この素晴らしい世界に祝福を! ウィズの冒険   作:よっしゅん

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 多分ですが、例えでいうと、原作の1巻から4巻くらいの内容量で完結すると思います。
 なので、話の流れがハイスピードで進んでいくかもしれないのでご注意です。


この迷宮でお宝を!

 

 

 

 

 

 キャベツ騒動の翌日、なぜか少しだけ痛む頭と嫌悪感を感じながらもこの街の大浴場へと足を運ぶ。

 歩きながらも、昨日の出来事を思い出そうとするが、お酒を飲んだあたりからどうにも記憶が抜けている。

 気がついたら既に朝で、いつも借りている宿屋の一室のベッドで寝ていたのだ。

 しかも寝間着にも着替えておらず、そのままの服装で寝たようなのでとても汗臭い。

なので、朝風呂をしようというわけだ。

 

 そうして歩くこと数分、大浴場にたどり着いた。

 自分が泊まってる宿屋の最大の利点といえば、大浴場から近いというところだろう。

 番台さんにお金を払い、脱衣所に入って服を脱ぐ。

 最初は自分の身体を見ることに変な罪悪感を感じていたが、今はそうでもない。

 この無駄にでかい胸も単なる脂肪の塊にしか見えないのだ。

 慣れって怖い。

 手早く髪と体を洗い始め、ふと取り付けられている鏡に目が向いた。

 

「……やっぱり似てるよなぁ」

 

 最近気がついたのだが、今の自分の姿、若い頃の母親にそっくりなのだ。

 何度かアルバムで見させてもらったので間違いない。

 息子は母親に似るとよくいうが、その息子がそのまま女になった場合ここまで似るものなのだろうか。

 しかし仮にそうだとしたら、この絶妙にウェーブがかかった茶髪の髪の毛や、やたら大きい胸にも説明がつく。

 母親もそうだったし。

 つまりこの前、自分は自分の若い頃の母親の身体に興奮していたということに……

 うん、これ以上考えるのはやめよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の入浴が終わり、大浴場からギルドへと移動を終えると、ブラッドとロザリーの二人は既にテーブルに座っていた。

 どうやら今日は自分が一番遅かったようだ。

 

「おはよう二人とも」

 

「あ……その、お、おはよう……」

 

「お、おう。おはよう……」

 

 何気なく挨拶をすると、何故かぎこちなく返された。

 

「……顔に何かついてる?」

 

 視線を合わせようとすると、そらされる。

 自分の顔に何かついてるのかと思い聞いてみる。

 しかし大浴場でしっかりと顔も洗ったし、何かついてるとは思えないのだが……

 

「い、いや。何もついてないわよ……その、調子はどう? 気分が悪いとか……」

 

「うん? 頭がちょっと痛むくらいだけど?」

 

「そう……よ、良かったわ」

 

 ……明らかに二人の様子がおかしい。

 一体どうしたというのだろうか。

 もしかして知らないうちに二人に何かしてしまったのだろうか?

 しかしそんな覚えはない。

 

「あ、そういえば昨日……お酒飲んだあたりから記憶がないんだけど、あの後どうなったの?」

 

「え!? あーえっと……そ、そう! ウィズってばあの後すぐに酔いつぶれて寝ちゃったのよ! それであたしとブラッドがウィズの部屋に運んであげたのよ。ね、ねぇブラッド?」

 

「あ、あぁ! その通りだよ!」

 

 ふむ……どうやら自分はあの後寝てしまったらしい。

 となると自分はお酒にあまり強くないのだろうか?

 

「そ、そんなことよりさ。昨日のキャベツの報酬受け取りにいかない? もう受け取れるみたいだしさ」

 

「別にいいけど……」

 

 やっぱり今日の二人はどこか変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひーふーみー……三人合わせて百二十万エリスほどね」

 

「なかなかの稼ぎだな」

 

 今回のキャベツクエストの報酬は百万を超えた。

 たかがキャベツ……といっても危険ではあるが、キャベツを捕まえるだけで百万近く。

 ボロ儲けである。

 

「じゃあ一人四十万エリスで山分けってことか」

 

 基本的に自分達のチームは、報酬はみんなで山分けってことにしている。

 なのでテーブルの上に置かれたお金の山から自分のぶんを取ろうとしたのだが、何故かブラッドに止められた。

 

「待ってくれ、今回はお前が一番活躍したんだから、ウィズの取り分は多めでいいぞ」

 

「え、でも……」

 

 それでは山分けではなくなるのではないか。

 ちらりとロザリーの方を向いてみると……

 

「別にあたしは構わないし、遠慮しなくていいわよ。それにあたし達今はそんなにお金が要るってわけでもないからね」

 

「そ、そう……?」

 

 そういうことならば遠慮なく貰っておこう。

 結果、ブラッドとロザリーが三十万エリス。

 自分が六十万エリスの取り分となった。

 

「まぁ、実は言うと他にも理由があるんだけどね。ウィズの取り分多くしたの」

 

「え? そうなの?」

 

 一気に肥えた自分の財布に満足感を感じていると、ロザリーに言われた。

 

「あぁ、実は昨日……ウィズが酔いつぶれてる時にロザリーと二人で明日どうするかを話し合ったんだけどな。今日はダンジョンに行くことにした」

 

「ダンジョン?」

 

 ダンジョンというと、モンスターが蔓延る中を延々と階段で降りていき、途中の宝箱を開けたら実はミミックだったり、経験値が高そうなレアモンスターがいたりするあのダンジョンだろうか。

 

「そうそう、キールのダンジョンって言って、割と最近になって発見されたダンジョンなのよ。ここから歩いて半日ほどで行ける距離だし、レベル的にもあたし達なら大丈夫そうだからってことでね」

 

 キールのダンジョン。

 確かこの前のカエル事件の時に聞いたような名前だ。

 

「……それで、それとこれと、私の取り分とどう関係があるの?」

 

「単純な理由よ、ウィズ。あんたそろそろ戦闘用の装備買いなさいよってことよ」

 

 ……銭湯用?

 

「お風呂行く時にはちゃんと自前の石鹸とか用意してあるけど……」

 

「違うわよおバカ。戦闘よ戦闘、戦う方のね」

 

 あぁ、なんだそっちの戦闘か。

 

「あんた未だにそのボロ杖使ってるんでしょ? お金あるならもっとマシなやつ買えってことよ。あと服装、いつも私服じゃない」

 

 ……確かに言われてみればそうだ。

 今の自分には、ブラッドのように胸当てや籠手もなければ、ロザリーのような立派なローブもない。

 なので、ここいらで魔法使いの一張羅というのを用意しておくべきではないだろうか。

 あと杖も新調した方がいいだろう。

 流石にこれから先このボロボロの杖を使い続けるわけにもいかないし。

 

「……確かにそうだね。わかった、このお金で新しい装備買うよ」

 

「ふふ、ならあたしのオススメのお店紹介してあげるわ。ちょっと値段が張るけど、その分特別な効果がかかった装備から、良い素材でできた可愛らしいものまでなんでもあるのよ。ウィズなら基本なんでも似合いそうだから楽しみね」

 

「えっと、別にデザインとかはあんまり気にしないんだけど……」

 

 よっぽど変でなければ見た目なんて気にしないのが自分だ。

 

「そうと決まれば善は急げってね! ほら、はやく行くわよ」

 

「ち、ちょっと引っ張らないでロザリー……ていうかなんでそんなに力強いの?」

 

 プリーストより、ブラッドのような前衛をやった方が強いのではないだろうか、彼女は。

 

 そんなこんなで、ロザリーに引っ張られながらも歩くこと十分程度。

 街の大通りにある商店街の一角にある、ロザリーオススメのお店とやらの前にたどり着いた。

 

「じゃああたしとブラッドはギルドでやる事やってるから、終わったらまたギルドに来てね」

 

「わかった」

 

 どうやらダンジョン探索には、罠発見や、敵感知などが行える盗賊職の冒険者が必須らしい。

 そして自分達のパーティーには盗賊職はいない。

 なので、他のチームやフリーで活動している盗賊職の人を誘って、一時的にパーティーに入ってもらわなくてはならない。

 そのためにロザリーとブラッドはギルドで盗賊職の募集を今からするというわけだ。

 

「あ、そうだウィズ。ついでに街の魔道具店でダンジョン探索に必要な魔道具買って来てくれないか? 装備を買った後でいいから。まぁ俺たちが今から買いに行ってもいいんだが、この街の冒険者で盗賊職はあまりいないからな。できればはやめに確保しに行きたいんだ」

 

 盗賊職は敵の感知や、潜伏して隠れたりなど、なかなかトリッキーなスキルに特化をしている職業なのだが、実際それらは結構地味に思われているらしい。

 そういった理由で盗賊の職業になる冒険者はあまりいなく、この街では数えるほどの人数しかいないらしい。

 

「良いけど……どういうの買ってくればいいの?」

 

 やはり緊急脱出用の転移できるロープとかだろうか。

 

「そうだな……明かりの切り替えがすぐできるランタンとか、臭いに反応するモンスター対策の、消臭ポーションとかだな。後はウィズが使えそうな物だなと思ったものを買ってきてくれ」

 

「うん、わかった」

 

 正直魔道具という物は好きだ。

 ゲームでも強い装備などよりも、レアなアイテムなどを使う方が好みだった。

 あの自分の力ではないけれど、特別な力を発揮できるという感覚が好きでたまらないのだ。

 特に一見何に使うんだとか、あまり役に立たなそうなものなどの使い道を探すのが好きでたまらない。

 

 ブラッドの頼みを頭に入れておいて、目の前の店の扉を押し開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、帰ってきた……へー、似合ってるじゃない」

 

「そ、そう……?」

 

 買い物が終わり、ギルドに着くと入り口で二人が待っていた。

 

 ファッションセンスには自信がないので、店員さんにお任せした結果、装飾が所々にある白のブラウスに、紫色のスカート。

 それに合わせてスカートと同じ色合いのローブ、膝上くらいまである革製のロングブーツという格好になり、両腕には金属製の小手がある。

 まさに戦う魔法使いという感じがしてなかなか気に入っている。

 ……しかし最近女物の服を着るのに抵抗がなくなってるいる気がするのは気のせいだろうか。

 

「あれ、杖は新調しなかったの?」

 

「え、あぁうん。なんか今在庫がないんだって」

 

 はやくても三日経たないと新しい商品は仕入れられないとのことだったので、仕方なく杖は諦めたのだ。

 他の店で買うことも考えたが、杖を扱っている店が他にどこにあるか知らない上に、探していては時間が掛かってしまう。

 あまり二人を待たせては悪いと思っての考えだ。

 

「あれ、そういえば二人だけ? 盗賊職の人は?」

 

 店の前で別れてからそこそこの時間が経っている。

 予定ではギルドで盗賊職の人を加えた上ですぐに出発となっていたのだが、肝心の盗賊職の冒険者が見当たらない。

 

「あー……それがね、今みんな出払ってるらしいのよ」

 

 ロザリーが指で頬を掻きながら申し訳なさそうにいう。

 

「実は一緒にダンジョンに入ってくれそうな盗賊職の仲が良い子が一人いたんだけど、その子も今さっきクエストに出ちゃったみたい。しかも少し遠くまで行くらしいから今日中に帰ってこれるか分からないのよ」

 

 なるほど、少しタイミングが遅かったようだ。

 

「どうする? 日を改めるか?」

 

 ブラッドの言う通り、出直した方が良い気はするが……

 正直ダンジョン探索を楽しみにしていた身としては、ここで引き下がるのも……

 

「……ねぇ、要するにダンジョン内で敵の感知と、トラップの感知ができれば良いわけなんだよね?」

 

「え? あ、あぁ……まぁそうだけど」

 

 それならば解決策はある。

 

「それなら、私が『エネミー・サーチ』と『トラップ・サーチ』の感知魔法覚えるよ」

 

 記憶違いでなければ、そんな魔法があったはずだ。

 この二つの魔法は名前の通り、こちらに敵対心を持っている生物の感知と、罠の存在を感知する魔法だ。

 要するに魔法使い用の敵感知と罠感知のスキルということだ。

 

「それは……助かるけど、貴重なスキルポイントを無駄に使わせるわけには」

 

「あー別に良いじゃん? 本人が良いって言ってるんだから。じゃあウィズ、お願いね」

 

「ロザリー!?」

 

 ブラッドは知らないだろうが、ロザリーは知っているからこその言動だろう。

 何を言いだすんだと言わんばかりのブラッドに、ロザリーが耳打ちをする。

 ちなみに感知魔法は一つ3ポイントで習得できる。

 それが二つだから6ポイント、スキルポイントを消費するということになるが、それだけなら、スキルポイントが有り余ってる(3桁ある)自分にはたいした痛手にもならない。

 

「……習得っと」

 

 カードを操作するだけで特殊な能力が使えるようになるって本当不思議だな。

 なんてことを思いながら冒険者カードを懐にしまう。

 それと、感知魔法のついでに、そろそろ補助系の魔法も覚えておきたいと思い、付与魔法という魔法もいくつか習得しといた。

 

「じゃあ行こっか」

 

「あ、あぁ……」

 

 ロザリーに耳打ちで何か言われてから、ブラッドの自分を見る目がなぜか驚愕に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キールのダンジョン。

 それはその昔、歴史上稀代の天才とうたわれたアークウィザードのキールという名の男が魔法の力により、自らの手で作り上げたダンジョンの名らしい。

 

 キールという男は、ある日たまたま街の散歩をしていた貴族の令嬢に一目惚れをした。

 何故か?

 どうして一目惚れをしたのか?

 どうして彼女を見るだけで胸が締め付けられるように感じるのか。

 生まれてからずっと魔法のことにしか興味がなかったキールは、自分でさえも令嬢に対しての恋慕の情を完全に理解する事はできなかったが、できたとしてもその恋は実るはずがないということは理解できた。

 そんなキールは、生まれて初めて芽生えた恋慕の情を忘れるかのように、さらに魔法の研究や修行に没頭した。

 しかし心のどこかでは、彼女を諦めることができないまま月日は流れた。

 やがてキールは、この国最高にして随一のアークウィザードと呼ばれるようになった。

 国家に使える魔術師として、キールは国に惜しみなく自分の力を貢献し続けた。

 当然そんなキールには、多くの民や、果ては王までもが称えた。

 ある日キールのための宴が王城で開かれた。

 そして王はキールの功績に報酬を与えたいと、どんなものでも望みを一つ叶えてやろうと言った。

 キールは王に言う。

 この世にたった一つだけ、どうしても叶わなかった望みがあります。

 

 

 

 

「それで、その時キールっていうアークウィザードが王に何を望んだのかは知られてないの。知られているのは、その後キールが貴族の令嬢を一人王城から攫って、自分の作ったダンジョンに立て籠もったって話だけなのよ」

 

「へー」

 

 キールのダンジョンに行く道すがら、ロザリーから昔話を一つ聞かせてもらっていた。

 

「だからキールのダンジョンが発見された時は一時期大騒ぎになったのよ。伝承が伝わってる以上、実在はするはずだと言われたキールのダンジョンが、まさかこんな駆け出しの街の近くにあるだなんてね」

 

「話が伝わっているなら、場所とかはわかんなかったの?」

 

「場所に関してはまったく言い伝えがされてなかったからな。多分その時代の王が意図的に隠したんじゃないかって言われてる。令嬢を攫ったアークウィザードの捕縛を命じられた、王城に使える精鋭達がことごとく返り討ちにされたらしいからな。それ以上関わるのはやめたんだろうよ」

 

「それにダンジョンの入り口も土砂崩れで塞がってたから、長いこと誰も気づかなかったのよ」

 

 ふーむ……ダンジョンって魔王とかが勇者を倒すために用意したものというのが、ゲームの定番なのだが。

 どうやらキールのダンジョンは違うようだ。

 昔話の所々にロマンを感じる。

 

「まぁ実際にダンジョンには低レベルのモンスターしかいないみたいで、キールの財宝目当ての冒険者達も、いつまで探しても見つからないから、ようやく諦めたのか最近では初心者冒険者用の練習場みたいな扱いになってるんだけどね」

 

「ふーん……あれ、じゃあなんでキールのダンジョンってわかったの?」

 

 そのキールの財宝とやらが見つかっていないのなら、そこがキールのダンジョンだという証拠もないものだとは思うのだが。

 

「あー、それね。ダンジョンの入り口にご丁寧に『キールのダンジョンはこちらです。御用の方は、死ぬのを覚悟でお進みください』って彫り込まれてたのよ」

 

「……えー」

 

 そんなんでいいのか。

 そんなんで信じるのかキールのダンジョンって。

 まぁわざわざキールのダンジョンはここです。って偽る必要性もないような気はするが、なんだか納得できない。

 

「いやいや、もちろんそれだけじゃないからな? 調べによると、ダンジョン作成に使われた建材などから、いつの時代に作られたものかはわかったらしい。んで、ちょうどキールというアークウィザードが活躍していた時期とほぼ同時期らしい」

 

 ブラッドが補足する。

 なるほど、それならば納得がいく。

 

「ふー……」

 

 一般的に獣道と呼ばれる道を三人で進みながらも、ここ最近ずっと感じている肩の強烈な違和感を解消すべく、ぐるぐると回してみたり、手で肩を揉みほぐしたりする。

 

「どうした? 疲れたなら少し休憩するか?」

 

 こちらの様子に気づいたブラッドが心配そうに聞いてくる。

 

「あ、別に平気だよ……ただ肩がちょっとね……」

 

 そう、肩が最近やけに重たく感じるのだ。

 別に病気だとかそういうのではないことはわかってる。

 単に胸を支えている筋が、肩の筋までに影響しているだけだろう。

 どうやら、胸が大きいと肩がこるというのは本当のことだったらしい……

 家事の合間によく肩をほぐしてくれと、肩叩きを要求してくる母親の気持ちが少しわかった気がした。

 

「肩がどうかしたか? 何か怪我でもしてるならロザリーに回復魔法を……って、どうしたお前? そんなに目つき尖らせて」

 

 あまり自分の状況を察していないブラッドが、今度はロザリーの様子に気づいた。

 まるで獲物をこれから仕留めるような獣のごとく、こちらを睨んでいた……そして何故か感じる寒気。

 

「……あたしだってまだ成長期だし」

 

「え、えっと……その」

 

 どうしよう、掛ける言葉が思いつかない。

 下手に慰めようにも、余計に刺激しかねない気しかしないのは何故だろうか。

 

「ロザリー」

 

 するとブラッドがロザリーの肩にポンと自分の手を置きながら言った。

 その顔つきからするに、どうやら事態の把握はできたらしい。

 

「こればっかりは遺伝の問題だ。潔く諦めた方が」

 

「全身の骨バッキバキに折ってその辺の道端に捨てるわよあんた」

 

 ファイティングポーズをとり、威嚇を始めるロザリー。

 

「え、えっと! そういえば、なんでダンジョンに行こうって思ったの? まだ理由教えてもらってないよ!」

 

 このままここで二人に……というかロザリーに暴れられては、いつまで経ってもダンジョンにたどり着かないだろう。

 ひとまず話題を変える作戦を実行してみる。

 

「ん? あぁ、単にあたしのレベル上げよレベル上げ。ダンジョンにはアンデッドや下級悪魔が沸くから浄化魔法で浄化しまくるのよ」

 

「あとは、あわよくば宝を見つけて一儲けしようって魂胆だよ」

 

 なるほど、尤もな理由だ。

 

 そうこうしているうちに、目的地にたどり着いた。

 一見すると単なる岩肌が立ち並んでいるだけにみえるが、よくみると一箇所だけぽっかりと大きな穴が口を開けて待っていた。

 ちらりと穴の奥を覗き込むと、綺麗に整備されている階段が下へと続いていた。

 どうやらここがダンジョンの入り口らしい。

 

「よし、じゃあ入る前に荷物の確認だけしようか」

 

 てきぱきとブラッドが荷物の中身をひっくり返して確認していく。

 あまり危険度は低めのキールのダンジョンだが、油断は禁物ということだろう。

 荷物の中には何日分かの非常食まで用意してあった。

 そういえば魔法の中には転移魔法なる、テレポートという魔法があるが、今後のために習得しておくべきだっただろうか。

 いざとなったらダンジョンから緊急脱出する手段として。

 

「それで、ちゃんと魔道具買ってこれた? ウィズ」

 

「え? あぁ、うん」

 

 あわよくば買えなかった魔法使い用の杖が置いてあればついでに購入しようと、三軒くらい魔道具店を回ったのだが、魔道具は無事にいくつか買えたものの、杖はどこも取り扱っていなかった。

 まぁ本来の目的は達したことには変わりはない。

 さっそく買ってきた魔道具のうちの一つを取りだす。

 

「お? それマジックスクロール?」

 

 取りだしのは、羊皮紙のようなものの表面に魔法文字とやらが刻まれているスクロール。

 マジックスクロールは、基本的に消耗品の魔道具だが、誰でもスクロールに刻まれた魔法を発動することができるといった代物だ。

 しかも刻める魔法は、組み合わせ次第で普通の魔法とは違う効果を発揮することができる。

 なんともまぁ、魔法心を刺激させられる一品だというのだろうか。

 

「うん、効果は、『モンスターからは認知できない灯りを発することができる』なんだって」

 

「ほー、そいつは便利だな」

 

 ダンジョンの中は暗い。

 それゆえ、アーチャーの職業などが習得できる千里眼スキルなどがない限り、ランタンなどの灯りを頼りにしなくてはならなくなる。

 しかし灯りをつけている以上、モンスター達に自分たちの居場所を教えてしまっているようなものだ。

 そこでこのマジックスクロール、これを使えば自分たちは暗闇を照らす手段を得ながらも、モンスター達には灯りで気付かれることはなくなるということだ。

 つまりこのマジックスクロールは、そんな冒険者の悩みを解決してしまう優れものだということだ。

 値段は少々高かったが、いい買い物をしたと思う。

 

「あれ、なんか落ちたわよ」

 

 するりと、スクロールの間に挟まっていたのか、一枚の紙切れがヒラヒラと地面に落ち、それをロザリーが拾い上げる。

 

「なになに……『このスクロールは、モンスターには感知できない灯りを発する魔法が封じられています』」

 

 ロザリーが拾い上げた紙に書かれた内容を口に出して読み始める。

 どうやらこのスクロールの説明書のようなものだろうか。

 しかし魔法ってつくづく便利だよな、と感心しながらロザリーの言葉を聞いていると……

 

「『ただし、注意事項として、このスクロールから発せられる灯りは、モンスターからは認知できないが、人の視点からするとまるで太陽を直視しているほどの眩しさを感じます。使用の際は、目隠しか何かをお使いすることをお勧めします』……」

 

 ……ん?

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 妙な沈黙がこの場を支配する。

 

「……ねぇウィズ」

 

「……なんでしょうか?」

 

 ロザリーから冷たい視線を感じる。

 

「ちゃんと説明書読んで買った?」

 

「……読んで……ないです」

 

「…………」

 

「…………」

 

 またもや沈黙。

 

「……なんていうか、うん。買ってきちゃうウィズもそうだけど、こんな代物作るやつの頭もどうかしてると思うわあたし」

 

「……同感だな」

 

 頭がどうかしているとは失礼な。

 それにまだこのマジックスクロールが使えないと決まったわけではないはずだ。

 

「で、でも……説明書にも書いてあるように、眩しくないように目隠しでもすれば」

 

「目隠ししてちゃ結局何も見えないでしょうが」

 

「うっ……」

 

 おっしゃる通りでございます。

 

「じ、じゃあサングラスとかかければ……」

 

「さんぐらす? 何よそれ?」

 

 ちくしょう!

 この世界にはサングラスは存在していないようだ。

 まぁ存在していたところで、直ぐにこの場で用意することは結局不可能なのだが。

 

「ちなみにいくらしたのこれ?」

 

「……五万エリス」

 

 余裕で1ヶ月間くらいの食費にはなるお値段だ。

 そして三度目の沈黙。

 いや、まだ終わりではない。

 

「あ、あと! マジックポーションも買ってきたんだよ! このポーションはね、なんとモンスター達から匂いを消せるどころか、むしろ寄せ付けないポーションなんだって」

 

「ふーん……ちょっとそれ貸して」

 

 大人しく手渡すと、ロザリーはポーションについているラベルを凝視する。

 

「『このポーションはモンスターを寄せ付けないほど、強烈な臭いを出すポーションです。あまりの強烈さに気分が悪くなる可能性もあるのでご注意ください』……ね」

 

「…………」

 

 何故かニコニコとしているロザリーが怖くて仕方ないのは何故だろう。

 

「言ってなかったこっちもあれだけど、あたしのレベル上げがメインなんだからモンスター遠ざけちゃ意味ないと思うのあたし。それに空気が篭ってるダンジョン内で刺激臭がするものだしたら大惨事になると思わない? ねぇウィズ」

 

「お、おっしゃる通りです……」

 

 それから、買ってきた魔道具を出してはロザリーにダメ出しをされるということを数度繰り返していく。

 結局買ってきた魔道具は全て使うことを却下されてしまった。

 

「なんていうかあれね、よくもまぁここまでガラクタ集めて来られたわね。呆れを通り越して感動すら覚えるわ」

 

「うっ……で、でも今回は使い所が悪かったというか……きっとこれらが役に立つ場面が……そ、そうだよねブラッドさん?」

 

 ロザリーの鋭い視線から逃れるついでに、ブラッドに同意を求めてみる。

 

「えっ……えーと、そのだな……」

 

 視線を泳がせるブラッド。

 一生懸命言葉を探して言おうとしている様子が読み取れるが、もう既にその反応で俺の心は傷ついてますよブラッドさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、いつまで落ち込んでんのよ。別に怒ってはいないからそろそろ立ち直りなさいな」

 

「……うん」

 

 薄暗いダンジョンの中を、ブラッドが持ってきたランタンの灯りを頼りに三人で進む。

 ロザリーは怒ってはいないとはいうが、こっちとしては散々ダメ出しされたのだ。

 気分が落ち込むのも仕方がないことのはずだ。

 

「あんまり気にすんなよウィズ。ロザリーはな、胸のサイズがお前に負けてるからってちょっとイラついてただけ……ちょっ! 何をする!? こんな狭い通路で暴れるなって!」

 

「あんたこそそんな大きな声出さないでよ、モンスター達が一気にきちゃうでしょ!」

 

「ロザリーも大きい声出してるよ……」

 

 仲が本当に良いんだなぁ、とか思いながら二人のキャットファイトを歩きながら傍観していると、それは起きた。

 ピチャ……ピチャ……

 という水が滴っているような音が通路に響く。

 雨漏りでもしているのだろうか。

 しかしダンジョンに入る前の空は、雲ひとつない快晴だったはずだ。

 なんだか嫌な予感がしたので、感知魔法を発動させる。

 

「『エネミー・サーチ』……二人とも、反応が三つ。前からこっちに近づいてきてるよ」

 

 案の定というべきか、こちらに対して敵意を持っている存在が三つ、こちらに近づいてきていた。

 お互いの髪や頬を引っ張りあってたブラッドとロザリーは、即座に取っ組み合いをやめ、警戒心を露わにして武器を抜く。

 その二人の姿は息がピッタリと合っていて、短い付き合いの自分でもその絆の深さは察することができた。

 やがて暗がりから水音のような音を出していた正体が姿を現した。

 

「げ……スライムか。しかもウォータースライム」

 

「初ダンジョンでの、初戦闘がスライムね……運が良いのか悪いのかわかんないわね」

 

 暗がりから現れたのは、プルプルとゼリーのように揺れながら動く、ゲル状の物体だった。

 スライム。

 それは自分がいた世界でも割と一般認識されている名前だ。

 何せ殆どのゲームに、最初の方に出てくる雑魚敵として出てくるモンスターの名前だからだ。

 他にも子供用のおもちゃとして発売されたり、大人の本のとあるジャンル物で人気だったりと色々だ。

 そんなスライムが、ゆっくりと、確実にこちらに迫ってきている。

 

「? どうしたの二人とも……ジリジリと後ろに下がって」

 

 何故かブラッドとロザリーは、スライム達を凝視して警戒しながら後ろへと距離を取っていた。

 こんな踏み潰せば倒せそうな相手に何をそんなに警戒しているのだろうか。

 

「ちょっとウィズ、はやく離れないと危ないわよ」

 

 ……一体何が危ないというのだろうか?

 

「たかがスライムでしょ? スライムってそんなに強くはないんじゃ……」

 

 二人の反応からして、もしかしたらなんて思い始めてきた。

 いやでもこんなプルプルするくらいしかできなさそうな奴がまさか……

 

「はぁ? もしかしてウィズの故郷ではスライムって居ないの? スライムは物理攻撃が殆ど効きにくい上に、魔法に対しての抵抗力も強い。しかもモンスターの中でもかなりの悪食で、自分より大きい相手にも恐れずに向かってくるのよ」

 

「もしスライムに張り付かれたりしたら、いくら小さいやつとはいえ剥がすのは至難の技だ。張り付かれたら、消化液で皮膚を溶かされるか、口や鼻を塞がれて窒息死するぞ。しかもそいつウォータースライムだから、獲物の穴という穴から体内に侵入して、最終的には体内でで大量の水を噴出して溺死させてくるやつだ。その後に死骸を内側から消化して食うんだ」

 

「ひぃぃぃぃぃ!」

 

 怖っ! 怖すぎるって!

 思わず変な声を出しながら、思いっきり後ずさってブラッドの背中に隠れる。

 

「ウ、ウィズさん? なんか柔らかいのが……」

 

「ちょっと、乳くり合ってる場合じゃないわよ」

 

 い、いけないけない……

 思わず背が高いブラッドの背中に隠れてしまったが、これでも魔王を絶対に倒すと誓った者。

 いかに強力なスライムだからといって、逃げていてはどうしようもないというもの。

 

「それで、スライムってどうやって倒せばいいの?」

 

 話を聞く限り、スライムは物理攻撃も魔法攻撃も効きにくいらしい。

 しかし倒す手段は必ずあるだろう。

 なかったら今頃この世界は、スライムに支配されているだろうし。

 

「あー、多分魔法を何発か撃ち込めばそのうち倒せるわよ。もしくはブラッドの剣で細切れにするまで斬り続けるとか」

 

「え、でも物理攻撃も魔法攻撃も効きにくいんじゃ……」

 

「効きにくいだけよ。変異したスライムならいざ知らず、このくらいの小さいスライムなら少なからずダメージは入るわよ」

 

 な、なるほど……ようはゴリ押しというわけか。

 それならちょうど試してみたいことがある。

 

「『ライトニング・エンチャント』」

 

 ここで感知魔法と一緒に習得した付与魔法をブラッドの剣に付与をする。

 ウォータースライムという名前だから雷属性に弱そうという安直な理由で雷属性の付与魔法にしたのだが、効果があることを祈る。

 

「え、これ付与魔法か……? ウィズがやったの……か?」

 

 ブラッドがバチバチと音を立てて火花を散らしている自分の剣を驚愕の表情で見ていた。

 ロザリーも信じられない、といった表情で自分とブラッドの剣を交互に見てる。

 

「ふ、付与魔法って、確かルーンナイトの魔法じゃなかったのか? ロザリー?」

 

「そうだと思うけど……」

 

 ちなみに二人の言っていることは合っている。

 付与魔法はルーンナイトという職業でしか習得できない魔法だ。

 決してアークウィザードの自分が習得出来るはずはない……普通なら。

 

 そう、自分には膨大な魔力の他に、魔法というカテゴリのスキルなら、職業関係なく習得できる贈り物(チート)を女神様からもらっている。

 これさえあればアークウィザードでいながら、ルーンナイトの魔法を習得するのは簡単なことだ。

 

「さぁ今がチャンスだよブラッド!」

 

 多少の知性はあるのか、電撃を帯びたブラッドの剣を見るなり警戒するようにスライム達の動きが鈍くなっていた。

 初の補助魔法に若干テンションが上がってるなと自覚しながらもブラッドに言う。

 お、おう……と若干引き気味に答えながらも、三体のうち一番近いスライムに剣を振り下ろすブラッド。

 そのまま数回斬りつけるだけで、スライムはやがてただの水溜りのようになって動かなくなってしまった。

 思ったよりも呆気なかったが、無事に倒せたようで何よりだ。

 

「あ、逃げてく」

 

 さっきまでの鈍重な動きはなんだったのか。

 残った二体のスライムが仲間のやられた様子を見るなり、凄まじい勢いでダンジョンの奥の暗闇へと消えていった。

 悪食で恐れなしとのことだったが、力関係は上手く把握できるモンスターなようだ。

 

「お? 消えた……」

 

 それと同時に、ブラッドの剣に掛けられていた付与魔法が解除されてしまった。

 

「あ、あれ? もう効果切れ? 目論見ではもう数分効果があるはずなんだけど……」

 

 それなりに魔力を込めたはずなので、効果切れするにはまだ早いはずなのだが……

 

「あー、ウィズ? どうやってウィズが付与魔法使ったのかは知らないけど、多分職業補正の問題じゃない?」

 

「職業……補正?」

 

 ロザリーが言うには、冒険者のスキルには補正というものがあるらしい。

 

「わかりやすい例で言うとね、冒険者って職業あるでしょ? 冒険者の職業は全ての職業のスキルを習得できるけど、そのぶん他の職業に比べて大量のスキルポイントを使わなきゃ習得できないし、スキルの完成度も劣っちゃうのよ。要するに冒険者が中級魔法を覚えたとしても、同じ魔法だろうが、本職の魔法使いが使う魔法には威力や効果は遠く及ばないってことよ」

 

 つまり、アークウィザードがルーンナイトの魔法を使っても、中途半端な効果になるということか……

 

「そ、そんな……」

 

 万能の能力(チート)かと思えば、世の中そんなに甘くないらしい。

 そんなこんなで、初のダンジョンモンスター、ウォータースライムの撃退に成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇってば、どうやって付与魔法習得したのよ? 何か魔道具とか……はないか、ウィズだし」

 

 ダンジョン内を歩き続けること、体感で一時間ほどだろうか。

 スライムを撃退した後、ずっとロザリーにこんな感じで絡まれている。

 というか俺だと魔道具はありえないとはどういう意味なのだろうか。

 

「うーん、強いて言えば女神様からの贈り物……かな?」

 

「何よそれ、もしかしてエリス様から? エリス様の贈り物だったりする?」

 

「ち、違うかな……」

 

 確かアクアという名前の女神様だったはずだ。

 ちょっと想像していた女神様像とはかけ離れてはいるが。

 

「ロザリー、人にはあまり知られたくないことがあるんだから、しつこくするのはよくないぞ」

 

「はいはーい、そうよね。例えばブラッドさんなんかは、夜中こっそりと宿を出ていかがわしいお店とかに行ってること知られたくないもんねー」

 

 何それ気になる。

 いかがわしいお店とは、女の子とキャッキャウフフできちゃう系の奴だろうか。

 それなら是非自分も……あ、自分自体が女の子になってるんだった。

 はははは……はは。

 ……はぁ、虚しい。

 

「あっははは、そういうロザリーさんこそ、小さい頃から必死に豊胸しようと、筋トレ紛いのことをし続けてるけど、結局ついたのは胸じゃなくて筋肉で、未だに諦めきれずに筋トレ続行中なこと知られたくないもんなー」

 

 なるほど、ロザリーの謎の筋力に納得がいった気がする。

 思い返せば、お風呂で一緒になった時も、女の人にしてはやけにがっしりしてる体つきだった。

 もしかして腹筋割れてたり……

 

「…………」

 

「…………」

 

 前を先行していたブラッドがぴたっと止まり、後ろにいるロザリーを笑顔で見つめる。

 ロザリーも笑顔でブラッドを見つめ返す。

 

「「上等だおらぁ! 土の味を味合わせてやる!!」」

 

 事前に打ち合わせでもしたのではないかと疑ってしまうほど、息ぴったりに、同じ台詞をはきながらお互い取っ組み合いを始める。

 仲が良いのは大変よろしいのだが、せめて時と場合を考えて欲しいものだ。

 

「おいおい、聞き覚えがある声で騒いでると思ったらお前らかよ」

 

 すると前方から四人組の人影が現れた。

 こちらも聞き覚えがある声だと思い、目線をそちらに向ける。

 結果として、この四人組は知り合いだった。

 

「トーンさん、奇遇ですね」

 

「おう、元気か嬢ちゃん? 確かにこんな所で会うのは奇遇だな」

 

 愛想の良い顔で、ランサーのトーンが言う。

 トーンの後ろには、彼の冒険者仲間の三人が居たので、同じく挨拶を交わす。

 

「ミラーさん、エイヤさん、リリィさんこんにちは」

 

 挨拶というのは大事だ。

 人と人がコミュニケーションを取るのに必要な行為であるからだ。

 盗賊のミラー、アーチャーのエイヤ、それからプリーストのリリィ。

 ランサー、アーチャー、プリーストに盗賊。

 前衛職が少なく感じるが、なかなかバランスが取れていて良いチームだと思う。

 

「トーンさん達もレベル上げですか?」

 

「ん、まぁそんな感じかな。色々と試したい戦術とかあったからその練習も兼ねてだが……というかそっちの二人はどうなんだ? ダンジョンにまで来て喧嘩しに来たのか?」

 

「いやぁ……一応ロザリーのレベル上げを……」

 

 お互い武器を使ってるわけでも、激しく殴り合っているわけでもないので、本気ではないのだろう。

 しかしそろそろやめて欲しい、なんだか知り合いに知り合い達の醜態を見られているとこっちまで恥ずかしくなってくる。

 

「ま、まぁ頑張れよ。俺たちはもう帰るけど、この先に特に危険な罠とかはなかったぜ。けどモンスターもあまり残ってないだろうから、レベル上げたきゃさらに下層に行ってもらわなきゃならんが……」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

 情報共有って冒険者っぽくていい感じだなと思いつつトーン達と別れ、床を転げ回っている二人の喧嘩を止めることにした。

 

 

 途中何回かモンスターに襲われたが、大きな怪我もなく無事にダンジョンを進んでいると、少し開けた空間に出た。

 劣化してボロボロの状態になっているが、机や椅子、タンスのようなものが置かれているところを見ると、この部屋は誰かが生活用として使っていたのだろうか。

 

「ちっ、やっぱりロクなもんすら残ってないか」

 

 タンスや机の引き出しを開けながら、残念そうに舌打ちするロザリー。

 はたから見れば完全に強盗のようだ。

 

「せいぜいあるとしたらこのボロボロの本の山か……」

 

 部屋の一角にある、本棚らしきものの前でブラッドが呟く。

 ブラッドの言う通り、本棚に敷き詰められているほとんどの本は、虫食いやらなんやらで読めそうにもないほどボロボロのしかない。

 

「せめて保存状態が良ければ、年代物として売れるんだけどね……と、なんだ、一冊良さそうなのあるじゃない」

 

 ロザリーが本棚の中央らへんにある、背表紙に魔法陣のようなものが描かれた本を見つけた。

 確かに他の本に比べて、保存状態は良さそう……というより、埃を被ってるくらいで、劣化という劣化はなさそうに見える。

 何か特殊なコーティングとかされた本だろうか。

 ロザリーがその本を本棚から抜き出そうと、本を掴んだ。

 

「……あ、あれ?」

 

 しかし掴んだままロザリーは固まってしまった。

 

「どうした?」

 

「い、いや……この本取れな……んん!」

 

 ついには両手で本を掴み、身体の重心を後ろにかけるが、それでも本が本棚から離れる様子はない。

 

「はぁ? たかが本一冊お前の怪力で取れないはずか……あれ!? ほんとだ取れない……!」

 

 ブラッドも参戦し、二人掛かりで本を引っ張る。

 しかし接着剤で固定されているかのように本は全く動かない。

 

「はぁ……はぁ……ど、どうなってんのよ」

 

 ついに諦めた二人は、本から手を離す。

 これはどうしたことか、他の本は普通に手に取れるというのに……そう思いながら、自分もその本を引っ張ってみようと本に触れた。

 

「うわぁ! な、何事!?」

 

 しかし、本に触れた瞬間本が謎の発光を始めた。

 突然の出来事に、慌てて本から手を離し後ろに飛び退く。

 ブラッドとロザリーも警戒をし始める。

 もしや何かの罠だったのか。

 だが、この部屋に入る前に念入りに感知魔法を掛けて安全を確認したはず……

 

 本は時間にして数秒ほど、発行をし続けた。

 やがて本はその輝きを収め、それと同時に本棚が横へとスライドを始めた。

 そして本棚がなくなったことで露わになった後ろの壁には、細長い通路のようなものが現れた。

 これはもしかしなくても……

 

「「「か、隠し通路!!!」」」

 

 まさかの隠し通路発見である。

 あの本がスイッチのような役割だったのかは知らないが、とにかく隠し通路発見だ。

 思わずテンションが上がる。

 

「ち、ちょっと……これもしかして発見したのあたし達だけじゃない?」

 

「た、多分な……」

 

「まだ誰も入ったことがない通路……ということはこの先に」

 

 ロザリーがダンジョンに入る前に言っていた。

 曰くキールの財宝はまだ見つかってないと。

 ごくりと、誰かが……もしくはこの場にいる全員が唾を飲む音がした。

 

「よ、よし! ちょっと入ってみないか? いや、別にロザリーのレベル上げも大事だけど、冒険者としてお宝を見つけるのも大事だと思うんだ俺は」

 

「そ、そうよね! 確かにレベル上げも大事だけど、お宝も大事よね」

 

 ちょっと意味が不明な理由でお互いを納得させ合う二人。

 

 出現した隠し通路に近づいてみると、思っていたよりも細長い通路だった。

 人が一人、横向きの状態でカニ歩きをしてなんとか進めるぐらいの細さだ。

 

「よっと……ギリギリかな」

 

 仕方なく大きい荷物は部屋に置き、最低限の荷物を手で持つことで、ブラッドは窮屈ながらも通路に入れた。

 

「なんだってこんな狭く設計されたのかしらね……っと」

 

 対するロザリーは、いともたやすく通路に入る。

 さて、最後は自分の番だ。

 身体を横向きにして、通路に身体を滑り込ませようと……

 

「あ、あれ……?」

 

 ムニュ、ムニュ。

 音で表すならこんな感じだろうか。

 予想外……いや、なんとなく察しはしていたのだが……

 

「む、胸が……邪魔!」

 

 ここで巨大な突起部分()が通路の壁に引っかかってしまい、通路に入れないという事態が起きてしまった。

 なんとかできないかと、何度か挑戦するがやはり入れない。

 

「どしたのウィズ?」

 

 通路の先でロザリーが聞いてくる。

 

「いや……その、通れなくて……」

 

「……あぁ、そういうことね」

 

 そう言うと、ロザリーは引き返してきて、自分を通路の入り口に立たせると、自分の身体を押し始めた。

 

「ちょ、痛い! 痛いですロザリーさん! あだだだだ!」

 

「ほら、あたしが無理矢理にでも詰め込んであげるから大人しくしてなさい」

 

 ぎゅうぎゅうと、主に自分の胸部部分を思いっきり潰そうとしているため、とても痛い。

 

「む、胸! 胸が潰れちゃいます! もしくはもげちゃう!」

 

「もげればいいのに」

 

 今確実に本音っぽいのが聞こえたがする。

 まずい、このままではロザリーにヤられる。

 

「わ、私待ってます! ここで待ってるのでブラッドさんと二人で先行ってください!」

 

「何言ってるのよ、あんたがいなきゃ罠があるかどうかわからなくなるじゃない」

 

 ぐっ……こんなことなら感知魔法なんて習得せずに日を改めるべきだったか。

 

「そ、そんなこと言われても……あ、だめぇ! 絶対に入らない、入らないですから!」

 

「やってみなきゃわかんないわよ? ほら、力抜いて……その内痛みなんて感じなくなるわよ」

 

「うぅ……せめてもう少し優しく……」

 

「優しくやってたらいつまで経っても入らないじゃない。大丈夫よ、その内気持ちよく……」

 

「君たちさっきから何やってるの!?」

 

 狭い通路でブラッドの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……痛いよぉ」

 

 ロザリーの手助けもあり、なんとか通路を抜けることができたが、その代償として痛みを伴うことになった。

 主に胸が。

 しかもこちらが身動き取れないのをいいことに、ロザリーがやけに胸を弄ってきたのも原因の一つだろう。

 

「いやーごめんね、思ったよりも感触が良くてついつい触りすぎちゃったわ」

 

 あはは、と笑い飛ばす彼女には反省の色は見られない。

 間違いなく確信犯だろう。

 

「そ、それよりあれ見てみろ二人とも。多分次の仕掛けだ」

 

 ブラッドが指差す先には、壁しかない。

 いわゆる行き止まりというやつだ。

 しかしよくよく見ると、見覚えのあるものが壁にはあった。

 

「これって……あの変な本にあった魔法陣と同じやつ?」

 

 あの光る本に刻まれていた魔法陣と同じものが、その壁にも刻まれていた。

 となるとこれは、あの本と同じ仕掛けの可能性が高い。

 

「じゃあこの魔法陣を起動させれば、また隠し通路が開くってことかしらね」

 

「まぁそういうことだろうな。どれ……」

 

 ブラッドが魔法陣に手を触れる。

 しかし何も起きない。

 

「うーん、一体どういう仕組みなのかしら……」

 

 続けてロザリーが触るが、魔法陣はうんともすんとも言わない。

 

「さっきの本も、この壁のやつも、俺たちが触っても何も起きない……けどウィズが触ったら本の魔法陣は反応した」

 

「となると起動させるには……」

 

 ブラッドとロザリーが同時にこちらを見つめてくる。

 この魔法陣の仕組みはわからないが、多分自分が触れることで作動する可能性があるからだろう。

 二人の視線に頷きで答えると、壁に近寄りその魔法陣へと手を差し出す……

 ひんやりとする壁の感触を感じたと同時に、魔法陣は光を放ち始めた。

 どうやらこの魔法陣は自分が触れることで作動するのは間違いないようだ。

 徐々に光を強くする魔法陣を見つめながら行く末を待っていると、ふいに視界が一瞬真っ白になった気がした。

 

「うっ……一体なにが」

 

 思わず閉じてしまった瞼を徐々に開けると、その視界は暗闇で覆われていた……

 

「ブラッド? ロザリー?」

 

 仲間たちの名前を呼ぶが、さっきまで近くにいたはずの二人からは返事が来なかった。

 というか、暗くて正確にはわからないが、明らかにさっきいた場所とは違うところにいる。

 なにが起きたかはわからかいが、ひとまず灯りが欲しいところだ。

 

「えっと……何か灯り……」

 

 とは言ったものの、ランタンはブラッドが持っていた。

 自分が持っているといったら、散々ダメ出しされた魔道具くらいなのだが……

 

「良かったらこれを使うと良い」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 声のする方を見ると、暗くてよく見えないが、誰かが立っていた。

 しかもその手にはランタンらしき物体を持ってこっちに差し出していた。

 

「あ、これはどうもありがとうございます」

 

 誰だか知らないが助かった。

 ランタンを受け取り、ティンダーの魔法で灯りを灯す。

 範囲は狭いが、光を浴びた暗闇は消え去り、その周囲を明るく照らし始めた。

 自分達と同じダンジョンに来ていた冒険者だろうか?

 まぁ誰であろうと改めてお礼をするべく、視線を相手に向けるとそこには……

 

「やぁこんにちは……もしくはこんばんはかな? こんな所に客なんていつ以来だろうか……ともかくゆっくりしていくと良い」

 

 そこには、ローブで身体全体を覆い、ローブの隙間からは、干からびてカラカラになった皮膚を貼り付けている骸骨がいた。

 

「ひ、ひゃあああああ!」

 

 驚きのあまり尻餅をつく。

 びっくりした! めっちゃくちゃびっくりした!

 気がついたら目の前に動いて喋る骸骨がいたら、誰だってびっくりするはずだ。

 一体どんなホラー番組だというのだろうか。

 

「あぁすまない、驚かせてしまったかな? 心配せずとも、君に危害は加えないよ」

 

 見た目とは裏腹に、やんわりとした優しい声だった。

 その声に敵意はなく、感知魔法を使っても敵意は感じられない……となると嘘ではないようだ。

 

「す、すいません。ちょっといきなりだったのでつい……」

 

「いいさいいさ、こんな格好じゃ無理もない」

 

 カラカラと骨を鳴らしながら笑う。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。私はキール、このダンジョンの主人で、貴族の令嬢をさらって行った悪い悪い魔法使いさ」

 

 キール……キール?

 

「えっ……じゃああなたが?」

 

「いかにも、かつて国に貢献をし、最後はその国に反逆をしたアークウィザードは私のことさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大魔法使いキールは、ある日王に言った。

 この世にたった一つ、どうしても叶わなかった望みがあります。

 それは、虐げられている愛する人が、幸せになってくれること……

 

「とまぁそんなこんなで、私は貴族の令嬢を攫ったというわけさ。それで思い切ってその攫った娘にプロポーズしたら二つ返事でオッケーして貰ってなぁ。王国軍の追っ手達と派手にパーティーしながらも、愛の逃避行をしていたんだ」

 

「うっ……いい話ですね」

 

 思わずホロリときてしまった。

 どうやらお伽話の続きは、本人達からしたらハッピーエンドだった模様だ。

 まぁ王国側からしたらそうはいかないだろうが。

 

 目の前のキールと名乗る骸骨さんの話からすると、惚れたご令嬢は親のご機嫌とりだけのために王様の妾として差し出されたが、肝心の王様にはまったく可愛がられず、正室や他の妾とも関係は上手くいかず虐げられていたそうだ。

 そこでキールは、要らないなら俺にくれと言ってご令嬢を攫っていったらしい。

 

「いやぁ、なかなか楽しかったよあの時は。おっと、ちなみにその攫ったお嬢様はそこのベッドの上で寝ているお方だよ。どうだい? 雪のように真っ白な上腕骨だろ?」

 

 キールが指差す方を見ると、確かに白骨化した骨が綺麗に整えられて横たわっていた。

 どうやらこちらのお方はキールとは違い動かないようだ。

 

「……というか、キールさんはどうして生きて……はないですね。動いてられるんですか?」

 

 おそらくだが、アンデッドとして動いているのだろう。

 しかし、ここに来るまでに何回かゾンビやらゴーストやらのアンデッドモンスターと出会っているが、キールは彼らとは全く違うように感じられる。

 普通のアンデッドは生者に対して容赦無く襲い掛かる。

 しかしキールにその様子は全くみられない。

 何より知性が残っているのが証拠の一つだろう。

 自分の質問にキールは、あぁ、と言いながら答えた。

 

「それは私が、ノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王……リッチーだからさ」

 

「リッチー……?」

 

 リッチーというと、アンデッドの頂点というイメージがあったが……

 

「なんか、イメージしてたのと違いますね。全く怖くないです」

 

「ははは、そうかい? 君もお嬢様と同じ事を言ってくれるとは嬉しいね……」

 

 どこか懐かしむような目で遠くを見つめるキール。

 キール曰く、毎日のようにお嬢様を王国軍から守っていたのだが、流石に多勢に無勢、ある日重傷を負ってしまったらしい。

 キールはそれでも彼女を守るために、人の身を捨てリッチーになったらしい。

 これまた良い話じゃないか。

 

「それより此方からも質問いいかな? えっと……」

 

「あ、ウィズリーです。ウィズリー・リーンと申します」

 

 そういえばこちらの自己紹介がまだであった。

 

「そうか、良い名前だな……ウィズリーくん、君はどうやって此処に来たか覚えているかい?」

 

「え」

 

 ……そういえばそうだった。

 気がついたら此処にいたのだが、その経緯がまったく思い出せない……というか検討もつかない。

 本当に気がついたら此処にいたのだ。

 

「えっと……ある部屋の本棚にあった本を触ったら、隠し通路が現れて……それでその奥にあった壁の魔法陣に手を触れて、気がついたら此処に……」

 

 自分の曖昧な説明にキールはなるほど、と呟いた。

 

「いやぁすまなかったね、その魔法陣は私が緊急避難用に用意していた転移魔法の一種なんだ。触れた者を指定した場所に転移するというものでね」

 

 ふむ、なるほどそういう事だったのか。

 自分だけが触れたから、ブラッドとロザリーは転移されずに、自分だけ転移先のこの場所に飛ばされたということらしい。

 

「しかしあの魔法陣は、私以外使えないように、膨大な魔力を持つ者にしか反応しないように細工を施していたのだが……ちょっと失礼」

 

 すーっと、骨の手が伸びてきて、自分の額に触れた。

 あ、冷たい。

 

「……これは驚いた。君はなかなか良い素質を持ったウィザードのようだね」

 

 触っただけで相手の魔力やらなんやらを感じ取れるのか、キールは感心したように頷く。

 

「魔力自体もかなりの量、魔力回路も全身に張り巡らせられるほどの複雑さ……いやはや、もし生前の私が君と出会っていたら弟子にしたくなっていただろう」

 

「いやぁ、それほどでもないです……」

 

 そんなにもベタ褒めされると照れてしまう。

 まぁこの才能、貰い物のようなものなんだが……

 

「これからも魔導を磨いていくと良い。君なら間違いなく、私以上の大物になれるだろうさ。それと、髪をそのまま伸ばし続ける事をお勧めするよ」

 

「え、どうしてですか?」

 

 今の話に髪の毛の何がどう関係しているというのか。

 

「君の魔力回路は稀に見る珍しいものでね。普通の人が持つ魔力回路は、神経やら血管のように、身体の一部分に張り巡らせているような形で存在しているものなんだ。けれど君のは普通のとは少し違う」

 

 え、そうなの?

 というか魔力回路? という存在自体初耳なのだが……

 

「君の場合、それこそ神経や血管のように魔力回路が、身体の一部分どころか全身に張り巡らされている。それだけでも充分珍しいが、さらに驚くべきことに、普通なら魔力回路が存在しないはずの爪や髪の毛にもあるんだ」

 

「……つまり、爪や髪の毛を伸ばせば伸ばすほど、魔力回路も増えて強くなれる……ということですか?」

 

「その通り、魔力回路は多ければ多いほど、長ければ長いほど、複雑であればあるほど魔法の質はより良くなる」

 

 な、なるほど。

 通りで魔法を唱える時に魔力を込めると、髪の毛あたりがぞわぞわーってするのか。

 ロザリーが言うには髪の毛がウネウネと逆立ってるらしい、まぁ自分からではよく見えないのだが。

 

「爪を伸ばすのはいささか不衛生だろ? なら髪を伸ばせば良いというわけさ。幸いにも君は長い髪の毛が似合いそうだ」

 

 うーん……正直髪の毛を伸ばすのは女の子っぽくて抵抗があるのだが……しかし強くなれるなら髪を伸ばすくらい良いのではないだろうか。

 

「…………あ」

 

 強さと男らしさを天秤に掛けていると、ふと思い出した。

 ブラッドとロザリーのことすっかり忘れてた。

 キールとの話に夢中で、どれくらいたったかはわからないが、一時間は経っているであろう確実に。

 

「おや、どうかしたかい?」

 

「え、えと……そろそろ仲間たちと合流しないと行けないと思って」

 

 このままでは心配をかけ過ぎてしまう。

 

「そうかそうか、いや度々すまないねぇ。長話させてしまって……お詫びにダンジョンの入り口まで転移で送ってあげよう。ダンジョンの外には何人かの生命反応が感じられるから、おそらく君の仲間達だろう」

 

「え、本当ですか?」

 

 それは助かる。

 何せ帰り道が全くわからない。

 

「あぁ、構わないよ……おっとそうだ、せっかくだし君に一つ贈り物をしておこう」

 

 キールはそう言うと、お嬢様が横たわっているベッドの下から、棒状のものを取り出した。

 

「私が使っていた杖だ。良かったら君が今後使ってやってくれ」

 

 その杖は見事だった。

 杖の先端にはひし形の紅い宝石のようなものがはめ込まれ、その上には突起状の飾りが付いている。

 さらにそれらをドーム状に覆っている金属は、その先端に鋭い刃物を形成していた。

 その杖は、杖というよりかは、槍のような感じがする。

 

「……いいんですか?」

 

 素人目だが、よほどの一級品と感じられる。

 もちろんくれるというなら、その好意を無下にはしたくないが、これほど見事なものだと多少受け取りにくさもある。

 

「私にはもう必要のないものだからね……遠慮なんかしなくていいさ」

 

 むぅ……そこまで言われては仕方ない。

 お礼を言いつつその杖を受け取る。

 

「その、今日はお世話になりまし……た?」

 

 このダンジョンは彼からしたら家みたいなものだろう多分。

 お世話になったかどうかは微妙なところだが、別れの挨拶としては充分だろう。

 

「なに、私も久しぶりに人と……それも将来有望な子と話せて嬉しかったよ。それじゃあ気を付けて帰るといい」

 

 キールが魔法を唱える。

 するとまたもや視界が白で埋め尽くされていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 キールに転移させてもらい、気がついたらダンジョンの入り口に立っていた。

 そして明確になっていく視界には、見慣れた人達が……

 

「……? あ、いつの間に!?」

 

 いち早くこちらに気づいたのはロザリーだった。

 その周りにはブラッドや、トーン達も居た。

「このおバカ!」

 

「痛い!?」

 

 そして急に頬をビンタされた。

 普通に痛い。

 

「どこいってたのよ、こっちは散々探したんだからね! 急にウィズが消えちゃうから慌ててトーン達を引き止めて一緒に探してもらったんだからね」

 

「えっと、ごめんなさい……あの魔法陣のせいで別の場所に転移させられちゃったみたいで」

 

 ロザリーが口をしぼめる。

 

「……まぁ触らせたのはブラッドだし、ウィズにも怪我はないみたいだから万事オッケーよね……」

 

「さりげなく俺に全部の責任押し付けるのやめてくれないか? まぁ、本当に怪我が無くて良かったよ。あとすまないな、危険な目に遭わせちまった」

 

 大丈夫だよ、と伝える。

 まぁ別に危険な目には逢ってないし、むしろ収穫(新しい杖)もあったので万事オッケーである。

 

「あれ、何その杖? もしかしてお宝? それお宝?」

 

 興味津々なロザリーを連れ、みんなで帰路につく。

 ……そうだ、帰り道に、ある魔法使いの恋の物語の続きを教えてあげよう。

 




魔道具(ガラクタ)の数々』
 よく説明を見ずに買い漁った結果がこれだよ!


『キールの杖』
 この仮面の悪魔に相談を! の最終話にある押絵で、ウィズが持ってたやつです。
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