東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
1.優しく接する(お菓子があればなお良し)
2.手懐け完了。
多分、最高にチョロい主人公だと思うんだ……! 純粋すぎる。
「もしかして、これを探しているの?」
一応、念のために確認を取ってみる。
するとその桃色は、ぶんぶんと頭を縦に振るう。
嘘をついているようには見えない。
というより、存在そのものが『正』であるように見える。
『悪意』などどこにもありはしない……例えあったとしても、小さな『いたずら心』しかないような、そんな存在。
「わかったわ。私が持っていてもしょうがないから、返してあげる。」
「ぽよっ!」
すると困っていたような顔が、まるで大輪の花が咲くような笑顔を見せる。
返してあげれば、大事そうに受け取り、そしてぴょんぴょんと跳ね回って喜ぶ。
その子供のような様子に、思わず笑みがこぼれる。
雛の厄から守る対象には、当然子供も入っている。
いや、流し雛を行う者を見ていればわかるが、子供がメインと言えるかもしれない。
子の幸せを願い、流し雛をする親がほとんどであった。
そして雛は、それに関わるからこそ、親としての性質を持っていた。
「ねぇ、君は名前はなんていうの?」
「ぅ? カービィ、カービィ!」
「そう、カービィっていうの。……ねぇ、カービィ、ちょっと家に寄っていかない? お菓子もあるわよ。」
「おかし! おかし!」
「ふふ、食いしん坊だこと。ああ、私は雛。鍵山雛よ。」
「……かー? ひな?」
「……難しいかぁ。まぁいいわ。おいで。」
「ひなー!」
家に案内する雛に、とてとてと歩きついて行くカービィ。
きっと頭の中はお菓子の事でいっぱいなのだろう。
雛はその光景を微笑ましく思う。
しかし同時に、不思議にも思っていた。
この子は一体、誰なのだろう?
妖怪ではない。理由は妖力がないから。
幽霊ではない。理由は霊力がないから。
神様ではない。理由は神力がないから。
ましてや、人間であるはずがない。
するとこの子は、獣の類だろうか?
しかし喃語のようとはいえ、人の言葉を話せるようになったら、それはもう妖怪化しつつある証拠。当然妖力も持つはずだが、それは感じられない。
もしくは、オウムやインコのような、言葉を繰り返すだけの動物か。
また、お菓子という言葉の意味はわかっているあたり、知能は高い。
犬は人の言葉を一部解す。つまりこの子は犬以上の知能とオウム返しをする能力を持っている獣なのだろうか。
……いや、少なくともこんな形の獣を私は寡聞にして知らない。
こんな派手な色の獣が、自然界で生き残れるとは思えない。
しばし悩み、そしてある一つの結論にたどり着く。
考えても埒があかない。諦めよう。
馬鹿の考え休みに似たり。そういうではないか。
この子に関する情報が少ない中、考察できるはずがない。
つまり私はこの子に関して『馬鹿』なのだ。だから考えたところで、答えにたどり着くはずがない。
そう思考に囚われているうちに、自宅にたどり着いていた。
完全にカービィを意識の外に出していたが、ちゃんとついてきていたようだ。
こじんまりとした、小さな日本家屋。
間取りも居間と土間、その他収納部屋などしかない。
しかし一人で暮らすには十分な広さだ。
扉の前で靴の土を落し、家の中へと入る。
すると、カービィも真似して足についた土を落とし始めたではないか。
礼儀正しい……いやそれともただ真似しているだけなのか。
だがどちらにせよ、『家に入る前に土を落とす』という行為をしたことに違いはない。
意味をわかってやっているのかは不明だが、わかっているなら高い知能を持っていると考えて良いだろう。
今度は靴を脱いで、玄関から板張りの床へと上がる。
さて、カービィはどうするかと思えば……困ったようにこちらを見上げている。
濡れた雑巾とタオルを渡せば、いそいそと足を雑巾で拭き、タオルで水気を落としだした。
『他人の家を汚してはならない』。その基本的な礼儀を、どう見ても子供なカービィは理解しているのだ。
カービィの行動に感心していると、当のカービィはキョロキョロと辺りを見回す。
そして雛を見上げ
「おかしー!」
と訴える。
そこら辺はまだまだ子供のようだ。
しかしこれくらい食い意地張っている方が、子供は可愛らしい。
「はいはい。ちょっと待ってね。」
そう言いながら、土間にあるある箱を開ける。
それは河童のバザーで手に入れたもの。
中を冷気で満たし、食品が傷みにくくするもの。
たしか、『レイゾウコ』といったか。なにやら特殊なエネルギーが必要なようで、これを買った時には河童たちが大掛かりな準備をしてくれた。
そこから取り出すのは、大量の餡子。
神は飲食を必要としない。
しかし、飲食ができないことはなく、嗜むことはできる。
この餡子もそのために保存したものだ。
そして今朝炊いた米びつに入った米を取り出す。
その米を手に取り、丸めて、餡子を塗る。
そう、おはぎだ。
飲食が不要なだけあって備蓄が貧相なために、用意できるのはこれだけだった。
しかし、暇潰しにしばしば作っているため、味には自信はある。
この米もおはぎのために今朝炊いたもち米だ。水加減も試行錯誤を繰り返してきた。
自慢のおはぎをいくつか作り、皿に盛り付ける。
それをカービィの前に出すと、それはもう目をキラキラと輝かせ、おはぎを見ている。
そしてその目のままじっとこちらを見つめる。
「召し上がれ。」
「ぽぅやぁーい!」
私の許可を律儀に待っていたのだろう。
許可が出た瞬間、歓喜の声をあげておはぎを手に取る。
人の掌ほどもあるおはぎを、カービィは一口で平らげる。
「うい!」
そしてそれがカービィの口にあったのか、次から次へとおはぎがカービィの口の中へと消えて行く。
そしてあっという間に、おはぎの山は消えて無くなる。
(……あれ、大人2人前くらいあった気がするんだけど。)
どう見てもカービィと同じくらいの重さのおはぎを平らげておきながら、けろっとしているカービィに雛はちょっとばかり寒気を感じる。
いやしかし、子供は食べないより食べた方がいい。そういう意味ではカービィは健康優良児といえるのだろう。
手についた餡子を舐めるカービィにお手拭きを渡しつつ、ちょっと話を振ってみる。
「ねぇカービィ、なぜ貴方はあそこにいたの?」
「ぷぃ? ぽぉよ! ぽよ、うぃぅ、ぽょよぃ!」
「うーん、言葉じゃ無理か……」
やはり話すのは喃語のような言葉ばかり。
しかし、どういうわけかこちらの言っていることは分かっているようだ。
なら、まだやりようはある。
今度はタンスから半紙と筆、硯、墨をとりだし、墨をすっていつでも使えるようにする。
そして筆をカービィに渡す。
「カービィ、絵で説明できる?」
「ぽよっ!」
言ったことを理解したのか、カービィは意気揚々と筆に墨をつけ、半紙に向かう。
初めはその様子に雛は満足していた。
しかし数分後、頭を抱えることになる。
そこにあるのは絵とは形容しがたい線の集合体だった。
こういう芸術もある、と天狗から聞いた気はするが、少なくとも聞きたいことはこれではわからない。
「……カービィ、もう、もう大丈夫よ。」
「ぷぃ?」
筆記用具を収め、カービィをじっと見つめる。
カービィもまた雛をじっと見つめる。
そして雛は考えに考え、こう切り出した。
「カービィ、この後に目的はあるの?」
「うぃ!」
カービィは力強く頷き、ある一点を指差す。
その指差す方向に心当たりがあり、雛は更に切り込んでみる。
「ねぇカービィ。私もあなたについていっていい?」
「うぃ!」
追加される『雛はおはぎ作りが上手い』設定……
とはいえ、霊夢と魔理沙以外、日常生活がどうなっているのか、わからないんですよね……雛は家を持っているのかどうかすら不明ですし。
でも神様ですし、祀る祠ぐらいはあるだろう! という希望的観点で書いてあります。
もしかしたら祠を神力で家に変形しているのかもしれませんしね。