東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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人里と桃色玉 其の三

 大魔法を発現させた鈴奈庵からそそくさと逃げてきた魔理沙とカービィ。

 やはり、カービィはまだまだ子供のようで、目を離すと何をするか予想できない。

 しかも、その規模もまた半端なものではない。

 だから目を離さないようにしないと────

 

「……って、早速いないじゃないか!」

 

 ついさっきまで手をしっかりと握っていたはずなのに、いつのまにか忽然と姿を消している。

 カービィには謎のステルス機能でも付いているのかと思いたくなるほど、華麗にいなくなっている。

 

『魔理沙殿! 魔理沙殿!』

「ん? この声は……メタナイトか?」

『そうだ』

 

 軽く狼狽していた時、どこからかメタナイトの声が聞こえてくる。

 メタナイトは現在遥か高空を飛んでいるはずなので、普通に声が届くはずがない。なんらかの手段を使っているのだろう。

 

「メタナイト、カービィがいなくなったんだが、そこからわかるか?」

『私もそれを言おうとしたところだ。少し引き返した通りにある空き地だ! そこにいる!』

「おう!」

 

 メタナイトの指示に従い、魔理沙は来た道を引き返す。

 メタナイトの言う空き地とは、しばしば人里で行われる祭りなどの会場となる、なかなか広い場所だったはず。普段は子供達の遊び場として解放されていた。

 その子供達に興味を持ったのだろうか?

 いや、違う。さっき通った時、何か催し物をしていたはずだ。

 見た目が質素で賑やかさはなかった為素通りしたのだが……果たしてなんの催し物だったのだろうか?

 

 魔理沙は広場へと到着した。

 いつのまにか人がざわざわと喧騒を立てながら集まっていた。

 その奥にはさっきも見た質素なステージ。その上に置かれた長机といくつかの椅子。

 長机には何名かの人が座っており、どれも恰幅が良さそうに見える。

 そしてその中にしれっと人型カービィが混じっているのだ。

 

 その頭上に張られた横断幕にはこう書かれてある。

 

 

『第26回 人里大食い選手権』

 

 

 なるほど、たしかに地味な催し物だ。

 だが、カービィにとってはどストライクな催し物だ。

 

 止めよう。そう思ってステージに駆け寄ろうとしたが、人の波に揉みくちゃにされて動けない。

 というか、見に来ている人も皆心なしか平均よりデカい気がする。デブの祭典なのかここは。

 

 そして無情にも、司会者がカービィを紹介し始める。

 

「そしてそして、可愛い最後の参加者を紹介いたします! 突如現れ席にしがみついた寡黙で明るく、勇猛果敢な挑戦者! 第11番、可愛美衣(かあびい)!」

「はぁい!」

「それでは第一回戦、乙組の挑戦! 五……いえ、六人のうち上位2名が決勝戦進出となります! 食べていただくのは甲組とおなじ、稲荷寿司です!」

 

 そして運ばれるのはこんもり盛られた稲荷寿司。一つ一つが大きいように見える。

 

「この10個の稲荷寿司をより早く食べきる、もしくはより多く食べた者を上位とします! では、心の準備はよろしいですかな? ……それでは……始め!!」

 

 審判員と思われる者が旗を上げる。

 途端、凄まじい勢いで稲荷寿司が巨漢共の胃袋へと消えてゆく。

 通常サイズよりも一回り大きく、一口では食えないそれを、削るように胃の腑へと収めてゆくのだ。

 

 なるほど、この業界では力のある者たちが集まっているのだろう。

 それは大食いという狭い領域ではあるが、たしかに人間の限界を超えようとする光景であった。

 

 だが、所詮人間は人間なのだ。

 

「な、なんだ、これは! 何が起こっているというのだ!?」

 

 饒舌な司会者も、もはや例える言葉を失っている。

 観客たちも最早固唾を飲んでそれを見守っている。

 視線の先にいるのは桃色の髪、桃色の着物を着た、5、6歳の幼子。

 しかし、その幼子はその皿を持ち上げ、まるて盃の酒を飲むかのように傾けたのだ。

 そしてその幼子の一口よりも遥かに大きな稲荷寿司を、スープの如く飲みだしたのだ。

 そのペースは体重では何倍も勝る他の巨漢を遥かにしのぐもの。

 

 大きな稲荷寿司10個制覇にかかった時間、なんと3秒。

 

 偉業を成し遂げた幼子は苦しそうなそぶりも見せず、笑ってみせる。

 そう、カービィである。

 

「い、一位決着! 一位はなんと、なんとなんと! 可愛美衣です!」

 

 司会者の実況にようやく我を取り戻したのだろう。観客たちがどうと声を上げる。

 しばし遅れて二位も決着し、選手の体調を気遣った1時間の休憩が入る。

 

 その時を見計らい、魔理沙は待機している舞台裏へと向かう。

 幸い、舞台裏に人は少ない。

 魔理沙は舞台裏に向けて駆けだし……

 

「うおっと!」

「……」

 

 誰かと当たりそうになる。

 かなり小さい。人に化けたカービィくらいの大きさ。

 しかし、その姿を見て愕然とした。

 灰色の髪、星の髪飾り、星が描かれた灰色の着物、あどけない顔。

 それは、人に化けたカービィと瓜二つであった。

 だが、雰囲気が違う。カービィのようにニコリとも笑わず、ふっと何処かへと消えていったのだ。

 

 追おうとも一瞬考えたが、結局カービィを優先させることにした。

 そこにはやはり、カービィが外に置かれた控え席で足を揺らして待機していた。

 しかも、周りの大人に笑顔を振りまいている。

 

「カービィ!」

「っ! まぃさ!」

「あ、保護……いやお姉さんで?」

「あー……まぁそんなところだ。ちょっと席を外すぜ」

「どうぞどうぞ」

 

 カービィを連れ出し、人目のつかない場所へと身を隠す。

 しばらく人が往来しないことを確認し、カービィの顔をみる。

 

 何か察したらしい。酷くシュンとしている。

 

「だめだろ、勝手にどっかいっちゃ」

「うい……」

「お前はちょっと独走癖があるな。もっと周りをよく見なくちゃな」

「うぅ……」

「……はぁ、まぁいい。もう参加しちゃったもんは仕方ない。食費も浮くしな……やってしまえ!」

「っ! うい!」

 

 

 

 やがて、時間は過ぎる。

 休憩の1時間が経った。

 甲、乙組の一位、二位がその決戦地(食卓)に立つ。

 そして魔理沙は、またも驚愕した。

 

「大変お待たせいたしました! この大食い大会も大詰め! 勝ち残った猛者をご紹介いたしましょう! まずは甲組で圧倒的大差をつけ、稲荷寿司を完食された淑女! 西行寺幽々子です!」




ネタバレ・ピンク髪が勝つ。

ピンクは暴食。はっきりわかんだね。


ちなみに、ガチバトルだとカービィは分が悪いです。残機99でも。
幽々様が本気で勝ちにきた場合は即死を連発してくるでしょうしね。連続でロボボの真格闘王最後のアレが飛んでくるようなもんです。
この理論でいくとフランや純狐も苦手とします。あと某骸骨の魔王とか。くふーーーー!

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