東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
大量発生と桃色玉
ほとけには 桜の花を たてまつれ
我が後の世を 人とぶらはば
●○●○●
むくり、と布団が蠢く。
そこから顔を出したのは霧雨魔理沙。
その顔は非常に清々しいものになっている。
その理由はなんとなく予想できる。
スターロッド。これに違いない。
夢を見せる力のあるスターロッドを、一緒に住んでいるカービィが持っているのだ。霊夢があの後封印を施したとはいえ、その影響は少なからずあるのだろう。
「おかげでずっと夢見がいいぜ。スターロッド様々だな。」
上機嫌な魔理沙はまだ眠っているであろうカービィのベッドを覗く。
というより、カービィがちゃんとベッドで眠っているか、はたまた例によって抜け出してハンモックで寝ているかの確認ではあるが。
カービィのベッドに近づいて見ると、かすかな寝息が聞こえる。
どうやらちゃんとベッドで寝ているようだ。
するとふと、魔理沙のいたずら心が刺激される。
羽ペンを取り出し、その羽の部分の感触を確かめながら、カービィのベッドを覗き込む。
おそらく、くすぐる気だろう。
ベッドを覗き込めば、そこには良い寝相で寝ているカービィがいた。
魔理沙は早速羽をカービィに近づける。
だが、突如手が止まる。
おかしい。
何がおかしいかといえば、ふとんから覗く足。
カービィの顔は布団から出ている。そしてその布団は大体縦横1メートル弱ほどの大きさがあったはずだ。
にも関わらず、布団の顔の反対側から足が見えているのはどういうことか。
一頭身のカービィでは、ありえないはずの現象。
何か良からぬものを感じ、魔理沙は意を決して布団を掴む。
そして一気にめくり上げた。
そこにいたのは、いつものように眠るカービィの下に、一列になって並んで眠るワドルディ三体の姿だった。
「えええええええ!!?」
魔理沙の絶叫に、とうとうカービィと、なぜか潜り込んでいたワドルディが目を覚ます。
そして各々目をこすったり、伸びをしたり、欠伸らしき行動をとったりしながら、朝の眠気を吹き飛ばす。
そしてカービィとワドルディ達は、さも当然のように朝の挨拶を交わす。
そして最後に、一斉に魔理沙に挨拶をする。
「ぽよ!」
「……」
「……」
「……」
「お、おはよう……じゃなくて! お前らなんでここにいるんだ!? 紅魔館にいるんじゃなかったのか!?」
魔理沙は絶叫するが、ワドルディ達は首をかしげるばかり。
そもそも口がないので、ここに来た理由を聞くことはそもそも叶わないだろう。
取り敢えず紅魔館案件か。
そう諦めた時。
微かに卵と肉の焼ける匂いが漂って来た。
いや、まさか、そんな。
何かを察した魔理沙は二階の寝室から慌てて台所に降りる。
するとそこには、おおよそ信じられない光景が広がっていた。
そこにいるのは、台所を埋め尽くさんばかりのワドルディ、ワドルディ、ワドルディ……数えようにも同じ姿の連中ばかりで区別がつかない。
それらがみんなして何か料理を作っているのだ。
しかも、その奥には明らかに魔理沙が備蓄したものではない山菜や米俵などが置いてある。
唖然としている間にも、みるみるうちに朝食が出来上がってゆく。
炊きたてホカホカの白ご飯に、焼きムラの見当たらない綺麗な卵焼き、見た目も美しいゼンマイなどの山菜のおひたし、朝に優しい鳥のササミの塩茹で、そして大根の根から葉まで使ったお味噌汁。
そこに浅漬けも添えられ、持っていた覚えのない皿に載せられ、食卓に並べられてゆく。
魔理沙の食卓がまるで大宴会が始まりそうな雰囲気になったところで、ワドルディ達はワラワラと各々の小さな席に着席する。
みれば、カービィもちゃっかりその中に混じっているではないか。しかも、ちゃんとカービィの分量は他よりも非常に多い。
取り敢えず、一体のワドルディに促されるがまま、空いていた魔理沙の席に座る。
そして、全員の視線が魔理沙へと注がれる。
一体何を待っているのか。心当たりのあった魔理沙は、早速行動を起こす。
「えっと、いただきます。」
そう言った途端、ワドルディ達は一斉に手を合わせ、そしてそれぞれ食事を始める。
魔理沙もそれにならい、ワドルディとともに一口食べてみる。
「……うまい。」
それが、一口食べた何よりもの感想だった。
確実に自分が食べているものより質が高いようにも感じる。
瞬く間に魔理沙は朝食を完食してしまった。
そして食べ終わると、いそいそとあっという間に皿を片付けてしまう。
そして台所も元あったように……いやそれ以上に綺麗にした後、大半のワドルディ達はまとめてどこかへ行ってしまった。
残ったのは五体ほどのワドルディ。
一体どういった意味で彼らが残ったのかはわからない。
一体どういった意味で朝食を作っていったのかはわからない。
しかし朝食を作ってくれたのなら、それはそれでいいのかもしれない……
「って、んなわけあるか! 異常事態だ異常事態!」
魔理沙は幸せそうなカービィの手を引き、ワドルディ達にここから出ないよう注意した後、箒にまたがって空へと駆け出した。
●○●○●
時期的にはそろそろ『なつ』の二文字が見えて来るはずなのにも関わらず、若干涼しい今日この頃。
しかしどんな時期であろうと参拝客のいない博麗神社に、一人の少女と球体が降り立つ。
言うまでもなく、魔理沙とカービィである。
霊夢をライバルだと思っている魔理沙も、異変解決においては一目置いている。
だからこそ、ここに来たのだ。
「さて、いつもなら境内を掃いているはずなんだが……」
しかし、境内には誰もいない。
珍しく留守だろうか。
その時。
何かが奥からこちらに爆走して来た。
それは、紛れもなく霊夢であった。
が、その様子には鬼気迫るものがあった。
「お、おう霊夢。どうしたそんな殺気立って……」
「ちょうどよかったわ! あの橙玉何とかしてちょうだい!」
「……へ?」
「『へ』じゃないわよ! ワドルディとかいうやつよ! なんだか知らないけど大量発生しているのよ!」
「え、そっちでもか?」
霊夢の訴えに、魔理沙は己が耳を疑った。
取り敢えずこちらに来いという霊夢に引っ張られる形で魔理沙、ついでにカービィもついてゆく。
付いたのは神社の裏、住居となっている部分の縁側。
そしてそこには霊夢のいう通り、ワドルディが大量発生していた。
縁側で並んで眠る者、ちゃぶ台で持ち込んだらしい煎餅をかじる者、はたまた屋根の上でただぼーっと空を見つめる者……
とにかくワドルディが思い思いに博麗神社でくつろいでいたのだ。