東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
今回の挿絵は完成度を楽しむものではないです。ネタを楽しむものです。
「説明を頼む」
「頭が割れそうだ……」
焦点の合ってない目で説明を求める二人に対し、永琳は膝の上で手をバタつかせはしゃぐ幼子……カービィの頭を撫でながらしゃあしゃあと述べる。
「人化の薬よ。効果は8時間。はっきり言って人の皮を被っただけみたいなものだから能力とか特性とかは変わらないわ。そこのところ注意して頂戴」
「なんでんなもん作ったんだよ」
「人に化けられないけど人間と関わりを持ちたい、っていう妖怪向けに作ったのよ」
「っていうのは建前で本音は?」
「興味本位で作って実験台を探してた」
「心が折れそうだ……」
よくもまぁそんなことを躊躇いもせず言えるものだ、と逆に感心する。
しかし飲まされてしまったものは仕方がない。永琳の行動も問題ではあるが、最重要の問題はそれではない。
「副作用とかはないんだろうな?」
「動物実験は済ませたから大丈夫なはずよ」
「それならいいんだがな……まあこれで見た目だけは人間にしか見えないし、人里にも堂々と連れだせそうだが……」
「不安だな。私は空から監視しておこう」
「ああ、頼むぜ」
「代金は後払いでいいわ。薬の感想も教えて頂戴ね」
「ああもうわかったよ!」
マッドドクターと化した永琳に適当に返事をし、魔理沙とメタナイト、そしてカービィは永遠亭を後にする。
なお、その際廊下から「はい、猪鹿蝶。私の勝ちね」とか「ちくしょー! また負けた!」とか聞こえたのだが……まさか輝夜と妹紅ではないだろう。彼女らは殺し合いをしているはずだ。まさか花札で和気藹々としているはずがない。
●○●○●
「いやはや、予想通り成功みたいね」
魔理沙とメタナイト、カービィがいなくなった診察室にて、永琳は独りごちる。
輝夜と妹紅は今頃殺し合いに飽きた結果ハマりだした室内ゲームで勝負しているだろうから、これからしばらくは永琳の休憩時間となる。
不死身の蓬莱人といえども、疲れは溜まる。
ぐいと腰を伸ばし、背筋のコリをとり、何気なく人化の薬が入ったケースに手を伸ばし……
「……あら? 数が足りないわね」
●○●○●
「おー」
「カービィ、ぼけっとしているとこけるぞ」
「うぃ」
人間の里。そこは妖怪だらけの幻想郷の中で唯一の人間の活動圏。
人間にとって唯一の安全地帯であり、生命線であるこの地を、魔理沙はちょっと不安げに、カービィは人の顔に素直な好奇心を浮かべて歩いていた。
今のカービィはどこからどう見ても5、6歳の幼子であり、到底人外には見えない。
しかし中身は全く変わってないので、人の姿になったからと言って流暢に人語が話せるようになるわけではない。
5歳くらいになれば、流石に会話はできるようになる。にもかかわらず話せなければ不審がられるかもしれない。
その為、カービィには『人見知り』の演技をしてもらうよう、頼んだのだ。
カービィの演技力がどの程度なのか全く未知数だが、最早賭けるしかあるまい。
「さて、どこへ行こうかな……」
「だんご!」
「え? ああ、茶屋か。いいぜ。ちょっと待っててくれ」
やはり人里に来ても、人の姿になっても、カービィはカービィらしい。とりあえず腹ごしらえを選んだようだ。
とりあえず6本の三色団子を買い与えると、両手に3本ずつ持ってモチモチと食べ始めた。
ポヨポヨとしか言わなかったり、食欲が異常なのを除けば、こうやってみると団子を食べているだけの幼子にしか見えない。
「さて、何処に行こうか……」
「んむー」
カービィが喜びそうな場所、と言われてもお食事処以外思いつかない。
果たして、カービィに趣味などあるのだろうか。
わかればそれに関する場所へ連れて行くのだが……
少し考え、考えに考え、勝手に動く足に任せて歩いたところ、ある建物の前に辿り着いた。
『鈴奈庵』。古本を扱う店である。
ここには本居小鈴という少女が店番をしており、その少女が厄介ごとを引き寄せるような人物な為、ちょくちょくお邪魔しているのだ。
その癖でここに来てしまったのだろうか。
もしかしたら、意外にも本とかを好んで読むのかもしれない。
「邪魔するぜー」
「むぃ」
暖簾をくぐり、鈴奈庵の中に入る。
と同時に、古本特有の香りが鼻腔をくすぐる。
目の前にいるのは鈴の髪飾りをつけた少女。そしてもう一人、見知った顔があった。
「あ、魔理沙さん、おひさです」
「あら魔理沙、あんたも来たの?」
「霊夢? 神社の修復はどうした?」
「紫がちゃっちゃと終わらせたわ」
そこにいたのは今朝会ったばかりの霊夢だった。なんと世界は狭いのだろうか。
「で、その……団子を昼前に6本も食べてる子は?」
「魔理沙さんの親戚?」
「あー、それはだな……ちょっと霊夢」
「なによ」
事情を知らない霊夢を本棚の陰に引き、単なる人里の人間である小鈴に聞こえないように事の顛末を話す。
当然、霊夢の反応は……
「はぁああああ!?」
「ど、どうしました!?」
「な、なんでもない! なんでもないぜ! ……声がデカイって」
「いや、だって、え?」
チラと霊夢はソファに座って団子を食べ終わり、近くの本を読みだした人型カービィを見やる。
霊夢の顔には「信じられない」と書いてあるが、どうあがいてもこれが事実である。
「まぁ、あの食べっぷりはカービィそのものだし……とにかく、ヘマしないでよね」
「わかってるって。おっと、すまんな小鈴」
「なんですかー、二人でヒソヒソ……」
「レディーには秘密の一つや二つはあるもんだぜ? んでなんで霊夢はここにいるんだ?」
疑いの目を向ける小鈴から目を逸らしつつ、強引に話を変える。
訝しげな視線は外れないが、怪しみつつも話を合わせてくれる。
「剣の名門の柳葉さんが剣の指南をし始めた、っていうのは知ってますよね?」
「ああ、知ってる知ってる」
「で、私も一日だけ行ってみたんですよ」
「小鈴が!?」
「……何かまずいことでも!」
「いや、別に」
「……それで、参加者全員にこの短刀を配られたんですよ。妖怪に襲われた時の護身用に、って」
そうやって見せてくれたのは、なんの変哲も無い小刀。懐にしまえそうなほどの小さなものだ。
「ふーん、気前いいな。それがどうしたんだ?」
「それで、私が何か仕掛けられて無いか調べに来たってわけ」
「結果は? 」
「異常なし。『妖怪に襲われた時の護身用』って聞いてたから、てっきり守矢が何か護符でも埋め込んだのかと思ったけど、そんなことなかったわ。単なる小刀よ」
「つまり霊夢は商売敵の威力偵察みたいなことをしてたわけか」
「そういうことよ。信仰がむこうに流れたら賽銭が減るのよ」
神聖な巫女がこうも金にがめつくていいのだろうか。
だが霊夢は知り合った時からこうだ。もうどうしようもない。
そう、内心首を振った時。
「……! 魔力反応!?」
「感じるわ……この部屋から強い力を!」
「え、なになになんですかいきなり!」
常人であり、魔法を学んでいるわけでもない小鈴には感知できないだろうが、魔理沙と霊夢は突如として周囲から強い力の奔流を感じとった。
鈴奈庵には妖魔本……わかりやすく言えば魔導書のようなものがいくつもある。
そしてそれを小鈴は蒐集し、騒動を起こすために霊夢達にマークされていた。
そしてこの感覚は、妖魔本が起こすものと、よく似ていた。
そしてすぐさま、その発生源を特定した。
カービィの読んでいる本が、発光しているのだ。
しかも、みるみるうちに光は膨張し、今にも光がはち切れんばかりになっている。
「カービィ!」
「ぽよ?」
魔理沙はその本をひったくり、とっさに店の外に放り出した。
高く、高く、なるべく空高く、投げ出された本はついに臨界を迎え……
『
本から青年のような声を幻聴した瞬間、ドウ、と極大の流星のごとき矢が放たれ、彼方へと消えて行った。
おそらくは、『お手軽に大魔法を発動できる魔導書』か何かだったのだろう。そしてそれを、誤ってカービィは発動させてしまったのだろう。
あわわと慌てる小鈴をよそに、霊夢はその本を拾い上げる。
「小鈴」
「は、はい」
「これも封印ね」
「そんなぁ!」
至極真っ当な判断である。
「魔理沙さんも何か言ってくださいよ! 魔法使いならわかるでしょ! この本がどれだけ貴重か!」
「そ、そうだな! それじゃ!」
「逃げたぁ!」
結局、カービィがただ大魔法を発現させてしまっただけで、魔理沙はその場から逃げるようにして去っていった。
カービィの趣味も当然見つけることもできなかったのだ。
●○●○●
かの矢は、戦争を終わらせる矢。
国境を作り上げた大英雄の矢。
大英雄の矢は、その高潔な精神により、過たず邪なるものを射抜いたであろう。
しかし、ついさっき放たれたその矢は、魔法という小さな枠組みにとらわれてしまった。
故に、その矢に高潔さはない。ただ単なる破壊の矢でしかない。
高潔さを失った力は、それは単なる破壊であり、悪でしかない。
放たれた矢は、それを我々に如実に教えてくれた。
紅魔館は爆発した。
レミリア「もうやだ(血涙)」
紅魔館描くの辛い……あと描いててほんの少し心が痛んだ。
もう紅魔館は描かない(宣言)