東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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タイトル決めるのいつも難儀するんですよね……



守矢の神と厄神様と桃色玉

 高圧的態度が許される、圧倒的カリスマ。

 強者のみに許される、圧倒的覇気。

 まさに神としての姿を体現したような姿。

 

 普段の神奈子は決して、ここまで威圧的ではない。

 普段は人に対してもフランクな、まさに頼れる姉御といった人となりである。

 そんな神奈子が高圧的態度を取る時。それは神として本気を出した時だ。

 

 しかし、雛も退かない。

 鍵山雛もまた、神なのだ。

 己が威信にかけて、引くことは許されない。

 神とは人の上に立つ存在なのだ。

 神とは人の信仰によって成り立つ存在なのだ。

 だから、弱くてはならない。

 例え相手が格上の神だとしても、弱みを見せるわけにはならない。

 それが、神という存在なのだ。

 

 だから、御柱による突然の攻撃であっても、怯まない。

 カービィもすんでのところで躱しているのを確認すると、神奈子を見上げる形で睨む。

 相対する神奈子も、御柱の上からこちらを見下ろしている。

 

 まるで御柱の高さの分、格の違いが示されているかのようだ。

 雛はそういう錯覚を覚える。

 神奈子のこちらを見下ろす目は、まさに強者のみに許された、余裕が透けて見える。

 対して雛は……

 

(強がる弱い犬、ってところかしら?)

 

 雛は、自分の体が強張っているのを感じていた。

 それは自分が神奈子のプレッシャーに、カリスマに、圧倒されている何よりの証拠。

 

 しかし重ねて言おう。

 神は弱みを見せてはならない。

 神が背負うものは重いのだから。

 だから、意地でも引くわけにはいかない。

 いかなる相手でも傲慢に、高慢に。

 

「いきなり御柱を落としてくるなんて……守矢の神はなかなかいい礼儀をしているのね。」

「なんとでも言うがいい。私はそこの桃色に用があるのだ。」

 

 話を聞く気はないようだ。

 本気でカービィを敵視している。

 これは、非常に危険な状態だ。

 

 雛はカービィを隠すように前に立ち、そしてスペルカードを取り出す。

 

「争いごとはスペルカード、でしょ?」

「……悪いな。戯事に付き合う気は無い。気づいているとは思うが、私は本気だ。」

 

 一応提案してはみたが、やはりダメか。

 見せるだけ無駄になった宣言用スペルカードをしまい、ただ神奈子を睨む。

 

 そして漏れ出す、溜め込んだ『厄』。

 全ての災いの元となる、穢れたもの。

 人を守るために、雛が代わりに受けてきたものだ。

 

 神奈子はそれを一瞥すると、一つ鼻を鳴らす。

 

「神社でそんなものを撒き散らさないで欲しいんだがな。」

「なら、私の提案を受け入れれば良いのではなくて?」

「断る。」

 

 その言葉が皮切りになったのか。

 御柱が、一斉にこちらへ飛来してくる。

 対抗するは、雛の厄の塊。

 やがて神の威たる御柱と厄は、両者の中点で衝突する。

 厄は四散し、御柱は弾かれ錐揉みしながら地面に突き立つ。

 

「ぽょ……」

「大丈夫よ、カービィ。問題ないから。」

 

 不安そうな声を上げるカービィを、振り向かずに宥める雛。

 その様子に、神奈子は疑問の声を上げる。

 

「なぜだ。なぜ、お前はその桃色を庇う?」

「私は厄を代わりに受ける流し雛よ? 子供を守るのは当然。」

「それが、幻想郷を危機に陥れるとしてもか?」

「この子がそんなことをするように見える? あなたも感じるでしょう? この子が纏うは『正』の気を。」

「もちろんだとも。だが、その『正』は誰にとっての『正』だ? それは幻想郷にとっての『正』なのか? ……それがわからぬ以上、大結界をいとも容易く破る存在を、認めるわけにはいかん。」

 

 彼女は幻想郷を愛している。

 元はと言えば、信仰の薄くなった外の世界よりも信仰を得られるのではないかと言う賭けでここに来た。

 だが今では、大変この地を気に入っている。

 願わくば、この幸福を永遠に。

 その為には手段は選ばない。

 彼女にだって、守るべきものがあるのだ。

 だからこそ、不確定要素は排除したかった。

 

 御柱が再び現れる。

 対抗して、雛の厄が再び湧き上がる。

 先程と同じような光景。

 しかし、ただ一つ、違う箇所があった。

 それは量。

 先程とは比べ物にならないほどの御柱と厄が、空中を埋め尽くしていた。

 

 そして、再び両者は衝突する。

 

 土煙がもうもうと巻き上がる中、なおも御柱と厄が飛び交う。

 全てを衝突させてなお、攻撃を加えているのだ。

 土煙で互いの姿が見えなくなっているのにも関わらず、である。

 

 その膠着状態の中、最初に動いたのは神奈子だった。

 

「行け!」

 

 なんとでも捉えられる号令がなされる。

 そしてその瞬間、地面から何かが飛び出した。

 

「呼ばれて飛び出て、いでよミジャグジ様!」

 

 土をはねのけ現れたのは、カエルのような帽子を被った、金髪の少女。

 

 守矢神社には、二柱の神がいる。

 守矢神社が幻想郷に来た当初、こんな噂が流れていた。

 長い間隠れていた存在。

 それが、かの異変にて霊夢達の前に現れて以来、再びその力を行使する時が来たのだ。

 

 名を洩矢諏訪子。太古に八坂神奈子と覇権を争い、敗れた土着の神なり。

 

 諏訪子に付き従うのは、人間なぞ一飲みにできそうなほどの石の大蛇。

 しかし蟒蛇などの低級な妖怪ではない。これこそ諏訪子の従える土着の祟り神、ミジャグジ様、その化身である。

 

「二柱……予想はしていたけどっ!」

 

 大口を開け、雛を飲み込まんとするミジャグジに、厄の塊をぶつけ軌道を大きくそらす。

 叩きつけるように当てられた厄の塊により、ミジャグジの頭は大地にめり込む。

 

 だがその瞬間、雛の見る景色が横に流れた。

 そして感じる、腕と脇腹の痛み。

 

 なんと言うことはない。ミジャグジがその長大な体を生かし、頭を視点に尾を振り回したのだ。

 しかもその尾の先には、殺傷能力を増すためか、巨大な岩石塊が付いている。

 舶来ものの武器でいうなれば、モーニングスターに近い。

 そんなものをもろに受けた雛は、神といえど無傷とはいかない。

 腕には大きな傷がつき、そこから血の代わりに厄と神力が漏れ出している。

 衝撃は頭にも伝わったか、視界も回っている。

 

 だが、倒れない。

 倒れるわけにはいかない。

 神として、守るべきものがいる。

 ならば神の威にかけて、倒れるわけにはいかない。

 

 しかし、御柱は雛に向け、無慈悲に飛んでくる。

 手負いの雛は、先程と比べて目に見えて動きが鈍くなっている。

 厄によって迎撃はしているが、完璧とは言い難い。いくつか抜けていているものもある。

 

 そして頭への衝撃は体力だけでなく、集中力も削っていた。

 

 雛は御柱とミジャグジの攻撃に精一杯なあまり、背後から飛来するものに気がつかなかった。

 

 それは諏訪子が投じたもの。

 それは回転し、物理法則を凌駕した軌道を持って、背後から雛に襲いかかった。

 それは洩矢の鉄の輪。

 諏訪子の神の力によって研ぎ澄まされた鉄の輪である。

 それが当たる直前になって、ようやく雛は存在に気がつく。

 しかし、時すでに遅し。

 鉄の輪はすでに目の前に迫り……

 

 ヒュゴォ、という空気の鳴る音とともに、軌道を大きく変えた。

 その先に待ち構えるは、大口を開けたカービィ。

 そしてその鉄の輪を、何の躊躇いなく飲み込んだ。

 

 その瞬間だけ、時が止まったかのようだった。

 周囲が唖然とする中、カービィに淡い光が集まる。

 そしてそれが晴れた時、そこにいたのは……舶来の道化の顔を模した帽子を被るカービィの姿だった。




雛と神奈子がアツイバトル開始。
何せこれはカービィの二次創作でもあり、東方の二次創作でもありますからね!
そして次にコピーしたのは『サーカス』です。
「え? カッターじゃないの?」と思った方。私も当初はカッターで行く気でした。
でも何気なく調べてみると、あれは諏訪子様曰く『フラフープ』らしいのです。
調べてみるものですねー。

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