東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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みなさん、0%0%0%もこうじょうけんがくもトラウマだったんだなぁ。


あすにはあすのかぜがふく

 八枚目のスペルカードが切られる。

 

 名は、「飛翔『伝説のエアライドマシン』」。

 

 輝きだしたのは、カービィの乗るドラグーン。

 少し後ろに下がり、輝きを強める。

 

 それはまるで力を溜めているかのように魔理沙には見えた。

 ……違う。もっと具体的にわかっていた。

 これは、カービィが魔理沙のスペルカードをオマージュしたものだ。

 本人だからこそ、わかるものがある。

 

 カービィとドラグーンの纏う光はさらに強くなる。

 そして、堰を切ったかのようにドラグーンは急発進した。

 いや、この表現はふさわしくない。

 厳密に言うなら、急発進などと言う生易しい表現で許されるようなものではない。それは瞬き1つすれば見失うほどの加速であった。

 光をまとい、巨大な鏃となって正邪へと突貫する。

 その纏う光はスターロッドの力によって当たり判定を得たのだろう。

 正邪は舌打ちしつつ、その身をかわす。

 こちらに飛んでくるのがそれだけならまだいいが、さらにカービィの過ぎ去った後には、無数の星型弾が残される。

 正邪はその星型弾がばらまかれた場所へ飛び込まなくてはならない。

 なぜなら、ここでぼうっとしていれば、またカービィが飛来しなぎ払いにくるからだ。

 だから正邪はあえて星型弾のばらまかれた場所へ突っ込み、二度目のカービィの突撃を避ける。

 ふと見上げれば、耐久スペルを示すカウントが上空に浮かんでいる。

 

 このスペルは紛れもなく魔理沙の『ブレイジングスター』を模したものだ。

 どこかでカービィは魔理沙がこれを行うのを見ていたのだろう。

 

 脳裏に浮かぶのは、高速で流れる街の景色。

 乗るのはやはりドラグーン。

 そしてそのドラグーンを駆使し、他の色のカービィを蹴散らしている。

 なかなか荒々しい遊びをしているな、と思った途端、場面は切り替わる。

 カービィがいたのは高空。

 下降しながら加速しているようだった。

 そしてその先にあるのは弾幕を放つ巨大な筒のようなもの。

 大砲と飛ぶべきものなのだろうか? とにかく、数百メートルある。

 そしてその大砲の砲身にあたる部分に、カービィは突撃をかました。

 瞬間、全ては爆ぜ、目の前は爆炎で包まれる。

 そのままその爆炎を切り抜けるところで、記憶は閉じた。

 

 あれは、ドラグーンを使った冒険譚なのだろうか?

 あの巨大なのを、たった一撃で撃ち落としたと言うのか。

 その規格外さに何も言えない。

 しかしその間にも時間は過ぎ、等々制限時間が過ぎる。

 

 九枚目のスペルカードの宣言もすぐに始まる

 

 名は、「英雄『カービィ凱旋』」。

 

 詠唱とともに浮かび上がる、水と、雲と、岩と、森と、機械と、夜と、炎の星。

 それがカービィを中心に隊列を作り上げていた。

 そして、それぞれが同心円状、もしくは自機狙いレーザーを放つ。

 弾幕を放つ起点が多いために、やはり高度な切り返しが要求される弾幕。

 高難度弾幕の王道を行くような弾幕。

 連続で放たれる弾幕に、正邪にも無駄口を叩く余裕も消え失せる。

 

 魔理沙の脳裏に浮かぶのは、どこもかしこも星の浮かぶ夜の空のような空間。

 一度そのような場所に行ったことのある魔理沙は、そこがどこであるかわかっていた。

 宇宙。カービィは宇宙空間に浮いているのだ。

 そして輝く星に乗って、二重リングをもつ星型の惑星へと降り立つ。

 そこは、魔理沙も何度も見てきたプププランドの光景であった。

 そこで熱い出迎えをうけるカービィ。

 それはまさに『凱旋』と呼ぶに相応しい。

 

「さぁ、最後だ、カービィ」

 

 その高難度弾幕も、本気になった正邪は攻略する。

 残すは最後のスペルカード。

 ラストスペルと呼ぶべきスペルカードを、カービィは宣言した。

 

 『Green greens』。

 

 これが、カービィの十枚目の、最後のスペルカードだった。

 

 いくつもの金色の弾幕を列状に放つ、

 それはへにょりとした軌道を描き、やがて巨大な星を形作った。

 星を形作った弾幕は、そのまま放射状に飛び散る。

 絶えず放たれる弾幕が星を形作り続け、そして弾幕を放出し続ける。

 美しさも兼ね備えた、高難度弾幕。

 アイテムを使い切った正邪は、そう簡単に避けることはできない。

 

 一度被弾する。

 あと、残機1つ。

 あと1つ、削れるか。

 容赦無くカービィは弾幕密度を上げる。

 

 だが……

 

「残念だったな。私の勝ちだ」

 

 それより早く、カービィの被弾回数が一定に達した。

 

 やはり、素人のカービィでは反則アイテムも使う正邪には勝てなかった。

 

「それじゃ、私はようやく晴れて自由の身になったわけだ」

「うぃ」

「なんだ? やけにあっさりしているな?」

「ぷぃ、うぃ。うゅう、ぶぃ!」

「自分は別に君を捕まえにきたわけじゃない。困ってたら助けようとしただけ、だってさ」

「ふん。余計なことを。ならカービィ、覚えておきな! 私は天邪鬼だ! 生まれ持ってのアマノジャク! 誰の助けも同意も要らない! 私はそう言う妖怪だ! それが私の生きる意味だ!」

 

 そしてそのまま、正邪は消えて行った。

 

 その姿を見送ったカービィは、清々しいまでの笑顔でこちらに戻ってきた。

 

「ぽょ」

「なんだ、満足げだな、カービィ。……ま、理解したか。あいつはそう言う妖怪だ。私もカービィの記憶を垣間見てなんとなくカービィの生き様を理解した。どんな生き様も、そいつが正しいと思っているならば、自信を持つならば、それが正しいんだってな」

「うぃ!」

 

 カービィの記憶を見て、魔理沙はよりカービィについて知ることができた。

 カービィの栄光も、カービィの暗い過去も。

 今回カービィは正邪の心の闇を見定めようとした。

 もしかしたら、自分がカービィの心の闇を見定める時が来るかもしれない。

 その時、カービィを癒せるように……カービィともっと、接するべきだろう。

 

 魔理沙はぐいとカービィを引き寄せ、そして抱きしめて、帰路へとついた。

 二人の帰るべき場所へと。

 

 

●○●○●

 

 

 幻想郷のデデデ城の屋上に、1つの影があった。

 仮面を被り、マントで身を包むその姿は、紛れもなくメタナイトであった。

 その後ろから、赤いガウンを着たデデデ大王が声をかける。

 

「そろそろだったか?」

「ええ、そろそろです」

「確かあいつが一気に転移させてくるんだったか?」

「その予定です」

「懐かしいな、あの時は。裏切られた時は穏やかな気分じゃなかったがな」

「改心してくれると、こちらも心苦しさが紛れますからね」

「……メタナイト、今回の作戦は全て、お前に任せる」

「ええ、必ずや成功させましょう。竹林の医者からはしっかりと情報を得ましたから」

 

 振り向くメタナイトの仮面が月光に照らされ、より不気味に見える。

 メタナイトは月に手をかざし、握りしめた。

 

「いざ、月面へ。目指すは『夢の泉』の奪還。メタナイツの力をお見せしましょう」


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