この素晴らしい世界に祝福を! ウィズの冒険   作:よっしゅん

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キリが良いところで終わりたいので、一話が長かったり短かったりします。
つまり今回は短めです


この素晴らしい魔法で収穫を!

 

 

「……これでよしっと」

 

 冒険者ギルドの酒場に設置されてるテーブル席の一角に座りながら、開いていた魔法辞典を閉じ、自らの冒険者カードを懐にしまう。

 

「なになに? また新しい魔法習得したの?」

 

 向かい側の椅子に座ってるロザリーが、ネロイドと呼ばれるものを飲みながらそう聞いてくる。

 

「うん、初級魔法と上級魔法をいくつかね」

 

「初級魔法……? 上級魔法ならわかるけど初級魔法なんて使わないでしょ」

 

 ロザリーの言う通り初級魔法はその名の通り初級の魔法だ。

 初級魔法は攻撃力なんて皆無に等しく、戦闘には向かない魔法らしい。

 しかし戦闘以外ではそうでもないと自分は思う。

 例えば初級魔法の内の1つに、『ティンダー』という魔法がある。

 この魔法は要するに着火魔法で、指定した場所に小さい火を発生させることができる。

 この魔法さえあれば外で野営などをする時などに使う焚き火などで活躍できるだろう。

 『クリエイト・ウォーター』という魔法もあるが、これは綺麗な水を出すだけである。

 しかしいつでも魔力さえあれば水が出せるというのは魅力的ではないだろうか。

 人間水さえあれば1週間は生きられると聞いたこともあるし。

 とまぁ、使いようによってはとても役に立つと思われる初級魔法。

 どうせスキルポイントも1しか使わないし習得して損はないだろう。

 

「うーん、そう言われてみれば確かに使えそうな……ていうかウィズさ、あんたどんだけスキルポイントあるの? 上級魔法なんてそうやすやすと習得できるようなものじゃないと思うんだけど」

 

「スキルポイント? まだまだ余ってるけど」

 

「まだまだ余ってる……? ごめん、ちょっと冒険者カード見せてくれない?」

 

 素直に懐から冒険者カードを取り出しロザリーに手渡す。

 

「どれ……相変わらず魔力の量がおかしいわね。……あ?」

 

 途端にロザリーの顔つきがおかしくなった。

 

「……ねぇウィズ」

 

「どうかした?」

 

「あたしの目にはあんたのスキルポイントが3桁も残ってるように見えるんだけど……」

 

「その通りだけど……」

 

 しばらくの沈黙。

 

「え、じゃあ何? あんたのレベルまだ7だからレベルアップで得たスキルポイントってわけじゃないわよね? もしかしてこれ……初期スキルポイント……?」

 

「そうだけど……」

 

 初期スキルポイント。

 それは冒険者になった時に与えられるスキルポイントの量のことである。

 その職業への適性や才能が高いほど初期スキルポイントは多いという。

 故に人によっては多かったり、逆に少なかったりするらしい。

 多分自分の初期スキルポイントも特典によるものの影響かと思うが、どうやら自分は多い方らしい。

 おかげさまで好きな魔法を今のところ習得し放題だ。

 チート万歳である。

 

「ま、まぁウィズが規格外なのは今に始まったことじゃないか……この前のカエル討伐の時も上級魔法を何回か使った後例の魔道具を使い、それでも上級魔法を使い続けても魔力切れしない……凄いを通り越しておかしいとしか言えないわね」

 

 言われてみれば今のところ魔力切れとやらを起こした事はない。

 しかし無限というわけではなさそうだから限界はあるとは思うが……

 今度暇な時に魔力がなくなるまで魔法を唱え続けて確かめても良いかもしれない。

 

「うーん、ウィズって実は紅魔族だったりは……しないか。黒髪でも赤い目もしてないし変な名前でもないし」

 

「……前から気になってたんだけど、その紅魔族って何なの?」

 

 冒険者登録した時と、魔道具を買った時の2回。

 紅魔族という単語を聞いた覚えがあるが、紅魔族とは一体なんなのだろうか。

 

「あー紅魔族ってのはね……一言で言うなら変な種族かな」

 

「変な……?」

 

「見た目は黒髪で真っ赤な瞳をしている人達なんだけど、紅魔族は誰も彼もが生れながら高い魔力と知力を持っていてね。子供の時点で既にアークウィザードになれるほどの実力を持っているらしいわ」

 

 一体その人達のどこが変だと言うのか……普通に魔法使いのエリート集団の様な気がするが。

 

「ただ、他の人とは少し……いや、かなりずれた思考をしてるのか、変にカッコつけたがるのよ。自己紹介の時も『我が名は!』とか言うし、戦闘の時も特に意味のない、本人達曰くかっこいいセリフとやらを叫んだり……」

 

 なんだろう、何か自分がいた世界でも似た様な症状がある病気が……

 

「あと名前が変ね、思わず本名なのか疑うくらい」

 

「そんなに変なの……?」

 

「あたしが昔知り合った紅魔族の人の名前は確か……『ゆった』さん」

 

「…………」

 

 ゆった。

 ……いや、まぁうん。

 名前はその本人が大事にさえしていればそれは掛け替えのないものになるだろう。

 例え他の人から変だと思われようが……きっとそうに違いない。

 

「まぁそんな紅魔族よりも魔力値がバケモノ級のウィズはほんとすごいと思うわよ?これは確実に歴史に名を残せるわねウィズ」

 

「その時は、魔王を討伐した勇敢なアークウィザードとその仲間達の名前も残さないとね」

 

「そうね……! エリス教徒のプリーストが魔王を討伐したパーティーに参加していたとなったら、あの憎きアクシズ教団もぐうの音もでないでしょう! その時があんたらの最後の日よ邪教徒共!」

 

 何やら一人盛り上がるロザリーを見ながら、宗教争いでも起こす気なのだろうかと思う。

 そういえばあの女神様、こっちの世界についたら私の信者がどうのこうの言っていた気がするが、この世界では割と信仰されている神様なのだろうか。

 まぁ水の女神と言ってたし、きっととても偉い神様なのだろう。水は人には欠かせないものだし。

 

「ただ性別を強制的に変えられるとはなぁ……」

 

 この世界に来てから一週間。

 あんなに苦労したトイレも今では慣れてしまった。

 どんどん女の体に慣れていっているが、これ仮に魔王を倒して男に戻れたとしても、逆に苦労しそうな気がしてならない。

 そもそも魔王は本当に倒せるのだろうか?

 よくよく考えてみれば、あの美国さんのように、自分以外にも日本からの転生者は過去にも何人かいたはずだ。

 もちろんチートを貰って……

 それにもかかわらず、今もなお魔王が健在しているとなると、チートを持っていても魔王を倒すのは難しいということだ……

 となると下手したら一生女の子として過ごすしかないのか、そしてそのうち男の人に恋慕の情が湧いたりするのだろうか……

 うわぁやだなぁ。

 

「おーい二人とも、良い感じのクエストがあったぞ……ってどうしたんだ?」

 

 椅子の上に片足を乗っけて一人で盛り上がってるロザリー、それと顔を伏せぶつぶつと呟いてる自分をみたブラッドは困惑するしかなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「エギルの木?」

 

「あぁ、繁殖スピードが速くなってきて森の外まで広がりそうだから伐採して欲しいとの依頼だ」

 

 木というからには植物の木だろうか。

 そしてその木が森の外まで広がるのを阻止して欲しい……

 つまりそのエギルの木とやらは、雑草のように他の植物から栄養を強奪してしまうといった害があるということか。

 なるほど、放っておくと自然が崩壊しそうだ。

 

「森の入り口周辺だけでいいそうだ。報酬は十五万エリス」

 

「ほーん、なかなか気前が良い報酬ね。今から受けてもお昼過ぎくらいに終われそうだし、あたしは文句ないわよ」

 

「同じく」

 

「よし、決まりだな! じゃあ早速受理しにいくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の外の平原を抜け、しばらく歩くと大小様々な木々が立ち並んだ森のようなものが見えてきた。

 あそこが今回の目的地らしい。

 

「ところで、エギルの木ってどんな見た目してるの?」

 

 あいにく植物には詳しくない。

 それも異世界の植物となったらお手上げだ。

 見た目どころか名前すら知らないのだから。

 

「エギルの木はねぇ……あ、あれあれ。あの枯れ木みたいのがそうよ」

 

 ロザリーが指差した先には、花や実どころか葉っぱすらないまるで枯れてしまった木があった。

 よく見ると周りにもいくつか同じような木がある。

 

「さーて、じゃあ始めましょうか」

 

 ロザリーがギルドから借りてきた木こり用の斧を両手で握り締め、エギルの木の前に立つと、力一杯斧を木の幹目掛けて横薙ぎの振りをする。

 スコン。という音とともに見事斧は幹に深く突き刺さって……

 

「ギャピィ!」

 

「ん?」

 

 気のせいだろうか、今木から変な奇声にも似た鳴き声のようなものが聞こえた気がした。

 

「どうしたのウィズ?」

 

「いや……今なんか」

 

 しかしそれ以降ロザリーが何度も斧を木の幹に叩きつけても、先ほどのような変な声は聞こえてこなかった。

 どうやら気のせいだったようだ。

 少し離れたところでブラッドも既に作業に取り掛かっていたため、ロザリーになんでもない、と言い近くの手頃な木を探す。

 やがて他と比べて幹がほっそりしているエギルの木を見つけると、早速斧を一振り。

 あまり力はないし、木こりなんてしたことないのでたいした深さではないが、一応木の幹にはそれなりに斧が突き刺さった。

 

「ピギャ!」

 

「え……? うわぁ!」

 

 突然先ほどと同じような奇声が目の前の木から聞こえた瞬間、木の根元部分の土が盛り上がり、根っこのようなものが現れたかと思いきや、それを足のように前後に動かしながらエギルの木は森の奥へと走り去っていった……

 突然の出来事に驚き、仰け反って尻餅をついてしまい、お尻が少し痛む。

 

「ちょっと大丈夫? エギルの木は一発でトドメ刺さないと逃げられちゃうから気をつけたほうがいいわよ。コツは根元と真ん中の幹の間くらいに斧を叩き込むことよ」

 

「え、いやあの……木って動くの?」

 

「そりゃ人に限らず木だって殺されそうなったら逃げるでしょ」

 

 何を言ってるんだお前、みたいな顔で言われてしまった。

 なんだろう……自分がおかしいのか、この世界の常識がおかしいのか自分にはわからない。

 そんな異世界の理不尽な常識に振り回されながらも、エギルの木を伐採しようと奮闘を続けるが……

 

「…………」

 

「いや、まぁ誰にだって得意不得意はあるわよ」

 

「そうそう、ロザリーはプリーストなのに脳筋だから難なく伐採してるけど、ウィズは魔法職なんだし、力仕事は向いてないってだけだよ」

 

 あれから何度か挑戦したが、結果は全て惨敗。結局一本も木を伐採できずに逃げられてしまった。

 つまり俺……役に立ってない。

 しかもわざわざロザリーに筋力増加の支援魔法をかけてもらったにも関わらず……

 

「ふっ……どうせ俺なんて魔法しか能がないんだ……」

 

「いやいや、ウィズの魔法があるからこの前も助かったわけだし、充分だと思うわよ? それと口調おかしいわよ」

 

 二人にフォローされるが、目の前で難なくエギルの木を伐採している様子を見せつけられると、たかが木一本伐採できない自分が情けなく思えてきてしまう。

 だいたい向こうの世界で鍛えていたわけでもなく、さらには女になってしまったせいでさらに華奢になってしまったのだ。

 そんな自分に斧をうまく振るうことができるだろうか?

 いやできるわけがない。

 できることと言えば魔法を使うことしか……いや待てよ。

 

「そうだよ……魔法があるじゃない!」

 

 自分はなんて間抜けだったのだろうか。

 女神様から授かったこの力さえあれば、たかが木の一本や二本どうとでもなるではないか。

 

「えーと、盛り上がってるところ悪いんだけど、燃やしたりするのは無しよ? 周りの無害の木とかに燃え移ったりするから」

 

 むろんそんなことは百も承知だ。

 この前習得した電撃魔法もその可能性があるため使ってはいけないということも……

 しかし丁度今朝に新しい魔法をいくつか習得したのだが、その中で今の状況にうってつけの魔法があることに気づいたのだ。

 まだ残っているエギルの木を発見すると、魔法の詠唱を始める。すると手首から指先あたりに光が灯りだした。

 やがて詠唱が終わり、エギルの木目掛けて思い切り腕を振り下ろす!

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 この魔法は光魔法の一種で、術者の魔力次第でより強力に、大抵のものは切り裂いてしまう光の剣のようなものを出すことができる。

 近接攻撃もできるようになったほうが良いかと思い習得したのだが、早速役に立った。

 光の剣はあっさりとエギルの木を真っ二つにすると、役目を終えたかのように空中に溶けて消えていく。

 

「「おおおお……!」」

 

 二人からも感嘆の声が上がる。

 

「今の魔法って紅魔族がよく好んで使うやつだよな? 凄いな……これじゃあ剣士なんていらなくなっちまうんじゃないか」

 

「あたしも昔一度見た事あるけど、その魔法、必殺魔法って言えちゃうほど強力だから相当なスキルポイント使うはずなんだけどなぁ……まぁウィズだからしょうがないか」

 

 それから三人で手分けして森の入り口周辺のエギルの木を伐採しまくった。

 あらかた伐採し尽くすと、三人で街への帰路につく。その道中気になったことがあったので二人に尋ねてみる。

 

「そういえばさ、エギルの木って結局どんな害悪があるの?」

 

 てっきり雑草のように周りの無害の植物などを枯らしてしまうとかそういう感じかと思っていたのだが、実際はそんな様子は確認できなかった。

 

「ん? あぁ別にこれといって脅威なことはないわよ。強いていうなら単に繁殖スピードが速いから、定期的に伐採しないとこの周辺やアクセルの街がエギルの木で埋め尽くされるってだけのことよ」

 

「それって充分脅威になるんじゃ……」

 

「大丈夫だって、実際に被害にあったのは何百年も前も昔に大きな国がエギルの木に滅ぼされたってやつだけだし、こうして木こり職人や俺たち冒険者が定期的に伐採してればいいだけの話だならな」

 

 え、国滅んだことあるの? 本当に大丈夫なのそれ?

 そんなことを心で叫びながら、三人で雑談をしつつ街へと向かっていると、ロザリーが急に立ち止まった。

 

「ねぇ、二人ともあれ見て……何かいない?」

 

 言われるままにロザリーの指差した方を見てみると、確かに何かが蠢いている影がいくつか見えた。

 

「あれは……ゴブリンだな。六体ほどいる」

 

 ブラッドが双眼鏡のようなものを取り出し、確認する。どうやら正体はゴブリンらしい。

 

「ゴブリン? こんな街の近くに珍しいわね。しかもこんなカエルくらいしかいない平原近くで」

 

「どうする? 見た感じ辺りをうろうろしてるだけっぽいけど、一応討伐しとくか?」

 

 ゴブリンとはいえ人を襲うモンスター、こんなところで何をしているのかはわからないが、ここで倒しておいたほうが良いだろう。

 ロザリーも同じ考えをしていたらしく、二人でブラッドの提案を受け入れる。

 

「よし、じゃあ気づかれないギリギリの距離まで近づいて一気に奇襲するか。ロザリーは俺に支援魔法を、ウィズはいつでも魔法を撃てる用意を……」

 

「『カースド・ライトニング』」

 

 ブラッドが何か言っていたような気がするが、気にせず魔法を放つ。

 闇色の電撃が凄まじい勢いで空中を走り抜けると、ゴブリン達のいる場所へ着弾すると同時にその周辺に噴煙が捲き起こる。

 これぞ先手必勝、狙い撃ちだ。

 肉眼では結果がどうなったかわからないので、冒険者カードの討伐欄を見てみると、しっかりとゴブリン達が追加されていたので問題なく倒せたようだ。

 

「ねぇブラッド、これってもうあたし達要らないんじゃ……」

 

「いうな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい美味しい」

 

 無事に依頼を済ませ、三人でギルドの酒場で少し遅めのお昼ご飯をいただいている。

 以前カエルの唐揚げを食べたときは、その美味しさにビックリした。

 それ以来名前だけで判断せず、色んな料理を注文してみては食べるといったことを繰り返しているのだが、結果どの料理も美味しいということに気がついた。

 ビバ、異世界料理。

 

「ほんと美味しそうに食べるわね、ウィズ」

 

「うん、私の住んでた故郷にはないようなものばっかだから、なんだか新鮮な感じがするというか……」

 

 主に素材が斬新だ。

 この世界ではモンスターの肉などを利用した料理が多く、そのどれもが豚肉や牛肉とは違った味わいがするのだ。

 強いて不安をあげるとするなら、好物の麺料理がないということだろうか。

 ちなみにこの酒場のメニューにないということではない、麺料理という存在自体がどうやらこの世界にはないようだ。

 実に残念である。

 しかし材料さえあれば作れなくもないので、そのうちやってみようかと思っている。

 

「ふーん……ウィズの故郷って何処なの?」

 

「え」

 

 突然ロザリーに聞かれる。

 

「えっと……日本ってところだよ」

 

 異世界から来たとは言わない。

 変に可哀想な人を見るような目を向けられたくないからだ。

 

「ニホン……? 聞いたことないわね、ブラッドは?」

 

「いや、俺も聞いたことないな」

 

 まぁ知らなくて当たり前だろう。

 何せ世界が違うのだから。

 

「まぁ、ここからかなり遠いところにあるところだよ」

 

「へー、そんな遠くからウィズはわざわざ冒険者になりに来たの? すごいやる気ね」

 

 やる気というか、もう輪廻転生するかこっちに来るかの選択肢しかなかったからなのだが……

 

「ちなみにあたしとブラッドも故郷はここじゃないのよね。とは言ってもここから馬車で1日ほどで行けちゃう距離なんだけどね」

 

 つまり二人は同じ故郷出身というわけか。

 となるとロザリーがこの前言ってた冒険者になった幼馴染とはもしや……

 

 と、その時……

 

『緊急、緊急クエスト! 緊急クエストです! 今現在街の中にいる冒険者の方々は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します、今現在街の中にいる冒険者の方々は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 突然大音量のアナウンスがギルド内に響いた。

 いや、おそらくギルドだけでなく街中に響いているのだろう。

 しかも声色からして、サンの声だ。

 魔法か魔道具で声を街中に拡散しているのだろうか。

 

「え、何事……? 緊急クエストって、何かやばいことが起きてるの?」

 

 突然の出来事に驚き、心臓をバクバク言わせながら二人に訊ねる。

 しかしロザリーとブラッドの二人は、焦ったような素振りはせずに、むしろその表情は歓喜に満ち溢れている様子だった。

 

「多分キャベツのことでしょ。そろそろ収穫時期だし」

 

 ロザリーが言う。

 ……キャベツ?

 

「キャベツって、あの野菜の……?」

 

「当たり前でしょ、他に何のキャベツがあるっていうのよ」

 

 おっしゃる通りです。

 しかし解せないのが、そのキャベツがなぜ緊急クエストとやらなのかだ。

 考えられることといえば、キャベツを狙って畑にモンスターが大量に押し推せてしたとか……?

 けど、キャベツを狙うモンスターなんているのだろうか?

 

「おーい、二人ともはやくしろよー」

 

 気がつけばさっきまでのんびりしていた冒険者達が、次々とギルドから出て行く。

 ブラッドもなぜかやる気満々の様子でこちらに呼びかけてくる。

 いまいち状況が読み込めないまま、ブラッドや他の冒険者達の背中を追いかける。

 

 やがて街の入り口辺りにたどり着くと、そこにはこの街の冒険者達が各々やる気に満ち溢れ、集合していた。

 

「冒険者の皆さん、本日は突然の呼び出しに応じてくれてありがとうございます! もう既に察しがついている方もいるとは思いますが、念のため説明いたします! キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやって参りましたよ皆さん! 既に街の一般人の方々は避難してもらっているので、冒険者の皆さんで収穫しましょう!」

 

 そこではサンが大声でそんなことを言ってた。

 それと同時に冒険者達も大声で喝采をあげる。

 

「さらに情報によると今年のキャベツは大変出来が良いらしいので、一玉五千エリスから一万エリスの報酬が出ますよ! これを機にできるだけ多くのキャベツを収穫し、お金を稼いでください! 捕まえたキャベツはこちらのゲージに納めてくださいね! それではくれぐれもキャベツに怪我をさせられないように気をつけて収穫してください!」

 

 サンはそれだけ言うと、小走りで街の中へと引っ込んでいった。

 ていうかキャベツを収穫とかどうとか言ってたが、結局緊急クエストとはキャベツの収穫のお手伝いなのだろうか。

 それにしては畑なんてこの辺には見当たらないが……

 と、その瞬間街の向こう側の空に、緑色の物体がたくさん飛んでいるのに気づいた。

 

「お、今年は大量のようだな!」

 

「よーし、一稼ぎするとしますか!」

 

 周りの冒険者達が騒ぎ始める。

 そしてだんだんと近づいてくる緑色の物体。

 体感で数十秒ほど、ようやく肉眼ではっきりとその正体を見る事ができるようになった。

 

「……キャベツだ」

 

 そう、キャベツだ。

 何故か自分のよく知るキャベツの大群が、空を飛んでいたのが見えた。

 ……キャベツが、空を飛んでる。

 

「いやいやいや! なんで!? なんでキャベツが飛んでるの!?」

 

「え? そりゃキャベツだから飛ぶに決まってるでしょ」

 

 ロザリーにまたもや何言ってるの? みたいな顔された。

 これ自分がおかしいのだろうか。

 というか動く木に飛ぶキャベツ……もはやなんでもありなのではないかこの世界。

 

「うお! 今年のキャベツは生きがいいな!」

 

 気がつけば周りの冒険者達は、飛んでいるキャベツ相手に飛びかかったり、武器で攻撃したり魔法で撃ち落としたりしている。

 

「ちょっとブラッド、あんまりキャベツ傷付けないでよ! 価値が下がるでしょ!」

 

「仕方ないだろ! こうも飛び回ってちゃ無傷で捕らえるなんて相当難しいんだから!」

 

 ブラッドとロザリーもお互いに言い争いながらも、協力してキャベツを捕まえている。

 ていうかさっきからキャベツ共が冒険者達に体当たりを仕掛けているのは目の錯覚だろうか。

 しかも見た感じかなりの威力がありそうだ。

 当たりどころが悪かったら普通に骨なんか折られてしまいそうなくらい。

 

「うぇひぃ!?」

 

 そんなことを考えていると、ついにキャベツの魔の手が自分にも迫ってきた。

 変な声を出しつつも、顔面に突っ込んでくるキャベツを避ける事に成功はしたが、バランスを崩してしまい尻餅をついてしまう。

 

「ウィズ!」

 

 と、そこでブラッドが駆け付けてくれた。

 ブラッドは自分の目の前に立つと、飛来してくるキャベツから自分を守り始めた。

 やだ、超イケメン。

 

「ブラッドさんブラッドさん! ウィズを守るのはえらい事だとは思うけどさ、あたしをほっぽり出すのはどうかと思うの! いやー! キャベツに撲殺される!」

 

 そこでは、ブラッドという壁役がいなくなったことにより、後ろでサポートしていたロザリーが無防備になりキャベツに群がられていた。

 

「すまん! なんとか耐えてくれ! ていうかぶっちゃけお前ならキャベツの攻撃なんて耐えられるだろう?」

 

「確かにそうだけど! か弱い乙女を放っておくのはおかしいと思うわ!」

 

「か弱い? お前がか? ……ふっ」

 

「あんた後で覚えておきなさいよ!」

 

 そんな二人のコントを見つつ立ち上がると、魔法の準備を始める。

 もうキャベツが飛んでようが飛んでまいが関係ない。

 これ以上キャベツなんかに翻弄されては、それは単なる恥だ。

 いずれ魔王を倒す者として、たかがキャベツなんぞに手こずってはあの女神様に笑われてしまう。

 

「ロザリー! そこから逃げて!」

 

 ロザリーにその場から離れるよう伝え、魔法をキャベツの集団に放つ。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者達が騒ぐギルドの中、そこではちょっとした宴会のようなものが開催されていた。

 

「あー、すいませーん! キャベツの炒め物とロールキャベツ追加でお願いしまーす!」

 

 そんな騒がしい中、ロザリーは酒場のウェイトレスに声を張り上げて注文をしている。

 

「おい、あまり調子に乗って注文してると金なくなるぞ」

 

「大丈夫大丈夫、あの量なら結構な額になるでしょ」

 

 ロザリーがいうあの量とは、キャベツの収穫量を指している。

 新たに習得した魔法の一つ、氷結魔法が思いの外キャベツの捕獲に役に立ち、自分達のチームは他の冒険者達よりも多くキャベツを捕まえられたのだ。

 氷結魔法は簡単に言えば対象を氷漬けにして動けなくするといった魔法だ。

 つまり、あちこち飛び回ってるキャベツに、片っ端から氷結魔法を当ててやれば、あっという間に冷凍キャベツの出来上がりというわけだ。

 

「ほらほら、ウィズも遠慮しないでたくさん食べなって。今日……というかここ最近活躍してるのウィズなんだしさ」

 

 そうして次々とテーブルの上にキャベツ料理が増えていく。

 遠慮せずにとはいうが、もう既に結構な量を自分は食べているのだが……

 まぁ美味しいのでいくらでも食べられるけど。

 

「さぁ! 今日は飲むわよ!」

 

 ロザリーの掛け声と供に、周りの冒険者達もジョッキを片手に祝祭の声を上げ始める。

 どうやらこの世界では、未成年でもお酒は飲めるらしい。

 ただし自己責任らしいが……

 

「ね、ねぇ……ちょっと私も飲んでみたいなーなんて」

 

「ん? あぁいいわよ。はい」

 

 やはり飲めるなら飲んでみたいし、興味もある。

 ロザリーからお酒の入った小さいコップを受け取り、少しドキドキしながらそれを一気に飲んでみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから記憶がなく、気がついたらいつもの宿屋のベッドの上だった……

 




今回から文章の書き方少し変えてみました。
そのうち過去に投稿した、他の3話も同じ様な文章になるように修正を加えます。
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