魔法少女救命計画   作:先詠む人

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 お待たせ。


 前回最後にねむりんを出したら反応があって予想していたとはいえうれしいです。

 そもそも彼女を脱落させるかそうしないかで悩んだ原因がこの設定のせいだったんですよね。(Pixiv辞典かどっかのウェブサイトでアニメの放送が終わったぐらいに調べてたときに偶然見つけた公式設定……らしき情報)

 さて、夢の世界の中でなら最強ねむりんは大我を救えるのか…


20th stage 夢の中のSleeping Beauty(ねむりひめ)

「魔法少女ねむりん参上!!」

 

 そんな柔らかい声を耳に入れつつ、パジャマ越しに感じるとても柔らかいものを頬に押し付けられながら俺は驚きを隠せなかった。

 

「な…んで……」

 

 確かに彼女の能力の特性上ここにいてもおかしくはないけれど、本来なら今この場にいるはずのないその少女は俺が零した声に気付かなかったらしい。

 

「もう大丈夫だからねえ!」

 

 俺を安心させるためであろうその言葉とともに彼女が飛び込んできた方から光が差し込んで俺の視界は真っ白に染まっていった。

 

「……よしよし。怖かったねえ~」

 

 目がしばしばする。

 

 未だに頭を燃え袖?とでも言うのだろうか、手が見えない程度に引き伸ばされたパジャマ越しに撫でられながら俺が抱いた感想はそれだった。

 ねむりんが飛び込んできた方から差し込んだ光は闇に慣れきっていた俺の目を突き刺し、明暗差のせいで俺の目にクリティカルヒットして何も見えなくなるレベルのダメージを喰らわせていた。

 

 正直言って普段の俺だったら「子供(ガキ)じゃないから止めてくれ!!」とか言って払いのけるんだけど、限界近くまで精神的に消耗していたせいでもあるのか。俺はそのままなされるがままに撫でられ続けていた。

 

「う~ん。あの激痛の時はどうなるかなって思ってたけど~案外どうにかなるもんだね~」

 

「え」

 

「あ、ごめんね~これはただの独り言。君の中に巣くっていた黒いものは今の私じゃあ祓いのけきれなくてね~」

 

 ねむりんが無意識に漏らしたであろう『激痛』という言葉を聞いて反応した俺を安心させるかのように優しくゆっくりとなでていた。それもまた大人が子供をあやして眠りにつかせるかのように。

 

「もう大丈夫だから安心して眠りなさ~い。」

 

 瞼が撫でられ続けたせいか自然と落ちて行く。

 

 再び…

 

 眠りに……

 

 

 落ちて………

 

 

 

 行くわけにはいかんよ!?

 

 犬歯で舌を思いっきり噛んで激痛で強制的に意識を覚醒させる。噛んだ時にやりすぎてしまったのか口の中から出てきたほのかな鉄の香りが鼻を突き抜けた。

 

「っつぅ……」

 

 自分でも想定していなかった痛みのせいで若干涙目になりながら俺は驚いた表情でこちらを見ているねむりんから離れ、相対した。

 

「ひはひ…ごへん。ひょっほはっへふははい。」

 

 でもやっぱり痛みの方が強かったせいで口を押えて軽く悶絶していた。

 数分ほどたったところで、やっとこさまともに喋れるぐらいまで回復したと確信したところで俺は

 

「あ…あ……よし。ねむりんさんであってるよね?」

 

「え?あ。うんそうだよ?」

 

「死んだんじゃなかったの?」

 

「ウ゛ェ!?」

 

 単刀直入にぶっこんだ。ねむりんがいるということはこの雲一つない真っ青な空と鮮やかな緑が色づく大地に覆われたここは俺の予想通り夢の世界。と言うか、俺の悪夢が何らかの変化を受けた状態の世界だと思う。

 だとしたら何かしらの原因でこの夢が終わる可能性は0じゃない。それは外部のものが原因かもしれないし俺自身が目覚めることが原因かもしれない。

 だから、回りくどくやっている時間はなかった。

 

 俺だってこんな人に「死んだんじゃなかった?」の何て言うのは本当はやりたくない。それは俺が散々言われて嫌な思いをしてきているのだから。だとしても、これだけははっきりとさせないといけなかった。

 

「スノーホワイトちゃんから最初の脱落者で、死亡者はねむりんって聞いた。だとしたら今ここにいるあなたは一体誰なんだ?」

 

「ちょっと待ってちょっと待って!?なんでそんなことを知ってるの?」

 

 俺の断腸の思いで言った「死んだんじゃなかったの」発言を受けてすごい形相をして固まっていたねむりんは今度は驚いた表情で俺にとびついてきた。飛びついてきたその時にとても柔らかいものが胸に当たってちょっとドキドキしているが、今の俺の身体は何故か悪夢の際の幼いあの頃の、小学校のときのままだから愚息はそれほど反応しない。それだけはある意味幸いだった。しかしそんな中身がおっさんに近づいて来ても尚思春期まっしぐらな思考を続けているわけにはいかないから俺は口火を切る。

 

「…だって俺巻き込まれてますし…」

 

「え」

 

「クラムベリーと死闘してますし……」

 

「んん~!?」

 

「一応トップスピードと知合いですし…」

 

「お~!?」

 

「カラミティ・メアリには付け狙われていますし……」

 

「あぁ…それは大変だねぇ…」

 

「たぶん今死に掛けてますし」

 

「……それ笑えないよ~。」

 

「マジです。多分。」

 

 そこまで会話したところでねむりんは俺から少し離れた。

 

「と言うことは~、今君が見ているのは走馬灯のようなものだったってことかな?」

 

「いや、それは多分違います。」

 

 頭の中にさっきまでのあれを思い浮かべながら答える。

 

「あれは俺が最初に死に掛けた事故の後からずっと見てる悪夢ですから。」

 

「ふ~ん。だとしてもちょっとおかしいね。」

 

「へ?」

 

 ちょっとおかしい。その言葉の何かに引っかかった。

 

「だって私が死んだのって結構前だよ~?それなのにずっとあの悪夢を見ているならなんで今更私のアンテナに引っかかったんだろうなぁって思ってさ~。」

 

「結構前って…ていうか自分が死んでる自覚あったんですね…」

 

「ファブに魔法少女としての力を取られるって聞いたあの時からずっと元の身体に戻れなくてね~。もしかして死んじゃったのかなあ~って思ってたらそう言われちゃったしね~。」

 

「そうだとしたらあなたは一体どこの誰なんですか…?」

 

 なんでねむりんのアンテナに引っかかったのかは見当がついていたからそれには訪ねずに今目の前にいるねむりんが一体誰なのかと恐る恐る尋ねる。正直あのスプラッタな写真を見せられた影響でゾンビ、および幽霊の類は苦手だから勘弁してほしかった。

 

「私は私だよ~。ただ、ちょっとおかしなことになってるみたいだけどね~。」

 

 ほんわかと笑いながらねむりんは俺の質問に答えた。

 

「おかしな……こと?」

 

 言っている意味がよくわからずに首をかしげながら聞き返す。

 

「うん。私の魔法については何か聞いてる~?」

 

 腑に落ちていない様子の俺を見てねむりんは説明をし始めてくれた。

 

「いや、特に何も…強いて言うなら『夢の中で活動できる魔法みたいでした。』って前にスノーホワイトから聞いたぐらいで…」

 

「そこまで聞いてるなら簡単な説明でいいかな~。その夢の中(・・・)って言うのが重要だったんだよ~。」

 

「へ?夢の中が重要ってそれはいったいなぜですか?」

 

 夢の中で活動ができる。それは今こうして俺の悪夢が変化した世界で会話ができている以上わかる。だけどそれが今ここにいるねむりんにつながらない。

 

「魔法を使っている時の私は~、幽体離脱しているようなものなの~。それでファブに魔法少女じゃなくさせられる寸前に激痛に襲われてね~、現実逃避したくて魔法使っちゃったんだ~。ここまで言えばわかるかな~?」

 

「幽体……離脱……死ぬ寸前に使用………あ。」

 

 頭の中で情報同士がカチリと言う音を立てながらつながる感覚がした。

 

 ねむりんの魔法はある意味幽体離脱のようなもの。

 そして魔法少女じゃなくなるということは肉体的な死亡を意味するとかどこかで言われてたような気がするけれどもその場合魂、および魔法がどうなるのかについては一度も言及されている描写は公式のどこにもなかった。

 

 他の二次創作作品の中では魔力と一緒に魂まで持っていくとか仮面ライダーウィザードに出てくる敵キャラであるファントム化させるとかそんな説明があったりしたけれど、アニメでも原作でも公式はそこまでの言及は一度もしていない。明確にゲーム中に死亡=死亡が言われた(らしい)restartでも心臓が止まるとしか言われていなかったと聞いた覚えがある。

 

 と言うことは……だ。もしこの世界の魔法少女たちが使う魔法が魂側に根付いていると仮定すれば……

 

 魔法によって幽体離脱状態になった状態で肉体的死を迎えた場合、魔法を解除できなくなるのと引き換えに()()()()()()()()()()()()()()なのではないか?

 もし、そうなのだとすればねむりんだけはこのデスゲームで死んだことで永遠の命を得たということになるのではないだろうか?

 

 そこまで考えてから最後の論だけは日本語がおかしいなと思いつつ、ふと顔を上げる。顔を上げた先にはどこから持ち出したのかわからないけれど宙に浮きながらふかふかしてそうな青色のクッションに顔をうずめてこちらを見ているねむりんがいた。

 

「分かった~?」

 

 目と目が合った瞬間、ねむりんはそう聞いてきた。

 

「たぶん……あくまで仮設でしかないけれど。」

 

 俺はそう前置きをしてから先ほど立てた仮説を説明した。

 

 

 

「たぶんその通りかな~。」

 

 俺が話し終えるのを待ってからねむりんはそう言って空中(そこ)にベッドがあるかのように宙をごろごろ転がった。

 

「多分って、自分のことなのに。」

 

 その適当さにも思える返しに対して俺が言い返すと

 

「いやあ~、だって~。あれ以降基本的に夢の中でしか使えないから他の子に比べたら凡庸性が低い私の魔法は~一部強くなって一部弱くなっちゃったからね~。アフ」

 

「いやいや、普通に常識はずれに近いでしょその魔法は!?」

 

 だって誰もが見るはずの夢に干渉できるんだよ!?下手したらこれ夢の中で夢を見ている人に何らかの干渉をしたらその人の現実にフィードバックさせることも可能かもしれないんだよ!?

 夢喰いメリーの夢魔たちがやる白昼夢(デイドリーム)的な現象を引き起こせる可能性もあるというのに弱いもくそもないでしょうよ!?

 

 内心嘘やろメリー!?と叫びながら驚きを隠せずにねむりんの方を見る。

 一瞬だけ何でか知らないけど声のせいかイノシシの耳が付いた死に芸の子に見えた。今目の前にいるのは全然違うはずだけど。

 

 頭を振って見直すと、普通にねむりんだった。

 

「どうしたの~?ホワワ」

 

 欠伸をしながらこちらを見ているねむりん。

 

「いや………別に…」

 

 と言いながら下を見たときにふと気づく。

 

「地面が…」

 

 さっきまで緑に覆われていたはずの地面は、再び赤黒くなっていっている。ハッと後ろの方を見てみると、地面の色を反射しているかのように空も血のような赤に染まってきていた。

 

「あ~、もうか~」

 

 思ったよりもも早いね~と少し真剣な顔で言いながらねむりんは俺を引き寄せた。

 

「この夢から早く出た方が良いよ~。きっとこの夢は君の後悔から出来ているんだろうけど~、それはきっと君だけが抱えるものじゃないと思う。」

 

「え?ちょ!?え!?」

 

 ねむりんに腕を掴まれたまま引きつられるように俺は空へと浮いていく。

 

「さっき悪夢で君が言われていたことを悪夢になかなか入れなくてしばらく聞いてたんだけどね~」

 

 空へと浮いていく身体、足場なんて存在しない恐怖。夢の中にいるせいか変身できないせいでありえないとわかってはいるものの生身のままこの空へ放り出されないかと言う恐怖。

 それらすべての恐怖で固まってしまった俺の耳に少しだけ真剣さを感じるようなその声が届き、反射的に意識を塞いで何も聞こえないようにしたくなる。しかし、

 

「君が生き残ったのは、きっと君が生きてていいよって誰かに言われるためだったんだと思うよ~。君が今も生きているってことはきっとあの時も誰かが助けてくれたんでしょ~?」

 

 その幼子を諭すような声は俺の耳を通り、今にも塞ごうとしていた意識に届いた。

 

「生きてて…いい…?俺が……?」

 

 ぽつりと零す。今まで「死ね」とか「なんでお前が生きてるんだ」とか、俺が生きていることはすべての人から否定され続けていた。

 だけど「生きてていい。」。音にして6文字。発音するにしてもよほどゆっくり言わなければ3秒以内に誰もが言うことができるその言の葉を俺に言ってくれる人なんてこれまで………いなかった。

 親はもしかしたら本心では俺がその言葉を望んでいることに気付いていたのかもしれないけれど、俺がそう言った言葉を受けるのを拒絶するだろうと判断して一度も言ってくれたことはなかった。

 

「嘘だ。そんなわけない。」

 

 半ば自棄になったように呟く俺にねむりんは告げる。

 

「違うよ~。もし誰もが君のことを『死んで欲しい」と思っていたのなら~」

 

 イヤダ、ヤメロ、コレ以上、言ワナイデクレ。俺ガ……俺ガ壊レル

 

 ねむりんが伸ばしたタイミングで心の奥からそんな声が聞こえた。しかし、その声は生態を震わさない以上ねむりんに届かない。そしてねむりんは続けた。

 

「一体誰が君をこれまで助けてくれたの?」

 

 告げられたその言葉に頭をガツンと殴られたような気がした。

 

 図書館の帰りに誘拐されてナイフを首に押し付けられたあの時。俺を助けてくれたのは警察の人……()()()()。あの場にいたけれど、必死に俺が生き延びようと非力な細腕で大人の理不尽に耐えているのを見て心変わりしたおばさんだった。

 

 中学時代に他のクラスメイトが死んだ事故が週刊誌に取り上げられ、常識を持ちあわえていない記者が俺の個人名さえ出さなかったものの、ある程度俺のことを知ってる奴なら俺のことだと特定できる記事を書いたせいでパンダでも見に行くかのような感じで俺をいじりに来た同じ中学の生徒を追っ払っていたのはアイツらだった。

 

 そして、あの事故の時に俺を助けようと必死になって治療を行ってくれた医師の人がいた。

 

 俺は誰かにずっと助けられて生きてきた。

 あのおばさんを除いて彼らは「お前が死ねばいい」なんてたったの一度も言わなかった。

 むしろ医師は手術が終わってから初めて目を覚ました俺に「君には無限の未来があるから死んじゃあだめだよ」と言っていた。

 アイツらは「そんなこと気にするより明日を気にしようぜ!明日の英語の小テストヤバくね!?」みたいな感じで、いつも過去(まえ)よりも未来(あした)に目を向けろと言っていた。

 

「はは……」

 

 口から乾いた笑いがこぼれる。

 

「俺は……なんでこんなことを忘れてたんだろうな……」

 

 そう零した言葉とともに右目からあふれた涙がポツリと地面に落ちた。

 

 ざぁぁああああああ!!と言う音とともに赤黒く変色して行っていた地面が涙が落ちたところから再び緑に覆われていく。

 赤く染まりつつあった空は地面と平行して再び透き通るような青へと変わって行っていた。

 

「……君はもう一人でも大丈夫?」

 

 宙に浮いたままのねむりんが俺を地面にゆっくりと下しながら問う。

 

「大丈夫……だと思う。今思い出せたこの記憶を胸にしまい込め続けれたのなら。」

 

 俺ははるか遠くにある地平の果てを見ながらそう返した。

 

「そっか。なら、もう時間だね~」

 

 その言葉に自分の身体を見てふと気づく。

 

「体が…」

 

 俺の身体が、幽霊のようにうっすらと存在感を徐々になくしていっていた。

 

「目覚めの時だよ~。もう、きっと君なら大丈夫だから。今のことを絶対に忘れないでね~」

 

 そう告げるねむりんの言葉を最後に俺の視界は一気に霞んで、気づけば夜の帳と炎に包まれた名深の空を高速で何かに引っ張られるかのように飛んでいた。

 

「へあああああああああああああああ!?」

 

 いきなり急展開に頭が付いていけず、困惑する俺の叫びが名深の空に響き渡った。

 

 

 

 

◇ ふわふわ~ ◇

 

「行っちゃったね~」

 

 霞んでいくように消えていった少年を見送ってからさぁ、自分の居場所である夢と現実のはざまに帰ろう~と振り向き、一歩分宙を進むとそこには

 

「え?」

 

 今さっきまで自分が立っている場所を境にして切り分けたかのように再び地獄が広がっていた。しかもさっきよりもかなりひどいのが。

 

 光はまったく見えない。浮いている下にはぐちゃぐちゃと水っぽい音を立てながら何かがどこかへと流れていっていて、グシャッ!!と何かが落ちて潰れるような音だけが響いていた。

 

「一体どうなってるの~?」

 

 前後不覚な状態で動くのは危ないと感じてその場で浮いたまま待つ。

 しばらくすると真っ暗なこの世界に目が慣れてきたことで漸く見えるようになってきた。

 

「………」

 

 そして見えるようになるまで待ったことをすぐに後悔した。

 

 地面はあちらこちらへと曲がった人の腕や足を組み合わせたように見え、その上を薄く覆うかのように何かが流れている。

 

 そして遠くに白い何かが見えた。その上から何かが落ちて白い何かのすぐ横に落ちる。グシャッ!!またそんな高いところから柔らかいものが落ちたような音がして、白い何かを一瞬だけ黒に染めた。

 

「これは……あの白い何かが見ている夢?」

 

 今すぐにでもこの世界から出たい。そんな思いを感じながら私は白い何かの方へと向かって動き始めた。

 

 そして……

 

「こんにちは~」

 

 あの子(かがみたいが)の真実を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ガシャット!! ◇

 

「へぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!グヘッ!!」

 

 宙をぶんぶん振り回される状態でこの体を支えるものは今着ているコートのみ。

 どんな絶叫アトラクションでも体験できるわけがない恐怖を俺は味わいながら絶叫を上げ、そして首が絞まって意識が一瞬跳んだ。

 

「おい!!トップスピード!たいががなんか今にも死にそうな叫びをあげてるけど!?」

 

「マジで!?っ!やばい!!」

 

 パンッ!!

 

 乾いた音と共にトップスピードが箒をバイクを操縦するかのように一気に左へとスライドさせ、それに引きづられるかのように力なく垂れさがる俺の身体もわずかに弧を描きながら左へと移動し、元に戻ったはずみで首が閉まっているのがとれるのと同時に揺れで意識を回復した。

 

 その際、どうも弾丸を避けそこなったらしく箒の前に何故かついていた風防と右サイドミラーがはじけ飛んだ。

 

 そのままコントロール不能の状態になって箒は勢いよく今もなお悲鳴が上がっている高速道路へと突っ込んでいく。

 

「トップスピード!!」

 

「分かってる!!」

 

(マズっ!?)

 

 このままだとヤバいと思い、慌ててゲーマドライバーを装着しようとすると

 

「へ?」

 

 既に腰にはゲーマドライバーが巻かれていた。いつの間にか吐血でもしたのだろうか、ドライバーの外装には所々血がこびりついて乾いたような跡がついている。

 

(ってんなこと考えている余裕なかった!!)

 

 慌てて手元にゲキトツロボッツのガシャットを呼び出し、それを起動、装填する。

 

GEKITOTSU(ゲキトツ) ROBOTS(ロボッツ)!!>

 

<ガシャット!!>

 

「変身!!」

 

<♪~>

 

Let's Game(レッツゲーム)! Mutcha Game(ムッチャゲーム)! Metcha Game(メッチャゲーム)! What's your name(ワッチャネーム)!!>

 

I'm a(アイマ) 仮面ライダー!!>

 

<~♪>

 

 ロボットゲーマーレベル1になったことで体重が一気に増え、その分落下する速度も上がる。だが、今この瞬間はこのゲーマーの瞬間火力が必要だった。

 

 リップルが俺の重みに耐えきれず指を放して俺は道路に落下する。そのダメージを回転しながら着地することでおさえ、そのまま

 

「おぅりゃああああ!!!」

 

 落下する二人の元へ俺は全力で飛んだ。

 

 最短距離で落下地点へと向かうのを邪魔する車の上を飛び越え、空中で紅茶ー(アーチャー)のかっこいいポーズみたいなのを取りながら滑り込み、キャッチする。

 

「うッ!」

 

「つっ!」

 

「あがっ!?」

 

 箒をキャッチしてそのまま高速道路の壁に俺が間に挟まる様に甲高い音を立てながら衝突する。

 

 ピュピュピュッ!ピューン!

 

 衝突のダメージでライダーゲージが一気に減少したが、ゲームオーバー寸前で止まった。

 

「よっ……しゃ」

 

 レベル1の重装甲は伊達や酔狂ではなく、とてつもないであろうダメージを抑えきっていた。

 

「二人とも。大丈夫か?……にしてもなんだこれ……」

 

 箒の上で苦しそうにお腹を押さえるトップスピードと、頭から血を少し垂れ下らせながらこちらを見るリップル。そんな二人を変身を解かずに見ながら尋ねる。

 

「これが、大丈夫に見えるのか。」

 

「オレは…無事だから。」

 

 2人が俺の方を見てそう答えるのを聞いていて少し、特にトップスピードの方に不安を覚えるが、それどころじゃなくなってきていた。

 

「おい、あれって魔法少女じゃないか?」

 

 そんな声が聞こえた。

 

「写真撮れ!!スクープだ!!」

 

「カメラカメラ!!」

 

「マイクの用意!!」

 

 こんな状況で、今すぐにでも避難しないとガソリンが爆発してみんな死ぬかもしれないというような状況だというのに自分のスクープのことしか考えていなさそうなマスゴミの声が。

 

「チッ!こんな時に!!」

 

 横でリップルが悪態をつきながら苦無を構える。俺はどうすればいいのかわからずにとにかくトップスピードを起こして逃げ場を探していた。

 

 逃げ場を探して周囲を見渡していた俺の視線の先で、ついにマスゴミ(そいつら)は超えてはいけない線を超えた。

 

「邪魔だどけガキ!!」

 

「あっ!!」

 

「エーンエーン!!」

 

 ゲーマーに変身していて、視力が上がっていたせいで遠くに見えたその光景。

 カメラを構えた男が、親に連れられて高速道路から急いで避難しようとしていた親子の内の子供を邪魔だと蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた子供は近くにあった車にぶつかり、ピクリとも動かない。母親の背中に背負われていた子供がそれを見て泣き出した。

 カメラを持った男は未だにこちらへと走り寄ってきている。

 

 

 ガチリ

 

 

 頭の中で抑え込んでいた何かを留めていたものが外れる。そんな音が聞こえた気がした。

 

「ふざけんなよ。」

 

 そう呟き、肩を貸していたトップスピードを一旦優しく下ろす。そして

 

「……」

 

<ガシャット!!>

 

 右手のガシャコンナックルを背中をひねりながら限界まで後ろへと引き寄せてながら黒いガシャットを装填し、

 

「切り刻め。」

 

 全身で押し出すように一気に前へと振り抜いた。

 

GIRIGIRI(ギリギリ) CRITHICAL《クリティカル》 FINISH《フィニーッシュ》!!>

 

 振り抜いた拳から大量の風の刃が飛び回り、そのすべてがマスゴミたちが持っていたカメラ、マイク、ライトを切り刻む。

 

「……」

 

 拳を振り抜いた姿勢のまま首だけ上げると、呆然とした様子でしりもちをつくカメラマン。唖然とした様子で真っ二つに切られたマイクを見る音声。そしてガシャンと音を立てて割れたライトを見つめて固まるアシスタントがそこにいた。

 

「次は、お前らの髪を狙う。」

 

 身体を戻しながら静かに告げたその声はパチパチと火が燃え盛る音の中でよく響いた。

 

「さっさとどっかに行けェ!!!!」

 

 俺が怒鳴るのと同時に悲鳴を上げてスタッフたちは逃げていく。それをしり目に俺は急いで先ほど蹴り飛ばされた子供がいる方へと変身を解除しながら駆けよった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 混乱の最中、横向きで止まった車を乗り越え、すぐに子供の元へ向かった。

 その子供と親はまだそこにいた。母親の背中に負ぶわれた子供は未だに泣いている。

 

「この子が……この子が!!」

 

 母親はたどり着いた俺に縋る様にしがみついてきた。蹴り飛ばされた子供はどうやら蹴り飛ばされた際に内臓かどこかを損傷したらしく、口から血を吐いていた。素人目に見てもすぐにでも病院に運ばなければならない。

 

「これは…まずいだろ!!」

 

 慌てて119番を使用にかけようとして、気づく。

 

「クソがッ!」

 

 そう。俺も俺でなんだかんだと忘れていたが、俺はもともとこの世界にはいない存在。持っているスマホから119番にかけても画面には<サービスなし>の文字が電波を示す箇所に流れて通話にはなっていない。

 

 通信サービスに加入していない端末である以上電話することなんかできなかったのだ。

 

「どうすればいい。どうすればいいんだ!?」

 

 困った。困り切っていた。そうして困っていると、

 

「たいがさんどうしたんですか!?」

 

 救いの手(スノーホワイト)が飛んできた。

 

「この子を頼む!!救急車呼ぶか、病院に連れてってあげてくれ。お母さん。この人に任せたらたぶん大丈夫です。安心してください。」

 

 俺がそう言ってスノーホワイトの方を指さす。

 

「え!?わ…わかりました!!今救急車呼びますからちょっと待ってくださいね!!」

 

 そう言うと、スノーホワイトはマジカルフォンを取り出して慌てた様子でどこかへと駆け出した。

 

 数秒後、少し離れた車の陰で一瞬だけ光の柱が立ち、スノーホワイトがスマートフォン片手にそこから出てくる。その間、俺は自分が着ているコートを脱いで少女にかぶせ、少しでも体温が逃げないようにしていた。

 

「たいがさん、どうかお願いします。私はほかの人を助けてきます。」

 

(うせ)やろ!?」

 

「すいません!!」

 

 そう言って彼女(スノーホワイト)は俺にスマホを渡してその場から跳んで次の助けを求めている人の元へと駆け出して行った。

 

「マジかよ…」

 

 ロックが解除された画面を見る。恐らく彼女が好きなのだろうアニメのキャラクターがホーム画面の背景として映っていた。

 

「しゃあない!」

 

 電話の受話器のようなマークを押して119番を即座に打ち込み、電話を掛ける。

 

「もしもし!!」

 

 

 俺はそのまま救急管制室の電話の向こうにいる係員の指示に従って救急車が到着するまでその場につきっきりでいることになった。

 

 救急車に担架に乗せられた子供が乗せられ、母親が一緒になって発進していくのを見てから気づく。

 

「あ!!トップスピードたちは!?」

 

 慌てて二人がいた所へと行ってみると、そこにはもう誰もいなかった。

 

「クソっ!!」

 

 再びゲーマドライバーを腰に当て、オレンジ色のガシャットを起動する。

 

JET(ジェット) COMBAT(コンバット)!!>

 

 ……夜明けは近い。

 

 白の魔法少女、黒のくノ一少女。二人にとって正史ならば分岐点(ターニングポイント)となった夜は転生者(イレギュラー)を抱えたせいで正史以上の混沌を迎えた世界で分岐点を迎えようとしていた。

 

 

 全力で飛ばした果てに見えたのは廃ホテルの上でハイタッチをかわす魔女とくノ一。そして頭にガラス片が刺さった年を喰ってそうなBBAの死体。魔女とくノ一の間に流れる和やかな雰囲気を壊すかのように魔女の背後がトプンと揺れた。

 

「間に合えええええ!!!」

 

 音速を出したことソニックムーブに身を包み、衝撃を放ちながら廃ホテルすれすれまで高速で近づいて変身を解除する。そしてそのまま衝撃波で自らの身体も刻み付けられつつ、慣性の勢いで魔女と波紋の間に割り込もうとする俺の叫びが西の空が明け始めた町に響いた。




 感想、評価を楽しみにしています。

 結局、BBAは原作通りトプリプコンビの上空からガラス片攻撃で死にました。
 その結果、現在生き残っているのは1()0()()です。決して数え間違いではないです。奴らがこの夜の間に殺りました。

 次回、暁のEX-AID(きゅうめい)(予定)。お楽しみに!
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