はい、可愛いです。
-なぜ私はだまって椅子に座り、昼食ができるのを待っているのでしょう。
少し遅くなったが昼食を取ろうと、二人は指令室から食堂に移っていた。大体の鎮守府では給仕担当となる軍人や艦娘が食事を作っている。だがここは提督以外だれも存在しない薄暮鎮守府。ある程度不知火も予想していたが、食堂に到着した早々提督は不知火に向かって、それでは不知火。少しそこに座って待っていてくれ。今からすぐ準備に取り掛かる。と不知火を置いて食堂の奥に入っていったのだ。
提督自ら食事を作成するなど、余り聞いた話ではない。しかし、ある程度この鎮守府の在り方に免疫が出来ていた不知火は、大人しくその言葉に甘んじていた。
確かに、空腹でないかと言われればそうではない。今回の薄暮鎮守府出向のため朝早くに起床し自身の鎮守府を出発した。そのため、今朝の朝食は手軽に素早く済ませ、そこから昼食の時間が遅れていたとくれば空腹感を感じてしまうのも仕方がないといえる。
「(そう。私は空腹なのです。空腹だからでしょう。先ほどから食堂の調理場の奥から漏れてくる料理の香りにお腹が反応してしまうのは)」
料理が完成に近づいているのか、だんだんと料理の匂いが食堂を包みだしている。それに比例するかのように不知火の腹部からくー、と音が大きくなっている。
「…ずいぶんお待たせしてしまったね」
空腹に気を取られてしまったからか、提督が近づいてくる気配に気づかなかった。今まで鳴っていたお腹の音を聞かれていたのではと不知火は顔を赤らめる。
「し、不知火に何か落ち度でも!?」
「まさか。しっかり腹が空き、しっかり食事をとる。正しい生活習慣に落ち度なんてあるものか。しいていえば、そんな状態になるまで気づかなかった私に落ち度があるだろう」
やっと緊張が薄れた不知火の表情を嬉しそうに提督は見つめる。
「わ、和食を作られたのですね…」
「ああ、酷く空腹な状態であまり重すぎる料理もどうかと思ってね」
早く話題を変えようと目の前に運ばれてきた料理に視線を移す。
焼き魚に卵焼き、みそ汁に漬け物。ありきたりな内容。されど、それらの香りは更に不知火の空腹を掻き立てる。
「それに私が和食好きというのもあるが、さあ、どうぞ召し上がれ」
「…いただきます」
みそ汁をすすり、焼き魚の身をほぐし口に運ぶ。
「(あたたかい、身に染みる味です)」
「お気にめしたようで何よりだ」
美味しそうに表情を緩める不知火に提督はやさしく微笑みかける。
「美味しいのは確かですね」
次々と箸を伸ばす不知火を見て提督も自分の食事に手を付ける。
「司令はいつもお一人で食事を作られているのですか?」
無言で食事をするのも空気が重くなるかと感じた不知火は提督に質問を投げかける。
「そうだ。ここにいると何でも自分でこなすしか選択肢が無いからね」
やはりそうか。不知火は口に出さずとも納得していた。誰もいないなら自分でするしかない。恐らくこの提督は今回の食事を含め、掃除や施設の整備などを自分で行っているのだろう。何故このような鎮守府に着任しているのかと聞きたい気持ちはあったが、会って日が浅いなかでそのような疑問をぶつけるのは失礼なのかもしれないとそこは食事と一緒に飲み込んだ。
「昼食が済んだら、また少しだけ書類作業につきあってもらえるかな?」
書類。その一言で別の疑問が不知火に思い浮かぶ。
「そういえば指令。あの戦術指南書…と言いますか。あの書類はなぜあなた宛てに届くのですか」
「そんなに気になるかね?特別な理由がある訳ではないぞ。先ほども言ったが私を知る提督たちが自分の意思で質問をしてきているだけだ」
そう。そこが一番不知火の気になるポイントだ。艦娘を持たぬこの鎮守府で、戦術の何たるかを教授できるのか。
「もしかして指令。あなたはそうとうな切れ者なのですか」
「それも先ほどの話と被るかもしれないが、私も自分が手練れだなんて思っていない。ただ、相手も本気で聞いている以上、責任を持って今までの経験から戦術をアドバイスをしているだけだ」
戦術。自分も艦娘の一人。また細かく言えば駆逐艦という存在のなかで、何をすべきかと深く考えた時がある。
「…戦術は本当に必要なのでしょうか」
「うん?」
駆逐艦である自分は戦艦や空母のような火力は確かに無い。しかし、そうじゃない部分で役に立てる部分があると信じてきた。それが今の鎮守府では駆逐艦というだけで自分の存在が軽んじられる。
「私には戦艦クラスの深海棲艦の装甲を貫く火力はありません」
自分のコンプレックスが口につく。
「戦艦に比べれば私の火力など豆鉄砲」
自分の今の提督に言われた悪態を思い出す。
「そんな私たち駆逐艦には今のような事務処理がお似合いなので…」
「駆逐艦、不知火」
ハッと言葉を止める。自分の言葉を言い切る前に、目の前にいる提督が自分の名前を発してそれを区切ったのだ。
「申し訳ありません指令。今のことは忘れてください」
このような話こそ、出会って数時間しか経っていない人にするものではない。自分の気持ちが弱まっている証かと思い、提督には忘れるよう促した。
しかし
「何があった?」
今しがた忘れてほしいと言ったのに、この提督は話を盛り返してくる。
「いえ、こんな話をした私が言うもの変な話だと思いますが、お気になさらないでください」
「知っているかい不知火」
そう言いながら提督は二人の湯飲みにお茶をつぎ足す。
「人が弱音を吐いたりするときは、傷つきたくない予防線代わりということがある。自分の嫌な部分を先にあげて、敢えてその話題から避けようとするのだという」
目の前にいる提督は不知火に対し、真面目な表情で語りかけてくる。
「しかし、こんなこととても他の提督に言うものではありません…」
自分の鎮守府の、提督や艦娘に相談するならまだしも、他の鎮守府の提督に悩みを打ち明けるなど聞いたことが無い。そんな考えが不知火の中で邪魔をする。
「周りの目を気にしているのか?気にしなくていい。ここをどこか忘れたのか?」
そう言われて不知火は思い出す。
ここは艦娘、もとい提督以外が存在しない薄暮鎮守府。
「私と、君が黙っている限り誰にもこの秘密の相談がばれやしないさ」
やっと5話になるというのにスローペースで申し訳ありません。
それなのに少しずつお気に入りして下さる方が増えて、先日は評価までしていただきました。
ありがとうございます!
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完全にお応えできるか分かりませんが、今後のこの小説を良いものにする指標にさせて頂きます。
今回もご閲覧、ありがとうございました。