頑張りますよ~
「おらぁあああああ!!」
獣のような叫び声をあげながら拳を振り上げる。
その拳は上からとびかかる様にこちらへと来ているパラドクスに当たりはした。
しかし、それをパラドクスは受け流すようにいなし、そのままいなした反動で左側へと加速して飛んで行った。
「なに…?」
パラドクスの突然のその行動に理解が一瞬だけ追い付かず動きが止まってしまう。
そしてその動きに合わせて視線が動き、そして気づいた。
「……!?マズいっ!!」
未だ宙にいるパラドクスから数メートル先にいたのはこちらを呆然とした表情で見つめているたま。
それをいいことにパラドクスは武器であるガシャコンパラブレイガンを召還し、その銃口をたまへと向けた。
「やらせないっ!!」
俺は一瞬だけ後ろに右手を振ってから勢いよく前へと突き出す。
突き出したことで鞭のようにしなりながら蛇腹状になった右手の金色のパーツがどんどん伸びていく。
キュキュン!
パシパシッ!!
放たれた2発の光弾がかろうじて伸ばすのが間に合った蛇腹状の腕へと当たり、エフェクトと共に<HIT!!>の文字を宙に浮かばせる。
「つぅっ!」
外付けであるゲーマの腕を伸ばしたことで直撃と言うわけではないのだが、痛みが本体の方へフィードバックしたため、顔を仮面の下でしかめる。
痛みに耐えながら伸ばしたその手を使ってたまを優しく握りしめ、
「きゃっ!?」
そのままこちらへと一気に引き寄せる。
あのままあそこにいたままにしていると流れ弾で重傷を負う可能性があると思ったからこその判断だった。
一応機能として視界にレーダーマップが表示されて、その中に敵と味方、そしてエナジーアイテムの位置が光点として表示されている。だが、パラドクスとの戦闘はどうしても高速戦闘になってしまうせいでそちらをいちいち確認している余裕がない。
一瞬だけでもよそ見をしているとエナジーアイテムを使われるか、死角からの攻撃が待っている。
だから、正直言ってこの機能は対仮面ライダー戦においては要らないと個人的には思えた。
バグスター相手ならいいのかもしれないが、対ライダー戦においてはものすごく邪魔だ。
「魔獣さん……」
「ちょっと黙ってて!舌噛むから!」
唐突にこちらへと引っ張ったことで横に負担がかかり、そのせいでふらふらしているたまをお姫様抱っこした状態で運ぶために近くにあるエナジーアイテムを適当に足を延ばして蹴り飛ばす。
<高速化!!>
運よく狙いのものが手に入り、俺は即座に動き出す。
「はっ!」
高速でひとまず屋根の上へと飛び上がり、たまを下ろす。そしてそのまま跳び蹴りをかますような形でパラドクスへと突っ込んだ。
「ぐッ!?」
一瞬のうちにそれらの行動を行ったことでパラドクスは俺の動きについていけておらず、そのまま敷地の壁へとめり込む。
めり込むほどの衝撃が発せられたことで大量の砂煙が立ち込め、視界が最悪になった。
「チッ!」
小さく舌打ちをする。
視界が悪いということはレーダーを見るしかないということ。すると対応が遅れがちになるから今の状態でそれはよくないことだった。
そしてその懸念は当たってしまう。
<透明化!>
「クソっ!」
そのエナジーアイテムを俺が触ったわけではない。だから必然的にパラドクスが触ったということになる。
「どこだ……」
周囲をじろじろと見まわしながら警戒を密にする。
「どこにいる……」
不意打ちを突かれるわけにはいかないとレーダーも使いながら警戒していた。
「きゃっ!」
上の方から悲鳴が聞こえた。
慌てて上を見上げるとそこにはパラドクスを示す光点がさっきたまを逃がした屋根の上にいつの間にか移動しており、その手にはぐだっと力なく崩れ落ちた人形のようにいるたまの腕が握られていた。
「てめぇぇぇ!!」
憎悪を込めて屋根の上のパラドクスを睨みつける。
「落ち着けよ。
そんな俺を猛った犬を落ち着かせるかのように掌を下に向けてどうどうとしながらパラドクスは言い、そして
「なぁ大我。お前はこの力で何をしたい?」
そう続けた。
「魔法少女を救うだけだ!」
そう叫びながらガシャットを操作してエクゼイドの上半身を模したAボタンをポップアップさせ、一気に飛び出す。しかし、
<反射!!>
「なッ!?」
飛び出して振りかぶった拳は目の前に展開された壁によって振りかぶった勢いを倍加した状態で跳ね返される。
跳ね返されたことで俺は吹き飛び、背中から玉砂利へと叩き付けられた。
叩き付けられたことでダメージが今日量を超え、変身が強制的に解除される。
いきなりマキシマムに変身したせいか、さっきまで受けていたキズ以外の所に激痛が走り、満足に呼吸すらできなくなる。
そんな俺を寺の境内の上から見下ろしながらパラドクスは淡々と説き伏せるかのように続けた。
「やっぱりそう言い張るよな、お前は。だったら質問を変えるぜ?お前は自分のことを何だと思っている?」
「それは……」
その問いに俺は答えることができない。
だって仕方ないだろう。これまでの人生、中学の時に出会ったアイツらを除けば”化け物”、”死神”、”疫病神”、としか呼ばれておらず、それを俺は否定し続けていた。
他者から貼られる
しかしそれはあの死に掛けたとき以来ずっと感じていたことだ。
中学の頃にアイツらに出会ってから一時期は満たされたと思っていたが、それでも気づいたら空っぽの中身はどこまで行っても空と言うことをわからされただけで見ぬふりをし始めていた。
「お前は空っぽだ。だからこそあの日見た偶像にあこがれた!」
だからこそ、その言葉で俺は”俺”を構成する核を突かれた気分に陥った。
「そんなお前がヒーローにでもなれると思っているのか?」
「ちがっ…」
どうにか口を開いてその言葉を否定しようとする。そんな俺にとどめを刺すためにか、上からパラドクスは医師が病気であることを患者に宣告するかのように告げる。
「お前に
「っ!!」
その言葉についに俺も何も言い返せずに黙り込んでしまう。
別に人殺しと言っても俺が直接手を出した結果、誰かが死んだというわけじゃない。
だけど、『少年A以外の全員の死に俺が間接的にかかわっているのは自明の理だ。だから彼、少年Aが39名の命を殺したのも同然だ』……そう、あの週刊誌の記事には書いてあった。少年Aと注釈に書かれた恐らくその記事が出る数週間前に俺がユウトたちと一緒に街に出かけたときに撮ったのであろう、公衆トイレから手をズボンで吹きながら出てくる俺のプライベートを知っていたら確実に俺と断言できる特徴的な服を着た少年の写真とともに。
俺からしたら否定したいことでも記事の言っていることは一見正しいように見える。それもそうだろう。もしあの時俺が死に掛けたりしなければ、当初の予定よりも早く帰ることにならず、その結果事故にバスが巻き込まれることもなかったはずだ。
だからこそ俺は人殺しと罵られ続けてきた。
…『人殺しだから殺してもいい。これは正義の行いだ』というめちゃくちゃな論理に振り回された。
……『人殺しが
………もしあの記事が出回ったとき、俺が最初の小学校の校区の中にある中学校にでも行っていたら今頃俺はどうなっていただろうか。
少なくとも、今の俺にはなっていない。それは確実に言える。
最初の小学校の校区にいたならば確実にどこかのタイミングで本格的に殺されていたか、不登校になってそのまま社会的に死んでいたかの二択だろう。
自殺に見せかけた絞殺、転落死、後は事故に見せかけた焼死とかか?
あの校区にはそれだけのことを俺に対して平気でなせるような倫理観が完全に欠如した空気があらゆるところに充満していた。
そしてそれは恐らく俺が転校しようとしていなかろうと、そう言った俺絡みに関する何かが起きていたとしても変わらなかっただろう。実際俺が中学1年の終わりごろ、俺が本来行くはずだった中学校と、俺が最初に通っていた小学校で壮絶ないじめの果てに二人の少女が非業の死を迎えている。
カズが集めてくれた話を聞いた限りじゃあ、いじめの果てにその相談に乗っていた教師による強姦まがいのことまで大事になっていたらしく、最終的に中学校と小学校の校長と教頭の首が全部飛んだ。
その流れで俺のこともちゃんときちんとした報告が教育委員会に伝わったらしく初めて謝罪に来たらしいが、「いまさら何になる!!」とストレスで心が壊れた母さんを心配してうちに来ていたばあちゃんが一喝して塩ぶっかけて追い返したらしい。
運がいいというか悪いというか、俺はそれを見ることはなかった。
その時、俺は中学校の特殊教室棟の使われることがほとんどない階段の屋上へと続く踊り場でユウトたちと一緒に本当は持ち込んではいけない3DSを持ち込んでみんなで一狩りしていた。
そんな過去を思い出しながら
パラドクスの言葉をきっかけに現実逃避しているのは内心わかってはいた。だけど、そうでもしないと心が壊れそうだった。
虚ろに映る歪んだ世界でパラドクスが建物の上でガシャコンパラブレイガンを構え、こちらへと光を溜める銃口を向ける。
「あぁ……ここでGAME OVER……か。」
ぽつり、小さくつぶやいた瞬間、俺の世界は一気に
◇ ◇
「ん……」
唐突に奪われたときと同様に唐突に意識を取り戻す。
ふと周囲を見てみるとそこはさっき襲われた場所であるお寺の上で、私の左腕はあの赤と青の二色の化け物さんに掴まれたままだった。
「お前は何かをなす資格も、仮面ライダーの名を名乗る資格も、何もかもないんだよ大我。不完全な俺と悪性腫瘍であるあいつと同様にお前は今すぐにでも死ぬべきなんだ。」
「そうすれば世界に対する悪影響も、バグスターウィルスによるパンデミックの可能性もすべて消失する。」
二色の化け物さんは私が起きているのに気付いていないのか持っている銃のような武器を下へと構えた。
(……そう言えば魔獣さんは?)
視線をきょろきょろと回す。するとすぐに魔獣さんは見つかった。
(倒れてる……それに…あの目って…)
何かに深く絶望したような、ガラスのように何も映していないと感じられる目をした魔獣さんがクレーターのように散らばった玉砂利の中心に仰向けに倒れていた。
「お前が死ぬと完全体ではない以上俺らも一緒に死ぬ。本音を言えばそれは怖いが、必要な犠牲であると割り切るしかない。」
「だから、死んでくれよ大我。」
そう言うと二色の化け物さんは私から手を放して腰についている蛍光色のバックルに刺さっている大きい箱状のものに円盤が付いている何かを引き抜いて、持っている武器に差し込んだ。
<
<ウラワザ!!>
その音声とともに私の目の前で光が武器の銃口に集まり始める。
その銃口を化け物さんは魔獣さんに向けた。
「……」
光る銃口を向けられた虚ろな瞳の魔獣さんの顔にあの月夜の魔獣さんの顔が重なる。
「ダメっ!!」
今私は手を握られていない。そして化け物さんはその両手を武器へと伸ばしているから今この瞬間駆け出してもすぐに私には届かない。
この二つの理由で自由に動けるようになっていた私は屋根から飛び降り、魔獣さんのもとに走った。
<
そんな音とともに巨大な光の弾がこっちへと飛んでくる。
魔獣さんを抱えて躱すのは間に合わない。そう思った私は反射的に足元に爪を走らせる。
そして走らせた線を中心に大きな穴が開いた。
ぎりぎり範囲内に入った穴に魔獣さんが落ちて行く。自分のことなんか考えてもいなかった私も一緒に落ちて行く……
<
そんな音と一緒に上から大量に降り注いできた土砂が直撃して私は気を失った。
◇ ◇
「………」
落ちて行く。
「…!!……!!…!!」
ただゆっくりと真っ暗闇の中を落ちて行く。
「……………」
落ちて行く。
「…………」
そしてゆっくりと目を閉じた。
世界が闇に完全に覆われる。
それを待っていたかのように闇をスクリーンにして記憶と言う名の映像が流れ出す。
『なぁ……』
映し出されたのはこたつの3辺に入っているアキト、カズ、ユウトの顔。
そしてその奥にあるテレビにはこの間カズが手に入れた『仮面ライダーエグゼイド』ブルーレイボックスのVol.2に収録されている第26話が流れていた。
『ん~?どうしたよ大我。』
『カズ、みかんパース。』
『おぅ、サンクス。』
『今さ、ドクターライダーとしての資格は衛生省に医師免許とか認可をもらって手に入れれるものみたいに言ってたじゃん。』
『あぁ。それで?』
『アキト、お前白いの取るんだな。』
『だっていやじゃんあれ。歯に挟まるし。』
『それってさ。誰かに認められないと
『そうさなぁ……』
テレビの画面には、飯島君演じる宝生永夢が衛生省の指示に従うかどうか悩んでいるときにテンマがその指示を聞いていたせいでCRから飛び出すという一連の流れが映っていた。
『………』
『………』
俺とユウトが話しているのをいつしか、黙ってカズとアキトの2人も聞いていた。
『そもそも、俺個人の意見としてはリターンを求めてる時点でヒーローとはちょっと違う気がするからなぁ…。ビルドの3話でも言ってたと思うけど。』
『あ~あれなぁ~。万丈に港の倉庫で言うやつだろ?』
『そそ。だからぶっちゃけ、ヒーローは誰かに認められなくてもいいと思うんだよ。それこそ何か過去に後ろ暗いものを抱えている奴にだってなる資格はあるだろ。』
俺の過去のことを既に中学校中に週刊誌の記事が張りまくられた件が原因で知っているユウトが吐き捨てるかのようにそう言うと
『確かそんな感じのアメコミなかったっけか?』
『デアデビルとかそんなんじゃなかったっけ?』
アキトとカズも話の中に入ってきた。
『いや、其れ被害者がヒーローになったやつや。それを言うなら……X-MENのマグニートーの息子とかそうじゃね?』
俺はカズが言った言葉に突っ込み、補足するかのように言う。
『そうそう。あとはヴェノムとかか?』
するとその言葉を受けてユウトが聞き覚えのない名前を出した。
『『『ヴェノム?』』』
3人とも聞き覚えがないせいで同時に聞き返す。
『スパイダーマンの実写版の3に出てただろ?あの黒いスパイダーマン。』
『いや、アレスパイダーマンが黒くなっただけやろ?』
脳裏に浮かび上がるのは3のチラシとかに写っていた真っ黒なスパイダーマン。と言うか、俺はサム・ライミ版スパイダーマンを1しか見たことがない。だから「3に出てきた黒いスパイダーマン」とか言われてもちんぷんかんぷんだった。
『
『いや、それならヴィランじゃん。コンセプト違うくね?』
疑問符を浮かべながら尋ねた俺の問いの答えとしてユウトはそう返すが、今度はカズが疑問を浮かべる。
『そのあとにヒーローになったりしてんの。一時期に至ってはデップにも取り付いてたし。』
『デップって確かデッドプールか?あの死なないとか言う。』
『そそ。それそれ。なんか、番外編みたいなのでそう言うのがある。』
『へー。アメコミは基本見ないからなぁ~。』
『まぁ、俺もヒロアカの影響で見始めたのはある。英語の勉強にもなるからなあれ。』
『そうか?ぶっちゃけ昔お前と一緒に視た奴なんかヤク決めてるキャラ出てなかったか?』
『まぁ、確かに出てたけども。それは流してる。』
『『『いや、流すなよ!!』』』
総ツッコみだった。
『話を戻すぞ~』
『この流れで戻すのかよ…』
『うっそだろ…』
『正気かお前…』
そんな俺たち3人の非難気な目を無視してユウトは続ける。
『アメコミどうこうでぶっちゃけめちゃくちゃそれた気がするけど要は仮に周囲から悪と言われるような過去を背負っててもヒーローにはなれるだろってことだ。』
『強引に〆に回ったなお前…』
『相当な力技だぞこれ…』
『にしても、よくよく考えたらジードとかネクロムとか昭和ライダーとかもそうじゃないか?』
『『『アメコミよりもそれを先に出せよお前!!』』』
アキトが首をかしげながらユウトが〆た後にそう言ったので俺たちは同時にアキトにツッコむ。
そんな俺たちを尻目にテレビの画面は宝生永夢を先頭に、鏡飛彩、花家大我の3人が同時変身してアランブラ、ソルティ、そしてパラドクスレベル50に立ち向かおうとするシーンが流れていた。
「っつ……」
目を開ける。
俺の上にかぶさるかのように温かい錘が乗っており、背中はとても冷たい。
「何が……」
走る痛みに耐えながら身を起こしてみると
「んん……」
「……」
額を少し切ったのか、ちょっとだけ血を垂らしたたまが俺にかぶさるように寝ていた。
その寝顔はあどけなく、護りたいという思いを抱かせる。
「……あ。」
無意識のうちにそのサラサラとした手触りのよさそうな髪を手ですいてしまい、それに気づいて手を引き抜く。
「……守りたい。その気持ちさえあれば……良い。資格なんかなくたって、人は救える。」
身体を支えるために地面についていた右手に金色の光が集まり始める。
「別に俺は別にライダーになれなくてもいい。名乗れなくてもいい。ヒーローになれなくてもいい。ただ……」
空っぽでもいい。その空になった器の中に何が満たされるかだけが重要なのだから。
「ちょっとごめんよ。」
俺はそっと未だに気絶しているたまの位置をずらし、上を見上げた。
目算で深さ10メートル、俺を中心に半径3メートルと言った穴に俺は落ちていた。
「絶対に負けるわけにはいかない。」
右手に集まる光は、力はどんどん増していく。
「このまま終わってたまるか。」
立ち上がり、空を見上げる。
「諦めてたまるか。」
右手を空へと突き上げる。
「男なら、誰かのために強くなれ。」
格言じみたその言葉をつぶやき、
「だから俺は……」
力強く右こぶしを握り締める。
「
光に輝く右拳を腰に巻かれたままだったゲーマドライバーにたたきつけた。
◇ ◇
<
<ガッシューン!!>
<
「……」
パラブレイガンに装填していたギアデュアルを外し、ドライバーへとセットしなおす。さっきはなった攻撃が直撃したと一瞬思うが、すぐにその考えを捨てた。
さっきまで人質にしていた魔法少女が一瞬見えた気がしたからだ。
「……ミスったかこれは?」
レーダーを見てそう呟く。確かに反応は途絶しているが、俺の身体が消える気配がまったくないのだ。
そう呟きながら庭の方を見ていると必殺技が直撃したことで発生していた土煙が消失する。
「やっぱり……か」
俺はそう呟いきながら下を見る。
さっきまで大我がいた位置には直径6メートルほどの大穴が開いていた。
「てことはこの中…か?」
建物の上から下へと降り、ゆっくりと近づいていく。
穴との距離は数メートル。ゆっくり歩いたとしても数秒ほどで着く距離だ。
そう…油断していた。
「ッ!!」
<ズ・ゴーン!!>
唐突に後ろから感じた殺気に反応してAボタンを高速で叩き、ガンモードからアックスモードへと変形させたパラブレイガンを振るって首筋へと走る刃を防ぐ。
「背後からとは魔法少女らしからぬ攻撃だなぁ!」
「あなた…魔獣?」
俺の叫びに対してその白い水着を着た胸の大きい痴女は問いかけると同時に距離を置く。
「さぁな!!」
振り抜きざまにBボタンを連打し、レバーを引っ張る。
俺は大我から引き継いだ記憶からその魔法少女をバックボーンまで知っている。
スイムスイム。ルーラ一派の中でぽやんとしているとルーラには印象を持たれていた魔法少女だ。
しかしルーラはスイムスイムが「私がルーラになる」という野望を抱いた結果、謀殺された。それは俺たちの干渉が起きたとしても変わらなかった結末だ。
そもそもスイムスイムが「私がルーラになる」なんてトンでもな野望を抱いた原因は既に死人である彼女にとって申し訳ないとは思うが、ねむりんのせいなのは確実だ。
彼女がスイムスイムの夢の中で「女の子はみんなお姫様になれるんだよ~」と呑気に吹き込んだ結果、お姫様=ルーラと言う方程式ができていたスイムスイムの頭の中で思考回路が異常につながってしまったらしい。
その結果、ルーラを殺してお姫様=ルーラになるということをしてしまっている。
そして彼女は殺人と言う行為に対して嫌悪感が無いといってもいい。それは幼いが故の残虐性の発露なのか、それとも彼女自身にもともと殺人鬼としての才能があったのかどうなのかはわからないが、それは事実だ。
キルスコアが無印において彼女が群を抜いて多いのがその証拠であると俺は思う。
<10連打!!>
その音声が流れるのと同時に
「いけぇぇええ!!」
パラブレイガンを振り抜き、10本の衝撃波を生み出す。
その衝撃波はそれぞれ弧を描きながら重ならない軌道に沿ってスイムスイムへと飛んでいく。
「……なら、あなたも殺してキャンディーを手に入れる。」
スイムスイムは攻撃を避けるためかそう言いながら沈み始めた。
「させるかよ!」
俺はあるエナジーアイテムをスイムスイムにぶつけようとする。しかし
「ばかな!」
スイムスイムに当たるはずだったその紫色のエナジーアイテムはスイムスイムの身体を水の膜を突き抜けるかのように通過した。
そしてスイムスイムはそのまま地面へと沈んでいく。
レーダーにはスイムスイムが映っているから奇襲によって致命傷を受けることはないが、もし万が一、億が一にでも大我を先に殺されてしまったとするならば原作が完全に崩壊してしまう。
それはさすがの俺も望んでいない!!
<ズ・ガーン!!>
慌ててスイムスイムが潜んでいるあたりの地面をガンモードにしたパラブレイガンで吹き飛ばす。
吹き飛ばした辺りからスイムスイムは出てこず、レーダーにも未だ健在。
「チッ!なら範囲攻撃だ!!」
攻撃が外れた、もしくは深くに潜られてそのまま逃げられたと判断した俺はBボタンを10回たたいた。
<10連鎖!!>
10の光弾がスイムスイムが隠れているとレーダーに表示されているあたりを直撃する。しかし、スイムスイムに影響があったようには思えない。
「これは……心がたぎってくるぜ…」
こちらの攻撃など興味がないという印象を与えてくるスイムスイムの様子に対して俺の心に灯がともる。
「なら、全力で相手してやるよ!!」
頭の中から大我が狙われたらやばいという思考は抜け落ち、その時俺の頭の中はスイムスイムをつぶすことで一杯になっていた。
穴の底から光が漏れ出すまでは。
「!!」
黄金の光が穴の底から漏れ出て来ている。
「まさかっ!?」
慌てて俺は穴の方へと駆け出す。
その俺の背中を掠る様にスイムスイムの持っているルーラの一撃は空を奔った。
穴のふちへとたどり着き、穴の中へとパラブレイガンを向ける。
<
<ウラワザ!>
そしてドライバーに装てんしなおしていたギアデュアルを再度ブレイガンに装填し構える。
しかし、
「邪魔するなよ!!」
「じゃまじゃない。わたしからするとあなたの方がじゃま。」
後ろから襲い掛かってきたスイムスイムが振りかざすルーラの凶刃が邪魔で攻撃できない。そして……
<ドッキィィィング!>
<パッカァァン!!>
<ムーテーキィィィイイイイイイ!!>
穴の底からそんな音が聞こえた。そして俺は負けを確信した。
負けを確信したとはいえ、ただ何もせずに負けるのは俺のゲーマーとしての矜持に関わる。だから俺は
「はっ!」
スイムスイムから距離をとる様に飛び上がり、穴の中へと銃口を向ける。そして
<
俺が放つ赤と青の二色で作られた光弾が穴の中へと吸い込まれていくが、それをかき消して黄金の輝きが穴の中から流星のように飛び出してくる。
<輝け~流星のごぉとぉく!黄金の最強ゲーマーァ!ハイパームテキエグゼェェイデェェ!!>
光の筋の先端にいたそれは星のような頭部をしていた。
頭部からは髪のように黄金の輝きが何本も迸る。
頭の先から指の先まで、本来ショッキングピンクと銀で染め上げられているその装甲は黄金と銀によって染め上げられていた。
時間を操る敵も、ゲームを乗っ取った男によってウィルスをまき散らすように、誰も勝つことができないように改造されたボスキャラをも倒す。最強無敵のゲーマーがその瞬間、爆誕した。
だが、次の瞬間疑問に思う。
<ハイパームテキエグゼェェイデェェ!!>
大我、恐らくお前自身の意志ではないのだろうが、なぜ二回も音声を流した!?
そしてなぜ髪をたなびかせる!ネットでL〇Xと散々ネタにされていたからってやるべきではないだろうが!?
感想、評価を楽しみにしています。
最後の”二回音声”ネタはハイパームテキが初めて登場した際に音声が二回流れた所から持ってきました。