東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
SCP関連の作品をあげました!
『SCP財団 ハーメルン支部』です。しばらく校正した後、SCP財団日本支部にもあげようと思っています。
どしどし厳しい感想、お願いします!
スキマと狐と桃色玉
「カービィ。直接会ったのは……もしかしたら初めてかしら?」
八雲紫は蠱惑的に微笑む。
しかしながら、そこに好意は皆無。逆に吐き気を催すほどの敵意を感じる。
「おい、私はさっきまでハルバードの中にいたと思うんだが?」
「ええ。出てくるときにちょっと動かしたのよ」
おそらく、スキマの行使によって魔理沙を転移させたのだろう。
しかし、何のために?
……溢れ出る敵意を鑑みれば、要件は分からなくもない。
「なるほど。これがあなた方の世界のアイテムね」
紫は転移させた夢の泉へと近寄る。
すでに起動しているのか、白く、ワイングラスを重ねたような形の夢の泉の椀からは輝く水が溢れ出し、あたりに泉を作り出していた。
そしてその天辺には、紫色のスターロッドが設置されていた。
それを紫は何のためらいもなく取り上げた。
「確かに強い力を秘めているみたいね。現実改変のアイテムとは、本当に厄介だわ」
そう言いながら紫はスキマへ手を伸ばす。
手を引いた時、その手には最後の一つ、赤色のスターロッドが握られていた。
「ぽよ!?」
「お前、スターロッドを持っていたのか!?」
「ええ。古道具屋から拝借したのよ」
「何が目的だ?」
「さぁ? 何かしらね」
露骨に答えをはぐらかす紫。
相変わらずの態度に魔理沙は苛立ちを隠せなかった。
だが、大妖怪たる紫は人間の小娘の怒りなどに動じない。
更に恐ろしいことを口走る。
「ああ、あとお仲間に助けを求めるのはお勧めしないわ。今私の手の者が手厚くもてなしている最中でしょうから」
「……まさか!」
「ええ。仮面の騎士様は藍が、大王様は萃香が、ワドルディの集落は私と藍の式神が相手しているわ。ハルバードは私の力で空中に係留済み。外へ出ないようしっかり保護しているわ」
要するに、分断して拉致している、ということ他ならない。
最悪だ。本当に最悪だ。
早くこの場から逃げ出し、メタナイトらと合流せねばならない。
いや、果たしてそれは可能なのか?
目の前の大妖怪、八雲紫。
それが、本気でこちらを追い詰めようとしているのだから。
紫は靴音を洞窟内に響かせながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
笑顔を崩さずに歩み寄る紫からは、尋常ではないプレッシャーを感じる。
強者の敵意は物理的圧力も伴う。そう誤認させてしまうほどの精神的圧力。
しかしそれでも魔理沙がこの場から逃げないのは、カービィがいるからか。
魔理沙は紫に八卦炉を構えた。
「止まれ、止まれよ」
魔理沙の声に合わせ、紫は足を止める。
止めた理由は何か? 八卦炉を向けたからか?
いや違う。スキマという空間を操る紫にとって、圧倒的熱量による攻撃しかできない八卦炉など、驚異たり得ない。
つまり足を止めたのは、魔理沙と紫の圧倒的力の差……つまりは『強者の余裕』。
傲慢であろうか? いや事実、それくらいの差はあるのだ。
「やめろ、近づくな。私たちに近づくな」
「そう。真実を知らない貴女はそういうでしょう。でも貴女は真実を知らない。そして知る必要もない」
突如、魔理沙の視界が暗くなった。
視界の端を薄っすらと、自分の帽子が舞うのを見た。
暗くなる視界の中、魔理沙は狼狽した。
紫は特に動いていなかったのにもかかわらず。
つまり力を使う予備動作は無かったはず。
……いや、違う。力を使う予備動作など、紫にそもそも必要なかったのだ。
これが、力の差か。
「カービィ! 逃げ……」
せめてカービィを逃さねば。
その一心で発した言葉は、途中で途切れてしまった。
帽子を残し、魔理沙はこの場から消えた。
この洞窟内にいるのはカービィと紫のみ。
そして紫は法要を受け入れるかのように、両手をゆっくり広げた。
「私はこの“幻想”を愛する。さぁ、幻想を求める者、カービィよ。始めましょうか。この幻想をかけた欲望の戦いを」
●○●○●
どこともわからぬ草原の中、メタナイトはある人物と相対していた。
「……なるほど。うちの魔術師の魔力切れを狙った転移か……中々小粋な事をしてくれる」
「許せ。仮面の騎士よ」
「メタナイトだ。貴女は……」
「八雲藍。八雲紫様の式神です」
相対するは耳のついた帽子と九本の尻尾が特徴的な金髪の女性。
「なるほど。私も此処に来てある程度の勉強はした。八雲殿。貴女は九尾の狐、玉藻前だな?」
「……その名はすでに捨てた身だ。私は紫様の式神、八雲藍。それ以外何者でもない」
「そうか、なるほど。……なんとなくわからなくもないぞ、貴女方の講じた策は。分断と各個撃破。他の乗員も分断し、貴女方の手の者が撃破に向かっているのだろう?」
「……」
「沈黙が何よりの肯定だな」
藍は長く溜息をつく。
そして右手に光球を浮かばせる。
「まぁ、どうでも良いです。どちらにしろ貴方はここで死ぬのですから」
「穏やかではないな。やれやれ、どうやら我々は結局のところ“同類”と言うわけか」
「……貴方はどこまで知っているのです?」
「貴女が知っていることはほぼ全てだ。さて、殺しあうのだろう、八雲殿よ」
「ああ、当然だ。ここで幻想郷の塵となれ、仮面の騎士、メタナイト」
「そうか。それは恐ろしいな」
メタナイトは宝剣ギャラクシアを引き抜く。
枝分かれした、黄金色の剣。赤く輝く宝玉。
剣そのものが生きているとも言われるが、実のところ正体不明の剣。
ただわかるのは、業物というレベルでは収まらない……即ち九尾の狐にも届きうる剣。
そしてマントの代わりに現れる、蝙蝠のような翼。
そこにいるのは先ほどまでの紳士ではない。
そこにいるのは幾度も戦いに身を置いた、歴戦の騎士。
正眼に剣を構え、佇む。
体格差は明らか。しかしながら、メタナイトの背後には不落の要塞が浮かんで見えた。
しかし、八雲藍は傾国の女狐。
数多の策で国を沈めて来たのだ。
ならば、今回も変わるまい。
静かに、両者は決戦の時を迎えたのだ。