東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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今日から感想を返すのが難しくなりそうです。大変申し訳ありませんが、感想返しは必要最低限とさせていただきます。

時間がさらにカツカツになってしまって……


機械と幻想と桃色玉

「うっわ、なにそれ。気持ち悪い。とっとと封じようかしら。」

「フォフォフォ。やれるもんならやってみい。」

 

 ドクの乗る機械は、暗雲の塊に4本の棘と一つ目が浮かぶ怪物と化した。

 大きさこそ霊夢よりかは小さい。

 がしかし、妖力や魔力とも違う、異質な力が渦巻いているのを霊夢は確かに感じ取った。

 

 霊夢は札とお祓い棒を構える。

 同時に、ドクはさらに高空へと飛び上がる。

 

 恐らくは遠距離攻撃に適した存在なのだろう。

 だからこそ、距離を取りたがる。

 なら、いちいちそれに付き合う道理はない。

 わざわざ相手の得意な間合いに入ってあげる義理はない。

 

 霊夢は飛び上がり、ドクへと接近を試みる。

 やはり霊夢の勘が当たっていたのだろう。

 近づく霊夢から遠ざかるように、ドクはその軌道を変化させる。

 ドクの機体は決してスピードに秀でているわけではない。

 しかしそれは霊夢も同じこと。

 振り切ることも、追いつくこともできないこの状況。

 

 この膠着状態に、あまり気の長い方ではない霊夢は、ついに札を投げつけた。

 紙製の札は、しかし紙とは思えない速度で飛び、そしてドクの周りを取り囲む。

 

 それはまさに封印の構え。

 出来上がったのは札の檻。

 

 そして、ドクを追い詰めるようにその檻は小さくなる。

 このままいけば、博麗の巫女の札の前に、ドクの作った機体はバラバラに四散するだろう。

 

 がしかし、そうはならなかった。

 ドクは内部でスイッチを押す。

 瞬間、体の表面や外側に視覚できるほどの高圧電流が流される。

 その電流は一瞬にして札を焼き切った。

 

「……あら、これを破るなんてね。」

「フォフォフォ! これぞドロッチェ団の技術力よ! 行け、チューリン!」

 

 雷撃を落としながら、ドクは一転してこちらに迫ってくる。

 さらに、爆弾を抱えたチューリンが霊夢に向け爆弾を投げまくる。

 

 なるほど、とりあえず爆弾投げて行き場を失わせるわけか。

 

 横目で他の戦闘を見ていた霊夢は、チューリンの行動をそう解釈する。

 しかし霊夢にとってはこの弾幕は脅威足り得ない。

 何せ霊夢は何度も何度も鬼畜と呼ばれた弾幕を攻略してきたのだ。

 この程度、どうということはない。

 

 しかし、札の攻撃が効かないのは厄介だ。

 次に取り出したのは、針。

 妖怪退治用の針だ。

 これなら焦げることはないだろう。

 そう信じて、札に紛れ込ませ、投げつける。

 狙うは、ドクのいる目の部分。

 

 札はドクへ向けて飛ぶ。

 紛れ込ませた針を隠しながら。

 すかさずドクは放電し、札を焼き尽くす。

 その灰を突き破り、針は飛んで行く。

 そして、着弾した。

 

 目ではなく、金属の棘に。

 

「あれ? 狙ったはずなんだけど。」

「フォフォフォ! あまい、あまいわ! さすがは『幻想』郷の住人! 科学に打ち負かされた者達よ! その針、鉄製じゃな? 電流をコイルに流すことによる磁力の発生! そして強磁性体は磁力に引き寄せられる! これぞ世の理! 哀れじゃな、科学に愛されておらぬ、幻想郷の者達よ!」

 

 高笑いするドク。

 次第に霊夢の眼光が鋭くなってゆく。

 

「へぇ、なるほど、言うじゃない。」

「フォフォフォ! 何せこれは幻想郷の立場を見ればわかる事実! 科学の発展とともに追いやられた人外を見ればわかることじゃ!」

「一体どこからそんな知識を得たのかしら?」

「フォフォフォ、情報とは独占してこそ。さて、どうする? 魔術や巫術にはその札や針、そして陰陽玉が必要と聞く。それを高圧電流とコイルによって封じられたお前は、どうやって儂を封じると言うのかね?」

 

 ドクは雷を撒き散らす。

 チューリンは破壊の嵐を巻き起こす。

 がしかし、霊夢はその戦場の中、冷静でいた。

 その顔に、一切の焦りはない。

 霊夢はごく涼しげに……まるで諭すように呟いた。

 

「一体いつから……私が道具がなければ巫術が使えないと錯覚していたの?」

「むぉ!?」

 

 突如、ドクの乗る機械は制御を失う。

 

 ありえない。

 なぜだ。

 一体何が起きた?

 

 ドクは内部でカメラを切り替え、制御を失った原因を探す。

 そして、見た。

 地面から光の縄が伸び、機械を絡め取っているのを。

 

「バカな……ありえんっ!」

「残念だったわね。札や針は巫術を補助する単なる道具に過ぎない。本当の巫術は神より力を借りること。つまり巫術に道具なんか本来は要らない。ただ念じるのみでいいのよ。哀れね、幻想に愛されていない、科学に溺れた人外よ。」

「キィィイイイイ! させはせん、させはせんぞぉ!」

 

 癇癪を起こし、狂ったように叫ぶドク。

 そしてプログラムが起動し、地下に潜んでいたものが現れる。

 

 それは、二つの爪で地を這うもの。

 メタリックな体を持ち、後部に緑の巨大な殻を持つもの。

 それは人の身長をはるかに超えたもの。

 幻想郷に海があった頃を知るものなら、それがヤドカリをモチーフにしたものだとわかるだろう。

 馬力は今乗っているものとは大違い。

 ドクはそちらに乗り換え、威嚇するように爪を大きく掲げた。

 

「許さん、許さんぞ博麗の巫女!」

「全く。癇癪を起こしたら血管切れるわよ、おじいちゃん。」

「キィィィィ!」

 

 

●○●○●

 

 

「さぁ、宝塔を返してもらおうか。」

 

 ナズーリンはドロッチェにジリと詰め寄る。

 しかしドロッチェは妖怪を目の前にして臆することはない。

 むしろ、その態度は自信に溢れていた。

 

「何度も言うが、断る。確かに我々ドロッチェ団は盗んだものを返すことはないわけではない。だがそれは、盗んだ場合、我々に悪影響を与え得る時のみだ。そう、例えば……コレだな。」

 

 そして、ドロッチェはあるものを取り出した。

 それに反応したのは、メタナイトであった。

 

「それは……分割されたスターロッドではないか!」

「そう、その通りだ。」

 

 それは白と藍色の紐を捻って固めたような棒の先に、輝く星が取り付けられたもの。紛れもなく、分割されたスターロッドであった。

 

「ドロッチェ! 貴様、どこでそれを見つけた!」

「何、幻想郷の道端に無造作に落ちていたものを拾っただけだ。なぜ分割されているのか、オレは知らん。しかし、これはまさに『盗んだ場合、我々に悪影響を与え得るもの』だ。これは今すぐにでも返そう。……これと引き換えにな。」

 

 そしてドロッチェはすっとマントの下からあるものを取り出した。

 それは、盗まれた宝塔に違いなかった。

 

「ふざけるな! 」

 

 対するナズーリンの答えは、ノー。

 メタナイトは言葉の代わりに宝剣ギャラクシアを引き抜く。

 

「まぁ、予想はしていたがな。まぁ、いずれにせよスターロッドは返すさ。ただし……所用が済んでからになるがな。」

 

 そしてスターロッドを振るう。

 分割されているとはいえ、それは紛れもなくプププランドの国宝。

 振りまかれる星型弾。

 

「……スターロッドを利用してくるか。」

「すまんな。お前達から逃げ切り、宝塔を誰も知らない、誰も探し出し得ない、我々の宝物庫に移したらすぐに返そう。だがそれまでは……力を使わせてもらうぞ!」

 

 飛来する星型弾。

 それをダウジングロッドでいなし、宝剣で弾き飛ばす。

 ロッドでいなしながらも、ナズーリンはふんと鼻を鳴らす。

 

「なんだ、その杖。相当力を誇示した割には大したことないじゃないか。」

「もともと攻撃用の杖ではないからな、あれは。もともとは夢を与え、夢を叶えるアイテムだ。」

「……なんだ、そっちこそ怪盗団が盗みそうじゃないか。」

「元ある場所から動かされると、夢を生み出せなくなる。そうすれば、その土地の住人は夢を見ることができなくなる。……連中も困るということだ。」

 

 交戦中に話すナズーリンとメタナイトに、ドロッチェがスターロッドを振るいながら割ってはいる。

 

「余裕なようだな。なら、手加減もする必要はありますまい。……そもそも、かのメタナイトに手加減する方がおかしいか。」

 

 そしてドロッチェの手のひらに光が集う。

 そしてそれは、レーザーとなって放出された。

 そのレーザーは決して単なる光ではない。

 それは、熱量という熱量を奪う、凍てつく光であった。


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