法陣を形作る。
そしてそれは雲を呼び出し……
パリン、と粉砕される。
「っ! 何が起きた!」
「……魔法術式が破壊された。フランがやったのか、それとも……カービィって言うんだったかしら? そいつがやったのか……」
しかし、パチュリーは酷く落ち着き払っている。
霊夢も早苗も動じず、魔理沙もそれ以上は何も言わない。
もとより、これくらいは想定内。
本番は、これから。
「行くわよ!」
「集中砲火です!」
霊夢と早苗の札が、一斉に乱闘するフランとカービィめがけて飛来する。
「こっちも、行くぞ!」
そして、ミニ八卦炉から範囲を絞り、狙撃に特化したマスタースパークが発射される。
本来の作戦は、こうだ。
霊夢と魔理沙、そして早苗によるフランへの集中砲火。
それにより、分裂したフランの動きを阻害する。
そして破壊能力すら行使できなくなった時を見計らい、ピンポイントで雨を降らす。
吸血鬼は流水を超えられないという特徴により、フランはその場で釘付けになるだろう。
しかし、いつの間に短時間でこのような作戦を立てたのか。
いやしかし、それは当たり前なのかもしれない。
この場にいる者達は一度は一戦を交えた者達。つまり、その力はお互いに良く知っている。
だからこそ、最適な作戦を、ほぼ言葉もなく、組み立てることができたのだ。
それに、パチュリーは100年を生きる魔女。そしてレミリアとも長い親友である。レミリアと霊夢達の考えることなぞ、お見通しだろう。
しかしながら、戦闘を知るものならばわかるはずだ。
予定通り作戦が行くことなぞ、ほぼあり得ないということを。
フランに迫る、札、レーザー。
だがその時、カービィの分身のうち一体が前に躍り出た。
そしてその手に持つ捻れた時計の針のような槍、レーヴァテインを振るう。
その瞬間、ゴウという音とともに、レーヴァテインは炎に包まれた。
その火柱は、元の長さよりもはるかに長い。
そのままそれを大きく振った。
そして、飛来した札、マスタースパークは、たった一振りのうちにすべて一掃された。
「く、これは……!」
「まだよ! 押し続けるの!」
霊夢の喝のもと、更に連続で札が飛ばされる。
マスタースパークも、後ろのフランめがけて飛ぶ。
しかしカービィは、動じない。
そしてそれを冷静に、カービィは打ち払った。
あらゆる魔を封じる札も、光速であるはずのマスタースパークも、残像で何本にも見えるレーヴァテインによって、無残にかき消される。
その槍を振るう姿は、まさに威風堂々たるもの。
それでもなお飛び続ける、まるでマシンガンの弾幕のような攻撃。
しかしカービィはそれら全てをいなし、弾き返す。
まさに、カービィは無欠の戦士であった。
その無欠の戦士が守るのは、戦闘相手であるはずの、フランなのか。
「なによ、全然突破できないじゃない!」
「カービィ、頼むから退けてくれ……!」
霊夢と魔理沙の呼びかけに、少しだけ困った顔をするカービィ。
しかし、後ろからの声が、カービィの意思を迷いなきものにする。
「なんでさ……なんで皆わたしを一人ぼっちにするのさ! こんな……こんなところなんか……っ!」
狂気に飲まれたフランの思考は、全てへの呪詛へと変貌する。
その言葉が聞こえた瞬間、カービィのその槍さばきは鋭いものになる。
なにがカービィをそこまで駆り立てるのか。
カービィの目的は何か。
霊夢にも、魔理沙にも、早苗にも、パチュリーにも、美鈴にも、わからなかった。
だが……レミリアには、何か伝わったようだった。
飛び交う弾幕の中に、おもむろにレミリアは身を投じたのだ。
制止の声が、微かにレミリアに聞こえる。
しかしそれはすでに、言葉として彼女の耳には届いていなかった。
幾つか札が掠る。
破壊の能力により、腕が吹き飛ぶ。
しかし、それを厭わず、ただ突き進む。
そして、今まで札を弾いていたカービィが、レーヴァテインをしまい、ある桐箱を渡す。
レミリアはそれを受け取り、未だ狂気に飲まれたままのフランへと近づく。
「お姉さま……」
「……なんでさ。なんでっ!」
「わたしを閉じ込めたの!」
「わたしは、愛されていないのっ!」
叫ぶフラン。
しかし、その隙をカービィは見逃すはずもなかった。
三体の分身を、三体のカービィが、そのレーヴァテインで貫き、消滅させた。
そして、残ったフランの手足を貫き、壁に固定した。
吸血鬼のフランは、この程度で痛痒を感じたりするはずもない。
しかし、壁に固定され、狂気のままに暴れ狂う姿は痛ましい。
そして、フランを固定したカービィは、その場から一歩離れた。
まるで、そこで自分のやるべき事は終えたかのように。
まるで、ここからはまた別の者の仕事だと言わんばかりに。
そして、レミリアはフランに近づき、声をかけたのだ。
「ねぇ、フラン、聞こえてる?」
レミリアのカリスマでカオス回避