東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
カービィがコピーしたのは、大妖怪の力。
正体不明の、鵺の力。
その三叉槍を薙げば、その剣閃にそって小さなUFOが現れる。
現れたUFOは編隊を組み、美しい動きを披露しながらお空の元へ飛来する。
そして、放たれる無数のレーザー。
しかし威力は心許ない。効果的にダメージを与えることはできていない。
しかし、それでよい。
もともとこれはダメージを与えるための行動ではないのだから。
「ぐぉおおおお!」
「うにゅ!?」
雄叫びとともにお空の頭上から何かが落ちてくる。
見上げてみれば、そこにいたのはハンマーを振り下ろすデデデ大王。
咄嗟にハンマーを制御棒で受け止めるも、その衝撃は並みのものではない。
もとより肉弾戦が得意なわけではないお空は下に叩き落される。
「くぅう!」
憎々しげに上を見上げるお空。
しかし、そこには既にデデデ大王の姿は見当たらない。
その代わり、お空を取り囲むように霊夢、魔理沙、星、水蜜、マミゾウ、お燐が取り囲んでいた。
「さぁ、覚悟しなさい!」
「退治の時間だぜ!」
「そろそろ、正気に戻ってもらいましょう。」
「冷水をかける、ってね。」
「決着の時じゃぞ、地獄鴉。」
「お空……目を覚ましてよ!」
そして、六人全員が一斉に飛びかかってくる。
それらを迎え撃つべく、熱線を大量に放出する。
がしかし、全て当たらない。
いやそれよりも、お空を驚かす事実があった。
突撃してくる六人。全員の姿が大きくブレて見えるのだ。
いや、もはや分身の類。ブレた姿それぞれが全く違う動きをしている。
かと思えば、全てが全く同じ動きをし出したり、一人に戻ったりと滅茶苦茶だ。
お空は知らない。
これら全て、ぬえの力をコピーしたカービィの見せる幻覚なのだと。
分身のどれかが本物だという確証もない。
どころか、本当にお空が誰かと戦っているという確証すらない。
全ては、『不明』。
その『不明』によって、お空の精神は大いに乱された。
「むぅ、上がる!」
不満気に翼をはためかせ、上昇せんとするお空。
しかしそれを、容易に許すはずがない。
「……ふんっ!」
ストロンのジャンプからの押しつぶし攻撃。
当たらなかったものの、お空はその上昇経路を変更せざるを得なくなる。
そして、それを待っていたかのようにストロンの影からスピンが現れる。
「これでも喰らいな!」
「ええい、邪魔!」
同時に何枚も放たれた手裏剣を制御棒で振り払い、同時に薙ぐようにして熱線を撒き散らす。
だが、それだけでは終わらない。
「ふぉふぉ、足元がお留守じゃぞ。」
「っ!」
マミゾウが、いつの間にか何らかの妖術で生み出した縄を使い、お空の足を絡め取っていた。
しかも、片方は手頃な岩と繋がっているため、無理やりには抜け出せない。
だが、マミゾウごと熱線で吹き飛ばそうとした時。
「おっと、だからって下ばかり見るのは感心しないな。」
「なっ!」
頭上をとったドロッチェが、その手から凍てつく光線を放つ。
瞬く間に氷に覆われるお空。
しばしして自らの熱で全ての氷を融かし終わった時、その瞳は爛々と輝いていた。
「あああ! 全員、全員邪魔ァ!」
そして、また周囲へ無差別に熱線を撒こうとした。
だが、その手は止まった。
なぜなら、誰もそこにはいなかったから。
それどころか、あたりは真っ暗闇。
「どこいった!? どこに隠れた!?」
見渡してみるが、誰もいない。
声をかけても、返事がない。
氷に閉じ込められていた短い間、一体何があったのか。
撃退したのか?
そうなのだろうか?
それならそれでいいや。
お空の短絡的な思考はあっさりと落ち着く。
……いや、本当に落ち着くことはできなかった。
なぜ誰もいないのだろうか。
なぜ光もないのだろうか。
あまりにも……あまりにも寂しくないだろうか。
「……おーい、おーい! 誰かー! 誰かいないのー!」
しかし、返事はない。
「ねぇ、居たら返事してよ。ねえってば。……ねえってば……」
たとえ暴走したスターロッドに精神を蝕まれても、お空の精神が死んだわけではない。
今も確かに、純粋無垢なお空の精神は生きていた。
そしてその純粋無垢な精神は、この暗闇と孤独に耐えられなかった。
独りはこわい。
独りは寂しい。
独りはつらい。
暴走したスターロッドによって不安定になった心が、より一層、お空の負の感情を刺激する。
そして。
「ふぇっ…ぐっ…ぅわぁぁああああああ!」
その場で盛大に泣き出した。
まるで、迷子の子供のように。
しかしこれは、正体不明の存在が作り出した悪夢に過ぎない。
泣き叫ぶお空のリボンに、そっと桃色の小さな手が添えられる。
そして「ごめんね」と言うかのようにそっとリボンを撫で、スターロッドを抜き取った。
瞬間、お空の意識は途絶える。
だが、それは同時に悪夢からの目覚めであった。
●○●○●
「さとり様! なんか凄く怖い夢を見ました!」
「はいはい、わかったわかった。」
さとりの部屋で、机をバンバンと叩きながら目の前にいる主人に話しかけるのは、ついさっきまで暴走していたお空。
最早暴走時のことは何から何まですっかり忘れているようで、ただ『何だかよくわからないけど怖い夢を見た』と言うふうにしか認識していない。
つくづく平和なつくりをした頭である。
「これで今度こそ一件落着……なんだよな?」
「多分ね。」
「宝塔も戻りましたし、はぐれたぬえ達とも会えましたしね。」
「オレ達としては残念だがな。」
すると、後ろに立っていたドロッチェが前に出る。
そして、カービィにあるものを渡した。
それは、ドロッチェが持っていた藍色のスターロッドだった。
「約束通りこれは返そう。頑張るんだぞ、カービィ。」
そしてドロッチェは仲間の元に下がると、帽子を脱いで深く礼をした。
「次会うときは必ずや奪ってみせよう。それではまた会おう。」
そういった次の瞬間には、ドロッチェ団全員の姿が掻き消えていた。
「また来るってよ。」
「えええ……」
「面倒な……」
「ふぉふぉ、対策を練っておかんとのぉ。」
「なんというか……変なやつだったな。」
「ここに変じゃない奴っていたかしらね。」
風のように現れ、また風のように去っていったドロッチェ団に対し、なんとも言えない感情が沸き起こる。
そんな中、冷静にメタナイトとバンダナワドルディ、そして意外にもデデデ大王が外へ出る手続きをしていた。
「それじゃあ、後はお燐に案内してもらうといいわ。頼んだわよ。」
「わかりました、さとり様。」
「それじゃあお空。あなたはほかの地獄鴉と協力して間欠泉センターの瓦礫を除きなさい。」
「はい、さとり様!」
「すまない、古明地殿。貴殿には何度も迷惑をかける。」
「いいのよ、困った時は、ね。」
「ふう、やっと外の空気が吸える……」
「ヘンな輩にも絡まれなくてすみますね。」
「やっぱり平和が一番だな。」
「ぽよ!」
「うおっ! カービィ、いつの間に……」
いつの間にか、カービィがデデデ大王とメタナイトの間に割って入る。
それを見たさとりは、優しくカービィの頭を撫でた。
「こんなに幼いのに……偉いわね。……あなたの願いが実を結ぶ事を祈っているわ。」
「うぃ!」
かくして、魔理沙達一行は地上へと出ることに成功した。
宝塔も、スターロッド二本も無事回収できたため、こんどこそ一件落着と言っていいだろう。
……スターロッドの干渉が、幻想郷全体へ広がっていなければ。
●○●○●
「こんにちは、霖之助さん。」
「君か。玄関を使って出てきてほしいものだね。」
「ふふふ、手が汚れてしまいますわ。」
遠回しにうち……香霖堂が汚いと言っているようだ。
まぁ、外の掃除なぞほぼしないから仕方あるまい。
というより今問題なのは、この妖怪が来た、という事だ。
はっきり言って、僕はこの妖怪が苦手だ。
「今日来た目的はわかるかしら。」
「さぁ。霊夢達と同じように居座る気かい?」
「残念、はずれよ。今月の分の徴収に来たわよ。」
「……ああ、ちょうど一月か。」
ガソリンとかの消耗品はこの妖怪がとって来ている。
だからこそ、僕はどうやってもこの妖怪と取引しなくてはならない。
「さて、今月のお代は……」
そんな事を言いながら、目の前の妖怪は手を異空間に滑り込ませる。
そしてしばらく弄ったのち、あったあったと言いながら、手を引き抜いた。
瞬間、僕の顔が青ざめてゆくのを感じた。
「待て、八雲紫! それは!」
「今月のお代はいただいて行くわね、霖之助さん。」
僕が飛び出したのも虚しく、紫はそう言うと手に『スターロッド』なる危険なアイテムを持ったまま、消えてしまった。