東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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大集落と桃色玉

 ワドルディ達に案内されるがまま、魔理沙は森を突き進んでいた。

 魔理沙はよく森にて作業をしているが、森といっても、今いる場所は自分の家とは反対の場所。あまり訪れない地域。

 しかもその中でも、『なにもない』ことから妖怪も好んで住まず、人里からも遠いため開拓もされない、孤独を好む妖怪ぐらいしか住みつかない辺境の地域。

 そんな場所をひたすら歩いているのだ。

 

「ワドルディ、本当にあっているのか?」

「……」

 

 問いかけるが、当然ワドルディは答える口を持っていない。

 先の問いかけは半ばやけくそじみたものがあった。

 

 果たして、本当にこんなところにカービィはいるのだろうか。

 疑わしいものの、今はそれを信じるほかない。

 

 足も疲れてきた。息も切れてきた。

 もとより魔理沙は単なる少女である。特別体が強いわけではない。

 そろそろ体も限界が近くなってきた時、歩いてきた森がまるで切り取られたかのように周囲から姿を消した。

 

 そして目の前に広がるは、広大な畑。

 キュウリ、ナス、オクラ、ニラ、トウモロコシ、ピーマン、カボチャ……種々の野菜がたわわに実っていたのだ。

 しかも、その野菜はどれも法外に大きい。

 

 一体いつの間にここまで開拓されたのか。

 

 唖然とその光景を見ているうち、あることに気がついた。

 その異様な畑で作業するのは、皆ワドルディであったのだ。

 器用に剪定バサミを持って手入れをし、腐葉土らしきものを地面に蒔いている。

 

 そして魔理沙はさらに奇怪な光景を目撃する。

 ジョウロを持ったワドルディがどこからともなく現れる。

 そしてワドルディはまだ小さい野菜 - というのも周囲の法外サイズと比べたら - にその水をかける。

 すると、瞬く間にモコモコと大きくなってゆくではないか。

 そして数秒もしないうちに、その大きさは周囲の法外サイズと遜色ないほどになっていた。

 

 あれはなんだ? 作物を急速に成長させる魔法なのか?

 

 魔法使いとしての興味は尽きないが、ワドルディは構わず突き進む。

 慌ててそれについていっているうちに、居住区らしき場所に着いた。

 そこでも、大量のワドルディと遭遇した。

 居住区のワドルディは、何か料理を作り食べているか、新しい建物を建てているか、特になんの意味もなく歩いているか、寝ているか、それぐらいしかしていない。というか、大半が歩くか寝ているかしかしていないので、なんとも言えない眠たくなるような平和な時間が流れていた。

 それぞれが店を持って何かをやっているというわけでもなく、個々が自由に動いているのだ。

 

 そんな不思議なワドルディの集落で、さらに不思議なものを見た。

 どこかで見覚えのある、柱と鉄の輪。

 間違いなく守矢の御柱と洩矢の鉄の輪であった。

 早苗がワドルディと取引していると言っていたが、それなのだろうか。

 その御柱と鉄の輪は、いくつものコードに繋がれ、運ばれていた。

 そして、やがてある建物に入ってゆく。

 窓がないため、中の様子は見えないが、その壁面には河童の里で時折見られる光る数字が表示される板が設置されていた。

 

 これと似たような施設は知っている。『発電所』と河童が呼んでいたものだ。

 まさか、ワドルディは神の道具で『発電』しているのか?

 

 案内するワドルディはまだ先を行く。

 そしてそれに着いて行けば、また不思議な光景を目にする。

 次に見たのは、また鉄の輪が運ばれる様子だった。

 しかし、今度のものにはコードはついていない。

 その鉄の輪は、あるもののそばに添えられるように置かれた。

 それは、鉢に植えられた蔓性らしき植物。

 そしてその鉄の輪が置かれた途端、虹色に光り輝く実を実らせたのだ。

 その光は、まるでありとあらゆるものに幸福と力をもたらすような、そんな雰囲気を放っていた。

 ワドルディ達はすぐにそれをもぎ取ると、すぐに絞り器で果汁を絞り始めた。

 そしてその果汁を、水で薄めながらジョウロの中に流し込んでいたのだ。

 そう、あの法外な大きさの野菜は、かの植物の力によって作られていたのだ。

 まさに奇跡を起こす実。『奇跡の実』と呼べよう。

 

 こんな奇跡を起こすアイテムなぞ、魔理沙は一度も見たことはない。

 アイテムコレクターとしての性が、魔理沙の足をその植物へと歩み寄らせる。

 が、しかし。

 

「……」

「おっと! ……やっぱりダメか。」

 

 すぐさまその植物の周りにいたワドルディ達に槍を向けられる。

 大きな力を持つが故に、そう他人を近づけたくはないのだろう。

 なお胸中を炎がくすぶるものの、一旦我慢する。

 そして、やっと案内のワドルディの足が止まる。

 そこは広い広場で、謎の鉄塔が鎮座していた。

 

「……それで、カービィは?」

 

 魔理沙の問いかけに、黒板らしきものが運び込まれ、そして白衣を着てメガネをかけたワドルディの一団が押し寄せてくる。

 

 ワドルディは皆同じだと思っていたが、ワドルディも近眼になったりするのだろうか。

 ……いや、よく見たらレンズが入っていない。あのメガネはただの伊達だ。

 

 いったいなぜそんな格好をしているのか見当もつかないが、一体のワドルディがチョークを持ち、何やら図を描き始める。

 やがて、一つの絵が出来上がった。

 それは流線型の塔と、無数のワドルディ、そしてカービィだった。

 いや、流線型の塔に見えたものは単なる塔ではない。ロケットだ。あの吸血鬼が作ったものとは似ても似つかぬが、確かにあれはロケットだ。

 ワドルディからロケットへ矢印が引かれているあたり、ワドルディはロケットに乗り込んでいるのだろう。

 そしてカービィは白い何かに乗っている。どうやらカービィは別の何かに乗り込んだらしい。

 もしかしたら、守矢の二柱を蹴散らしたアレなのかもしれない。

 

 ……と、絵一つでここまで読み取ることができた。

 ワドルディ達は喋れない代わり、こうやって説明するつもりなのだろう。

 

 そしてまた、ワドルディのチョークが走り出す。

 ロケットとカービィから大きな矢印がえがかれる。

 そしてその先にはあるのは、何やらオタマジャクシのようなものがうじゃうじゃ集まる場所。

 しかしワドルディの意外に高い画力から判断するに、そのオタマジャクシは形が定まっていないように見えた。

 その形に魔理沙は見覚えがあった。

 

「……幽霊?」

 

 そう呟いた途端、一斉にワドルディ達が頷く。

 その様子はある種壮観であったが、しかしながら魔理沙にそんなものを悠長に眺めている余裕なぞなかった。

 幽霊が集う場所。ロケット……というより、飛行せねばいけぬ場所。

 そんな場所、一つしか考えられない。

 

「白玉楼か!」

 

 その言葉にはワドルディは反応しない。

 その地の名前までは知らなかったのだろう。

 しかしその次に描かれたものが、カービィがその地へ向かった動機を物語っていた。

 

 ツイストした棒の先に輝く星。

 一度目にしたら忘れられない形状。

 そう、スターロッドに違いない。

 

 いかなる方法によってかは知らないが、カービィ達は白玉楼にスターロッドがあることを突き止めたのだ。

 そしてロケットを使い、向かったのだろう。

 見れば、鎮座する鉄塔近くの地面は焼け焦げている。

 おそらく、ここにロケットがあったのだろう。

 

「こうしちゃいられん! 私も行くぞ、カービィ!」

 

 魔理沙は箒にまたがり、ロケットスタートを決めて飛んで行った。

 目指すは冥界、白玉楼。魔理沙の後姿にワドルディ達は手を振った。

 

 

●○●○●

 

 

「早苗、カービィいた?」

「いないです。そもそも訪れていないみたいで。」

「こっちもよ。全く、いったいどこに行ったんだか。」

 

 そうぼやく巫女二人の頭上では、二つの光が空を駆けていた。

 そして二つの光は巫女に気づかれることなく、冥界の入り口に突入した。

 

 冥界とは、誰もが抱く想像の通り、霊が集まる地である。

 霊は言葉を持たないため、顕界よりも静かで、四季もあり、非常に過ごしやすい。

 霊達もその居心地の良さにかまけ、顕界との境界が薄くなっているのにも関わらず、そこから離れたがらないという。

 

 だが、今回だけはその静寂は破られることになる。

 

 轟音とともに、流線型の塔……ロケットが冥界の地に降り立った。

 そしてタラップが出現し、そこからワラワラと十体のワドルディ達が現れる。

 そしてそのロケットの近くに、白き龍を模したもの、ドラグーンが着地する。

 騎乗していたカービィは冥界の地を踏みしめると、持っていた分割されたスターロッドを振るう。

 すると地上で振った時よりも強い輝きを持った星が生み出された。

 

 この地に眠る分割されたスターロッドは、もう目の前だ。


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