東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
感想欄でのネタバレはなしでお願いします! この回は結構重要な部分なので! (ネタ明かしの回に存分に『当ててやったぜ(ドヤァ)』と自慢してください)
カービィは無限の空間を彷徨っていた。
スキマに囚われ、飲み込まれ、脱出できないでいた。
紫の狙いは初めから、カービィを倒すことではなく、隔離されたこのスキマに閉じ込めるつもりだったのだ。
何も能力のないこの状態では、ここから抜け出すのは難しいだろう。
ただカービィは、その空間を浮いていた。
だが、その時、何か吸い込まれるような感じがした。
それと同時に、噛み付かれるような感覚も。
そして一気に引っ張られた。
引き込まれたのは、見覚えのある場所だった。
いくつもの裂け目がある、異空間ロード。
そして、また見覚えのある影が見える。
赤い、三つの翼を持った影。カービィを咥えている者を入れて四つ。
そして白く輝く帆船。
そして……
「ダメじゃないか、カービィ。油断したのカイ?」
懐かしい、かつての敵だった青い魔術師。
ここに来てから影で支えている者。
「ボクの魔力切れを狙って移動させたのかナァ? まぁ、魔力切れでもローアを使えば元に戻せるんだけどネ」
ポンポンと帆船、ローアを叩く魔術師。
そして、ローアの船首から光が伸び、空間の裂け目ができる。
そして魔術師は、布切れを渡した。
「さぁ、カービィ、君にはやるべき事があるんダロウ? ならここから戻るんダ」
「うぃ!」
カービィは布切れを飲み込み、金属のバイザーを被った姿に変化する。
そしてその空間の裂け目へ向かう。
と、その時、その魔術師に引き止められた。
「おっと、これを言うのを忘れていたヨォ」
魔術師はぐっと顔を寄せ、囁く。
まるで誰かに聞かれるのを恐れているかのように。
「カービィ、“敵はまだ居る”。敵は、スターロッドと夢の泉が集まることを狙ってイル。……思い出すんだ、カービィ。敵は狡猾ダ。間接的に……ソウ、間接的に、ソイツはキミの手助けをしていたはずダヨ」
そして、魔術師はカービィを突き飛ばすように裂け目へ送った。
「サァ、頼んだよ、カービィ!」
カービィは裂け目を抜けた。
かの魔術師は狙っていたのだろう。すぐ目の前に、紫がいた。
すぐさまカービィは分析の光を放つ。
逃げようとしていたが、こちらの方が早かった。
やがてカービィの姿は変化する。
そう、白い日傘と、白いモブキャップを被り、スキマに座すその姿に。
●○●○●
デデデ大王は地面に倒れた。
鬼の笑みを浮かべた萃香が、ゆっくりと近づく。
だが、萃香がデデデ大王の元へ辿り着くよりも早く、デデデ大王は立ち上がった。
「ほう、なかなかの根性だね。さすが私の見込んだだけはあるねぇ」
「そりゃ嬉しいな」
「さて、続きをやろうじゃないか。お前みたいな正々堂々とした漢は好みでねぇ!」
萃香は拳を構える。
対して、デデデ大王は仮面の破片を顔に残しながら、笑った。
「そうか。なら謝らなくてはならないな。俺様は、お前さんの期待を裏切ることになると」
「……あぁ?」
訝しげな声を上げる萃香に、デデデ大王は一歩踏み出した。
「俺様は幾度となく負けた。あのピンク玉……そう、カービィにな。部下を使い、罠を使い、幾度となく挑み、敗れた。……今じゃ手を貸し合う仲か」
「良いじゃねぇか。強敵と書いて友と呼ぶ、ってな」
「まぁな。しかし俺様が幾度となく敗れながらも、幾度となくカービィに挑み続けることのできた理由はなんだと思う? 」
「……問答は嫌いなんだよ」
「そうか、そりゃ悪いことをした。その理由は俺様が大王たる理由なんだがな」
デデデ大王は、ゆっくりと腕を広げた。
全てを受け入れる、父親のように。
「教えてやろう。絆だ」
萃香は上からの気配を感じた。
直感的に飛び退き、さっきまでいた場所が爆ぜる。
しかし、まだ気配は追ってくる。
走り、走り、走って空からの攻撃を避ける。
一通り避け切ってようやく落ちて来た者を視認する事ができた。
そこにいたのは、大量のワドルディ。
それも、非想天則の暴走時に活躍したロボボに乗って。
しかしそのカラーリングは、ワドルディを模したものに変わっている。
「ロボボ量産型だ。本家のようなコピー能力はないが、単純な力だけなら負けず劣らずといったところか」
「……多対一か、このやろう」
さらに二人を囲むように、さらに多くの槍を構えたワドルディが姿をあらわす。
「そう邪険に言うな。俺様が何度も敗れながらも、何度も再起できたのは仲間との絆あってこそなのだからな。仲間との絆、それこそ俺様が大王たる所以だ」
さらに空間の裂け目が開く。
そこから出て来たのは、銀髪の、蜘蛛のような生物。
「頼むぞ、タランザ」
「別にあなたの部下じゃないのね。でもまぁそういう役割だし、ちゃんとやることはやるのね」
タランザと呼ばれた者は、糸のような光線をデデデ大王に当てる。
そして、タランザとデデデ大王の体が魔法的な糸で結びつく。
あの時、デデデ大王を操った秘術。
あの時は、精神も操っていたために、出力はそこまで出ていなかった。
しかし、今は違う。デデデ大王の意識はしっかり残っている。タランザはその力にブーストをかけてあげる事に集中すれば良い。
デデデ大王はタランザから投げ渡された巨大なハルバードを手に取ると、まるで羽を振り回すかのように一振りする。
「さぁ、大王の戦いを見るが良い」
●○●○●
藍とメタナイトは、互いにボロボロの状態で向き合っていた。
藍の腹部には血糊がべったりとついている。妖怪の身体のタフさや急所から外れているだけあって致命傷にはなってはいないが、その傷は決して小さなものではない。
対するメタナイトは表面上は無傷に見える。しかしそれはあくまで表面上の話であり、藍の力によって生命力は削れている。
つまりは、両者共に満身創痍の状態。
切り札を共に切った結果である。
「……ふん、耐えるか」
「そちらこそ。なかなかしぶとい」
「諦めが悪い。……私は、紫様のためにも、ひいては幻想郷のためにも、引くわけにはいかないの」
「それは私とて同じだ。私も故郷の者のために戦っているのだ。……八雲藍殿、貴女は知っているのだろう?」
「……」
メタナイトの問いかけに、藍は黙る。
しかし沈黙こそが、何よりの肯定であった。
「私達の住まう世界は“ゲーム”だ。人が作り上げた空想に過ぎない。人が“ゲーム”に飽きる時が来れば、我々は消えてしまうのだろう。そういう、砂上の楼閣のような、脆い存在だ。……我々は、それに気がついてしまった。我々は、いつかくるかもしれない不安から、いつしか眠れない夜を送ることになった。だから、ここに来たのだ」
メタナイトは強い視線を藍へ投げかけた。
「幻想郷という、同じ“ゲーム”の世界でありながら、人の世界から独立した、この世界に」
メタナイトらの目的。
それは、自分たちの世界を“虚構”から“現実”へ変える事。
その為に、唯一“虚構”から“現実”……というより、その中間、“幻想”への変化を成し遂げたこの幻想郷へ、その方法を探りにくる事だった。
「幻想郷は現実になった事により、はるか昔から存在していた“事になった”。ゲームができるはるか一千年以上前、幻想郷が生まれた“事になった”。確かに、人の世界との繋がりが切れたわけではない。人の世界で新たに幻想郷の物語が描かれれば……例えば月の都について描かれれば、幻想郷に追加される。しかしそれもはるか昔、何十億年も昔から“あった事”に、現実も、記憶も、改変される形で追加される。例え新たに物語が描かれなくとも、幻想郷は存在し続ける。……我々の理想の形で、存続できる」
「……全て知っていたか。いや、知っていたからこそ、ここまで……」
藍の顔には、どこか諦念があった。
メタナイトはなお語気を強くする。
「だからこそ、願いを叶えるアイテム……スターロッドと夢の泉が、半ば“現実”と化したこの幻想郷にもあると知った時、我々はそれを求めたのだ。それこそが我々の願いを叶えると。しかし、残念ながら、スターロッドと夢の泉は我々由来、つまりは“虚構”のものでしかない事が判明してしまった。……どうやった? どうやって現実を変えた?」
「貴方方には無理です。現実を改変する力の無い方には、無理な事です」
「……何が言いたい?」
藍は、言うべきか、しばらく迷った。
しかし、やがてその口は開かれる。
「……紫様が……“虚構”と“現実”の境界を弄ったのです。“虚構”の存在でしかなかった私達は、“虚構”から中途半端な“幻想”の状態に持っていくことしか出来ませんでしたが、それでも、私達にとっては十分でした……」
「つまりは……八雲紫殿の力がなければ無理だと?」
「そう言うことです。個人としては、貴方方に同情しなくもありません。しかし……それは出来ません」
「そうか……そうだな。だが……」
全てを聴き終えたメタナイトの目には、危険なものが宿った。
それを藍は鋭敏に察知したが、遅かった。
「カービィ、八雲紫殿の力をコピーしろ!」
取り出した無線機で、メタナイトは指示を飛ばした。
藍は己の過ちを痛感した。
あまりにも迂闊だった。
「……すまんな。私は騎士ではあるが……元は反逆者だ。どこまでも、姑息な手は使うさ。さぁ、そろそろ大詰めだ!」
●○●○●
「くっそ、どうなってやがる! なんで紫はこうも邪魔をするんだ!?」
霊夢を乗せて高速で飛ぶ魔理沙は、苛立ちのままに愚痴を零す。
ずっとカービィと共にいたのだ。カービィ達の肩を持つのもわかる。
だが、この場に常に中立を守り続ける霊夢がいたのは、幸運だったかもしれない。
「なんであいつらは、そんなにスターロッドに執着するわけ?」
「……願いを叶えるアイテムと言ってたな。でもあれじゃ願いは叶えられないって、メタナイトが言ってたぞ?」
「つまりはあいつらには叶えたい願いがある、と……」
そう呟くと、霊夢は黙り込んだ。
何かがおかしい。霊夢はそう感じていた。
彼らの執着っぷりは異常にも見えた。魔理沙の話では、月の都を強襲してまで奪い取ったと言う。
まるで、何かに操られているようでは無いか?
「……操る、か……」
「どうした?」
「……もし、あいつらを操るモノがいたとした場合、それはどこまでの範囲を操っているのかしら?」
「何が言いたい?」
「スターロッドが今まで見つかった場所を思い出して見なさい」
そう言われ、魔理沙は必死に思い出す。
一つ目は紅魔館の中。
二つ目は冥界の西行妖の枝の中。
三つ目はドロッチェ団が。
四つ目は霊烏路空のリボンの中。
五つ目は暴走する非想天則の中。
六つ目は月の都にある夢の泉の上。
七つ目は紫の手中。
「おかしくない?」
「どこがだ?」
「なんでどのスターロッドも、“誰かに喧嘩を売って奪わなくちゃいけないような場所にしかないのよ”」
瞬間、魔理沙の背筋に電流が走ったかのようだった。
確かに、願いを叶えると言う破格なアイテムであり、求めるものが多いとはいえ、あまりにも誰かに奪われ過ぎている。
もしくは、なんでそんなところにあるのか、と言いたくなるような場所にあるものもある。
「特に四つ目。なんであのカラスのリボンに刺さっているのよ」
「確かに……誰かが刺さない限り、無理だよな……」
「問題は誰が刺したってことよね。あいつが地下間欠泉センターにいることを知っている奴か……」
「私達と、後は怨霊の異変の時に同行した奴か?」
「いや、そいつらは詳しい位置は知らないはず」
「とすると……まぁ、地霊殿の奴らじゃないよな。どちらかと言うと被害者だし。なら河童か?」
「そっちも五つ目の件では被害者ね。まぁ、もっと入り組んだ陰謀があるなら別だけど」
「なら施工主の守矢か?」
「……ありそうだけどね。操ってる奴らはカービィ達に敵意を持ってる。あわよくば殺そうとも考えてるでしょうね。とすると初っ端に鼻をへし折られた守矢の連中は山の大義名分とか言って色々裏で工作してそうだけど……でも、カラスにスターロッドを差し込んだのならば、一度は自分の手元にスターロッドがあったはず。ならカラスに使うよりも、自分の強化に使った方が良いはず。別に正面からぶつかったって、山の中ではカービィを嫌悪するものも多いから、むしろ山の中での守矢の評価はあの厄神様を除いて上がるはず……難しいわね」
「他に間欠泉センターについて知っている奴はいたか?」
「知っていたとしても、ちゃんとあのカラスについて知っている者じゃないと、手痛い反撃にあっているはず。ちゃんとあいつについて知っている者じゃないと……」
「いるのか、そんな奴?」
しばらく二人は唸り続ける。
そしてふと、霊夢は呟いた。
「……ああ、一人、いたわね」