それでは本編とさせて頂きます。
薄暮鎮守府。
数多存在する鎮守府の中でも所属する艦娘が存在しない、見る人からすれば異常ともされる鎮守府。
それだけでも異常だが、それ以上に珍妙な指令がこの鎮守府には与えられている。
それは「他の鎮守府は、一定期間自らが保有する艦娘を薄暮鎮守府に出向させること、また、薄暮鎮守府はそれを拒まず、確実に受け入れること」というものだ。
他の鎮守府とは、文字通り薄暮鎮守府以外の鎮守府。
そして、艦娘を出向させる対象となる鎮守府は、その全ての鎮守府の中からローテーションで順番が回る。
出向させる艦娘は何人でも構わない。一人でも、複数の人数でも例外なく、薄暮鎮守府はこれを受け入れることとなっているのだ。
また、出向させられた艦娘が薄暮鎮守府に滞在できる期間は最大でも一ヶ月。
別に一日でも構わないが、滞在できる期間を艦娘本人が延長を希望する場合は、一ヶ月以内であれば無条件でそれを許可される。この希望はたとえ、その艦娘を保有する提督が拒否をしても延長は取消しできず、逆に薄暮鎮守府の提督が延長を希望する場合は延長は同じく認められる。
この謎の指令に、過酷な運用を艦娘に強いている提督は不満の声を漏らすばかりだ。
何が悲しくて自らの艦隊の頭数を減らさなければならないのか。
しかも、滞在期間については艦娘、及び薄暮鎮守府の提督の意思が尊重されるこの指令に納得がいっていない。
大規模な作戦を計画している時期にこの順番に当たったら、作戦海域にくり出す艦娘の数が減るでは無いかという話なのだ。
しかし、この指令は海軍元帥直々のもの。断ることは許されていない。
よって、そのような鎮守府は最低数である一人の艦娘を、薄暮鎮守府に送り込むことが殆どである。
「…それで、不知火がその担当という訳ですか」
「ああ、そうだ。全くもって遺憾だがね」
ピンク色のセミロングの髪を、ポニーテールに纏めた小柄な少女。
艦娘の中でも小柄で高い回避率を誇る駆逐艦と呼ばれる存在。その中でも陽炎型と呼ばれる2番艦、不知火が自身の提督から薄暮鎮守府出向の指令書を受け取る。
「何故こんな制度を大本営は未だに残しているのか分らんよ。こんなもの、艦娘を遊ばせるようなものではないか」
誰が見ても分かる程に今回の指令に不満を垂れ流しつつ、次に挑む海域図を眺めている提督に不知火は質問をする。
「はあ、しかし司令。今回の出向にどうして不知火が選ばれたのですか。……不知火に落ち度でも?」
その言葉にピクと反応した提督は、海域図から視線を外し、不知火の方に目を向ける。
「落ち度?はぁ…、お前は自分の実力が分かっているのか。駆逐艦であるお前は戦艦に比べて火力が低い、今度挑もうとする海域は強度な装甲を持った深海棲艦が現れる。そんな相手にお前がおっても、豆鉄砲ほどの役にしか立たん」
「確かに主砲などの火力で見ればそうですが、しかし不知火を始めとした駆逐艦のメリットは…」
「もういい、もういい。早く行って終わらせて来い、滞在期間もお前の好きにしろ」
「…っ、失礼します」
強引に話を区切られた不知火は与えられた指令書と共に、提督の執務室を後にした。
先の話、確かに圧倒的な火力をメインとする戦艦に比べ、駆逐艦の攻撃は劣るものがある。しかし、前述した回避力の高さを始め、魚雷などの利用した雷撃戦など駆逐艦が輝く場面も存在はする。
だが、ここの提督はそれを考えていない。いや、知らないのだ。
戦艦の持つ火力にばかり目をやり、ゴリ押しとも言える戦法でしか海域を攻略しない。
そんな鎮守府に今回赴任した不知火は、当然歓迎されるはずもなく、このような軽んじられた対応しかされない日々が続いている。
「薄暮、鎮守府…」
指令書を詳しく見ても、特になにを目的としているのかなどの明記は無く、薄暮鎮守府までの交通手段や、日程期間の申請方法など事務的なことしか書かれていない。
「いったい、不知火は何をすればいいのですか…」
今回の出向と、今の鎮守府における自分の役割についてなど、様々な思いを含めた呟きを発しながら、出向の為の準備を行うべく、不知火は自身の部屋へと戻っていった。
次回には薄暮鎮守府の提督を登場させる予定です。
また、投稿は仕事上の都合で不定期になると思います。
そんな私ですが、お楽しみ頂ける方がいらっしゃれば、どうかお付き合い願います。