力に酔う、そんな言葉を実際に実感できる日がくるとは思いもしなかった。
「あぁ、魔力が抑えきれない……」
リッチーになった私の魔力は、もはや人間のそれを超えている。
歩くだけで地面は凍りつき、道中のモンスター達は襲ってこようとはせずむしろ逃げていく一方だ。
「これなら……いける」
目の前には『かつて』目指していた魔王城があり、当然のように結界によって中への侵入はできないようになっている。
前の私だったら、結界をどうする事もできずにおめおめと帰るしかなかったが……今の私なら。
「よいしょ……わぁ、豆腐みたいに切れた」
もはや魔法を使うのに詠唱どころか、『詠唱破棄』も必要ない。
ただこの魔法を使いたいと思うだけで、それは形となる。
現に、ライト・オブ・セイバーの魔法を使おうと思っただけで、あれだけ脅威だった結界が豆腐を包丁で切れるかのようにあっさり破った。
「さて、ベルディア……さんを探さなきゃ」
ベルディアが魔王城を出たという情報はない。
つまりまだ城の中にいるはずだ。
溢れ出る魔力の影響で少しテンションが変なのか、自然と鼻唄を歌いながら軽いスキップをして城の中へと入ってくる。
「一体なんだ! まさか結界が壊されたのか!?」
「冗談だろ!? あの結界を破るやつが人間にいるはずが……!」
「おい、あそこに誰かいるぞ! 侵入者だ!」
すると色んな種族のモンスター達がゾロゾロと出てきた。
多分城の警備兵とかそんなところだろう。
「おい、なんだお前は!? 一体何者だ!」
そして私を取り囲み、そう言ってきた。
「あのー、私ベルディアさんっていう幹部の人……アンデッド? に用があるんですけど、今いますか?」
「べ、ベルディア様だと? ベルディア様は今養生中だ、面会はできない。それよりお前は……」
「お、おい、こいつ確か懸賞金をかけられた凄腕冒険者パーティーのリーダーだぞ!」
おや、どうやら魔王軍にも私達のパーティーは名が知れているようだ。
「相手は一人だ、全員でやっちまえ!」
「え、えぇー。あの、私別に殴り込みに来たとかそういうわけじゃなくて、あくまでベルディアさんだけに用が……あぁもう、しょうがないですね」
話を聞かないのなら仕方がない、実力行使というやつだ。
「な、なんだあの女! 全く詠唱せずに魔法を使ってるぞ!」
「ヤバイぞ! こっちにくる……がっ!!」
一瞬で力の差を感じ取ったのか、兵士達は氷漬けになった仲間たちを置いて散り散りに逃げていく。
魔王の城を守る兵士として、それは如何なものか。
「もらったぞ女!」
すると背中の方から槍を持った兵士が、私の背中目掛けて槍を突き刺そうとしてきた。
確実に致命傷だろう……以前の私だったら。
「……は? え、なんで槍の方が折れて……?」
「すいません、ベルディアさんがどこにいるか知りませんか?」
くるっと振り返り、笑顔でその兵士にそう聞いてみた。
何故か兵士は、信じられないものを見たような表情で私を見ている。
「あ、あぁ……ば、バケモノォォォォ!!」
……酷い言われようだ。
というか、逃げる前に場所くらい教えてくれても良いのではないだろうか。
……仕方ない、地味に探そう。
「よくここまで来たな冒険者よ、まずはその勇気と無謀さに称賛をしてやろう……」
「あ、ありがとうございます。それで、ベルディアさんがどこにいるか知ってますか?」
「は、話は最後まで聞け! しれっと興味なさそうに質問をするな! あと褒めてるわけじゃないからな!」
城の中へと入り、大広間にらしか場所にたどり着くと、少し大柄な男が一人出てきた。
「はぁ、そうなんですか……じゃあベルディアさんの場所を教えてください」
「言い方の問題でもないわぁ! 先ずはお前は何者だ、だとか聞くところだろう!?」
何をそんなに怒っているのだろうかこの人は……
「はぁ、はぁ……まぁいい、俺は魔王軍幹部が一人、デッドリーポイズンスライムの変異種、名はハン……っ!?」
何だか面倒くさそうなので、とりあえず氷漬けにしておくことにした。
ごめんなさい、デッドリーポイズンスライムのハン……ハンさん? 私急いでるので。
「すいません、ベルディアさんの居場所……教えてくれませんか?」
「あ、あああっちだ! そこの角を曲がった突き当たりの部屋だ!」
「まぁ、ありがとうございます!」
やっとだ、やっと親切な方から貴重な情報を教えてもらった。
あの後も押し寄せてくる兵士や、シル何とかさんを撃退し、意識がある者に何度も何度もベルディアの居場所を訊ねたが、大体が逃げるか恐怖で気絶するばかりで、聞けずじまいだった。
しかし諦めずに訊ね続けた甲斐があった。
軽い足取りで、通路を歩いていくと確かに突き当たりに部屋に通じるであろう扉があった。
しかもご丁寧に『ベルディア、養生中』と掛札があるではないか。
先ずは礼儀正しく、扉をノックしてから……
「あ」
いけない、ノックしようとしたら誤って魔法を放ってしまった。
扉は大きく吹き飛び、部屋の中から男の悲鳴が一瞬聞こえた。
「な、ななななんだなんの騒ぎだ! こちとら今は養生中だ! 静かにできんのかぁ!」
すると部屋の奥から黒い鎧を着て、頭と胴体が分かれているデュラハンが怒りながら出てきた。
「ごめんなさい……ノックしようとしたんですけど、なにせまだ魔力のコントロールができてなくて……扉壊しちゃいました」
「いやいや、もう扉壊しちゃいました……ってレベルじゃないぞこれ! 部屋が半壊してるじゃない……か? だ、誰だお前は?」
おや、どうやらベルディアは私のことを覚えていないようだ。
一応、以前あなたと死闘を繰り広げた冒険者なのだが……
「ほら、一ヶ月くらい前に戦ったじゃないですか。まぁ私は殆ど後方支援してたのでちゃんと顔を合わせるのは初めてですが……」
「一ヶ月前……もしや俺を待ち伏せして襲ってきた冒険者達の一人か? いやしかし、結界をただの人間が破れるはずが……はっ、さてはお前バニルだな!? そうやってまた俺好みの女に化けて、良いところで『フハハハハ! 残念我輩でした!』とか言って俺から悪感情を戴くつもりだろ!?」
……何してるんだろうあの悪魔は。
てっきり人間だけに嫌がらせをしてるのかと思えば、そうでもないようだ。
「バニルさんじゃないですよ、私は……」
名前を言おうとして、ふっと思った。
もはや今の私は、『ウィズリー・リーン』ではないのかもしれない。
つまりかつての私は、もう死んだのだ。
「……私は『ウィズ』って言います。あなたに死の宣告をかけられた冒険者達の仲間です」
なら、今の私にピッタリな名前はこれしかないだろう。
「死の宣告…………ああ思い出したぞ! お前懸賞金がかけられているある冒険者チームのリーダーだな! まさか俺に深手を負わせた冒険者達のチームリーダーが一人で乗り込んで来るとはな……まさか仲間の呪いを解くために俺を倒しに来たのか?」
「えっと……まぁそんなところですね」
別にもう倒すつもりはないので、呪いだけ解いてもらえればそれで良いのだが……
「ハハハハハ! こいつは傑作だ、どうやって結界をこえたか知らんが、一人でやってくるとは良い度胸だ……それなら、貴様にも仲間達と同じ目に合わせてやろう!」
そう言ってベルディアは、私を指差しながら死の宣告を唱えた。
「…………あれ」
しかしリッチーである私にそんなものは効かない。
「うーん、どうやら呪いを解く気はないようですね……仕方ありません、本当はしたくないんですけど、実力行使でいきますね」
「は、えちょ、まって! 俺今養生中だからあまり動けないから戦闘はちょっと無理というかなんというか……や、やめろ! こっちに来るなぁ!」
ベルディアは急に怯えはじめた。
頼みの綱である死の宣告が効かなくて、焦っているのだろうか。
「わ、分かった! よーし落ち着け、呪いだな!? お前がここにやって来たのは俺が貴様の仲間にかけた死の宣告を解くためなんだろう!? この魔王城の奥深くまで単身乗り込んできた度胸を讃え、仲間の呪いを解いてやろう! だから、今日のところは引き分けという事で……あ、や、やめろ、その不気味な笑顔でこっちに来るな! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あれ、バニルさんじゃないですか。わざわざ見にきたんですか?」
「……また随分とスッキリした顔をしているな面白魔道士よ」
気が付けば、部屋の外にはバニルさんがいた。
「面白魔道士はやめてくれません? 人を辞めた今となっては、私はもう冒険者じゃありませんしね」
「ならここは、初めましてと言った方が良いか?」
成る程、確かにその通りかもしれない……
「そうですね……初めましてバニルさん。駆け出しリッチーのウィズです……あなたとの約束を果たしに来ました」
「……いけない、もう夜……」
少し思い出に没頭し過ぎたようだ。
気が付けば日は傾き、もうすぐで夜になりそうだった。
「……今日もお客さん全然来なかったなぁ」
悪魔バニルとの契約は、バニルが望むダンジョンの作成を手伝うといった内容なため、それには莫大な資金がまず重要になる。
冒険者を辞めた私がお金を稼ぐには、商売をやるのが手っ取り早いという結論に至ったため、こうしてアクセルの街でお店を構えているのだが、どういうわけか売れ行きは良くない。
「まぁ良いか、のんびりやりましょう」
何せ私はリッチー、寿命はないため慌てる必要はない。
……それに、彼がこの世から解放され、生まれ変わるまでまだ時間はあるだろうし。
「ふふ、『お互い』生まれ変わったらまた会う約束だものね……『キール』」
本当は今すぐにでも会いに行きたいが、今の私に彼と会う資格はない。
あぁ、でもこんな事なら、まだ何も知らなかった頃にもっと沢山会いにいけば良かった。
「さて……そろそろ店仕舞いかな」
願わくば、明日はお店がお客さんでいっぱいになりますように……
『ウィズの冒険』
最初は普通にウィズの幼少期から、どうして冒険者になったのか……みたいな話を妄想して小説にしたかったのですが、ちょっと設定とか考えるのが難しく、今の形となりました。
あとキールさんにもちょっとスポットライトを当てたかったので、主人公の設定が凄い事になってしまいましたが……
完結するのに一年以上かかってしまいましたが、皆さんの暖かい応援のお陰で最後までやりきる事ができました、本当にありがとうございます。
もしかしたら番外編をするかもしれないので、その時はまたよろしくお願いします。
それでは、また何処かで……