東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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土日はチャージの期間なのです……なので更新は厳しいのです。


大王と桃色玉

 メタナイトの呼んだ名前に心当たりのあるものはいなかった。

 だが、メタナイトの同郷の人物であるということくらいは皆推測できた。

 だが、そうだとするとちょっとだけ納得のいかない部分もあるが。

 

「なぁメタナイト。あいつ知り合いか?」

「まぁ、そんなところだ。プププランドに城をいくつか構えているくらいの有力者だ。」

「城をいくつか……それは相当な有力者ですね……」

「その割には落ち着きはないようじゃがのう。」

 

 マミゾウの指摘の通り、そのデデデ大王とやらは落ち着きなく扉を叩いている。

 なんというか近寄りがたい雰囲気。

 しかし、メタナイトと同郷という貴重な人物とのコンタクトを取らないわけにはいかない。

 

「……行ってみるか?」

「気乗りしないなぁ。」

「ですね。」

「まぁ、腹をくくるしかなかろう。」

「根は悪人ではないからな……独断専行は度々あったが……大丈夫だろう。」

 

 若干不安の残る言い方ではあったが、マミゾウの言った通り腹をくくるしかあるまい。

 そっと後ろから、そのデデデ大王に近づいてみることにした。

 近づいて見てわかるが、その赤いコートの背中には特徴的なピースマークが描かれていた。

 本人も平和的な性格なら良いのだが、荒々しく扉を叩いているあたり、期待できない。

 というか、近づいたことによりデデデ大王の独特の濁声が聞こえるのだが、その言っている内容がすでに平和的ではない。

 

「ええい、この扉を開けんか! 開けろ! 」

 

 このような事を続けざまに叫んでいるのである。

 

「デデデ大王って、もしかして相当な暴君だったりしないか?」

「……否定はしないな。」

「やっぱりな。」

「はぁ……声をかけるがいいか?」

 

 メタナイトの提案に、皆嫌々頷く。

 はっきり言って絶賛大荒れ中の者に声をかけたいとは思わないだろう。

 面倒ごとに巻き込まれるか、面倒な絡みを受けるか、そのどちらかがオチだ。

 しかし、メタナイト、ひいてはカービィの同郷とあっては、関わりを持たないのは危険だろう。

 メタナイトは渋々、後ろからデデデ大王を呼ぶ。

 

「デデデ大……」

「もういい! ワドルディ、寄越せ!」

 

 しかし、その声をかき消すようにワドルディに指示を出す。

 すると、ワドルディが運んできたのは巨大なハンマー。見た目から判断するに木製だろうか。

 それをデデデ大王は受け取り、そして大きく振りかぶる。

 そのまま、勢いに任せて扉に叩きつけた。

 

 瞬間、扉はバキィという破砕音とともに砕け散った。

 

 たった一撃の元で、扉を破壊したのだ。

 すでに木という材質の耐久値を超えた衝撃がハンマーを襲ったはずだが、そのハンマーはひしゃげたり曲がったりした様子は見られない。

 一体なんの木でできているのやら。

 

 ……いや、そんな事を考えている場合ではなかった。

 扉を破壊したデデデ大王はズカズカと地霊殿の内部へと入って行く。

 それに続いて、ワドルディ達もずらずらとついて行く。

 

 具体的にどうとは言えない。

 がしかし、とてつもなく嫌な予感がする。

 なぜそのような勘が働いたのか、全員わからなかった。

 しかし、強いて言うなれば……デデデ大王から何かしらの危うさを感じたのかもしれない。

 

「止めた方がいいのか、あれは。」

「……ああ、間違いなく。」

「それじゃあ、行くかのぉ。」

 

 なんの理由があっての行動かは知らない。

 がしかし、それでも止めなくてはならない。

 まるで、デデデ大王を止めることが人の(サガ)である事のような錯覚。

 そんな気さえしたのだ。

 

 地霊殿の中へと入り、デデデ大王について行くワドルディの頭上を飛び越える。

 そして、その先にいるハンマーを振り回し続けるデデデ大王の元へ飛んだ。

 そして、メタナイトがデデデ大王の前に立ち塞がった。

 

「やめないか、デデデ大王!」

「む! メタナイトではないか! お前も地下に流されてきたのか?」

「流されて……? 」

 

 そしてメタナイトと出くわしてすぐさま気になる発言をするデデデ大王。

 

「流された、ってどういう事だ?」

「ん? メタナイト、誰だこいつらは? この屋敷の者か?」

「いや違う。地上から来た者達だ。」

 

 そしてメタナイトが間に立って全員の自己紹介をする。

 そして全員の自己紹介が終わると、満を持してデデデ大王が口を開く。

 

「では名乗ろうか。俺様がポップスターがプププランドの大王、デデデ大王である!」

 

 そして胸を張るデデデ大王。

 だがその姿は青くて太いペンギンがニット帽やコートを羽織った姿でしかなく、滑稽でしかない。

 その滑稽な姿のデデデ大王を、ワドルディは健気にも拍手で持ち上げる。

 当然、魔理沙達はポカーンとした表情になる。

 しかし残念ながら、デデデ大王に魔理沙達の表情から自分がどんな風に思われているか、推察する能力はない。

 『決まった』と言わんばかりの表情で魔理沙達を見るデデデ大王。

 そんなデデデ大王に、こういった状況には既に慣れているメタナイトが質問する。

 

「ところでデデデ大王。なぜここに居るのです?」

「それは見覚えのある星型の裂け目が現れたからワドルディとともに入ったのだ。そしたら異世界の地下世界に放り出される始末。ここにはまともに話のできる奴がおらんから、ここの有力者の所に行って地上に出させようと思っていたのだ。」

「ところで、有力者の情報はどこから手に入れた?」

「喧嘩をふっかけて来たやつを拘束して聞き出したのだ。」

「ああ、なるほど……」

 

 喧嘩をふっかけてきた者を返り討ちにするとは、デデデ大王はなかなかの強者のようである。

 まぁ、木製ハンマーで扉をぶち抜く程なのだからそこらに居る木っ端妖怪など鎧袖一触なのはわかるのだが。

 

 しかし、星型の裂け目とは一体なんなのか。

 魔理沙達はそれが一体なんなのか、知りたくて仕方なかった。

 もしかしたらそれが、カービィ達が現れたきっかけである気がしたのだ。

 

 しかし、その疑問を口に出す前に、また新たな衝撃が魔理沙達を襲った。

 

「こんにちわです。」

 

 突如、魔理沙達に声がかけられる。

 しかもその声は聞き覚えのないもの。

 

「おーい、こっち、こっちです。下だよ〜!」

「下?」

 

 その声につられて、下を向いてみる。

 するとそこには、こちらを見上げるワドルディがいるではないか。

 いや、普通のワドルディではない。頭に青いバンダナを巻いているではないか。

 

 まさか、喋った?

 いや、ワドルディは口がないから喋らないはず。

 

 そう思ったところで、今度は目の前でワドルディが喋り出した。

 

「ボクが大王様に支えているワドルディの筆頭です。」

「……え、喋れるのか?」

「あれ、ワドルディって喋らなかったんじゃ……」

 

 少なくとも、今まで見た者はそうだった。

 しかしそのワドルディは至極冷静に答える。

 

「普通はそうなんだけどね。でもワドルディにもそれぞれに個性があるんです。ボクは喋れるという個性を持っているだけです。以後お見知り置きを。」

「なるほどのぉ。特殊個体いや突然変異個体とかいうやつじゃな。ワドルディの世界も興味深いのぉ。それでも名前は?」

「ワドルディです。」

「やっぱりワドルディなんじゃな。ワドルディの間でも名前を付ければ良いのに。」

「必要ないですから。」

「おい! ボサッとしてないで早く行くぞ!」

「あっ、はーい。」

 

 と、ここでデデデ大王の呼び出しをくらい、話は中断されてしまう。

 メタナイトもデデデ大王といつの間にか何を話したのか、デデデ大王と共に行く気であった。

 まぁ、目的は同じなので当然の行動とも言えるが。

 

 ところで、皆何かを忘れてはいないだろうか?

 ここまでの流れを大雑把にまとめてみよう。

 

 まず、魔理沙達一行が地霊殿近くに飛来。その時既にデデデ大王一行が地霊殿の扉の前にいた。

 次に、デデデ大王が地霊殿の扉を破壊し侵入。

 そして地霊殿内部で魔理沙達一行とデデデ大王一行が接触。今ここである。

 

 どうだろう。ここまで説明すればわかるのではないだろうか。

 もはや言い逃れのできない事をしでかしてしまっていることに。

 

「フシャー!! あんたら!! この忙しい時に何やってくれてんのよ!!」

 

 奥から怒り狂った少女の声が聞こえてくる。

 それと同時に、ガラガラという何かを転がす音も。

 

「……あ、やべ。」

「もしかして地霊殿の……?」

「ほぅ、化け猫……もとい、火車か。」

 

 鬼気迫る勢いで迫るのは、緑色のゴシックなワンピースに身を包み、赤い髪を三つ編みにし、猫耳を生やした少女。

 一輪車を押しながら、大量の怨霊とともに迫ってくる。

 彼女はお燐、火焔猫燐である。

 平時ならば穏やかな彼女ではあるが、今回ばかりは激情を露わにしていた。

 

「……なぜだか彼女、怒っていないか?」

「いや、そりゃ当然だろうな。」

 

 メタナイトの疑問に、魔理沙は頰を掻きながら答える。

 

「何せ私達、堂々と不法侵入しているからな。」


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