東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
キンッ! と高い金属が打ち付けられる音が響く。
それも一回だけではなく、何度も何度も断続的に、切れ目も無いような頻度で。
振るわれるのは黄金の剣、ギャラクシア。
それを受け止めるのは、なんと藍の素手。
妖術を使っているのだろう。その手刀の強度は最早ギャラクシアと同等なものへと強化されていた。
これぞ三大悪妖怪が一つ、九尾の狐の力の強さの表れである。
しかしながらこういった接近戦において、明らかにメタナイトの方に軍配が上がっていた。
剣で戦うメタナイトと丸腰の藍が戦うならばそうなるであろう。
にも関わらず、決着がつかないのは藍が別の技術に優れていたからだ。
それは、妖術。
「……またか」
藍の姿がぶれる。
途端、その姿は九つに分かれた。
よくある分身である。
しかし、九尾の狐であり、さらに紫という大妖怪によって式神にされた藍の分身は質が違う。
いかに精神の鍛えられたメタナイトと雖も、本物を見抜くことは難しい。
分身の耐久力は剣が擦れば消えてしまうほどだが、その分身が放つ妖力玉は本体が放つものと同じダメージ量を持つ。
錯乱、揺動、誘導、奇襲。
メタナイトの休みない剣撃を躱しつつこれらを行う藍は、やはり大妖怪であった。
「……素晴らしい動きだ。自分の力を理解し、持てる力を存分に発揮する。カービィと剣を交えた時を思い出す」
「……無駄口を叩く理由があるので?」
「無いな。失礼した」
メタナイトの剣が強く叩きつけられる。
それを妖力で硬化した両手で受け止める。
だが、分身の維持や妖力玉の生成にも力を注いでいるのだ。
パキン、という何かが割れる音が響く。
それは両手の硬化が解けた音。
その衝撃で藍の両腕は開き、ギャラクシアを止めるものがなくなる。
「隙あり!」
「チィ!」
剣閃が走る。
藍は身を捻り、かろうじて致命傷は避ける。
しかしその右肩はザックリと大きな切り傷を作った。
もうこの戦闘では使い物にはなるまい。
だが。
「ぐぉおお!?」
突如、メタナイトの全身に痛みが走った。
電流が伝ったかのような、もしくは炎が全身を焦がしたかのような。
それは妖力によるダメージ。
藍の用意していた、カウンターである。
メタナイトは痛みを堪え、翼を使い大きく距離を取る。
「……カウンター……か?」
「正解。私のダメージに応じて、呪いとして返した。これで痛み分けだ」
「なるほど、非常に厄介だ」
そう言いながらもメタナイトは剣を向ける。
藍は若干目を細め、右腕を垂らし、左腕で構える。
「聞こう。一つだけ疑問があるのだ」
メタナイトは剣を構えつつ、尋ねる。
「我々を分断したのは素晴らしい策と言える。しかし、分断という策は、分断することにより自軍と分断した相手の戦力差を生かして殲滅するのが常套。それなのになぜ、一騎討ちに持ち込む?」
メタナイトの問いに、藍は歯切れ悪く答える。
「……それが紫様のご意思だ」
「彼女は幻想郷のために戦うのだろう? 仲間を集めても良いではないか」
「……」
「答は無しか……良いだろう」
メタナイトは剣をスッと横に動かす。
そして、マントを翻す。
「これは手向けだ。受け取るがいい」
「……ならば私からも手向けを受け取ってほしいものだ」
「行くぞ? ギャラクシアダークネス!!」
「はぁあああああ!!」
メタナイトの放つ、剣の間合いを超えた遠距離斬撃。
藍の放つ、殺生岩由来の死を撒き散らす妖気。
互いが互いへの手向けとして放った力は、丁度中点で拮抗した。
●○●○●
「ふんっ!」
「ハッ!」
振り下ろされる黒金の巨槌を払うようにして軌道を変える萃香。
そのまま流れるようにして放たれる蹴撃を超重量の槌を持っているとは思えない軽やかさで跳ね、躱すデデデ大王。
「ハハハ! やるじゃないか大王!」
「無駄口を!」
着地した先で槌を地面に突き立てるデデデ大王。
すると槌が変形し、内部から三発のミサイルが飛び出した。
弱い追尾性を持ったミサイルは、萃香へと突撃する。
ミサイルというものに減速機は無い。
つまり、空気抵抗等を考慮に入れなければ燃料がある限り加速し続けるのだ。
さらに、ミサイルというものには信管がある。
ここに一定以上の衝撃を加えると、内部の爆薬が炸裂する仕組みだ。
なぜ、そんな分かり切った事をあえて説明するのか?
それは萃香の成した偉業がどれほどのものか、よく理解するためである。
「デェああっ!!」
「何ぃ!?」
迫るミサイル三発。それの信管を潰さぬよう優しく握り、軌道を逸らし、変え、デデデ大王に撃ち返したのだ。
飛来するミサイルを躱す。それだけでも相当ではあるが、萃香はそれを信管を刺激しない優しさで掴み、投げ返したのだ。
まさに何百年もの月日を生きてきた人外だからこそ成せる業。
しかし思わぬカウンターに驚愕しながらも全て避けきるデデデ大王もまた、人智を超えた人外なのだろう。
デデデ大王は大きく飛び上がる。
しかしそこに、弾丸も霞むような速度で萃香の蹴りが飛んでくる。
メキィ、と受け止めた槌から軋むような音が響く。
それでも勢いは殺しきれず、奥へ吹き飛ぶ。
「ちぃ!」
「まだまだくたばるなよ!」
さらに吹き飛んだデデデ大王へ駄目押しとばかりに拳を叩き込む。
次こそ避けたものの、殴りつけられた地面には大きなクレーターが出現する。
そして、お返しとばかりに槌を叩き込む。
だが、その超重量の一撃を、萃香は素手で受け止めた。
「どうした? この程度か?」
「それはどうだかな?」
「ん? なんだっ……ぐぎぎゃ!?」
カチリと何かが噛み合う音がしたかと思うと、バチバチと青白い火花を散らし槌が放電しだす。
感電した萃香の体からは少しだけ煙が上がる。
「くぅ、効くねぇ!!」
「ええい化け物か!」
しかし、たいしてダメージを食らった様子はない。
そのままデデデ大王へ連撃を叩き込む。
その槌で受け止めるが、いかんせんその重さ故に、素早い動きについていけない。
やがて、痛打をその身に受けてしまう。
吹き飛び、大地をころがるデデデ大王。
その仮面は割れ、欠けていた。
地に伏すデデデ大王に、鬼はゆっくりと歩み寄った。
まるで、獲物にとどめを刺す獣のような眼で。