東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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謝罪と桃色玉

「すまんかった」

「すみませんでした」

「ごめんなさい」

「すまー」

 

 特製の大砲を誤って撃ってしまった次の日、博麗神社の境内にて魔理沙、菫子、バンダナのワドルディ、そしてカービィが頭を下げる。

 その対象は霊夢、そして紫。

 

「全く、何でそんな危ないもん作るのよ。人里に落ちたらどうするつもりだったのよ」

「いやぁ、作り出した当初は眠っている間に幻想郷に来るっていうよくわかんない異常事態を引き起こした敵がいるんじゃないからと思っててさ。それで自衛のために作ったんだよね」

「で、同じようなことができる菫子と会ってからは?」

「多分そういう現象なんだろうなー、って理解して、そこから面白半分で作ってたよ」

「面白半分で物騒なもん作るんじゃないわよ!」

「あははー、ごめんね」

 

 頭をぽりぽりと掻きながら笑うバンダナのワドルディ。

 そのプププランドの住人特有の致命的な呑気さに、霊夢は処置無しと首を振る。

 

 そんな中、今まで扇子をゆらゆらと揺らし、黙り込んでいた紫が初めて口を開く。

 

「今回はお咎めなし。それにしても人里に着弾していたらどうするつもりだったのかしら?」

 

 紫が声をかけたのはバンダナのワドルディでも、魔理沙でも、菫子でも、ましてやカービィでもない。

 彼らの後ろにやはり無言で佇んでいたメタナイトであった。

 

「大変申し訳ない。もし人里に落ちていた場合……我々では埋め合わせをすることはできなかったであろう。安全装置を強固なものにし、砲塔の向きを人里の反対方向に固定しておこう」

「……ふぅ、そのくらいでいいでしょう」

 

 紫は扇子をピシャリと閉じる。

 その音は今までの話題を断ち切り区切りをつけるような音。

 いや、事実紫はそこで話題を転換した。

 それはもう、コロリと。紫の重苦しい雰囲気は一転し、コロコロと笑う無邪気で怪しいものに変わる。

 

「さてさて、それじゃあ再会を喜びまして、一献傾けちゃう?」

「怪しい」

「胡散臭い」

「嘘くさい」

「とてもこわい」

「……」

「ぷぃ?」

「あらひどい」

 

 『再会を祝した宴』を提案した紫に対して、各々が一言でバッサリ斬り捨てる。

 紫はひどくショックを受けたような顔をするが、仕方があるまい。普段の行いの自業自得である。面白半分で様々な事件事故に他人を巻き込むのは一体誰だったか。しかも、そのショックを受けたような表情も一発で演技と見破られるようなもの。弁護のしようがない。

 そもそも、紫はカービィらに特に強く敵対していた者の一人ではなかったか。そんな彼女がカービィとの再会を祝した宴を提案するなど、どんな風の吹き回しか。

 

 紫はそういう思考を表情から読み取ったのだろう。やれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「今では私の心配するような事態は起こりえない。ならば敵対する必要なんてありはしない。そうじゃなくて?」

「まぁ、そうだが……」

「他ならぬあんたのことだから何考えているかわからないのよね」

 

 言葉を濁す魔理沙に対し、霊夢は恐れ知らずにもズバリと言い切った。

 それを聞いた紫は「まあ!」と芝居掛かった様子で驚き、妖艶な雰囲気を醸し出し始める。

 

「霊夢ったら酷いわ。ゆかりん泣いちゃうわよ?」

「やめろ」

「許してくれるわよねぇ、カービィ?」

「……うぃ!」

「ほーら、良いって言ってるじゃない」

「カービィの優しさにつけ込んだねー」

「間違いないぜ」

「間違いないね」

「間違いないわね」

「カ〜ビィ〜、四人がイケズする〜」

「うぃ……」

「うわ、カービィが引いてる」

「引いてるぜ」

「引いてるね」

「引いてるわね」

「あー……八雲殿、その辺で良いかな?」

 

 この場に居たたまれなくなったのであろうメタナイトが酷く疲れた声でなんとも形容しがたいこの状況に終止符を打つ。

 そして一つ、咳払いをする。

 

「まぁ、なんだ。整理すると今回は被害は確認できなかったのでお咎めなし。そして友好の印に宴を開く。それで良いかな?」

「どうなの紫」

「ええ、そんなところね。それじゃあ霊夢、宴の参加者を募ってくれるかしら?」

「いやよ面倒臭い。それに適当にやってれば適当に集まってくるわよ。今までもだいたいそうでしょ?」

「ま、それもそうね。でも久々の宴だもの。少しは多い方が……あら、丁度いい」

 

 宴の計画を軽く練っていた時、境内に飛来するものがあった。

 それは紅魔館の完璧で瀟洒なメイド、十六夜咲夜。彼女がいつものようにひらりと美しく舞い降りてきたのだ。

 ……ただ、彼女にしては珍しく、目の下にクマがあるように見える。纏う雰囲気も何故だか、こう、暗い。

 

「あら、丁度良かったわ。うちで宴会するから適当に人集めてちょうだい」

「分かりました。お嬢様に伝えておきましょう。それに今はお酒でも飲んでいないとやっていられない状態なので」

「お、珍しいな。飲んだくれメイドか? 『ぱわはら』か?」

「今回来たのは異変の兆候が見られたためです。……昨日紅魔館が何者かの攻撃を受け、半壊しました」

「あら、そうなの?」

「ははぁ、どうりで疲れているわけだ」

「幻想郷って家が半壊することってよくあるの?」

「どこぞの天人のせいで神社が潰れた事はあったわね」

「あれは思い出すのも忌々しいわぁ」

 

 霊夢達は人の家が半壊したというのに、一切心配する様子はない。

 まぁ、これが幻想郷のドライな感性なので仕方があるまい。

 

「で、その攻撃が異変だと言いたいの?」

「そういうことです」

「じゃあ今は紅魔館は雨晒しか……よし……」

「既にパチュリー様と私によって再建済みです。……もっとも、完全復元のために様々な資材や力を費やしましたが……」

「ちぇ」

 

 そのことを思い出したのか、咲夜はさらに疲れた雰囲気を強める。

 そんな彼女の発言に何か企んでいた魔理沙は舌打ちする。

 

 そんな中、後方では。

 

「……メタナイト様ー、紫さん、攻撃って……」

「ワドルディ、言いたいことはわかる」

「でも世の中には言わなくても良いことがあるのよ?」

「あっ……分かりましたー」

 

 なんらかの密約が交わされていた。

 

 

●○●○●

 

 

 かくして、宴会は開かれた。

 集まったのは、当然というべきか妖怪ばかり。

 元々妖怪しか寄り付かない神社なので仕方があるまい。信仰を狙った霊夢は残念そうであった。

 その宴会の名目は『ポップスターの住人との親睦』。内容はいつもと全く同じ、呑んだくれ、馬鹿騒ぎするだけの宴会。

 亡霊少女は飯を喰らい、山の神は威張り散らし、天狗は以前の復讐とばかりにシャッターを切り、吸血鬼は鬱憤を晴らすかのごとく暴れまくる。

 そんな中で、カービィは大量のご馳走に囲まれ、終始幸せの絶頂にあった。

 そしてその幸せに包まれたまま、その日は眠りについた。

 

 会場は笑顔に包まれていた。

 

 

 そう……“会場は”

 

 

「お、大皿三枚、空です!」

「嘘だろ!? 出して1分経ってないぞ!?」

「食料が! 食料が食い尽くされる!」

「魔理沙さんの親友でしょ!? 何とかしてよ!」

「あいつは……本気を出していなかっただけだったのか……これが……カービィの………本気!!」

「か、河童印の宅急便っ! ご注文の品だよ! ゼハー!」

「つ、追加で発注お願いします!」

「ひゅい!? またぁ!? 勘弁しておくれよぉぉぉ!!」

「あ……視界が……もう……だめみたいです……」

「妖夢が死んだ!」

「この人でなし! ……ああ半分人じゃないか」

「貴重な戦力が!」

「お、大皿、全滅です!」

「ぎゃああああああああああああああああ!!?」

 

 

 厨房は、終始地獄だったという。


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