この素晴らしい世界に祝福を! ウィズの冒険   作:よっしゅん

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 今回ちょっとだけシリアス?風な展開があります。


この素晴らしい旅に冒険を!

 

 

 

 小鳥がさえずり、暖かい光が太陽から差し込む穏やかな午前。

 いつもより少し多いくらいの荷物を持って商店街の中を歩いて行く。

 ここ駆け出しの街アクセルは、魔王の城からかなり離れた位置にあり、駆け出しの冒険者が集まっているというだけの普通の街だからなのか、特に魔王軍とかから攻撃を受けたりしないためかなり平和な街だ。

 人口もそこそこの数で、基本的に毎日のように街は賑わっている。

 歩きながらでも耳を澄ませば、お店の人の呼び込みがあちこちから聞こえてくる。

 

「お、そこの杖持った……いや槍か……? まぁいいや、姉ちゃん冒険者だろ? どうだい、少し見ていかないかい?」

 

 おそらく自分の事を指しているのだろう。

 声を掛けられてそのままスルーするのは流石にあれなので、歩みを止めて声がした方へと方向転換する。

 そして商人らしき男が営業スマイル満点で出迎えてくれた。

 

「いらっしゃい! うちは冒険者向けの商品をたくさん仕入れているからきっとがっかりはさせないぜ」

 

「そうなんですか、どんなのがあるんですか?」

 

 一見しただけでは、どれがどんなものかは全くわからない。

 

「そうだな……例えばこのマジックスクロール、これには支援魔法が込められていて、いつどんな時でもすぐに使うことができる代物だ。これは筋力増加の支援魔法が込められているが、他にも素早さをあげたり、防御力を高めたりするのもある。そしてこれらのマジックスクロール、セットで買うと今なら千エリスも安くなるんだ! さぁどうだい?」

 

 ふむふむ……確かに便利そうではある。

 支援魔法はロザリーが一通り使えるが、もし彼女が不在の時とかにきっと役立つだろう。

 

「それ買います!」

 

「毎度! 良かったら他にも買っていかないかい? 気前の良いお客さんには特別価格でお相手いたしますよ!」

 

「え、本当ですか? ……あ、実はこれから街を出て遠出をするんですけど、何かそういう時に役立つのとかないですか?」

 

 店主は商品を眺めて考え込む素振りをみせる。

 そして何か閃いたようにハッと顔をあげた。

 

「そういえばこの前紅魔族の男が自作した魔道具を店で売ってくれないかと持ち込んできましてね……確かお客さんの要望に合うようなやつだった気が……お、あったあった」

 

 背後にあった大きなバックから店主は何かを取り出し、それの説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 商店街での買い物を終えて向かった先は、この街のとある場所にある馬車の待合所。

 そこでは商人らしき人間や冒険者、普通に街に住んでいるだけの一般市民の方に、たくさんの荷台の先に繋がれた馬がいた。

 そう、今日はブラッドとロザリーの故郷へちょっとした旅行に行く日なのだ。

 まだこの世界に来てからはアクセルの街とその周辺くらいにしか行ったことがないので、他の街に行くというのが楽しみでしょうがない。

 そしてこの世界にも馬はいるんだな、なんて思いながらさらに辺りを見回す。

 そして目的の人物、ブラッドとロザリーを発見した。

 二人とも広場に備え付けられたベンチの上で座っていた。

 早速声をかけようとベンチに近づく……が、途中で足を止める。

 

「な、なにしてるんだろ……あれ」

 

 否、足を止めざるを得なかったのだ。

 なぜなら、ベンチで隣並んで座っている二人の顔は近かったのだ。

 もう、キスができるんじゃないかっていうくらいの近さだ。

 下半身は真っ直ぐ前を向いていて、上半身だけを捻ってお互い向き合っている状態……まさにテレビでやっている恋愛ドラマのラストシーンのような状況が目と鼻の先で起こっているのだ。

 しかもどちらも知人というおまけ付きで。

 

 思わず木の幹に身体を潜め、二人の様子を観察を始めてしまう。

 前々から怪しいとは思っていたが、やはり二人はそういう仲なのだろうか?

 もしそうだとしたら、自分というお邪魔虫がパーティーに入ってきたせいで二人の時間を奪ってしまい、こうして自分がいない時にひっそりと愛情を深め合っていたのかもしれない。

 だとすると二人には悪い事をしてしまったのではないか……?

 思えばパーティーに入りたいって言った時に一度断られたのは、実はそういうことだったかもしれない。

 

「…………」

 

 なぜか見ているこっちが恥ずかしくなってきた……あと覗き見をしてしまっている罪悪感的な何か。

 もし二人がこのまま熱い熱い接吻の一つでもしたのなら、このままこの場を立ち去るべきだろうか迷い始めたころ、それに気づいた。

 

「…………?」

 

「……………!」

 

 いつまで経っても二人はキスなんかせずに、よく見たら互いに小さく口が動いているだけだ。

 一体どうしたのだろうか、あれでは単に内緒話をしているように見える。

 もうしばらく様子を見るが、一向に変化が起きない……というか今更だがこの構図、恋愛ゲームの主人公がヒロインとデートをしている時に、もう一人のヒロインがその場を目撃してしまったみたいな感じがする。

 その場合、ブラッドが主人公でロザリーがヒロイン、自分がもう一人のヒロインになってしまうが。

 

 ともかく、このままでは埒があかないので、声をかけることにした。

 

「……いい? 絶対に気づかれちゃだめよ、あくまで自然に元気付けるのよ」

 

「……なぁ、思ったんだけど、やっぱりそれ逆効果になるんじゃないか? 下手に刺激すると余計に思い出させちまうんじゃ……」

 

「何言ってんのよ、だから自然にこう……それとなく元気付けるのよ」

 

「お前の言ってることが全くわからんぞ……」

 

 近づいていくにつれ二人の様子がよくわかってきた。

 どうやら本当に内緒話をしていただけのようだ。

 会話の内容は聞き取れないが……これから帰る故郷の話に花を咲かせているとかだろうか。

 

「……お、おはよう二人とも」

 

 とりあえず挨拶をする。

 

「え、あ!? お、おはようウィズ! 今日もいい天気ね!」

 

 明らかに動揺をするロザリー。

 ふむ……自分には聞かれたくない話だったのかな?

 

「えっと、二人で話していたいならどっか行ってようか?」

 

「そんなことないわよ、さぁもう馬車は来てるしはやく乗りましょ!」

 

 明らかに様子がちょっと変なロザリーから視線を外し、ブラッドに向ける。

 気にしないでくれ、と視線で答えてきたブラッドと共にロザリーの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車で別の街に行くのに、何も乗客は観光客だけではないらしい。

 行商人や商人、その護衛として雇われた冒険者など、馬車を利用する人は様々だ。

 そして冒険者である自分たちは、護衛として雇われることができるので、料金を払わずに馬車に乗ることができるらしい。

 その代わり命懸けで馬車を守らなくてはならないが、それこそ冒険者冥利に尽きるというもの。

 そういうことで、馬車の護衛として乗車してから数分後、ガタゴトと車輪が回って地面と接触する音を鳴らしながら馬車は街を出た。

 

 気が付けば景色は既に見慣れない風景になっており、アクセルの街は見えなくなっていた。

 馬車の横手にある窓から顔だけを出し、辺りを見回す……見事に一面荒野だ。

 アクセルの街の近くには平原とか森くらいしかないと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 こうして初めての景色を目の当たりにすると、改めてここは異世界なんだなと感心を覚える。

 

「ちょっとウィズ、さっきからブラッドがスカートの中覗こうとしてるからその体制辞めた方が良いわよ」

 

「は!? そ、そんなことしてねぇよ!」

 

 向かい側に座っているロザリーからそんな言葉が聞こえてきた。

 今の体制は膝立ちしている状態なので、確かにちょっと下から除けば中身が見えてしまうだろう。

 因みにロザリーの言う通り今の自分はスカートを履いている。

 少し前の自分だったら抵抗があっただろうけど、自分は気づいてしまったのだ。

 スカートって凄い動きやすいってことに。

 スボンと違い、肌にピッタリとしていないためか、関節の可動にムラがないのだ。

 冒険者という常に危険が潜む職業、日々のモンスターとの戦いでは動きやすさがなにより重視される。

 そこでスカートや短パンといったものを着用することで、それが少しでもスムーズに行えるようになるのだ。

 ゲーム風に表すと、素早さが少しアップした。

 

 とはいえそろそろ冬が近いらしいので、何かしらの防寒着は必要になってくるだろうが……まぁそのとき考えれば良いだろう。

 ともかく、そういった理由もあって最近はスカートや短パンといった服装が多くなっている。

 別にもう恥ずかしく感じたりはしない、むしろ何故か最近はしっくりというかそんな感じがしてしたくらいだ。

 それと昔だってスカートみたいな鎧を着ていた帝国軍だとか何とかいただろうし、男性にだってスカートを履く権利はあるだろう。

 ……それに下手に男性用の格好していると、逆に注目を集めてしまうのだ。

 確かに自分も男性の格好した女性が視界に入ったら多少は注目してしまうし、わからなくもないのだが……流石にそんな視線に耐えきれずはずもなく、しまいにはロザリーに似合ってないとハッキリと言われてしまったので、今は大人しく女性の格好をしている。

 実に悲しい。

 

「違うぞウィズ、俺はただロングブーツとスカートの間にある太ももをちょっと見てただけだ」

 

「同じことよこの変態!」

 

 どうやらブラッドは自分の絶対領域を見ていたらしい。

 

「えっと、別に気にしてないから……だから狭い馬車の中で暴れないでよ二人とも」

 

 この二人は街中だろうが街の外だろうがダンジョンの中だろうが所構わず戯れ合う。

 最近この二人の関係が本当によくわからない……むしろ付き合っている同士だというのならまだ納得するのに、二人に聞いてもただの腐れ縁と答えるのだ。

 

「そ、そういえば二人の故郷ってどんなところなの? 名前すら聞いてないから何も知らないんだけど……」

 

 互いの頬を引っ張り合う二人に質問を投げつける。

 喧嘩を止める目的もあるが、質問自体もちゃんと答えを知るためでもある。

 何とも間抜けな話ではあるが、今向かっている二人の故郷とやらについて自分は何も知らないのだ。

 単に聞くタイミングを逃していただけだが。

 

「ん? そういえば言ってなかったけ……あたし達の故郷の名前はラーグリスってとこよ」

 

 ラーグリス……名前だけではどんな所かは全く想像がつかない。

 

「そうね、どんなところかって言うと……」

 

 ロザリーは何か言おうとして、何故か途中で口を止めた。

 

「……いえ、着いてからのお楽しみってことにしときましょ」

 

「え、えぇ……」

 

 言いたいことはわかるが、ここでお預けというのは……

 ——そして突如馬車が急停止した。

 

「冒険者の方達! モンスターです!」

 

 自分達が乗っていた馬車の手綱を引いていた男が慌てた様子でこちらに言ってきた。

 念の為感知魔法を使うと確かに反応が……

 

「え、多過ぎない?」

 

 十やそこらの数ではない。

 一瞬感じただけでも、間違いなく三十以上の反応が感知できた。

 まだ馬車からは距離があるが、確実にこちらに向かってきている。

 

「モンスターの襲撃だ! 護衛の冒険者達はすぐに武装して襲撃に備えろ!」

 

 馬車の外で誰かが叫ぶ。

 それを引き金に、慌てて馬車を降りると既に武装し終えた何人かの冒険者達が戦闘の準備をしていた。

 

「なぁ、どんなモンスターが近づいてきてるんだ?」

 

 ブラッドが近くにいた戦士風の冒険者に訊ねる。

 

「あぁそれがだな、俺の仲間の盗賊職のやつが敵感知スキルで感知しただけだからまだどんなやつかはわかんねぇんだよ」

 

「しかもかなりの数らしいぞ、となるとリザードランナーか走り鷹鳶の群れか?」

 

 冒険者達が騒つくなか、荒野の向こう側から砂煙が現れ始めた。

 あれがそうなのだろうか。

 

「……いや、リザードランナーでも走り鷹鳶でもないぞ! マジックイーターだ!」

 

 弓を背負った冒険者が叫ぶ。

 どうやらモンスターの正体はマジックイーターとか言う奴らしい。

 そしてそれと同時に冒険者達がざわつき始める。

 

「ねぇ、マジックイーターって?」

 

 一体冒険者達は何に驚いているのだろうか。

 隣にいたロザリーに訊ねてみる。

 

「マジックイーターはその名の通り魔力を糧にして生きてるモンスターよ。性格はかなり温厚で、基本的に人に害を及ぼす事のないモンスターなんだけど……」

 

 ……なるほど、そんな普段は温厚なモンスターが敵意を持ってこちらに近づいてきているのは確かに異常かもしれない。

 

「……実はマジックイーターって、普段は自然の中にある魔力を吸収してるんだけど、高密度の魔力を感じると興奮して何が何でもその魔力を吸収しようと躍起になるっていう特性もあるみたいなのよ……だから多分商人とかの荷物から、魔道具とかの魔力を感じてこっちに近づいてきてるんだと思う」

 

 ふむ、一見温厚な性格だが、その正体は魔力暴食モンスターということか。

 どうやら奴らは、馬車から何かしらの高密度の魔力を感じて、ただいま興奮中らしい。

 

「見えてきたぞぉ! マジックイーターの群れだ!」

 

 気が付けばかなりの距離を縮めてられていたようだ。

 ——それは一言で表すとしたら……巨大な口を持ったミミズだった。

 

「うわぁ、ちょっと生理的に無理かも……」

 

 大きさはジャイアントトードほどだろうか。

 巨大なミミズが砂煙を巻き上げながら地上を這って近づいてきている……それも何匹もだ。

 正直言ってかなり気味が悪い光景である。

 しかしそんな理由で引き下がるわけにもいかないので、いつでも魔法を放てるように魔力を込み上げる。

 動きはそれほど速くはないマジックイーターは、真っ直ぐと幾つもある馬車に向かって突進してきている。

 それに対して盾を持った冒険者達が並行に並んで壁を作り、その後ろでアーチャーやウィザードといった後衛職が攻撃の準備を始める。

 流石冒険者だけあって、こういう時各々の役割を把握している。

 

 しかしここで予想外の出来事が起きた。

 なんとそのまま真っ直ぐ馬車に突っ込んでいきそうな勢いだったマジックイーターの群れが突然方向転換したのだ。

 具体的には、馬車の左側にいる自分達に向かって……

 

「え、えぇ!? ち、ちょっとなんでこっちに……!」

 

 驚きのあまり集中が切れ魔力を散らしてしまった。

 ともかく奴らの突進を避けなければ……!

 

「……って、なんで追いかけてくるの!?」

 

 なんと奴ら、馬車や他の冒険者に目もくれず、一匹残らず自分の後ろを凄い勢いで追いかけてきたのだ。

 ひとまず走り続けるが、奴らも動きを止めずに一心不乱になって自分を追いかけてくる……

 チラリと視界に入った他の冒険者達も、驚きの表情を浮かべていた。

 おかしい、こいつらは商人の荷物に混じってる魔道具とかを狙いにきたのでは……

 

「くっ……『インフェルノ』!」

 

 ひとまず応戦すべく、炎の上級魔法を放ったが……

 

「うそ! 効いてないの!?」

 

 多少皮膚らしきものに火傷の跡がついたが、奴らはピンピンしてた。

 

「ウィズー! そいつらアホみたいに魔法抵抗力高いから上級魔法でもダメージはあまり入らなわよー!」

 

 少し遠くでロザリーがそう言った。

 考えてみればそうか、魔力を餌としているなら魔力を使った魔法攻撃はむしろ奴らに餌を与えているようなものだ。

 というか……

 

「み、見てないで助けてよー!」

 

 ロザリーだけでなく、他の冒険者達にも向けてそう叫ぶ。

 

「そうしたいのは山々なんだけどー、マジックイーターって物理攻撃が有効なんだけど、あんな動き回ってちゃ近づくことすらできないのよー。というかなんで追っかけられてるのか心当たりとかないわけー?」

 

 そ、そう言われても心当たりなんて……いや、待てよ。

 もしかして自分の持ち物の何かにマジックイーター達は反応しているのかもしれない。

 キールから貰った杖……は杖自体には魔力を増幅させる鉱石くらいしかないので違う。

 着ている服……特に魔力が込められている物でもないし違う。

 あとはポーチに入っている今朝商店街で買った魔道具……これも高密度の魔力が込められているわけでもないし……

 そしてポーチの中を弄っていた手に、石を触っているかのような感触が伝わってきた。

 これは確か……

 

「も、もしかしてこれが原因……?」

 

 引っ張り出したのは以前買い占めたうちの一つの最高品質のマナタイト。

 いざという時のために一つ携帯していたのだが……

 おそらくこのマナタイトに込められた魔力にマジックイーターは興奮しているのだろう。

 

「それよそれー! はやく捨てなさい!」

 

 ロザリーからマナタイトを捨てるように言われた。

 ぐっ……捨てるなんて勿体無い気がするが、今の状況ではそれしか手段がない。

 そろそろ走る足に限界がきてるし、このままでは追いつかれて奴らの下敷きになってしまう。

 

 覚悟を決め、最高品質のマナタイトを投げ捨てる……うっ、許してくれマナタイト。

 今頃家にいる君の家族達は君のようにモンスターの餌になんかせずにちゃんと使うから……

 ともかくマナタイトという犠牲を払ったことで、奴らの注意も地面に転がっているマナタイトに向くだろう。

 そう思って、走るのをやめて改めて後ろを振り向く……そこにはあいも変わらず自分を追いかけてくる巨大なミミズが何匹もいた。

 

「な、なんでぇ!?」

 

 確かにマナタイトの方にも何匹かが群がって、口から触手なようなものを出してマナタイトをなめるようにしていた。

 多分あの触手でマナタイトの魔力を食っているのだろう。

 しかし残りの奴らは今だにしつこく追いかけてきている。

 

「ちょっとー! まだマナタイト持ってるんじゃないの!?」

 

「も、もう持ってきてないよ!」

 

 これは本当のことだ。

 持ってきていたのは投げ捨てた一個だけだし、念のためポーチの中をもう一度探るが、マナタイトはもう入っていない。

 では何故奴らはまだ自分を追いかけてきてるのだろう。

 

「……あ、わかったわ!」

 

「な、何が!?」

 

 突然ロザリーが閃いたように叫ぶ。

 

「多分そいつら、ウィズ自身の魔力に興奮してるのよ!」

 

 …………

 把握したくはなかったが、ロザリーの言葉で完全に把握してしまった。

 女神様から貰った膨大で莫大な魔力。

 確かに奴らからしたら、それを持っている自分は極上の餌に見えるのだろう。

 なんてこった……

 

「というわけでウィズ、そのまま大人しく奴らの餌になりなさい。魔力を吸い取ってる間は動きが止まるだろうから、その間に全員で奴らを叩くから」

 

「えぇ!?」

 

 餌になれと申すかこのプリースト様は。

 ほら、他の冒険者達もロザリーの提案に引いてる様子ですよ。

 

「大丈夫よ、あんたの魔力量なら全部吸い取られる前に満腹になって大人しくなるだろうし、死にはしないわよ」

 

「そういう問題じゃないからね!?」

 

 何が悲しくて自らモンスターの餌になりにいく冒険者がいるのだろうか。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 まずい、本格的に息があがってきた。

 足も既に限界に近いし……なにより、さっきから走っているため胸が大きく揺れてかなり痛い。

 胸が大きい人が走ると、胸に激痛が伴うという母の言葉は正しかったことを身を以て思い知らされた。

 あと何故な遠巻きに見ている男冒険者達から変な視線を感じる……

 

 こ、こうなったらやられる前にやるしかない。

 いくら魔法抵抗力が高かろうが、爆裂魔法を数発当てれば……うんだめだ、いま爆裂魔法なんて使ったら間違いなく自分もお陀仏だ。

 

「!? 痛っ……!」

 

 突然足首に何かが巻きついてきて引っ張られた。

 その反動で思いっきりこけてしまう。

 一体何が足首に……と目線を自分の足に向ける。

 ……そこには見覚えのある触手のようなものが巻きついていた。

 

「ひゃああああ!?」

 

 そして次々と身体中に巻きついていく触手。

 このおぞましい数の触手は間違いなく何十匹もいるマジックイーターのものだろう。

 そしてそれと同時に身体から何かがなくなっていく感覚がする……それは魔法を使った後の感覚に似ていることから、おそらく魔力が吸い取られているのではないかと感じた。

 

「ちょ、まって! ていうか凄くヌメヌメしてるしこれ!? だ、誰かー! 助けむぐっ……!」

 

 手や足にも触手が巻きつき、しまいには口を塞がれる。

 完全に拘束されてしまい、魔力を吸われ続けている状態のままでは集中が出来ず魔法の一つも使うことができない。

 ……完全に終わった、詰みである。

 今の自分にできることといえば、はやく助けが来るのを祈る事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヌメヌメ、ミミズ……こわい」

 

「あー……大丈夫……ではないわよね」

 

「どうすんだよ、完全にトラウマになってんじゃねぇか」

 

 あの後無事にマジックイーターの魔の手から救出してもらったが、心には大きな傷が残ってしまった……

 最近意識が薄かったが、ここは異世界。

 モンスターが当たり前のようにいる世界だ。

 モンスターの中にはそれはもうグロテスクだったり見るに耐えない外見をしている奴もいるだろうとは覚悟はしていた。

 していたが、まさかマジックイーターの口の中があんな風になっているなんて……あぁだめだ、思い出しただけで震えが止まらない。

 

「いやぁまさか丸呑みにされるとは思わなかったわね、そんなにウィズの魔力が美味しかったのかしらね?」

 

「おい、話題そらすにしてももっとマシなのあるだろバカ」

 

 ブラッドがロザリーを小突く。

 

「わ、わかってるわよ……えっと……あ、そういえばさ! ウィズってもしかしてランサーの槍スキル持ってたりするの?」

 

「……? いや、持ってないけど……どうして?」

 

 自分の職業はアークウィザードだ。

 冒険者の職業ならいざ知らず、アークウィザードがランサーのスキルを習得出来るわけがない。

 

「だってウィズってたまにその杖を槍みたいに使うときあるじゃない? その時のウィズの槍捌きはまるでランサーなんじゃないかって思うくらい凄いし、この前のダンジョンで使ったルーンナイトの魔法しかり、もしかして冒険者の職業みたいに他の職業のスキル習得できる特殊な能力でも持ってるのかなーって思って」

 

 ロザリーの言う通り、状況に応じて自分も接近攻撃をしなくてはならない時があるので、キールの杖を槍の代わりに扱う時もある。

 ちょうど先端に刃がついてるし。

 しかしランサーの槍スキルを習得してるわけではない、女神様から貰った特典はあくまで魔法限定で他の職業のスキルを習得できるというものだ。

 習得したくても魔法以外のスキルは習得できない。

 

「えっと、私のその……能力は他の職業の魔法も習得できるってだけで、ランサーの槍スキルは習得できないよ」

 

 自分で言ってて確かに不思議に感じた。

 昔から棒遊びはよくしていたから槍の扱いもそこそこできるのではないか……と勝手に納得していたが、冷静に考えるとちょっとおかしく感じる。

 たかが子供の遊びで槍の技術なんて身につくはずがない……けれど、自分で言うのもなんだが確かに槍術は本職に劣らないくらい扱えている。

 もしかして最初っから槍の才能があったとか……?

 

「そうなの? じゃあ冒険者になる前に槍の訓練でもしてたとか? スキルで身につけた技術じゃなければアークウィザードのウィズでも槍が使えてもおかしくないし」

 

「冒険者になる……前?」

 

 冒険者になる前、自分は日本で家族とごく普通の日常を送って……

 

『ねぇ、お礼を言わせて——』

 

『……お礼を言われるようなことはしてないさ。むしろ私の我儘で君を危険な目に……』

 

『ううん、そんなことはないわ。だってあなたは私を救ってくれた……だからお礼を言いたいの、——』

 

 あれ、なんだろうこの光景……知らないことなのに知っている?

 自分の記憶じゃないのに記憶がある?

 じゃあ誰の記憶、一体誰の……

 

「ち、ちょっと……? 大丈夫ウィズ? ぼーっとしてるけど」

 

「え、あ……うん? 大丈夫……だよ?」

 

 一瞬意識が飛んだような感じがしたが……あまりの恐怖に疲れ切っていたのだろうか?

 ——とここでまたもや馬車が止まった。

 

「冒険者の方々、今日はここいらで休憩にするみたいです」

 

 馬車の引き手がそう言って馬車から降りる。

 二人の故郷のラーグリスまでは、馬車でも1日以上はかかってしまうのと、モンスターが活発になる夜をそのまま進み続けるのは危険という理由から、一旦馬車を止めて朝になるまで野宿をするらしい。

 その間護衛の冒険者達は交代で見張りをし、馬車を守るのが鉄則みたいだ。

 

 ——そして冒険者同士で見張りの順番を決めた結果、自分達のチームが一番最初の見張役になった。

 またあの巨大ミミズが来たらどうしようと内心ビクビクしながら、円形状に並べてバリケードがわりになっている馬車の周りをぐるぐると周りながら周囲を警戒する。

 ちょうど一周した辺りで、馬車を背もたれにして座り込んでるロザリーとブラッドがいた。

 二人して何してるのだろうか。

 

「あーウィズ? 別にそんなに真剣にしなくていいのよ、いくら夜だからって冒険者が密集してるとこに無闇に襲撃するモンスターなんてそうそういないわよ。それに何か起きる前にウィズの魔法とか休んでる盗賊の人とかが気づくでしょ。ほら、もっと肩の力を抜いて」

 

「そうはいうけど……」

 

 確かに一定間隔で使用している感知魔法には先程から何も反応がない。

 魔力をいつもより込めているので、広い範囲で感知魔法を使っているにも関わらずだ。

 しかしだからと言って安全とは言い切れないし、油断は禁物だと思うのだが……

 

「いいからっ、あんたも座って上を見てみなさいって」

 

 しばらく躊躇したが、結局こちらが折れてしまい、ロザリーの言葉に従って座り込む。

 そして上……空を見上げる。

 

 ——そこには満天の星空が広がっていた。

 正直その光景に呆気を取られ、しばらく言葉が出なかった。

 別にこの世界の夜空を見上げるのは初めてではない。

 けれど自分のいた世界の夜空より遙かに美しく感じた星空が、何故だかこの時だけさらに美しく感じた。

 人工物が何もない荒野だからだろうか、それとも冬が近づいて星が見えやすくなったのか。

 

「……まぁどっちでもいいか」

 

 過程がどうあれ、この美しいという結果は変わらない。

 それなら、折角なのでこの光景を一秒でも多く楽しまなくては損というものだ。

 

「……ぶえくしゅ! あぁ、流石に夜は冷えるな……」

 

 三人で景色を楽しんでいると、突如ブラッドが盛大なくしゃみをした。

 まぁ確かにここ最近の夜は冷える。

 バリケードの真ん中では焚き火をしているからそちらは暖かいだろうが、外で見回りをしている自分達にはその暖かさは届かない。

 

「……あ、そうだ」

 

 一つ思いついた事があり、二人に断ってから馬車の中にある自分の荷物からある物をいくつかを持ち出す。

 それらを両手で抱えながら、二人の座っている場所まで戻り、早速準備に取り掛かる。

 小さいシートを地面の上に広げ、その上にある道具をいくつか乗せていく。

 一体何を始めるのか興味津々な二人の視線を受けながら、アルコールランプに似た道具に魔法で火をつけ、透明な瓶の容器に水を入れてからそれをランプの上に置く。

 やがて水は沸騰をし始め、お湯へと変わっていく。

 そこまでの動作で二人は自分が何をしようとしているのか理解した様な表情を見せた。

 

「……まさかそれいつも持ち歩いてるの?」

 

「いつもじゃないけど……長旅になるなら必要かなって思って」

 

 数分の時間を使って作業を進め、やがてそれは完成した。

 完成したのは色が付いた液体……それを容器に入れて二人にわける。

 

「はい、淹れたての温かい紅茶だよ」

 

 そう、持ってきたのは紅茶セットだ。

 やはり寒い日に外にいるときは、温かい飲み物と相場が決まっている。

 本当はあらかじめ作っといたのを持ってきたかったのだが、あいにく保温する方法が見つからなかったので断念した。

 

「外で淹れたての紅茶飲むなんて初めての経験だわ……あ、美味しい」

 

「……確かに美味いな。紅茶なんて誰が淹れても同じだと思ってたよ俺」

 

 二人の反応からして好評そうでなによりだ。

 自分も淹れたての紅茶を一口飲み、さっきまで考えていた事を口に出した。

 

「ねぇ二人とも、もしかして私のこと気に掛けてくれてる?」

 

 そう言うと二人は動きを止める。

 顔には悪戯を親に見抜かれた子供の様な印象があった。

 

「あー……流石にバレちゃった?」

 

「うん、だってロザリーがいつも以上に心配してくるし、この前のことも合わせるとそれしかないかなって」

 

 この二人はこの前の百年ガエルの討伐記念の宴会での出来事を未だに気にしていた様だ。

 だから今回の旅行に自分を誘って元気付けようとしていたのだ。

 おそらく責任でも感じているのだろう。

 

「まったく……気にしてないって言ったでしょ」

 

「……まぁあんたならそう言うと思ってたし本心からそう思ってるのはわかってたわよ。けどねウィズ、これはあたしなりのけじめなの。誰かを傷つけたままそのまま放置なんてしたくないのよ」

 

「え、けどお前よく俺を殴ってそのまま放置してる時結構あるよな……ぁ!? ほら今まさに……!」

 

 殴られた箇所を痛そうに手で押さえてるブラッドを無視して話を進めるロザリー。

 

「……それにあの時のウィズ、本当に悲しそうな顔してたのよ? あんな表情されたらほっとけないじゃない」

 

「ロザリー……」

 

 良いこと言ってるけど、その前に割と本気で痛がってるブラッドに回復魔法掛けてあげたらどうだろうか。

 

「……ロザリー、確かに家族に会えないのは寂しいよ? けれど少なくとも今私は、私のことを心配してくれてる人がいるってだけで幸せなの……だから本当に気にしなくていいから」

 

 これは本心だ。

 多分仲間という存在がいなければ、今頃自分は負の感情に押し潰されていたかもしれない。

 見知らぬ世界でたった一人……想像もしたくない光景だ。

 

「そう……よね。余計なお世話だったかしら……」

 

「うん、だから今からいつも通りにしよう。きっといつも通りの私たちでも楽しい旅行になるから」

 

 もう一度上を見上げる。

 そこには変わらず美しく星空がどこまでも広がっていた。

 

 

 

 

 




『マジックイーター』
 魔力を糧にしているモンスターで、見た目は巨大なミミズ。
 魔法抵抗力が高く、物理攻撃が有効。
 高濃度の魔力を感じると、それを食べるためにどんな相手であれ襲い掛かってくる。
 普段は大気中の魔力を長い舌を使って食べている。
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