東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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狂気と疑惑と桃色玉

 狂気に呑まれかけたさとりを落ち着かせるために水蜜が用意した水を飲ませ、星が背中をさする。

 しかしそれでも、さとりの目は焦点が定まっていない状態であり、今でも小刻みに震えている。

 デデデ大王は気にせず人の部屋でくつろいでいた。

 

 この状況を作り上げてしまったメタナイトは、外に連れ出され、他の者に問い詰められていた。

 

「本当にすまない。私が迂闊であった。」

「会っただけであれだからな。いつか訪れる結果だったとして諦めるしかないさ。」

「しかし気になることもあるのぉ。外から聞いておったが……目的とな?」

 

 マミゾウが問い詰めたのは、メタナイトが後悔の念とともに呟いた一言についてだ。

 『知らなくてもいいことを知ってしまったか』。その一言が、マミゾウの中で大きな波紋を起こしたのだろう。

 

「知りたいのか? ……ああなるぞ。」

「何、無理には聞かん。世の中、幸せでいるためには知らなくて良い事が溢れかえっているのはわかっておるからの。それより聞きたいのは、目的じゃ。」

 

 マミゾウは笑っている。

 しかし細められた目は、狸もまた野に生きる獣であることを如実に表していた。

 

「詳しくは聞かん。しかし本当にその目的とやらは幻想郷を壊すものではないのじゃな?」

「この世に100%などはない。結果はどう出るか完璧にわかったわけではない。しかし、我々は幻想郷を壊すつもりで動いているわけではない。……命蓮寺でも同じようなことを言った気がするが?」

「その時はおらんかったのぉ。」

「姿を見せていないだけで聞いていただろう?」

「はて、なんのことやら。……その様子じゃと、これ以上聞くのは無理そうじゃの。これ以上聞くと発狂しそうじゃな。」

 

 マミゾウはこれ以上聞く気はないことを示すためか、煙管を咥え、火をつける。

 そして入れ替わるように質問をしたのは魔理沙だった。

 

「目的目的と言ってはいるが、具体的に何をするつもりなんだ?」

 

 魔理沙の質問の意図は、何をするかを聞き出すことにより、本当に幻想郷に影響が出ないことなのか判断しようとしているのだろう。

 なにせ、外から来たメタナイトよりも、ここに住む自分達の方が幻想郷についてはよく知っているはずだからだ。

 対するメタナイトの答えは簡潔なもの。

 

「わからん。」

「……は?」

「目的を達成するために具体的に何をすれば良いかを調べるためにここに来たのだ。」

「つまりは幻想郷にお前たちの目的を達成するために参考になるものがある、と?」

「そういうことだ。」

 

 なるほど、そうなるとなんだか安心な気がする。

 つまりは工場見学みたいなものだ。

 単なる調べ物ならば、幻想郷に危害が加わるはずもない。

 

 そう魔理沙は納得したかった。

 しかし、同時にこう思う。

 

 ただの調べ物ならば、心を覗いたさとりがああなるのだろうか?

 その調べることにより達成しようとしている目的は、本当に安全なものなのか。

 聞き出したいが、さとりの様子を見ている以上、強く聞き出せない。

 

 と、その時、さとりの部屋から誰かが出て来た。

 最初は星か水蜜かと思った。もしくは中でくつろいでいるデデデ大王か。

 

 だが、違った。

 確かに、星も水蜜も出て来た。

 だが、彼女らに支えられるようにして、さとりも部屋から出て来たのだ。

 

「メタナイトの言っていることは……間違いないわ。」

「さとり、あんまり無理するのは……」

 

 周りの気遣う声も無視し、さとりは続ける。

 

「寧ろメタナイトらの目的を邪魔するのは、私たちの、幻想郷を贔屓する『エゴ』と言えるわ。」

「それはどういうことだ? 話が見えん。」

「……私みたいになりたいの? 知らなくてもいいことを、知りたいの?」

「いや、そういうわけでは……」

 

 はっきり言って、いつも冷静なイメージのあったさとりをあそこまで変えてしまう事実なぞ、知りたくはない。

 当然この考えもさとりには読まれており、何も言わず頷く。

 

「まぁ、それが一番よ。」

「儂からも良いかの?」

 

 そんな中、マミゾウが間に割り込み、口を開いた。

 

「メタナイトらの目的を邪魔するのはエゴ、と言ったのぉ? それはもしこやつらの目的が、結果的に幻想郷を壊すことになったとしてもか?」

「それは正当防衛とも取れる。でも、結局それはエゴイズムという範疇をでない。幻想郷は恵まれているのよ。一人勝ちを許し、他者を蹴落とすのはエゴ他ならない。」

「言っとることがわからんのぉ。」

「全てを知りたい? もれなく錯乱の症状つきよ。」

「遠慮しておこう。……して、メタナイト。」

 

 マミゾウはさとりとの会話を中断し、メタナイトに向き直る。

 

「この目的とやらは、あのデデデ大王やカービィも知っているのか?」

「知っている。ただし、デデデ大王はそもそも参加していない。……なるほど、だからデデデ大王と会っても古明地殿は錯乱しなかったわけか。」

「私が自動的に受け取れるのは表層の感情、考えよ。知識を受け取れるわけじゃない。彼は常にあなたたちの目的を考えていたわけではないから、私はデデデ大王から流れ込んでくる感情で錯乱しなかったわけ。」

「ちょっと待て。デデデ大王は、ということは、カービィは知っている上に、行動もしているのか?」

 

 魔理沙の質問に、メタナイトは当然のように答える。

 

「ああ、知っている。どちらかといえば、カービィがポップスターの住人の願いを受けて自ら行動している。私やワドルディ達はそれに賛同し、協力しているのだ。」

 

 魔理沙は信じられなかった。

 あの、純粋で、無垢で、無邪気なカービィが、妖怪を錯乱させてしまうほどの事実を隠し持ち、そして行動しているということが。

 それと同時に、不安もある。

 事実を知ってしまったらしいさとりは、幻想郷は恵まれていると言った。

 そして一人勝ちを許し、他者を蹴落とすのはエゴといった。

 文脈から判断するに、一人勝ちをしたのは幻想郷。なら、蹴落とされる他者は?

 

 カービィ達、なのだろうか。

 一体、彼らは何を抱え込んでいるのか。

 もはや、カービィをただ純粋に慈しみの目だけで見るのは難しいのかもしれない。

 

 思考の渦に囚われる魔理沙を案じてか、さとりはさらに口を開く。

 

「ただ、私たちはあなた達ポップスターの者に対して協力する義務もないし、協力しようがないわ。何も知らないで済んだあなた達は、何も気をもむ必要はない。」

「もちろん、それは心得ているとも。」

「そうか。わかった。」

 

 心底納得できたわけではないが、今はもはやこう頷くしかあるまい。

 いつか、いつか彼らのことを本当の意味で知ることのできる日は来るのだろうか?

 

 そんなことを考えている魔理沙から離れたところで、星と水蜜が二人して話し込んでいた。

 

「私達、完全に空気ね。」

「ですね。……デデデ大王でしたっけ? 寝てますし、叩き起こしましょうか。」

「そうしようか。そろそろぬえやカービィも探さなきゃいけないし。」

「そう、そうですよ、宝塔! 宝塔を取り返さなきゃ! こうしちゃいられないです!」

 

 そしてまっしぐらにデデデ大王の元へ飛びつき、乱暴にゆすり出した。

 「落ち着きないなぁ」と水蜜は突っ込みつつ、重い空気になった魔理沙達のところへ寄って、口を開く。

 

「あー、そろそろいいかな。ぬえや宝塔やカービィを探さなきゃいけないんだけど。」

「ああ、そうだったな。……悪いな、邪魔して。」

「私が迂闊なばかりに。申し訳ない。」

「いいのよ。……知るべきではなかったかもしれないことだけど、誰かは知っておかないとまずい事でしょうからね。」

「お詫びはこの後に。」

「いいわ、そんなもの……いや、ひとついいかしら? 」

「なんなりと。」

「これからさらに下層に行くのでしょう? そのついでに、あの子の様子も見てくれないかしら。」

「お安い御用。しかし、先ほどから気になっていた『あの子』とは?」

 

 メタナイトの質問に、さとりは少しだけ目をそらす。

 そこにいるのは、未だにのびているお燐。

 

「この子に案内してもらうといいわ。この子と一緒なら迷うこともないし、外に出ることもできるでしょう。」


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