東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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侵攻と桃色玉

 戦艦ハルバードはその異空間ロードへ繋がる裂け目へ入る。

 その先は様々なものが混在し、光のスペクトルも異常な反応を示す、宇宙空間とも違う異様な空間。

 

 そこに入った途端、カービィ、メタナイトとデデデ大王、そして水兵ワドルディは懐かしそうな顔をする。

 彼らがここに入ったのはこれが初めてではない。プププランドからある惑星へ行く為に、そしてある裏切り者を追うために何度か通った場所だ。

 しかし、他のものにとっては初めての空間であり、その顔には多分に警戒の色が見て取れる。

 

 魔理沙もその一人であった。

 

 結局魔理沙はカービィと共についてきた。

 はっきり言ってあの二人にはもう会いたくもない。

 だが、あの二人の力を見たことのある自分が行くからこそ、カービィ達の生存率を上げることができると考えたのだ。

 

「メタナイト、ここは?」

「異空間ロード。ある魔術師が使う空間転移の為の空間だ」

『その魔術師はボクのコトだヨ』

 

 メタナイトに続くようにして、妙に片言な言葉がスピーカーから聞こえてくる。

 どうやら音声のみの通信らしい。

 

「なるほど、やはりスキマみたいだな」

「それで、魔術的ハッキングはどこまで進んでいる?」

『バッチシ進んでいるヨォ。君達が出る頃には完了していると思うヨ』

「わかった。ではこちらも準備に入る。カービィ!」

「ぽよ!」

 

 突然名前を呼ばれたカービィは勇ましく返事をする。

 

「そろそろ準備の時間だ。行くぞ!」

「うぃ!」

「カービィ……行くんだな?」

「うぃ」

「……なぁ、メタナイト。私は行っちゃダメなのか?」

「今回は相手が殺しにかかってくる可能性もある。だからこそ、霧雨殿を前線に出すわけにはいかない。カービィなら、必ずや勝利を掴むと信じている」

 

 つまりは、前線に出るには力不足、ということ。

 唇を噛みながらも、魔理沙は頷き了解の意を示す。

 そして、カービィとメタナイトは扉の奥へと消えて行った。

 

 

●○●○●

 

 

 メタナイトがブリッジに戻ってくるまで、そんなに時間はかからなかった。

 そしてメタナイトが帰ってくる時にはちょうど異空間ロードを抜ける時であった。

 

 つまり、この先に月の都があるということ。

 

「そちらの準備は良いか」

『バッチリ。空間干渉式の転移妨害も発動させてるヨ。頑張ってネ、カービィ!』

「ではクルー全員に告ぐ! これより敵地に突入する! シールドを張れ!」

「了解ダス!」

 

 メイスナイトが操作盤をいじった途端、薄い光に包まれたような気がした。

 おそらくこれがシールドなのだろう。

 

「月の都までもうすぐです! あと20!」

「……そうか。カービィの様子は?」

「落ち着いています! 準備もできているようです!」

「月の都まで、あと10!」

「では、そろそろアレを出せ!」

「はっ!」

「月の都まで、あと5、4、3、2、1、出ます!」

 

 視界は突然明るくなる。

 見ればそこは、あの時みた月の都そのもの。

 彼の地、浄土が眼下に広がっていた。

 

「はは、また来ちまったか……っておい! なんか撃たれているぞ!」

 

 魔理沙が下を覗いた時、都の方から光が何度も瞬いているのを見た。

 それが当たると同時に、シールドに若干波紋が起きているのも。

 

「……八意殿は月の都に密告したようだな。やはり弟子のいる地に攻め込まれるのは許し難かったか」

「おいそれじゃ……この奇襲は月の都にはバレているということか!?」

 

 奇襲がバレている。

 これは非常にまずい状態だ。

 相手に存在がバレていないからこそ、奇襲は効果を発揮できるのだ。

 それがバレてしまっては、奇襲は奇襲としての意味をなさないどころか、返り討ちに遭うのが常だ。

 

 しかしメタナイトは不敵に笑う。

 

「ああ、問題ない。むしろ想定内、作戦通りだ。彼らは魔法による無線で素晴らしい連携を取るという。しかしそれこそが命取りだ。……やれ、マホロア」

『メタナイト、君って本当、血も涙もないネ。それじゃ、いくヨ……魔法無線通信と電波無線通信を同期! やっちゃえ、カービィ!』

「いけ! カービィ投下!」

「はっ!」

 

 スクリーンに戦艦の下部に取り付けられたらしいカメラの映像が流れる。

 そして、パラシュートで降下するカービィを追尾するように焦点を合わせる。

 

 そして、魔理沙の顔から血の気が引いた。

 そのカービィの姿は紛れもなく……マイクの姿であった。

 

「め、メタナイト。何をする気だ?」

「月の都はテレパシーによる素早い情報のやり取りと連携を駆使し、侵入者を追い詰める。今のように八意殿からの密告があったならば、その対応力はさらに上がる。……だがそれが命取りだ。準備していたということは、すでにテレパシーによる連絡が今も流されているということ。そして今や、魔術的ハッキングにより、そのテレパシーのチャンネルはカービィの持つマイクと同期してある。つまり……」

「ま、まさか!」

「さぁ、歌え、カービィ!」

 

 メタナイトがカービィの腕につけた無線機で指示を出す。そしてすぐさま、無線を切った。

 それに呼応するように、月の都のテレパシーとつながったマイクを、カービィは握りしめた。

 そして。

 

『なやええう! ぅおいよ、やぁ、かええも!』

 

 暴力的な歌……いや歌とも呼べない音が、月の都に木霊する。

 

『えあうああ! ぅやうゆうゆあわあてっ!』

 

 そして至る所から爆発音が鳴り響く。

 

『わやいあや! はやえ、う、おおろお!』

 

 そして気がつけば、戦艦ハルバードへの攻撃が止んでいた。

 

『いえあいわ! おぅい・や・やぁ・いっ!』

 

 テレパシーとは、直接脳内に音声情報を届ける方法。

 つまりカービィの持つマイクとテレパシーを同期させたということは、今前線に立つ月の住人や月の兎の脳内にはカービィの歌声が直に響いているということだ。

 カービィの歌を聞いたことのある魔理沙は想像しただけで薄ら寒くなる。

 しかも恐ろしいことに、シールドで守られているはずのハルバードが、若干小刻みに揺れているのだ。

 恐ろしいこと、この上ない。

 

 やがてカービィも満足したのか、やっと歌い終える。

 それと同時に振動も収まった。

 カメラでカービィが歌い終えたのを確認したメタナイトは無線をオンにしてカービィに指示を出す。

 

「あとは残党処理だ、カービィ。……尤も、相手はほぼ決まってはいるがな」

『うぃ!』

「気を引き締めろ。相手は相当な手練れだ」

 

 さらにメタナイトは画面を切り替え、別の者にも指示を出す。

 

「念の為だ。空間固定の魔法もカービィにそちらからかけてくれ。ワープを自在にできたお前ならできるはずだろう?」

『ウーム、ボク一人だとカミサマ相手には出力不足だナァ。クラウンがあったら別だケド。ローアとランディアからも魔力を借りるけど、その間殆ど行動できないカラネ? 急な対応は難しいヨォ?』

「ああ、それでも頼む」

「メタナイト、ちょっといいか? 何故、カービィだけに行かせたんだ?」

 

 メタナイトの言う『相手』が誰か大体予想がつく。

 ならば、カービィ一人では荷が重いのではないだろうか?

 

「魔理沙の心配はわかる。しかし、それで良い」

「なんでだよ」

「確かに私などが加勢すれば勝率は高くなるだろうが……もし片割れの能力により、どこかに放り出された場合、たとえ宇宙空間へ放り出されても、我々は普通に行動できるが、捜索には手間がかかる。だからこそ、大量に戦力をつぎ込むのではなく、カービィ単騎で挑む必要があるのだ。例え何度も放り出されてもすぐに戦線復帰できるようにな」

「……もしもの時は私も行くぞ?」

「自己責任で頼む。しかしこれから我々は月の都の勢力範囲から脱するぞ?」

「この戦艦そのものが放り出されるのを憂いてか?」

「その通りだ」

「……勝てるのか?」

 

 最後の質問は、質問というよりかは魔理沙の悲痛な願いにも聞こえた。

 それに答えたのは、デデデ大王であった。

 

「なに、心配ない」

「なんでそう言い切れる? 相手は……月の都の最高戦力と八百万の神だぞ?」

「所詮は小さな星の、小さな都の精鋭だろう? その程度、数多の星々を駆けてきたカービィの敵ではないわ」

「だが……」

「それに、こちらには切り札もあるからな」

 

 そしてデデデ大王は不敵に笑うのだった。

 

 

●○●○●

 

 

 カービィは辺りを見回しつつ進む。

 周囲には飛散した家屋と、泡を吹き目を回したウサギ耳の人間が倒れている。

 なんでこんなことになっているかはカービィにはわからないが、とにかく目的のために進むしかない。

 

 そうしてカービィが決心を強くした時。

 

 パリン、と何かが砕けるような音が鳴る。

 まるで空間そのものが割れたような、そんな感覚。

 キョロキョロと辺りを見回していると、いつの間にか真正面に、二人の人間の影があった。

 

「あらあら、防御系の術かしら。中々強力ねぇ」

「不浄な桃色玉よ、そのまま浄化されればよかったものを」

 

 そしてその二人は、見るからに敵意を剥き出しにしていた。




カービィが何を歌っているか、わかったらすごいと思います。

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