東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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螺子と桃色玉

「なんなんだありゃ!?」

 

 突き進む桃色の金属塊、『ロボボ』。

 それを箒で追走しながら、一緒に乗せたバンダナのワドルディに問いかけた。

 

「なにって、ロボボだよ」

「だからそれがなんなのか分からないんだよ」

「えっとねぇ……ちょっと前にポップスターがある会社に侵略されて『総キカイ化』されたことがあったんだ」

「……いきなり物騒だな」

「その時カービィが会社から奪い取ったのが『インベードアーマー』。インベードアーマーには操縦者に合わせて性質が変わるっていう特徴があってね。カービィがインベードアーマーに乗り込むとロボボになるんだ」

「なるほど。それをスターロッドの力で再現したのか?」

「多分」

 

 まさかスターロッドにそのような応用方があったとは。

 だが、今までの変幻自在っぷりを鑑みるに、ありえない話ではなかったが。

 

「あやや、期待よりも遅いんですね」

「ふぃ、間に合った」

 

 と、ここで遅れて飛んできていた文、にとりと合流する。

 飛行速度の差もあり、にとりは文に両脇を抱えられた状態で飛んできていた。

 

「あんなロボットが出てきて驚いたけど……あんなので大丈夫かい? 相当小さいよ?」

「力比べじゃちょっと不味そうですね」

 

 そして追いついて早々否定的な意見を述べる二人。

 しかしながら、それは魔理沙も思ったことであった。

 何せ、ロボボは1メートルあるかどうか。対する非想天則は30メートルほど。

 その差は歴然。170センチほどの人間に6センチ弱の虫が戦いを挑むようなものだ。

 無謀と言わざるをえない。

 だが、バンダナのワドルディは至って平静であった。

 

「大丈夫大丈夫。あ、来た来た」

 

 バンダナのワドルディが手を振る先。

 そこには先回りしていたらしいワドルディ達が、樹上から手を振っていた。

 ワドルディ達はバンダナのワドルディ、そしてロボボに乗るカービィへと手を振っており、そのロボボの進路上にあるものを投げた。

 

 それは、赤と白の日傘。

 

 追走していたから、こちらから見えるのはロボボの後ろ姿だ。

 なのでしかと見たわけではないが、カービィの顔を模したロボボの全面の口にあたる部分から、光が漏れ出したように見えた。

 そして傘は跡形もなく消え、代わりにロボボ自身が光り輝き始めた。

 まるで、カービィが能力を取得する時のように。

 

 そして光が晴れた時、ロボボの姿はやはり変わっていた。

 色は若干赤っぽくなり、両肩からは赤と白の巨大なプロペラが伸びていた。

 そのプロペラは回転を始め、その回転が速くなってゆくにつれ、ロボボは浮き上がって行く。

 そしてついに、ロボボは空を自らの領域とした。

 

 不安定に見える二枚のプロペラで縦横無尽に飛び回れるのは、カービィの手腕かロボボのプログラムか。

 いずれにせよ、素晴らしい運動性を持っていたのは間違いなかった。

 

 ロボボは一気に非想天則の目線の高さまで飛び上がる。

 そしてようやく、先に交戦していた霊夢達はロボボに乗ったカービィの存在に気がついた。

 

「ふぅ、やっと戻ってこれた」

「なにあれ。河童の新しい武器?」

「違う違う。あれはスターロッドとかいうやつでカービィが作り上げた謎物体さ」

「はぁ、謎物体」

「そう、謎物体」

 

 そんな会話の間にも、ロボボと非想天則の戦闘は継続していた。

 いや、これは厳密には戦闘と呼べないかもしれない。

 非想天則のその巨体から繰り出されたとは思えないパンチ。

 それを二枚のプロペラで謎の高い制御能力をもって避け続けるロボボ。

 それはまるで、周囲を飛ぶ虫を人が必死に捉えようとしているかのようであった。

 

「うっそ……あんなのでよく制御できるな……」

 

 技術者だからこそわかるのだろう。

 不安定なはずの機体をなぜあそこまで制御できるのか、不思議で仕方ないのだろう。

 

「もしかしたら根本的に違う技術で作られているのかもしれないです」

「いや、だとしてもあれは……」

「お前自分で謎物体って言っていただろう? ならばそれくらいおかしくはないではないか」

「いや、そういうわけじゃ」

「確かに、謎物体に違いない。よく見れば腕が胴体から浮いている。関節と物理的に繋がっていない腕なぞ、聞いたことないな」

「人外には時折いるけど、あれは物の類だしね」

 

 ロボボに対してそれぞれの見解を述べる霊夢や魔理沙、にとり、神子、神奈子、早苗。

 ロボボに対する感情は各々違う。だがロボボに対してただ一点だけ共通した認識があった。

 

 それは『もう何が起きようとも驚かない』といったある種の諦念。

 今までにカービィが引き起こした事情を考えるに、もうこのくらい不思議ではなくなっていた。

 だからか、半ば彼女らは非想天則の攻撃を避け続けるカービィをどこか遠くの国を眺めるかのように眺めていた。

 

 だが、そのはっきりとしない意思も、ある声で呼び戻された。

 

「何をぼうっとしている!」

 

 その声は低い男性のもの。

 その声は若干高空から聞こえてきた。

 その声の主を視認すべく見上げた先にいたのは、蝙蝠のような翼を広げた青い一頭身、メタナイトであった。

 彼は霊夢達の元へゆっくりと舞い降りてきた。

 

「久しくね、メタナイト……だったっけ?」

「そんなことはどうでも良い。今大事なのは目の前のことであろう!」

「いやしかし……一体どうするんだ、これ?」

「っていうか、あんた誰よ」

 

 突然現れたメタナイトに不信感を露わにしたのは神子、神奈子、諏訪子、にとり、萃香、こころ……霊夢と魔理沙以外全員であった。

 仕方あるまい。出会ったのは命蓮寺メンバーと旧地獄の者達だけなのだから。

 

「おっと、失礼した。私はメタナイト。しがない騎士だ。よろしく頼む」

 

 そんな彼女らに対し、至って紳士的に自己紹介をするメタナイト。

 その態度に危険なものは無いと長年の感で感じたのか、彼女らはある程度警戒を緩める。

 と、ここで動いたのは早苗であった。

 

「あっ、知ってます知ってます! たしかカービィと一緒にゲームで出てきた強キャラの!」

「……いかにも。私はカービィと同郷の、ゲームの中の存在だ」

 

 どうやら、元外の世界出身の早苗は知っていたようだ。

 ただ、早苗の認識ではやはり『ゲームの中の登場人物』にしか過ぎないようであった。

 

「……やはり、お前達には謎が多い。なぜ、非現実どころか、実態のない物語の中の、想像上の存在が、こう実体を持って現れるなんて、やはり考えられん」

 

 神奈子の疑問はもっともである。

 だが、今解決すべき問題は他にある。

 そう、目の前で暴れる非想天則だ。

 神奈子は自分で提示した疑問を自ら下げる。

 

「いや、それは後にしよう。しかし、アレをどうするというんだ? もう多少の被害に目を瞑って破壊しようと思うんだが?」

「まぁ、その対応は悪くはないが……河城殿」

「ひゅい!?」

 

 突如前触れもなく名を呼ばれたにとりは素っ頓狂な声を上げる。

 メタナイトはそれには突っ込まず構わず質問をする。

 

「時々蒸気が漏れているあたり、蒸気で動かしているのだろう?」

「そ、そうだけど……それが?」

「ということは、蒸気を逃すバルブがあるのではないか?」

「ま、まぁいくつか安全用のがあることにはあるよ。例えば後頭部とかに。でも……元々非想天則は、非想天則という大質量を動かすほどの蒸気を閉じ込めるタンクみたいなものだ。だからそのバルブは相当大きく、手動じゃとても回せない。どうやって暴れるあれに近づいて、回すというんだ?」

「何、機械ならそこに間に合っている」

 

 そしてメタナイトは、逃げ続けるカービィへ向け、叫んだ。

 

「カービィ! 後頭部だ! 後頭部のバルブを回せ! ただし噴出する蒸気には気をつけろ! 相当な圧力になっているはずだ!」

 

 その声は確かに聞こえたのだろう。

 微かに「ぽよ」という声が聞こえてくる。

 そして、目に見えてカービィの乗り込むロボボの動きが変わる。

 まるで回り込むような飛行機動を描くようになった。

 

 やがて、完全に非想天則の後頭部に取り付いた。

 

 非想天則が動き回るのでしっかりとは見えない。

 だが、腕がスパナのようなものに変形し、回しているように見えた。

 そして。

 

「っ! 行ったぞ!?」

 

 カービィが離脱すると同時に、凄まじい勢いで白い蒸気が噴出したのだ。


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