東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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九尾と騎士

 二人の桃色の暴食権化が宴会場を制圧していた時。

 全く別の場所、目立つことのない場所にて、また新たな戦い……いや小競り合いが繰り広げられていた。

 

「おや……メタナイト殿か?」

「む? 八雲殿……いや、八雲藍殿か」

「藍で結構ですよ」

 

 宴会場から少し離れた博麗神社の縁側にて、あの日力をぶつけ合った二人が出会う。

 いつものようにマントに身を包み、ただ外を眺めているメタナイトに興味本位で尋ねる。

 

「宴会には参加しないので?」

「なに、私は静かな場所を好むだけだ。そういう藍殿は?」

「ちょっと夜風に当たりに来ただけですよ。ちょっと火照って来たので」

「……全くそうには見えないな。さすがは妖怪。アルコール耐性も人間離れしていると見える」

「鬼ほどではないですがね。ではお隣を失礼して」

 

 藍はメタナイトが佇む場所の隣に腰掛け、同じようにただぼうっと外を眺める。

 

 空に浮かぶは欠けた不完全な月。中秋の名月は過ぎてはいるが、その輝きはまだまだ美しさを保っている。

 その名月の名残惜しむかのように、枯れたススキがかさかさと乾いた擦れる音が鳴り、いくつものそれが重なり合い、一つのうねりとなってその場全体を揺らす。

 やがて頬を冷たい風が流れる。ススキを揺らし、名月を惜しむ風が。それは秋の深まりとともに冬の匂いも少しだけ、感じられた。

 そして縁側という外と内の境界線とも言える場所にいるために、月光が照らし揺れるススキの作り出す舞台の中にいるようでありながら、同時に離れたところからそれを鑑賞するかのような、そんなどっちつかずで神秘的な感覚が全身を駆け上がる。

 それは、精神を包み込んで浮かぶような、そんな感覚。

 つまりは、雰囲気に酔いしれてしまうのだ。

 

 十分に雰囲気というアルコールが回って来た二人は、普段はしない懐古的な考えに浸り出す。

 

「……いやはや、幻想郷の月は我々のものと違い、しっかりと自分の居場所を定めているのだな」

「幻想郷の月もそういいものではないですよ。向こうには人を滅ぼすのが好きな月人が巣食っているのですから。一度行ったことがありますが、大変でしたよ?」

「違いない。しかし遠くから眺める分には素晴らしいじゃないか。ポップスターの月もこうあってほしいものだ」

「どんな月なのです?」

「空から降りて来てビームを放ったり、太陽と昼夜の覇権を争って昼夜の時間をめちゃくちゃにしたり、とかな」

「ええ……幻想郷以上に非常識な動きをしますね」

「私もここに来て驚いてしまったよ。月とはこうも動かないものかと」

 

 自分の世界の月を貶し合うという、これまた奇妙な話で盛り上がる。

 そしてやがて、本物のアルコールと雰囲気という名のアルコールが本格的に回り出した。

 

 それが、大体の元凶である。

 

「基本的に幻想郷は平和で変化が乏しいですからね」

「ああ、良いことだ」

「あれ、でもメタナイトさん」

「なんだね?」

「『堕落しきったプププランドを支配する』なんて事、言ってませんでしたっけ?」

「ゴフッ!?」

 

 笑顔で、それとなく、自然に吐き出した言葉。

 それは事実であり、かつてメタナイトはプププランドを征服しようとしていた。

 ちょっとだけ、困らせてやろうというお茶目な悪戯っ気でそんな軽口を言ったのだろう。

 

 しかし、本人にとってそれは軽口では済まされない。

 今も盛大にむせている。別に何かを食べていた最中でもないのに。

 しばらくの間咳き込み続け、やっと落ち着いた時、メタナイトの声は平静を装いながらも若干震えていた。

 

「藍殿……何故それを知っているのかね……?」

「紫様は外の世界へも自由に足を運ぶことができます。なのであなた方がここに来た際、『星のカービィ』シリーズを集めて情報を集めていました。その時私も御一緒させてもらったのです」

「ああ、なるほど……」

 

 目に見えて取り乱したメタナイト。

 その姿には新鮮さとおかしさがあった。

 だからこそ、酔った藍はますます気分が良くなる。

 だからこそ、藍の悪ノリは加速する。

 藍は更に口撃を追加する。

 

「あと、洗脳されたのは何回ありましたっけ?」

「ゲッホ、ゲホッ!」

「黒いモヤみたいなものに乗っ取られたり、毛糸になって乗っ取られたり、はたまた機械に乗っ取られたり……忙しいですね」

「……藍殿、勘弁願いたく……」

「その上で、そ・の・う・え・で! 銀河最強の戦士と戦わせてくれって! 相手が精神攻撃して来たらどうするつもりだったんですか!」

 

 そして大爆笑。

 酔いで色々おかしくなっているのもあるだろうが、アルコールで若干『九尾の狐』という三大悪妖怪としての忘れていた本性が若干漏れ出ているのだろう。

 怖いものなぞなかったあの時代。

 全てを手玉に取った栄華の時の感覚も戻ってくる。

 ……が、その栄華の時代の存在こそが命取りだった。

 

 ここまで貶されて気分が良いのはマゾヒストなどのごく一部の例外のみくらいだ。メタナイトは当然その一部には入らない。

 するとこれまたごくごく当然のことに、キレることだろう。

 

 仮面の奥の目に異様な光に気づいていれば、ああはならなかったのに。

 だがそれに気づかなかったのも、全ては酔った藍のせいなのだろう。

 体の熱を吐き出すような吐息とともに、メタナイトは言葉を紡ぐ。

 

「そうだな。あの頃は私も未熟だったということだ。一千年以上前の藍殿のようにな」

「ゲッホ!」

 

 それは、メタナイトによる反撃の狼煙であった。

 

「な、なんのことか……」

「人間に化け、古代中国の王の妃となったそうじゃないか」

「あ、ああ! そんなこともあったな! 影から大国を動かした、私の勲章だな!」

「が、その後捕まって処刑されかけ、処刑人を魅了するも特殊な鏡によって正体が露見、逃亡」

「ゲホッ、ゲッホ!」

「その後インドに渡りやはり王子の妃となるが、やっぱり露見。結果日本に飛んで上皇の妃となるが、結局露見。挙句には討伐隊から逃げまくり、結果追い詰められ……」

「そ、それ以上は……」

「討伐隊の武士の夢に若い娘の姿で現れて許しを乞うが、無視されて射られ、斬られ、殺生石となったと」

「うわあああぁぁぁぁ……」

 

 頭を抱え、ブンブンと左右に振る藍。

 どうやら相当なトラウマ、もしくは思い出したくもない過去になっているようだ。

 

「ま、若い者がお盛んなのは仕方があるまい。その結果軽率な行動を取ってしまうのもまた仕方があるまい」

「……たか」

「……ん?

「私を……当時ですでに数百の時を生きた私を、若いと罵りましたか!」

 

 追撃とばかりにはなったメタナイトの口撃。

 それについに藍は激昂した。

 ……というより、もう精神状態がグチャグチャで正しい判断もできなくなっているのだろう。

 妖怪は肉体こそ人間より強いが、精神は人間よりも弱い。

 そのセオリーが、まさか八雲藍という大妖怪にも当てはまるとは。

 

「八雲藍の名を傷つけられたこの報い、必ずや償ってもらいましょう!」

「こちらこそ! メタナイトという騎士の誉れを汚した報いを贖え!」

 

 かくして、桃色二人の暴食騒動の裏で、ひっそりと大乱闘が行われた。

 翌日、しれっと壊滅させられた神社の一角が霊夢の目に留まり、膝から崩れ落ちる羽目になるのだが……それはまた別のお話。




結局、ふざけて互いの黒歴史発表したらリアルファイトに発展しただけ
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