東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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シリアスの波動を感じる……


儚月抄:Rescue
戦艦と桃色玉


 月明かりの夜。

 人間たちが寝静まる夜。

 妖怪たちが活動を始める夜。

 

 そんな夜に、人間である魔理沙は眠らずに机で作業をしていた。

 魔理沙はしばしば夜更かしして作業をすることがある。

 自分の力をうまく行使するための努力を惜しまない。それが霧雨魔理沙という人間である。

 

 しかし、結局のところは人間。

 睡眠を取らねば死ぬ存在である。

 しばらく作業に没頭していた魔理沙だが、やがて大きく伸びをして体のコリをほぐすように動く。それと同時にボキボキと鈍い音も聞こえてくる。

 

「うぅん、さすがに疲れた。もう寝ようかな……」

 

 カービィはすでに眠っているはずだ。

 魔理沙は寝巻きに着替えるべく、椅子から「よっこらしょ」とおっさんくさい声と共に立ち上がる。

 

 その時、ふと聞こえた。

 鈍い重低音を。

 巨大なものが横切るような風切り音を。

 夜は妖怪の時間。ならばこの音も妖怪の仕業と考えてもいいだろう。

 だが魔理沙は、その時だけ妙な悪寒に襲われた。

 いてもたってもいられなかった魔理沙は、ついに玄関から外へと飛び出した。

 

 そしてその音の正体は探すまでもなかった。

 探す必要がないほど、それは巨大であったのだ。

 

 まるで、空を行く黒金の城塞。

 巨大な蝙蝠のような羽が四枚伸び、そして前方には白い仮面のようなものが取り付けられている。

 大きさは200メートルあるのだろうか

 それが何かはわからない。

 しかしなんとなく、『船』である気がした。

 

 これだけでも異常事態だが、さらに魔理沙の目には更にとんでもないものが写り込んでしまった、

 

 その黒金の城塞に向かって行く発光体。

 それは紛れもなくカービィのものであった。

 

「何……やってんだ、カービィ!」

 

 魔理沙は思わず怒鳴り、そして立てかけてあった箒を掴むと、即座に急加速した。

 ぐんぐんと黒金の城塞が近くなる。

 カービィはもう内部に潜り込んだようで、姿は見えない。

 だが魔理沙は諦めず、カービィの通ったであろう場所を行く。

 

 そのまま黒金の城塞の上に回り込み……戦慄した。

 上の部分は甲板となっており、そしてずらりと大砲と思わしきものが所狭しと並んでいるのだ。

 どれも、資料としてみたことのある大砲よりも大きい。

 そして目を引くのは、その甲板の真ん中にある特に巨大な大砲。

 一体一発でどれだけの被害を生むことができるのだろうか。

 

 異変か? これも異変なのか?

 だとしたら、見過ごすわけにはいかない。

 もしかしたらカービィも止めるために入っていったのかもしれない。

 

「……っ! あそこか!」

 

 魔理沙は通路を見つけると、一直線に突っ込んでいった。

 

 

●○●○●

 

 

「カービィの搭乗を確認したダス」

 

 大柄で全身鎧を着込んだメイスナイトが監視カメラの映像を確認し、報告する。

 他にもバイキングのような兜をかぶったアックスナイト、そして鷲の頭をもったバル艦長、そしてこの戦艦『ハルバード』の主人であり、メタナイツが首領、メタナイトも搭乗している。

 広いブリッジからは艦内の様子や航路などが映し出され、いかにもSFといった感じだった。

 

「さて、そろそろ出発するか。日が出ては目立つからな」

「そーだね」

 

 さらにメタナイトの後ろから別の声が聞こえる。

 それはデデデ大王と、バンダナワドルディの声であった。

 だが今回ワドルディは気分を出すためか、水兵帽を被っていた。

 デデデ大王がハルバードに乗るのは非常に珍しい。

 それだけ重要な作戦であるということだろう。

 

「ではクルー全員に告ぐ。これより月面へのワープを開始する。回線を……」

「あっ、ま、待ってください! 何か接近しています!」

 

 メタナイトの言葉を遮る形でアックスナイトが叫ぶ。

 アックスナイトが叫ぶその視線の先には確かにこちらに飛んでくる影があった。

 その影の正体に心当たりのないメタナイツたちは、操作盤をいじり各砲台の焦点を合わせようとする。

 

「メタナイト様! 撃墜許可を!」

「こんなところで邪魔されたくないダスよ!」

 

 血気盛んなメタナイツ達。

 しかし、メタナイトとデデデ大王、そしてバンダナワドルディ改め水兵ワドルディはその影に見覚えがあった。

 

「……いや、待て。彼女は霧雨殿だな」

「ああ、魔理沙か。大方、外に出るカービィに気づいてついてきたんだろうな」

「あ、あれが噂のカービィの保護者ですか!?」

「と、すると撃墜するのは……」

「……カービィの恨みを買いそうダス」

「で、どうするのー?」

 

 これは予想外だ。

 できれば内輪だけで解決したかった。

 だが、彼女の性格を鑑みるに、是が非でも乗り込んでくるだろう。

 

「……うむ、仕方があるまい。霧雨殿をお通ししろ」

 

 

●○●○●

 

 

「はぁあ……何じゃこりゃ」

「ぽぃ」

 

 魔理沙はまるで小さな子供のように辺りをキョロキョロと見回しながら、艦内をカービィとともに進む。

 『スピーカー』なるものから聞き覚えのあるメタナイトの言葉に従い、魔理沙は艦内を歩いていた。

 非常に広く、また入り組んでいて、そう簡単には目的の場所へはたどり着けないような構造になっていた。

 やはり城塞としての役割もあるのだろう。敵襲を考えての作りであることは明らかであった。

 

 そして、ようやく1つの扉の前に辿り着く。

 その扉は魔理沙が触れる前に自動で開く。

 その先には、魔理沙の知る面々、メタナイト、デデデ大王、そしてワドルディがいた。

 しかしそれ以外にも魔理沙の知らない鷲頭や一頭身の鎧もいるし、ワドルディが被るのはいつもの青いバンダナではなく水兵帽。

 

「久しいな、霧雨殿。軽く我が騎士団、メタナイツの紹介をさせてもらおう」

 

 そしてメタナイトが魔理沙の知らない面々の紹介を軽くする。

 簡単に自己紹介を終えた魔理沙は早速メタナイトを問い詰めた。

 

「で? これはなんだ? 何をしようとしている?」

「簡潔に言おう。我々はこれから、我々の世界のあるアイテムを月から奪還する」

「何!? 月だと!?」

 

 魔理沙は己が耳を疑った。

 月には一度行ったことがある。

 そして為すすべなく敗北して帰ってきたのだ。

 彼の地にいるのは幻想郷の住人など歯牙にも掛けない猛者。

 それに喧嘩を吹っかけに行くようなものだ。

 

「おい、あそこに何がいるのか知っているのか!?」

「知っているとも。八意殿から色々と情報を集めた。特に、相対すると思われる者の中で最も強いと思われる綿月姉妹の事については」

「っ! なら、なぜ?」

 

 八意永琳は綿月姉妹の指導役であったという。つまり、幻想郷で最も二人についてよく知る人物だ。

 その永琳に聞いたのならば、その強さもよく知っているはず。

 侮ったのか。

 

「なに、強さはよく聞いたとも。その上で、我々はやらねばならない」

「……あそこは幻想郷以上の魔境だぞ? 人類を滅亡させるような話が大好きな輩だぞ? それでも行くのか?」

「ああ。……霧雨殿が行きたくないのならば、ここで降りると良い。さぁ、回線をつなげ」

 

 メタナイトの指示により、メイスナイトが操作盤で何かを操作する。

 するとしばらくノイズが走った後、声が聞こえてきた。

 

『ハイハイ、やっとボクの出番かナ?』

「ああ。異空間ロードの入り口を開いてくれ。出口は伝えた通りだ」

『了解。それじゃ開くヨ』

 

 すると、空気の震えるような感覚が起きる。

 ふとブリッジから外を見れば、目の前にあるのは巨大な空間の裂け目。

 まるで紫のスキマのようだ。

 

 それを見て唖然とする魔理沙に、メタナイトは問いかける。

 

「さぁ、我々は月へ行く。返答はいかに、霧雨殿?」


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