東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
弾幕と桃色玉
人は誰しも理想を抱く。
人は誰しも夢を抱く。
だから人は理想を実現するため人生を費やす。
だから人は夢を叶えるため人生を費やす。
いかなる逆境も超えて見せると、誰もが息巻く。
だが、誰しも理想を、夢を、叶えられるわけではない。
人生とはえてしてうまくいかないことが多い。
なぜなら現の世は誰もが夢見た世界とはかけ離れているからだ。
その夢と現の乖離は、時に人の夢を砕くこともある。
しかし、砕かれた夢は必ずしも無駄にはならない。
その人をまた一つ成長させる、肥料のようなものになるはずだ。
だがしかし、夢を砕かれた者の中には、立ち直れなくなる者もいる。
理想と現実の矛盾に悩み、人生を無為に過ごしてしまう者もいる。
そして中には、その矛盾が人を狂わすこともある。
理想と現実が乖離していた時。
我々は、どうすれば良いのだろうか。
●○●○●
「カービィ、ちょっくら宗教戦争に参加してくるぜ」
「ぽよ!」
「もうちょっとで異変が解決しそうなんでな。留守番続きで悪いが、許してくれ」
「うぃ!」
そう言って魔理沙は家から出てゆく。
『宗教戦争』というのは、少し前から始まったお祭り騒ぎのことだ。
簡単に言えば、宗教家達が人前で争い人気をかけて戦うという見世物みたいなものだ。
その戦いに魔理沙は『無宗派』として出ている。
しかし、実際そんな単純な話ではない。
魔理沙曰く、「突如刹那的な快楽を人妖共に求めるようになった」らしい。
これには何か理由があるのではないかと、同じく参加していたマミゾウに諭されたのだ。
そして今日も、その正体を掴むために里へと降りていったのだ。
カービィとしてはさみしいが、それが魔理沙の仕事なのだから仕方ない。
だから今日ものんびりとお昼寝して過ごしたり、森で食べられるものを集めて食べたり、時折遊びにくるワドルディ達と遊ぶつもりだ。
だがその前に、やっておくことがある。
「ぷえっ!」
口の中から、あるものをいくつか取り出す。
それは、回収したスターロッド。
今あるのは橙、黄、緑、藍の四色だ。
スターロッドは全部で七色。つまり虹の数だけある。
残るは赤、青、紫の三色だ。
残りの三色も集めなければ、どこかでまた『異変』が起こるのだろうと、カービィは理解していた。
ならば早急に探さなければならない。
だが、探すのはそれだけではない。
スターロッドがあるということは、アレもあるはずだ。
スターロッドの台座たる、夢の泉が。
その捜索のために、今メタナイトは各地を飛び回りコネを探しているらしい。
デデデ大王はデデデ大王でワドルディ達の大集落に身を寄せ、来る日のために備えていると聞く。
カービィも何か行動を起こさなくてはならない。
だが、それよりもカービィにはやってみたいことがあった。
カービィは四本のスターロッドをかかえ、外に出る。
そしてドラグーンを呼び出し、乗り込み、ある程度の高さまで上昇する。
そして四本のスターロッドに力を込めた。
そして放たれる、無数の星型弾。
威力を犠牲にして数を出しているため、視界を埋め尽くさんばかりに放たれている。
目潰しや牽制に使えそうだが、そんなことのためにスターロッドを持ち出したわけではない。
『弾幕ごっこ』だ。
魔理沙曰く、幻想郷において人外との揉め事は基本弾幕ごっこで決着をつけると言う。
この幻想郷に長く居着いている以上、カービィも学ばなければなるまい。
幻想郷の弾幕ごっこのルールは簡単に言えば三つ。
一つ目は相手を殺してはならないこと。
二つ目は絶対に避けられない弾幕を作ってはならないこと。
三つ目は不意打ちはせず、最初に宣言をすること。
さらにそこに暗黙のルールとして美しさを重視することが定められている。
カービィの放った弾幕は威力を犠牲にしているだけに一つ目は守れるだろうし、もう少し密度を下げれば問題なく二つ目もクリアできるだろう。三つ目はスペルカードというものを作り、見えるよう掲げればいいそうなのでこれも大丈夫だろう。
問題は暗黙のルールの方。単なるばらまきなため、美しさというものはあまり感じられない。
魔理沙の弾幕を説明と一緒に見せてもらったことがあるが、やはりその美しさとは比べ物にならない。
果たしてどうしたものか。
……いや、策がないわけでもない。
スターロッドは夢に力を与えるという能力を持つ。
その能力を利用し、『イメージの中にある弾幕』を具現化することができるのではないか……そうカービィは考えていた。
しかしこれも練習がいるだろう。
そう思っていた矢先。
「あっ! いたぞピンクボール!」
「ダメだよチルノちゃん! この前酷い目に遭ったばかりじゃない!」
なにやら遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返ってみれば、青髪の少女と緑髪の少女がこちらへ飛んできていた。
背中に氷の羽や虫のような羽が生えているあたり、人間ではあるまい。
カービィはこの二人組みに見覚えがあった。
確か、青い子がチルノで、緑の子が大妖精だったはずだ。
……なんだか盛大にいたずらされた記憶がある。
スターロッドにいたずらされたらたまらないと、スターロッドを口の中にしまう。
と、同時にチルノがカービィにタックルをかました。
いや、正しくは思いっきり抱きついただけだが、飛んできた速度が速度なのだ。タックルとそう変わるまい。
そしてはしゃぎながらカービィのまんまるボディをバシバシと叩く。
「聞いてよ桃玉! またダイダラボッチが出たんだ!」
そして一度しか会ってないのにもかかわらず何度もあったかのように話しかける。
いくら人当たりの良いカービィでも、ここまでくると困惑してしまう。
その困惑を察してか、大妖精がチルノを止めに入る。
「チルノちゃん、この子はピンクボールでも桃玉でもなくてカービィだよ! それにいきなりそんなことしたらカービィ困っちゃうよ!」
「へぇ、カービィっていうのか! あたいはチルノ! よろしくね!」
この相手の話を聞かない会話もデジャブである。
「そんなことより、ダイダラボッチが出たんだ! あいつをとっちめて、手下にしたいからカービィも手伝ってよ!」
そして時折飛び出る『ダイダラボッチ』なるワード。
幻想郷では有名なのかもしれないが、ポップスターの住人であるカービィにはさっぱりである。
そして良い子筆頭大妖精はチンプンカンプンなカービィに説明を入れてくれる。
「ダイダラボッチってのはね、とっても大きくて力持ちな妖怪なの。……やっぱりそんな妖怪と戦うなんて無理だよぉ」
「やーるーのー! それにカービィ! あの時あたいを吹き飛ばしたでしょ! ちゃんと『セキニン』とってよね!」
「他のことはすぐ忘れちゃうのに、なんでこういうことは覚えているのかなぁ……」
呆れ返る大妖精。
さて、どうしたものか。
外出するなら誰かに伝言を頼みたい。
じゃないと魔理沙は心配するだろう。
そう思ってカービィは辺りをキョロキョロ見回す。
が。
「さ、早く行くよ!」
「ぽょっ!?」
「あっ、ダメだよまたそんな勝手なことしちゃ!」
あろうことか人の話も聞かずカービィの両腕をガッチリ掴み、そしてドラグーンから引き剥がして何処かへ飛んで行く。
残念ながら、またチルノに振り回されてしまうようだ。
●○●○●
「神奈子様、諏訪子様、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ? 今忙しいんだ。」
「いい局面だから邪魔しないでよ〜。」
妖怪の山に建つ守矢神社。
その風祝、東風谷早苗は碁を打つ主神二柱に質問する。
「えっと……アドバルーンとして使ってた非想天則あるじゃないですか」
遊んでいるとはいえ、質問を受ける気は無いと言った二柱に構わず質問をぶつけるあたり、この風祝もなかなかの精神構造をしているようだ。
「……ああ、それがどうした?」
「さっき見かけたんですけど、また動かしたんですか?」
「あれ? そんなこと河童に命じたっけ?」
「言ってないな。まぁ、あいつらのことだ。遊んでいるか、もしくは整備か何かだろう。技術者の考えることはわからん」
「そうなんですか。……でも気になりますね」
「なら行ってくればいいじゃん。あの時みたいに」
「ちょっと、からかってるんですか?」
「べっつにぃ〜?」
「もおっ! 行ってきます!」
そして早苗は荒だたしい足音とともに守矢神社を後にした。