東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
幻想郷なので珍しく和風です。
宴会の翌日、宴会の余波により、何者かによって吹き飛んだ博麗神社の修復に紫らが当たっていた。
大方、酔っ払った力の強い妖怪がやらかしたのだろう、とのこと。
霊夢は必ず退治してやると息巻き、まぁ頑張ってくださいと声をかける藍の目は泳ぎ、なぜか居るメタナイトは終始無言であり、紫はなんとも言えない表情で修復を行なっていた。
そんな微妙な空気が流れる中に魔理沙は鈍感にも降り立った。
厨房の破壊者……もといカービィを連れて。
「よう霊夢! 大変そうだな!」
「ぽよ!」
「だと思うならちょっとは手伝ってくれないかしら。うちの食材食いつぶした罰としても」
「やなこったい」
「こいつ……」
「そんなことより紫知らないか、紫」
「あんたの後ろにいるじゃない」
「お呼びかしら、魔理沙」
「うぉっ!? いきなり後ろに現れるなよ……」
振り向けばそこには、ついさっきまで角材をスキマから引き出していた紫がいつのまにか魔理沙の後ろに浮いていたのだ。
紫の能力を鑑みればなるほどそういうこともできそうである。が、動機は不純も不純。確実にただ驚かせたかっただけに他ならない。
「それで、何か用? 魔理沙が私に頼るなんて珍しいわね。聞いてあげるくらいはしても良いわよ?」
「聞くだけかよ。まぁ、あれだ。カービィに幻想郷を見せてやりたくてな。人里に連れて行きたいんだよ」
「あら、ダメよ? カービィは人間から見たらどう見ても妖怪だもの。人間の領域に人外を連れ込むのはご法度。わかるでしょ?」
「の割には化け狸を人里で見かけるが……まぁいい。その答えは予想通りだ。それで相談なんだが……透明化の薬とか持ってないか?」
「持ってないわよ。それは永遠亭案件でしょう?」
「……まぁ、そうだよなぁ。…………邪魔したな」
一言それだけ言うと、魔理沙は再び箒に跨り、空の彼方へと消えていった。
一陣の風の如く現れては去っていった魔理沙の背を眺めながら、霊夢は紫を問い詰める。
「あんたの事だし、透明化の薬くらい持ってたでしょ」
「あら、買いかぶりすぎよ霊夢」
「じゃなくても、透明化させるくらいの術くらいは持ってるでしょ? ……永遠亭に何かあるわけ?」
「ふふ、どうかしら。でも……その方が面白い気がしたのよ」
「そう」
「楽しみだわぁ。どうなるのかしらねぇ」
「……嫌な予感がした。すまないが私はカービィと魔理沙殿に着いて行く」
「あー、わかったわメタナイト。それじゃ紫、手を止めない。修復修復。スキマから覗いてる暇あったら手を動かして」
「ええ……んもぅ、妖怪使いが荒いんだから……」
●○●○●
「で、私に永遠亭までの道のりを案内しろ、と」
「そう言う事だ。頼む」
「ま、いいだろう。慧音、後は頼んだ」
「え、ええ……」
永遠亭は迷いの竹林の中にある。
その名の通り、無遠慮に入ればもう二度と出ることはできなくなるだろう。
だからこそ、永遠亭までの道のりを熟知している藤原妹紅に案内を頼んだのだ。
妹紅本人は友人である慧音が教鞭を振るう寺子屋ですぐ見つかった。
……が、少々様子がおかしい。
「……ところで妹紅、なんでそんなに距離が離れているんだ?」
「……」
なぜか妹紅は、魔理沙から十メートル近く離れた竹の影に隠れていた。そこから会話しようと言うのだから、声は届きにくいため、なんだか不審者と話しているような気分がする。
「おーい、妹紅」
「ちょ、来るな! それ以上近づくな!」
「どうしたんだ、あいつ」
「あー、それは多分……」
「忘れてないぞ! 私は忘れてないぞ! もう唐揚げになるのはごめんだからな!」
「あー……」
「ぷぃ?」
妹紅、唐揚げときて思い出されるのは、カービィの能力調査で竹林に訪れた時の事。
あとから『コック』と命名された能力により、妹紅は哀れカラっと揚がった唐揚げにされてしまったのだった。
蓬莱人だからその後復活したし、死にも慣れてはいるだろうが、流石に『調理されて死ぬ』という事には慣れてはいなかったようだ。
「大丈夫だって……今回は別に能力を試すわけでは……」
「だそうだぞ、妹紅。機嫌なおして出てくれたらどうだ?」
「わかってる! わかってるよ! だから近づくな!」
「……すまん、魔理沙、カービィ。これは相当みたいだ」
「あー、しょうがないな」
「ぷぅ??」
「妹紅、もうそれくらい離れてていいから案内してくれ!」
「ああ、任せておけ」
声だけは雄々しい、腰の引けまくった妹紅に連れられ、竹林をその足で歩く。
そして腰は引けているとはいえ、行き慣れている妹紅の案内により、すぐさま目の前に永遠亭が現れる。
と、すぐさま妹紅は永遠亭の扉を荒々しく開ける。
「出てこい輝夜! 今日こそ決着をつけてやる!」
そして礼儀もへったくれもないと言わんばかりに玄関で怒鳴り散らす。
その怒声は室内に響き渡り、誰かが驚いて何かをひっくり返す音などが奥から聞こえてくる。
「いらっしゃい、魔理沙と……カービィね? あと妹紅も来たのね?」
「ああ、折角だからな」
「ふふふ、いいわよ。準備はできているわ。さぁ、上がって頂戴。永琳、あなたにお客さんよ」
「はいはい姫様、ただ今」
現れたのは長く黒く艶やかな黒髪、一直線に切られた前髪、そして和装の、まさに日本の姫と表現するのがふさわしい少女。
その見た目に合わない艶かしさで魔理沙とカービィ、そして妹紅を招き入れる。
「妹紅はこっち。永琳はそこよ」
「ああ、ありがとな」
「ぽよ!」
「ええ、良くってよ。……さぁ、妹紅」
「おうとも」
永遠亭内を案内した輝夜は剣呑な雰囲気で妹紅と別の部屋に消えて行く。
残された魔理沙とカービィは示された襖を開けはなつ。
「ようヤブ医者! 透明化の薬が欲しいんだ!」
「こら魔理沙!」
「ヤブだろうがなんだろうが、診てあげるんだからもう少し敬意というものを持って欲しいわね」
「全くだ永琳殿」
「あれ、メタナイト、博麗神社にいなかったか?」
その襖の奥の部屋にいたのは、優曇華、永琳、そして先ほど博麗神社で見かけたメタナイトであった。
「ああ、心配になって追いかけていたんだが、どうも入れ違いになっていたようだな」
「迷いの竹林を抜けて来たのか?」
「一度来たことがあるのよ。あなたが爆発騒ぎで運ばれた時言わなかったかしら?」
「あ、なんか言ってた気がする。ま、そんなことはどうでもいいんだ。透明化の薬をくれ」
そして掌を上に、「クレクレ」と要求する。
当然ながら、永琳は首を振る。
「診察もせず、理由も聞かず、薬をくれと言われてポンと出す医者がどこにいますか」
「なんだよ、面倒だな」
「まぁ、メタナイトから理由は聞いています。人里にカービィを連れ出すために使うのでしょう?」
「ああ、そういうことだ。ってか聞いていたならさっきの説教は要らんだろ」
「それとこれとは別です。……そうですね、透明化の薬は切らしているんですよね」
「うげ、マジか」
「でも、それよりも適した薬がありますよ。お代は格安で構いません」
そう言って取り出したのは、ちょっと大きめな白い錠剤。
診ただけではなんの効果があるのか、さっぱりわからない。
メタナイトも話は聞いていないのか、仮面越しに不思議なものを見る雰囲気が伝わってくる。
「その効果はなんなんだ?」
「あ、その前に健康状態を診るのでカービィを貸してください」
「ああ。カービィ、大人しくな」
「ぽよ!」
「……ほうほう、こうやって間近で見ると珍妙ですね」
永琳は膝上にカービィを乗せ、まじまじと眺める。
するとおもむろにカービィの口を弄りだし……
「ていっ」
「ぷ!?」
「あ、おいっ!?」
その錠剤をねじ込んだ。
途端、ボフンと白い煙がカービィから噴出し、視界が遮られる。
「永琳! お前何のつもりだ!」
「薬を飲ませてみたのです」
「永琳殿、流石にその乱暴狼藉、許せませんぞ」
「まあまあ、大丈夫ですって。効果はばっちしです」
そのお気楽な声とともに、煙が晴れる。
そして、その目の前にはさっきまでなかったものがいた。
ぱっつんと切られた長い桃色の髪を持ち、星の柄が描かれた桃色の着物をきた幼子。それがいつの間にか永琳の膝の上に乗っていたのだ。
「……誰だこれ。カービィはどこへやった?」
「あら、わからないのです? この子こそがカービィですよ?」
永琳の意味不明な言葉。
しかしその言葉に膝の上の桃色の幼子は────
「ぽよ!」
────聞き慣れたカービィの声で返事をした。
『!?…………!!??!?!??!!!!??!?』
魔理沙とメタナイトは、ただ目を白黒させて絶句することしかできなかった。
むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
形があんなになっただけで中身は変わらない。喋らない。
性別? 知らんな