東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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現実的な夢と桃色玉

 魔理沙に捕獲されたワドルディはジッタバッタと暴れ、その拍子に藁がパラパラと落ちる。

 相方のワドルディも魔理沙の足元で右往左往している。

 

 この慌てよう、何か隠している。

 

 魔理沙は直感的にそう判断し、捕まえたワドルディの顔をぐいと近づける。

 そして、目を睨みながら問い詰めた。

 

「ワドルディ、たしかお前たちはプププランドに帰ったよな? なぜ、また幻想郷にいるんだ? カービィもいるのか? どうなんだ?」

「……」

「……」

 

 魔理沙の鬼気迫る気迫に押され、ワドルディ二人はブンブンと頭を縦に振る。

 

 カービィがいる。

 懐かしい友の、カービィが帰ってきた。

 その事実は魔理沙の体を熱くし、心臓の鼓動を激しくさせた。

 が、魔理沙は熱い息を一つ吐き、ワドルディに“お願い”をした。

 

「もちろん、連れて行ってくれるよな?」

「……」

「……」

 

 魔理沙の顔は笑顔であった。

 しかしそれは口角を上げただけの、般若面と同じ顔であり、有無を言わせない覇気がそこにあった。

 

 ワドルディはただ頭を縦に振る事しかできなかった。

 

 

●○●○●

 

 

 ツーマンセルのワドルディに案内されたのは、またも魔法の森。

 しかし、そこは以前ワドルディの集落があった場所からかなり離れた場所であり、それと同時にどの建造物からも遠い計算された場所であった。

 だが、それでもあの時初めてワドルディの集落に辿り着いた時の感覚が蘇る。

 

 突如として魔法の森は途切れ、整地された場所に踏み入る。

 

 その先にあるのは、以前と同じようにワドルディが視界一面に溢れる光景であった。

 

 えっちらおっちらと三人がかりで木材を運び、かと思えば小さな箱を頭上に掲げるようにして持ち上げ、バタバタと走っていくワドルディ。

 皆忙しそうにしているかと思えば、よくよく見れば半数ほどは高台や木陰や日向と思い思いの場所で眠っていたり、ただ空を眺めていたり、謎の言語で書かれた本を読んでいたりしている。

 

 あの時見た光景、そのままだ。

 

 だが、全てが全てあの時と同じではなかった。

 

 あの時と唯一違うもの。それは……建造物。

 一辺が何メートルもある直方体で見るからに頑丈そうな建物がいたるところに建ててあるのだ。

 その直方体のある一面には穴が開き、そこからは太い鉄の筒が伸びている。

 

 幻想郷という外から隔離された世界に住む魔理沙はこれの正体を知るはずもない。

 しかし、それでも本能、もしくは勘というものが魔理沙に直方体から放たれる危険な香りを伝えてくるのだ。

 

 それは、外の世界でトーチカと呼ばれるものだった。

 

 暴力の権化をなぜワドルディが作り上げているのか、それはわからない。

 しかし、また何かを始めようとしている、ということは誰の目にも明らかであった。

 

 魔理沙はそのトーチカの間を縫って通る度、近くのワドルディから手を振られたりする。

 どうやら彼らは魔理沙のことを覚えているようだ。

 その事実はなんとなく魔理沙をむず痒いような喜びを感じさせた。

 しかし、やはり時折運ばれてくる弾丸が、否応にもなく不安を掻き立てる。

 

 トーチカの森と化した魔法の森の一角。

 もし、誰か悪意を持って攻め入ることがあれば……数秒後には肉片も残らないであろう。

 その最硬の拠点、その中心に魔理沙はたどり着いた。

 それはひときわ巨大なトーチカ。

 高さは他のトーチカの1.5倍ほど。しかし横は四倍ほどもある。

 そしてその天辺は魔理沙の家のように、左右に開く仕掛けがあるように見えた。

 魔理沙の家ならば、開いた隙間から望遠鏡が伸びる。しかしこの巨大トーチカの場合、伸びてくるのは重厚な砲塔だろう。

 その破壊力は想像もつかない。

 

 二人の槍持ちのワドルディが守る入り口をと通り、天井の低い内部を進む。

 内部は戦術拠点だというのに明るく、かつ内装は派手でこそないものの、しっかりとした居住スペースとなっていた。

 

 そのトーチカ内部に心奪われていた時。

 

「ん? あれ、魔理沙?」

 

 低い場所から突如声をかけられる。

 その声、その姿はいまだに脳裏に焼き付いている。

 

「あ、バンダナの!」

「うん。おひさー。その様子だとバレたみたいだね」

 

 そう、唯一人の言葉を話せるワドルディだった。トレードマークの青いバンダナもしっかり被っている。

 

 懐かしい友人との再会。喜ばないはずがない。

 「久しぶりだな!」とバンダナのワドルディを持ち上げ、ギュムと抱きしめる。もはや魔理沙の耳に「わぷわぷ」という声なき悲鳴は届かない。

 やがて満足いくまで抱きしめたあと、心なしかぐったりしているワドルディに気になったことを一つ、尋ねる。

 その顔は既に再会を喜ぶものではなく、真剣そのものであった。

 

「ところで、なんでお前たちはここにいるんだ? っていうか、ここで何やっているんだ?」

「ケホケホ……うん、順を追って話すよ……」

 

 ひょいと魔理沙の腕から飛び降りたバンダナのワドルディは、いつのまにか現れた白衣を着た伊達眼鏡のワドルディ達といつの間にか用意されたホワイトボードの前に立つ。

 

「まず僕らはあの時、みんなポップスター、元の世界に帰った。それは幻想郷とポップスターが干渉しあい、“近づきすぎて”互いが潰れないようにするためだったよね」

 

 説明とともに、白衣の伊達眼鏡ワドルディがホワイトボードに空に浮かんでいるような山々とそこに立つ幾人かの人間(きっと幻想郷だろう)と、星型の天体とそこに立つ幾人かの一頭身(きっとポップスターだろう)を書き込み、その間に波線を引く。この波線が“距離”なのだろう。

 

「でも、ある時ポップスターの住人が夢を見ている間、夢の中で幻想郷にいる、という事があったんだ。しかも、夢の中で幻想郷にいる者同士が会うこともできる。これは単なる夢じゃなくて、眠っている間に自分たちの“影”みたいなものが幻想郷に行ってしまっている、ということがわかって、ポップスターで大事件になったんだ」

 

 ホワイトボードに書かれたのは、ポップスターの近くで眠る一頭身、そして幻想郷の近くで跳ね回る、眠る一頭身の靄のようなもの。

 

「つまりは……今ここにいるワドルディも、向こうでは眠っている、ってことか?」

「そういうこと。時間の流れもおかしくてね、向こうでは8時間眠っているのに、ここでは16時間活動できたり、丸一日幻想郷に行かなくて、ひさびさに行ってみたら、幻想郷の時間は進みも遅れもせず、ポップスターと同じように丸一日経っていたり……とかね」

「ん? ちょっと待て、眠っている時にこっちに来なかったり来たりすることができるのか?」

「あ、言い忘れてた。幻想郷に来れるのは、『あの時幻想郷に来たことがある者』のうち『幻想郷にプラスの感情を持つ者』で、『幻想郷に行きたいなー』なんて思いながら寝ると幻想郷に行けるし、『今日は嫌だなー』なんて思いながら寝ると、行かずに普通の夢を見れるんだ」

「まるで寺子屋みたいだな」

「いや、寺子屋は毎日行かなくちゃダメでしょ……」

 

 バンダナのワドルディのツッコミを無視して、魔理沙はさらに質問を続ける。

 

「それで、夢にまでみた幻想郷で何をやっているんだ?」

「最初は誰かの攻撃かと思ってね。だからポップスターでも、幻想郷でも、その誰かに対する攻撃手段を取ろうとして、こんな拠点を作ったんだ」

「なるほど……」

「それでこの拠点作りに協力してくれた人がいてね。魔理沙にも紹介しようと……あ、来た来た」

 

 おーい、とバンダナのワドルディは手招きする。

 やって来たのは、人間。そしてその腕にいたのは……カービィだった。

 

 あの日別れた親友。あの日ともに戦った戦友。

 彼との再会はなによりも喜ばしいことだった。

 歓喜に身が震えるのが自覚できる。

 そして同時に……そのカービィを抱く人物に、魔理沙は驚愕した。

 相手もまた、同じように驚愕したようだった。

 互いは、互いに、喘ぐようにその名を呼んだ。

 

「ま、魔理沙?」

「お前……菫子か!?」

「……ぽよ?」





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