東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
「全く、なんであいつはこうも人を巻き込むの!?」
「そういうな。あいつはそこらの童女みたいななりして百年千年生きているような妖怪じゃなくて、正真正銘のお子様なんだから。」
「子供のやることに目くじら立てるような大人は格好悪いですよ?」
「やかましい!」
カービィの失踪に気づいて早二時間。
未だにカービィの姿どころか、痕跡すら見つけられていない。
魔理沙の家に戻っているかと思ったが、いたのはここで待つよう指示された五体のワドルディのみ。
カービィが行きそうなところを探せと言われても、そもそもどこに行きそうなのかわからない。
あの食欲を鑑みるに、飲食店街へ足を運びそうだが、カービィには人里へ行かないよう教えているし、未だに一度も行ったことはない。
「あいつは食い意地張っているから、どこかに食いに行ったのかもしれんが……人里以外となると……」
「人里以外の飲食店……どこかで見た気がするわね。」
「……夜雀の八目鰻の屋台では?」
「それだ!」
と、反応したものの、夜雀の屋台に行ったこともない。
自由人なカービィなので、過去に一人で散歩しているうちに見つけたのかもしれないが。
とはいえ、この可能性だけにかけるのは危険な気もする。
他に行くとしたら、どこだろうか。
そこでふと、思い当たる場所があった。
「厄神の家は?」
「あぁ、そういえばカービィは懐いていたな……」
「うちと近いですね。私が探しましょうか?」
「それじゃあ、私は夜雀の屋台でも探すか。魔理沙は?」
「……なんだかそこらへんを飛び回ってたら会いそうな気もするし、空から探すぜ。」
「了解。頼んだわよ。……あいつが騒ぎを起こす前に。」
そう言い残すと、霊夢は空へと飛び立って行った。
後に続くように、早苗も妖怪の山方面へと飛んで行く。
一人残された魔理沙は、箒を握りしめ、魔力を込める。
と、その時。スカートの裾を引くものがいた。
振り向けば、そこにいるのはワドルディ達だった。
「ん? なんだ、どうかしたのか?」
「……」
ワドルディ達は問いかけても何も喋らない。
だが、身振り手振りでどこかへ案内しようとしているのは分かる。
そこで、もしかしたら、という希望が、魔理沙の胸を満たした。
「お前達、カービィの居場所を知っているのか?」
「……」
対するワドルディ達の反応は、どっちつかずなもの。
恐らくは可能性として提示しているのだろう。
行くべきか、行かざるべきか。
答えは当然決まっていた。
「よし、それじゃあそこに案内してくれ。」
●○●○●
「ごめんくださーい。雛さんいますかー?」
ドンドンドンドン! と扉が荒々しく叩かれる。
神の家だというのに無礼な態度を取るのは現人神の東風谷早苗。
果たしてこいつには神に仕える巫女としての自覚はあるのだろうか?
当然ながら、家の主は不機嫌になる。
「ちょっと、扉が壊れちゃうでしょ?」
扉から出てきたのは厄神様、鍵山雛。当然ながらその顔はしかめっ面である。
そしてなんと、雛の後ろからワドルディ達も現れたのだ。
「あれ、こんなところにもワドルディが?」
「結構前からいるわよ? 時々カービィと一緒に遊びにくるわ。」
「うちにも来るんですよね。御柱とか鉄の輪を貰いに。」
「あら、そんなものポンポン渡していいの?」
「神奈子様は嫌らしいんですけど、諏訪子様が勝手に渡すんですよね。ところで、厄とか移らないんですか?」
「大丈夫。会う前に『えんがちょ』させるようにしているから。」
果たして指がない上に喋れないワドルディにちゃんと『えんがちょ』できるのか疑問だが、まぁ効果があるならいいのだろう。
それよりも聞きたいことはある。
「ここにカービィ来ませんでした?」
「カービィ? 今日は来てないわよ? ……まさか、迷子?」
「そうなんです。二時間くらい前から……」
「子供から目を離しちゃダメでしょう!?」
「子供……まぁ子供なんですけど……」
「……しょうがない。私も探すのを手伝うわ。ワドルディ、今日はもう帰っていいわよ。」
ワドルディ達は一斉にお辞儀をし、何か手提げを持ってどこかへと帰って行った。
「ところで、ワドルディ達は何をしていたんですか?」
「ああ、おはぎとかのお菓子の作り方を私が教えているのよ。」
「ええ……」
一体、ワドルディとは何者なのだろうか?
早苗は余計にわからなくなってしまった。
●○●○●
竹林あたりから漂う煙を辿れば、案の定そこには屋台があった。
あかりの灯っていない提灯にはでかでかと『八目鰻』と書かれている。
その屋台のそばに降り立った霊夢は思い切りよく暖簾を開ける。
「ちょっとミスティア! 聞きたいことがあるんだけど!」
「ちょっとお客さん! 他のお客さんのご迷惑に……って、あら、霊夢さんじゃないですか。」
「他の客? ……あ。」
ミスティアの注意を受け、見てみればそこには三体並んだワドルディが屋台の席についていた。
心なしか、迷惑げな表情でこちらを見ている。
しかしそんなことなぞ気にしないのが我らが博麗の巫女である。
身を乗り出し、ズカズカと聞きたいことを聞く。
「ここにカービィ来なかった?」
「カービィ? なんですかそれ? 」
「あら、知らないの? てっきり知っているものかと思ったんだけど。ま、知らないなら知らないでいいわ。」
「えーなにそれ。すごく気になるんだけど。」
「カービィの事だし、いずれ自分から顔出すわよ。……ところでなんでワドルディがここにいるの?」
「ワドルディ? ……ああ、この子達ってそういう名前だったんだ。」
どうやら名前も知らずに接客していたらしい。
まぁ、一切喋らないのだからしょうがあるまい。守矢神社から天狗へ、天狗から新聞に載って各地へと情報が出回る中、新聞も読めないミスティアが知るはずもない。
「ちょっと前から八目鰻の仕込みを手伝ってもらっているんですよー。その代わり、一緒に取れた魚を焼いてまかないにしたり、お酒あげたりして、物々交換的な商売しているんです。」
「……ミスティアですらワドルディによくしてもらっているのか……」
「え? 何か言いました?」
「なんでもない。とりあえず、桃色の一頭身見つけたら私に言うように。」
「暇だったらねー。」
そう言い残すと、霊夢は空へと飛び立つ。
頭の中では自分なりのワドルディ活用法を考えながら。
●○●○●
カービィは空からドラグーンを呼び出す。
空を切り飛来したそれは、滑らかな動きでカービィの目の前に停まる。
その脇ではワドルディ達が流線型をした翼のある塔に乗り込んでいた。
だいたい十体くらいだろうか。
彼らは皆、ヘルメットを着用している。
そして離れた高台では、同じようにヘルメットを被ったワドルディが手旗信号を送っている。
そして、準備が全て整った時。
塔は、下部から火を吹いた。
高温高圧の火を。
そして、塔はゆっくりと浮き上がり、やがて凄まじい勢いで加速する。
そう、その塔はロケットであった。
そのロケットに先回りする形で、ドラグーンに乗ったカービィが飛ぶ。
すでに地上ははるか下界。地上ではたくさんのワドルディ達がドラグーンとロケットに向けて手を振っていた。
目指す先は、夢見るものがいる地。
スターロッドのかけらが指し示す地。