仮面ライダーアギト~The under Ground~ 作:龍騎鯖威武
水のエルは、アギトSFのストームハルバードをヒラリヒラリと回避する。その動きはまるでアギトの動きを完全に理解できているかのようだ。
「フンッ!タァッ!」
それでもアギトSFは攻撃をやめない。一心不乱にストームハルバードを振り回し、水のエルに攻撃を仕掛けていく。その姿はさながら、竜巻のようであった。
だが…。
「ムンッ!!」
水のエルはそれを左手で受け止め、右手に握った槍をアギトSFの胸に突き立てる。
ドガアアアアァッ!!
「グアアアアアァッ!!?」
その途端、アギトSFは凄まじい勢いで吹き飛ばされて地面を転がる。シエルは彼の元に近寄って安否を確認する。
「大丈夫!?」「…」
アギトSFはその呼びかけに応じずに立ち上がり、再び攻撃を仕掛けていく。
「ヒカル…どうして…?」
何度攻撃を仕掛けても一緒だった。アギトSFの攻撃はまるで意味を成さない。全てが防がれるか避けられるかのどちらかだった。
シエルには、その行動が理解できないでいた。今までの挙動から、どう考えてもアギトであるヒカルは、自分の事を好意的に捉えてはいない。だが、その自分を守ろうと戦っている。少なくともそう見える。なぜ、戦うのだろうか…。
彼にとっては、良心だった。更にいえば、シエルやG3が危険な目にあっているというのに、放っておく事が果たして正しい事なのかという考えの元に行動しているのだ。
「ハアアァッ…!」
アギトSFはストームハルバードを回転させる。すると、辺りに竜巻のような風が巻き起こる。大技を繰り出すのだ。これによって打開していく。
「タアアアアアアアアアァッ!!!」
ハルバードスピン。
その切っ先は、水のエル目掛けて一閃した。
ズバアアアアアアアァッ!!
確実に直撃した。並みのアンノウンならば確実に倒せていただろう。
しかし…。
「…」
「…!?」
ダメージを受けた様子はなかった。これで、最後の希望も絶たれた。
もう打開策は見つからない。
…筈だった。
「グウゥッ…!?」
水のエルは突如、胸を押さえて苦しむ。その手を離すと、大きくはないが切り傷があり、水のエルの体にダメージを与えていた。
アギトSFのハルバードスピンによるものだが、先のシエルとG3の攻撃によってその強靭な皮膚が擦り切れていたのだ。
これは二人の功績がなければなしえる事のできなかった業だ。
アギトSFもその事は十分に理解していた。
「驚いた…。まさか、この進化状況で私に傷を負わせられるとは…。侮る事は出来ん」
水のエルは傷を癒すためか、姿を消した。
「結局…あれは何がしたかったのかな…?」
シエルはふと疑問を感じた。
水のエルは自分達を抹殺する事が目的であるが、そこにどんな意味が込められているのか。
そこまでは深く知る事が出来なかった。
脅威が去ったため、アギトSFは変身を解き、G3はメットを外した。
「ぶはぁ…あぁ…あちぃ…!」
陽太郎は顔を手で扇ぎながら涼を取っている。
その間にシエルはヒカルに歩み寄った。
「ヒカル…どうして、わたしを助けてくれたの?」
「…だって…あのままだったら…」
ヒカルは俯きがちに呟く。
ついさっきまで、彼はシエルを拒絶しようとしていた。勝手に自分に干渉してきて、勝手に自分の欲しいものを奪って、勝手に良いことをしたと思い込んでいるこんな人間は、ヒカルにとって邪魔であった。
だが、邪魔な存在であっても、命を落としていいとは思えない。
だから戦ったのだ。
「やっぱり…ヒカルはわたし達を心配してくれたんでしょ?」
「…」
質問には答えない。それに答えてしまうと、先ほどまでの自分の行動を否定してしまいそうだった。悔しさと恥ずかしさ、そして憤りなどがこもった複雑な感情だ。
「ありがとう」
「…!」
ヒカルは目を見開く。
「返事してくれなかったから、どういうつもりでわたし達を助けてくれたか分からない。でも、結果的にわたし達はヒカルのおかげで助かった。これは事実だから」
優しい笑みを浮かべてシエルは述べた。
ヒカルは何か心の中で変化を感じる。具体的には表現できないが、彼女に対する嫌悪感が和らいだ。それは完全なものではなかったが、今の彼女を嫌いになりきれそうにはなかった。
「…シエル」
「初めて、名前で呼んでくれたね。なんか一歩前進できた気がする」
浮かべていた笑みは嬉しさへと変わる。ヒカルも釣られて少しだけ笑った。
その様子を、実は隠れて見ていた男が居た。
シハである。
彼はアンノウンを見るなり戦いに参加しようとしたのだが、そのアンノウンの姿を見て動きが止まっていたのだ。
「マジかよ…よりによって、アイツかよ…!?」
完全に恐怖に駆られている。足が思うように動かない。
その理由は唯一つ。
彼がギルスに覚醒する直前に感じた死の恐怖。
その原因が、水のエルにあるからだ。
水のエルは、シハを覚醒する前に殺そうと企み、水流での溺死を図った。
しかし、それが原因となってシハはギルスへと覚醒した。
「あいつとは出来れば戦いたくねぇ…!」
そう感じたこと、そして恐怖から参戦できなかったのだ。
「これから戦う間に、あいつと出くわしたりしたら…」
今まで戦う事は彼にとっては楽しいとすら思えるものであった。苦戦するような事はなかったし、戦う事で感謝され、戦う事で気分爽快であった。
だが、それが一向に感じない。
不安と恐怖だけだ。
翠はテツの遊び相手をしながら、陽太郎達の帰りを待っていた。
本当はこんな事をしている気ではないのだが、テツの不安を少しでも取り除こうとするために、今の行動をしている。
現在、愛華がG3の修理準備を行っている。
「翠兄ちゃん。陽兄ちゃん達、大丈夫かな…?」
「心配いらない。通信でも平気だって返したから、すぐに帰ってくるさ」
言葉通り、それから数分して陽太郎たちは帰ってきた。
「よ、よぉ…」
傷のついたG3の鎧を着込んでおり、戦いの壮絶さを物語っている。シエルやヒカルも体のいたるところに傷や痣があった。
「陽太郎さん!体は!?」
「まぁ平気さ。こんな程度でくたばらねぇよ」
強がりを言って見せるが、あまり効果はなかったようだ。確かに、この姿で行っても説得力はないだろう。
「…あれ、シハさんは?」
「シハ?いや、見なかったけどな…」
どうやら、シハも戦いの場に赴いたようだが、あの戦いでギルスやシハを見るようなことは全くなかった。
「道にでも迷ったんじゃないの?」
「迷う…かな…?」
シエルは思いつく可能性を述べてみるが、アギトやギルスに進化した人間はアンノウンの気配を察知でき、感覚なども格段に上昇する。それは方向感覚にも言える話である。迷うはずはない。
ならば、戦う事を楽しんでいるシハは何故、姿を現さなかったのだろうか…。
結局、その日はシハの姿を見ることはなかった。
ゴチン!
「あだっ!」
「こんの、バカ陽太郎!!!G3のメンテにどれだけ時間がかかるか分かってんの!?」
「ちょっと待てよ、おれの体の心配は!?」
愛華の拳から、喧嘩が始まったのはここだけの話。
そして、愛華の言葉の裏には心配で仕方なかった事があったのも同様だ。
同時刻。
シハは廃れた街を徘徊していた。
そこに…。
「やっと見つけた…!」
テイルが現れた。だが、シハはそれにも全く興味を示していない。ただ魂の抜けた生物のように、ゆらゆらと体を揺らしながら歩いていた。
「あんた…どこに行ってたんだよ!?」
「おまえに言う必要はないだろ?」
シハは質問に対し、まるで感情がないように答えた。
「だって…いつもより様子がおかしいぞ!」
「まるで、いつものおれを知ってるような言い方だな」
実際は、普段のシハはこんな様子ではない。だが、テイルが彼を特段知っているわけでもないのに、まるで自分を理解しているとでも言えるような口ぶりが鼻にかかった。
そこへ…。
「ギルス…。私が逃がした唯一の…。今回は逃がさない」
低い声と共に、水のエルが現れた。
「…!?」
「怪物の仲間か…!?」
二人は警戒するが、シハに限ってはその表情に戦慄した恐怖の感情が混じっている。
「おい、ボウズ。アイツはヤバイ…逃げるぞ!!」
「な、なんでだよ!?」
言うが早いか、シハは後ろを向いて一目散に走り去る。
テイルは戸惑ったために反応が遅れてしまった。
それが命取りになる。
「テイル・アシュフォード…!」
ふと振り返ると、目の前に水のエルがいる。
その手が翳された瞬間…。
ドオオオオオオオォッ!!
「うわあああああああああぁっ!?」
強烈な水圧で吹き飛ばされ、地面を転がった。
「…あぁ…ったく!!!」
シハは恐怖で頭がどうにかなりそうだったが、それでもテイルを見捨てる事による罪悪感に勝てず、再び水のエルがいる場所を向く。
「変身っ!!」
腕をクロスさせると、シハの体は緑色に変色、変形していく。
ギルスとなった彼は、右手にギルスクロウを呼び出し、水のエルに襲い掛かった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!」
ガキィン!!
しかし、その鋭い武器は水のエルの持つ槍によってあっさりと防がれてしまった。
「ムンッ!!」
ドォッ!!!
「グワアアアアアァッ!?」
開いていた左手で水流を放ち、ギルスを吹き飛ばしてしまう。
その中で、あのときの感覚がよみがえった。
息が出来ず、開放的でありながらも、圧迫感を感じる水の中。
言いようのない恐怖が、ギルスを再び包む。
「ガハァッ!」
ドガッ!!
その途端に水から解放され、地面に倒れふすギルス。
戦えなくなるほどのダメージはない。
ただ水で吹き飛ばされただけだ。それなのに…彼の体は震えていた。
戦う最中、死の恐怖などを感じたことは微塵もなかった。
だが今、間違いなく恐怖に苛まれている。
「ア…ガ…」
ギルスになると、通常の会話以外は獣のような声に変貌する。
それは鳴き声とも取れるだろう。その鳴き声は、ギルスの野生的な咆哮とは程遠いほど弱弱しいものであった。
「お、おい、ギルス…!」
テイルはシハの名を知らず、ギルスとしての呼称で呼ぶ。
だが、ギルス本人はそれも全く反応していない。
彼の抱える恐怖に水のエルも気づいたようだ。
「御前…怯えているのだな?」
「…!?」
核心を突かれ、ギルスの体は再び硬直する。
「成程。…私に対する恐怖心が、御前の力を引き出せていないのだな」
「違う…違うッ!!!!!」
自分自身の感情と、水のエルの言葉を否定するためにギルスは叫ぶように反論して立ち上がる。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」
絶叫を挙げると、ギルスの口は獣のように開き、その内部は鋭利な牙で覆われている。
その声は、辺りの空気をビリビリと震わせるほどの威力であった。
だが…。
「グウゥッ!?」
突如、ギルスは右手を押さえて膝を着く。
「こんなときに限って…老化か…!?」
ギルスは右手を見つめる。その手はギルスの生態的な光沢のある皮膚ではなく、枯れた葉のように乾燥し、ガサガサとなっていた。
「なんだよ、これ…」
テイルはそれを目の当たりにし、目を見開いた。
まるで、水が無くなっているようだ。
窮地に立たされた事を感じ、水のエルはゆっくりと歩み寄る。
「終わりだ。アギトに成れなかった…進化の失敗作よ」
その槍は、大きく振り上げられ…。
続く。
次回!
あ、泣き虫テイル!
ゲッ!?
公司の生き残りってか?
集まってきましたね
無茶よ!今、G3を出したら…!
第6話「壊れる象徴」
目覚めよ、その魂!
キャスト
ヒカル=仮面ライダーアギト
歌葺陽太郎=仮面ライダーG3
シハ=仮面ライダーギルス
シエル・メサイア
テイル・アシュフォード
八代愛華
翠
テツ
エルロード(水のエル)
トーマ=オーヴァーロード
あとがき
いかがでしたか?
今回で僅かながら、シエルとヒカルの隔たりは消えましたが、ギルスが問題になります。
前編は、彼が如何に水のエルの恐怖を振り切れるかがミソとなってきます。
次回はシエルとテイルが再開し、少し物語が動きます。
お楽しみに!