東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
迷いの竹林の、何処かにあるという永遠亭。
そこには凄腕の医者がいると言われ、格安で薬を処方してくれるという。
そしてその医者こそ、ある日偽の月の異変にて出会った元月の住人の蓬莱人、八意永琳である。
その凄腕の医者たる永琳は病室に居座る三人の魔法使いに呆れを多分に含んだ目を向けていた。
「で、そのカービィの能力を色々調べていたら、カービィがミサイルみたいな形に変わって打ち上がり、天井に衝突、爆発、と」
「そういうことだ」
「本当、予想ができなくて参っちゃうわね」
「他人事みたいにいうなっ! おかげで書斎が全壊よ! 私もこんな状態になったし!」
そこにいるのはやはり傷だらけの魔理沙とパチュリーとアリス。
特にアリスは着弾地点に近かっただけあって、紅魔館で怪我をした魔理沙とパチュリーと同じくらいの傷を負っていた。
「はぁ、全く……それでこの子が問題のカービィね」
「うぃ!」
呆れた永琳は怪我している魔理沙に寄り添っていたカービィに目を向ける。
純真な顔をしているが、大体の元凶はこのカービィである。
見た目にそぐわぬ力を持つ一頭身。そんな存在に永琳は見覚えがあった。
「メタナイトと似ているわね」
「ん? なぜお前が知っているんだ?」
「時々来るのよ。ちょっとした相談に」
「……なんの話をしているの?」
「ああ、パチュリーとアリスは知らなかったか。メタナイトっていうのはカービィみたいな一頭身で、体が青くて仮面を被ってマントや羽やらが生えている騎士みたいなやつだ」
「ごちゃごちゃしているわね」
しかし、不思議なのは命蓮寺にいるはずのメタナイトがなぜ永遠亭に来ているのか、ということだ。
「一体、メタナイトは何しにここに来ているんだ?」
「ちょっとした相談よ。そう言ったじゃない」
「その内容は?」
「それは言えないわね。個人情報だもの。他人に教えるようじゃあ信用が落ちるわ」
「固いなぁ」
「医者はそういうものよ」
冗談じみた会話を交えつつ、魔理沙は永琳に提案する。
「そうだ。一緒にカービィ研究やろうぜ?」
「断るわ」
「なんでだよ」
「紅魔館の図書室や書斎を吹き飛ばしたような実験なんて進んでしたくないわよ。ここを吹き飛ばされるのなんてごめんよ」
「っていうか魔理沙、またやる気!?」
「え、やらないのか?」
「……やるなら屋外ね」
「パチュリー、結局あなたはやる気なのね……」
「今日退院させようかと思ったけど、延ばしたほうがいいのかしら?」
「おっと、それは勘弁。お代は後で払うぜ。それじゃ!」
「ぽよっ!?」
魔理沙はそういうと、カービィを抱えて縁側から飛び出した。
「相変わらず落ち着きがないわね……」
「そう言いつつも追いかけるのね……」
「当然でしょ? 研究対象を持っていかれたんだから」
「やっぱり幻想郷にまともな奴はいないのね」
「今更何を言っているのやら」
そんなことを言いながらも、魔理沙の後を追いかけるパチュリーとアリス。
その様子を見て、永琳は額に手を置き、力無く首を振るのであった。
●○●○●
魔法使い三人組は永遠亭から抜け出し、(主に魔理沙が)懲りずにカービィの能力研究をしようとしていた。
がしかし、いきなり大きな壁にぶち当たっていた。
「屋外で研究しようというのは賛成よ。また部屋を吹き飛ばされたら困るし」
「うちの図書館が吹き飛ばされるのも遠慮したいしね。でも……」
「「道具がないのにどうやってやるのよ」」
今現在いるのは迷いの竹林のど真ん中。
当然カービィに吸わせるものも数える程だし、そもそも筆記用具も記録用紙すらない。
魔理沙の考えなしな行動には魔女二人も呆れるしかない。
「それはまぁ、アレだ。家を探して協力して貰えればいい」
「迷いの竹林に家なんてあったかしら?」
「探せばあるだろ。別に妖怪の家でも必要なものが揃っているなら良いわけだし」
「そりゃそうだけど……」
「ほらほら! 考えている暇あったら足を動かす! 行くぞ!」
「ぽよ!」
元気な魔理沙とカービィ。反対に意気消沈している魔女二人。
絶対見つからんだろう。魔女二人はそう思っていた。
ところがどっこい、十数分後。
「家あったぞ」
「なぜ見つかったし」
確かにそこには竹林に紛れるようにして民家が建っていた。
しかも、人がいる証拠に窯から煙が出ている。
「お邪魔するぞ!」
「うぃ!」
「あ、魔理沙!」
アリスの引き止める声にも構わず魔理沙は民家に突撃し、引き戸を思い切り開ける。
「うわっ! なんだお前達!?」
当然、中にいる住人は驚く事になる。
しかも、その顔は見知った顔だった。
「あ、慧音か」
「あら、あなたの家だったの?」
そこにいたのは上白沢慧音であった。
青と白の襟のあるワンピースのようなものを来て、学帽のようにも見えなくはない角ばった帽子を頭に乗せた、水色の髪の女性。
しかし正体は、中国の妖怪『白沢』の血が流れた半妖怪である。
元が人間であったためか、非常に人間に友好的な人物である。
「お前達、挨拶もなしに人の家に上がりこむとは何事だ!」
そして教師気質なために、若干説教臭い。
地獄の閻魔様ほどではないにしろ、苦手な人も多いタイプである。
しかしそんな説教も馬耳東風なのが幻想郷の住人。怒る慧音を受け流して自分たちの要求を通そうとする。
「悪い悪い。ちょっとカービィの研究に手伝って欲しいんだよ」
「ああ!? ……なんだこれは」
「カービィ、カービィ!」
「お、おう。私は上白沢慧音だ」
カービィの無邪気な自己紹介に慧音は鼻白みながらも返す。ついでに怒りも急速に鎮火しつつあった。
「……で、なんだ、研究?」
「ああそうだ。こいつには不思議な能力があってだな。それを調べたいんだ」
「相変わらず魔女の考えることはわからん。後私は手伝わんぞ」
「え、なんでだ?」
「そりゃあお前……お前達のその姿を見たらなんとなくわかる」
魔理沙達は自分の姿を見る。
ボロッボロだ。傷だらけ包帯だらけ湿布だらけ。
研究参加者三人ともこの姿なら、誰でも何かあった事に勘付くだろう。
「ええ……じゃあ物とか場所借りるだけでも……」
「だいぶ離れたところでやってくれ。あと物って何がいるんだ?」
「要らないガラクタとかだな」
「要らないガラクタ? うちは壊れたものは修繕して使うからゴミは出ないぞ」
「うぅむ……ならそのお玉は?」
魔理沙の指差す先には、土間に転がっていたお玉があった。
その柄はポッキリと折れており、使えそうにない。
しかし慧音は首を振る。
「これも後で直すさ……っておい! 話を聞いていたのか!?」
しかし魔理沙はお構いなくそのお玉を持って行く。
「いいじゃないか。そろそろ替え時だぜ。あまり長くものを持ってると付喪神化するぜ?」
「その時は調服すればいいだろう!」
「まあまあ。多分も面白いものが見られるって! ほらカービィ、コピーだ!」
「うぃ!」
ちゃんと慧音の家から十分距離を取り、カービィにお玉を投げ渡す。
そしてカービィは空気ごと吸い込み、お玉を丸呑みする。
「お、おい、食ったぞこいつ……」
「こうやってものを食べるのものの性質を自身に反映させるんだ」
「なんとまあ面妖な……」
「調理器具を食べたということは……調理器具の使い手……つまりは料理人になるのかしら」
「ありえるわね」
やがてカービィの体は光に包まれ、すぐさまその光は収まる。
そして現れたのは、コック帽をかぶったカービィだった。
「ほら、やっぱり」
「いつの間に着替えを……」
「最初は驚くわよね……」
「それじゃカービィ、頼んだぞ」
「ぽよ!」
魔理沙の指示とともに、カービィは何処からかフライパンとお玉を取り出す。
そして背後から直径1メートルは下らない大きさを持つ大鍋が突如として出現する。
カービィはそのまま、フライパンとお玉を「カンッカンッ」と打ち合わせた。
その途端である。
その大鍋に向かって、強力な引力が発生した。
「うぉおおお!?」
「な、なんじゃこりゃ!?」
「待って! 待って待って待って!」
「な、何この引力は!?」
「ま、魔理沙! 聞いてないぞ!」
「いや、私もお玉をコピーさせたのは初めてだから……」
「喧嘩やってる場合じゃないわよ! このままじゃ私たちが調理されるわよ!」
「紫もやし煮込みとか……勘弁」
各々竹に捕まり耐えてはいるが、その竹にも引力が働いている。引き抜かれるのは時間の問題だった。
と、その時。
「おーい、慧音、どこだ?」
「この声……妹紅!? き、来ちゃだめ!」
「ん? そこに居るのか?」
ひょっこりと第三者が現れた。
白いシャツに、赤いもんぺを履いた長い白髪の女性。
彼女こそ藤原妹紅。背負子に薪をもって竹林から顔を覗かせたのだ。
そしてその顔を覗かせた途端。
「何やってんぉおおおおおおお!?」
「もこぉおおおおおおお!?」
効果範囲が厳密に決まっているのだろうか。足を取られ、あっという間に鍋に吸い込まれてしまった。
そのままカービィは鍋をかき混ぜ、謎の調味料の瓶を振り、わずか数秒でその手を止める。
そしてカービィが鍋から離れると、鍋からポン、とあるものが飛び出した。
それは、カリッと揚がった唐揚げだった。
「もこぉおおおおおおお!?」
慧音は妹紅であった唐揚げの前に伏し、悲痛な叫びをあげた。
その嗚咽が竹林に木霊する中、三人の魔法使いはただ突っ立って見ている他何もできなかった。
ちなみにその直後、妹紅は復活した。
●○●○●
パチュリーの私的な研究記録:『カービィ』の記事より、冒頭部分抜粋。
◆カービィの能力の研究記録◆
カービィに関する研究の提案全てを拒否することに決定
私は唐揚げの姿で生涯を終えたくない。
混じりだけのない殺意にまみれたピンクボール……(ボソッ)
本人は深く考えていない。