ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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少女は走る。愛する者を守ろうとして。

少年は駆ける。守りたいもの全てを手に入れる為に。



Ep.11 黒猫&閃光 流麗の剣舞

 

ガストレイゲイズの触手を、盾でどうにか凌ぐ壁役のプレイヤー達。

先程より手数が多く、その何人かは吹き飛ばされた。

 

 

「ぐはっ…!」

「ぐぅ…!」

 

 

HPが危険域に達した事で、ボスの攻撃パターンも変わったのだ。

触手による攻撃の手数が多くなった事で、タンクの対応が遅れてしまったのだ。

盾が飛ばされた事で、攻撃に備えていたプレイヤー達が顕になり、ボスは目を見開いた。

 

 

そのプレイヤー達の間を、二つの影が通り過ぎて行く。

少年は黒いコートを翻し、ティルファングをボス目掛けて突き付ける。

少女はその紅と白の装備を纏い、ランベントライトを光らせる。

 

 

アキトとアスナが、ボスに向かってスキルを放つタイミングは、見事にシンクロした。

 

片手剣突進技<ヴォーパル・ストライク>

細剣単発技<リニアー>

 

その二本の剣は、ガストレイゲイズの眼球を見事に捉えた。

ボスはそのスキルの威力に後ずさる。

周りはその二人の姿に見惚れているのか、動かない。

 

 

「連携崩すな!体勢を立て直せ!」

 

「ボスの正面は厚くして、残りの人達は側面から攻撃して下さい!」

 

 

アキトとアスナは間髪入れずに周りに指示を出す。

我に返った彼らは、すぐに体勢を立て直す。

そして、アスナの指示通りに隊が動いていく。

 

 

アスナは仰け反ったボスに畳み掛ける。

まさに閃光と呼べるその剣速で、ボスの体に突きを見舞う。

アスナの隙を突こうと伸ばされた触手を、アキトがソードスキルで弾き返す。

 

片手剣単発技<レイジスパイク>

 

ゲームの初期で覚えられる基本的な技ではあるが、ボスの触手を弾くには充分過ぎる。

触手が弾かれた事で更に仰け反るボスを見て、アキトとアスナはスイッチを行った。

アキトが離れ、アスナが三度、ボスの懐へと足を踏み出す。

 

 

もう、先程までの独断専行ではない。

その瞳には、勝利を目指す希望の光が点っていた。

 

 

「せあああぁぁぁ!!」

 

 

細剣九連撃奥義技<フラッシング・ペネトレイター>

 

その流星にも似た光が、閃光とも呼べる速度で次々とボスの体を突き刺していく。

その連撃全てが、ボスに吸い込まれていく。

アスナはすぐに後方に下がり、立て直したタンクと入れ替わる。

ガストレイゲイズは、タゲの対象であるアスナとの間を壁役に阻まれた事で、彼らを煩わしく感じているようだった。

その隙を突くかの如く、側面からプレイヤー達が次々とソードスキルを当てていく。

ボスは再び悲鳴を上げる。HPは急激に減少していく。

 

 

アスナはボスの動きを見ると、すぐに周りに指示を出す。

 

 

「触手による攻撃が来ます!各自距離を取ってください!」

 

 

アスナのその一言で、血盟騎士団のメンバーが軍隊の様に動いていく。

彼らはアスナの指示通り、ボスからある程度の距離を保ちつつ、隙を狙う様に武器を構えていた。

 

 

その動きの良さに、ポーションを咥えていたアキトは想像以上に驚いていた。

 

 

「…凄い」

 

 

これが、アスナ。

これが、血盟騎士団。

 

これが、攻略組か。

 

 

何故か気分が高まってくる。その顔に笑みが浮かぶ。

ボスの元へと再び走り出し、ティルファングを構える。

 

 

(──ここが、キリトのいた場所──)

 

 

片手剣四連撃技<ホリゾンタル・スクエア>

 

 

その剣は今まで以上に、高揚するアキトに応えるかのように煌めく。

ボスの背後から、その攻撃を叩き込む。

ボスの中心から、四角いエフェクトが飛び散った。

その攻撃に気付いたボスが、アキトを睨みつける。

 

 

そしてその隙を、アスナは見逃さない。

 

細剣斬属性単発技<アヴォーヴ>

 

アキトの方を向いた事によってガラ空きになった背中に光り輝くランベントライトで斬り上げる。

一定の確率で敵をスタンさせるこのソードスキルは、運良くボスの動きを止めてくれた。

 

 

それを確認したアキトは、さらに畳み掛ける。

 

片手剣四連撃技<バーチカル・スクエア>

 

先程とは違う色の四角いエフェクトが、ボスの周りに現れる。

当てた敵を麻痺させる追加効果を狙ったソードスキル。

思惑通り、ボスは体が麻痺し、再び動かなくなっていた。

 

 

アキトとアスナはコンタクト無しで、その隙を同時に狙う。

二人共、再びその剣を光らせ、ボス目掛けて叩き込む。

その顔は真剣そのもの。

ただボスに攻撃を入れる事のみを考えた無駄のない動き。

 

 

「スゲェ…」

 

 

誰かが、そうポツリと呟いた。

目紛しいソードスキルの連続に、周りは唖然とするばかり。

アキトとアスナ。

周りには指示を出すのに、互いに互いを指示しないその連携は、何故か見事にシンクロしていた。

二人が作り出しているこの剣舞に、彼らは半ば見とれていた。

勝てる。このままいけば。

 

 

麻痺が解けたボスは、何度目か分からない悲鳴を上げる。

瞬間、アキトとアスナは後方の連中と入れ替わる。

ガストレイゲイズはその触手を広げ、その眼球が光を放つ。

その眼を中心に、光が集約していく。

ボスのこの後に取る動きを、彼らは把握していた。

 

 

「光線が来るぞ!散開!」

 

 

光線攻撃を喰らえば、再び動きを封じられてしまう。

タンクの一人が大声を上げ、周りは回避行動に移った。

タゲの対象外の他のプレイヤーは、ボスの側面に移動し、隙を見て攻撃しようと構えている。

エギルも、クラインも、アスナも。

完璧な体勢、布陣、対処。

そう思うのに。

 

 

ただ一人、アキトだけはボスに違和感を感じた。

ボスの溜めの時間が長い。

 

 

「っ!マズイ…お前ら!離れろ!」

 

 

アキトのが口を開くのと、ボスの攻撃のタイミングはほぼ同じだった。

ガストレイゲイズは、集約したその光を放つ。

全方位に。

対処に遅れたアキト以外のプレイヤーは、その攻撃に為す術なく吹き飛ばされた。

その威力、範囲、共に先程までの比にならない。

HPゲージが赤になった事で、ボスの攻撃が変化したのだ。

そんな事は常識だった筈なのに、それをすっかり忘れていた。

いや、レッドゾーンに入ってから、光線攻撃を使うのはこれが初めてだ。

対処が遅れても無理はない。

だが、周りの状況を見て、そんな事は言ってられなかった。

 

 

ガストレイゲイズは倒れたプレイヤー達を見渡す。

すると、その視界に映ったのは、先程まで自分を散々痛めつけてくれた栗色の髪の少女だった。

ボスはその少女に近付いていく。

彼女は倒れたまま、ボスの接近に気付かない。

 

 

「クソッ…!」

 

 

今動けるのはアキトだけ。

ボスのHPは残り僅か。

なら、周りに被害が出る前に。

倒すしかない。

 

 

アキトは、ボスに向かって走り出した。

ボスはアキトに気付いたのか、その視線をアキトに向ける。

その悲鳴の様な雄叫びを、アキトに向かって放った。

アキトはそれに応えるように、声を上げて向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あれ…私…)

 

 

アスナは、何時間も気絶していたかの様に感じながら、その瞳を開ける。

気がつくと、自身はボス部屋の床で這いつくばっていた。

その状態で周りを見渡せば、プレイヤー達が皆、自分と同じ様に地面に伏していた。

そして、一人の少年と、ボスの姿が目に入る。

瞬間、その瞳を大きく見開いた。

 

 

アキトが、たった一人でボスと対峙している。

早く助けなければ。

それを見た瞬間、アスナは立ち上が───

 

 

(くっ…!?う…ごけ…な…!)

 

 

体が、思う様に動かない。

そうだ、自分はボスの広範囲攻撃の追加効果によって、移動を封じられていた。

HPゲージがレッドゾーンに達していたというのに、攻撃の変化に気付かなかったのは、もう少しで勝てるという思いが生んだ驕りだった。

アスナは必死に、その体を動かそうとする。

動かない体に、苛立ちを覚えた。

 

 

その視線の先には、今も変わらずあの少年が。

そのHPゲージは、みるみる減っていく。

先程より、ボスの触手攻撃が速く、鋭く、多くなっていて、アキト一人では対処し切れていなかった。

アスナはそれを見て恐怖を感じる。

アキトが、キリトと重なる───

 

 

「っ…!?…あ……」

 

 

 

 

 

 

瞬間、アスナの脳裏には、何度も見る夢の光景が広がった。

アキトとボスに、その記憶を重ねた。

キリトと、ヒースクリフのデュエルが、その眼に映る。

 

 

キリトとヒースクリフの命懸けの攻防。

何度も何度も後悔した筈だ。

なのに、それなのに私は。

アスナは動けず眺めるだけ。

 

 

──また。

 

 

──また、私は……。

 

 

(…私は…キリト君を…!)

 

 

──何故。

 

 

──どうして。

 

 

こんなに必死になっているのか。

アキトをキリトと重ねて見てしまうのか。

体が勝手に動くのか。

助けようとしているのか。

キリトがいない世界を生きてる意味など無いと、そう言った筈ではないか。

 

 

 

「グハッ…!」

 

 

ボスの触手を捌き切れず、アキトは後ろに吹き飛ばされる。

そのHPは、最早風前の灯だった。

 

 

「…キリト…君…!」

 

 

やめて。

もうやめて。

何度思ったか知れない。

その夢は、まるで呪いの様に。忘れるなというように。

毎日毎日現れる。

何度も何度も、自分の愛する人の死を目の当たりにして。

その度に抗えない自分自身を殺したくなる程憎らしく思えて。

死にたくても死ねなくて。

死ぬ間際のキリトの言葉を、何度も何度も思い返す。

 

 

『君だけは生きて』と。

 

 

黒の剣士キリト。

アスナがSAOという世界で過ごした2年間の意味であり、生きた証。

そんな彼が私に。

死んで欲しくないと言う。

そう言った彼は死んでしまったというのに、なんて残酷な事を言うんだろう。

 

 

「っ…!…っ…!…くっ……っ…!」

 

 

アスナはその体を、震える体を、その腕を、その足を動かす。

動きを封じられている筈のその体が、アスナの意志に応えるかの様に。

上半身を起こし、細剣を手に取る。

倒れそうなその体を、震えるその足を細剣で支える。

その視線は、今も尚、キリトと重なるアキトから変わらない。

 

 

そうだ。

キリト君は無責任だ。

自分勝手だ。

私の事なんて考えてくれてない。

私が、君の事でどれだけ苦労させられていることか。

どれだけ頑張ってきたか。

君は知らないんだろう。

 

 

まだ、キリト君に伝えてない事があった。

キリト君に言いたい事があった。

キリト君とユイちゃんと行きたい場所があった。

 

 

また、死ぬのを見てるだけなんて──。

 

 

「…そんなの…!」

 

 

その足は、一直線にボスへと向かう。

ランベントライトは、かつてない程の輝きを放つ。

アスナのボスに向かうその速度は、目で追えない程のものに。

今にもアキトにトドメを刺さんとするボス目掛けて、その剣の輝きをぶつける。

 

 

「キリト君!」

 

 

何度も後悔した。

何度も涙した。

何度も彼を思った。

何度も自身を呪った。

想い人の死を眺めるだけだった自分を。

 

 

だから──

 

 

 

「っ…!? 閃光…!?」

 

「はぁっ!」

 

 

細剣多段多重攻撃九連撃技

<ヴァルキュリー・ナイツ>

 

その連撃は、まさに神速。

ボスがアキトに伸ばしていた触手は、その突きで弾け飛ぶ。

凄まじい威力だった。

 

 

しかし、今度はアスナに向けて触手を伸ばす。

ソードスキルの硬直によって、アスナの隙が顕になる。

アキトはその触手に剣を届かせる。

 

 

(届け──!)

 

 

片手剣突進技<ヴォーパル・ストライク>

 

ティルファングは、ボスの触手を見事に弾く。

ガストレイゲイズは弾かれ、後方へと仰け反った。

瞬間、アキトは走り出す。

 

 

「閃光、手ェ貸せ!これでラストだ!」

 

「っ──!」

 

 

その言葉に、アスナは応えるべく動き出す。

アキトとアスナは、ボスに向かって一直線に走る。

ガストレイゲイズは迎え撃つべく、その触手を広げた。

 

 

アスナは、走る最中、アキトの背に懐かしいものを感じた。

 

 

ああ、この光景どこかで──

 

 

それは、第一層のフロアボス戦の記憶。

キリトがプレイヤーの憎しみを一心に背負い、ビーターと呼ばれる様になったあの時の光景。

あの時もこうして、キリトと共にボスに向かって走り、トドメを刺しに行った事を。

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

アキトがボスの触手を弾く。

そして、アスナがボスに詰め寄る。

 

 

「せあああぁぁぁ!」

 

 

アスナが突きを入れる。

ボスが怯み、その隙をアキトが斬り付ける。

目を見開き、その剣に意志を込める。

 

 

「ぜああぁぁ!」

 

 

片手剣単発技<ソニック・リープ>

 

 

その剣は、その足は最速でボスに近付き、ガストレイゲイズの体を斬り裂いていく。

瞬間、ボスのHPバーが色を失った。

アキトはバランスを崩し、ボスの下に倒れ込む。

しかし、ボスが襲ってくる事はもう無い。

 

 

ガストレイゲイズの体は、これまで以上に強く光り、やがてポリゴンとなって飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…や、た…?」

「た…倒したのか…?」

「勝った…勝ったぞ!」

「やったぞ!」

「スゲェ!」

 

 

目の前に<Congratulations!>というフォントが現れ、ファンファーレが鳴り響く。

呆然としていたプレイヤー達は、その勝利という事実に次第に湧き上がり、各々が歓声を上げていく。

 

 

「…か…た、のか…」

 

 

倒れ込んでいたままだったアキトは、そう呟くと仰向けになる。

そして、初めて見る天井を見て、その事実を実感していく。

 

 

「…勝った…勝った……勝ったんだ…」

 

 

その瞳は、その表情は、信じられないといった雰囲気を醸し出していた。

何せ初のボス戦の上、戦力も少なかった。

攻略組の雰囲気も相まって、死者が出てもおかしくなかった。

だが結果としては、死者は0という完璧なものだった。

 

 

「は…ははっ…ははは…はっ…」

 

 

何故か、涙が出そうだった。

その瞳を、服で拭う。

この笑いは、嬉しさ故か。

何だって構わない。

 

 

「まずは、第一歩だな…」

 

 

アキトは仰向けになっていた体を起こす。

目の前には、アスナが立っていた。

しかし、彼女はコチラを見ておらず、細剣を持って立ち尽くしていた。

 

 

「…終わった…」

 

 

アスナは力無くへたり込み、アキトと同じ目線になる。

そして、気付いた様にハッと顔を上げ、アキトを見る。

そのいきなりの事で、アキトの体は震える。

 

 

「……」

 

 

キリトに見えていた少年は、もう正真正銘アキトに戻っていた。

アスナは、その顔を俯かせる。

あの時、ボスの移動封印の追加効果に抗った事。

それを解除してアキトを助けた事。

それらを思い返していた。

 

 

(…私、守れたのかな…)

 

 

あの日の、あの夢の出来事が重なって見えた。

 

 

あの時、キリトを助けにられず、ただ見てるだけだった事を悔やんでも、もうキリトは帰ってこない。

あの時の事を何度夢に見ても、その結果を変えられなかった。

だけど、アスナは今回、あの時と同じ事は繰り返すまいと、必死になって抗った。

あれは、間違いでは無かっただろうか。

抗えば、キリトを救う事が出来たのだろうか。

 

 

(私は…助けられたのかな…)

 

 

 

 

「……」

 

 

アスナが目の前で何も言わずにただ俯いているこの時間を、アキトは気不味く感じていた。

周りは勝利の余韻に浸っているというのに、アスナは喜びもせず自分のそばで座り込み、だというのに何も言ってこない。

てっきり何か文句を言われるのかと思って身構えていたのだが。

 

 

「…おい」

 

「……」

 

 

アスナからの返事は無い。

顔は俯いている為、その表情は窺えない。

アキトはそれでも、ただアスナだけを見つめていた。

 

 

今回、キリトとヒースクリフが不在という、戦力が大幅に低下した状態での初の攻略。

アスナにかかる負担はどんなものだったか。

そもそも、今回のボス戦はアスナにとってどんな意味を持っていただろう。

もしかしたら、あの独断専行も、キリトの後を追うための、死に急ぐ行動だったのかもしれない。

キリトと同じ様に、戦いの中で死ぬ為の。

世界に抗うと決めた筈なのに、耐えられなくなって、死にたいと思う様になった事の表れだったのかもしれない。

 

 

けれどアスナは、そんな意志に負けず、ボスの追加効果を破って、自分を助けてくれた。

抗う道を選んでくれたのだ。

そんなアスナに。助けてくれた彼女に。

 

 

自分がかける言葉は一つ。

 

 

「……アスナ」

 

「っ…」

 

 

彼女を呼んだ瞬間、彼女はその顔を上げる。

初めてアスナの事をまともに呼んだから、無理もないかもしれないが。

 

 

「お疲れさん。グッジョブだったぜ」

 

「────」

 

 

アスナはその目を見開いて、そのまま固まってしまった。

この至近距離で目と目が合った状態に、アキトも流石に目を逸らす。

 

 

「ま…まあ、殆ど俺の活躍みたいなとこはあったよな。お前前半ホントポンコツで……っ!? お、おい!何で泣くんだよ!?」

 

 

「え……あ……」

 

 

アスナは、その涙を止める事が出来なかった。

拭っても拭えない、データの涙。

アスナは耐えきれず、その両目を両手で覆った。

 

 

「っ…っ……」

 

「え…あ…え?俺のせい…なのか…だよな…そうか…いや、あの、さ、ポンコツっていうのは3割方嘘だからな!ほら、前半だけだったし、後半いい動きだったって!流石攻略の鬼!」

 

「おう、アキト。お疲れさ……おい、何泣かしてんだよ…!」

 

「っ!?あ、おっさん!ち、違うんだって…!」

 

 

勝利の喜びを分かち合いに来たエギルが、涙するアスナとアキトを見比べて、その顔を豹変させる。

アキトが必死に弁明しているが、アスナの耳には入っていなかった。

 

 

アスナの耳には、あの言葉が。

 

 

『お疲れさん。グッジョブだったぜ』

 

 

キリトに言われた様な気がして。

キリトの笑顔を見た気がして。

世界に抗えた事が、報われた気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

76層<アークソフィア>

 

 

77層のアクティベートを完了させ、戻って来た攻略組は、多くのプレイヤーに出迎えられた。

彼らは皆、称賛の声を上げ、その勝利を喜んだ。

 

 

各自それぞれ解散して行き、転移門に残ったのはアキトとアスナのみ。

エギルとクラインは、早々に店番を任せていたリズの元へと帰っていった。

 

 

夕暮れの刺すアークソフィアの街を、少しだけ離れた距離で、並んで歩いていた。

お互いに声を出さず、ただエギルの店へと向かうだけだった。

先程の泣かせた疑惑もあって、アキトからはアスナに話し掛けにくい。

アキトの前で泣いてしまったアスナも、アキトに話し掛けにくい状態になっていた。

二人はなんとなく気不味い状態の中ただ歩いていた。

 

 

「アスナ!アキト!」

 

 

そうして歩いていると、エギルの店が見えた。

入口付近には、二人を呼ぶ声が。

その声の主は走り出し、アキトとアスナの元へと向かって来る。

それもかなり全力で。

 

 

「リズ…」

 

「よお」

 

「はぁ…はぁ……たくっ…遅いわよ」

 

 

リズは息を整えて、体を起こす。

その視線の先には、自分の目では変わって見えていた親友、アスナが立っていた。

アスナはそんな真剣な眼差しを向けるリズに、何故か耐えきれずに目を逸らす。

しかし、リズはその行為を咎めもせず、アスナの手を取った。

 

 

「…おかえりなさい」

 

「っ…リズ…」

 

 

アスナは、そんな笑顔を向けるリズを見て、涙腺が壊れそうだった。

アキトは、そんな二人を親の様な目で見つめていた。

 

 

(親友、か…)

 

 

「…アキトも。おかえりなさい」

 

「…ああ」

 

 

リズのその表情に、アキトは目を逸らす。

リズはその反応で満足したのかその顔がニヤけていた。

 

 

「アスナさーん!アキトさーん!」

 

「おかえりなさーい!」

 

「……」

 

「ママー!おかえりなさい!」

 

 

リズの背の向こうには、シリカ、リーファ、シノン、そしてユイが立っていて、コチラに手を振っていた。

それを確認したリズが、笑顔でアスナとアキトの方に向き直る。

 

 

「さ!早く入りましょう!今日はパァーッとやるわよー!」

 

「あっ…ちょ…リズっ…!」

 

 

アスナの言葉など聞かないと言うように、リズはアスナを引っ張っていく。

入口まで着くと、ユイ達に出迎えられて、その店に入っていった。

それを眺め、アキトは口元は緩む。

 

 

「…大切にしなよ」

 

 

アキトはそう呟くと、そのエギルの店の入口へと歩き出す。

しかし、暫く歩いてその足を止める。

その入口の前には、一人の少女が立っていた。

 

 

「…シノン」

 

「おかえりなさい、アキト」

 

 

シノンはそう言うと、アキトの方へと近付いた。

アキトはシノンを見つめるだけで動かない。

 

 

「…攻略、どうだった?」

 

「…まあ、そこそこかな。初めにしちゃあ悪くなかった」

 

「そう、それはよかったわ」

 

 

シノンはそれだけ聞きたかったのか、くるりと背を向けエギルの店へと入っていく。

 

 

「早く行きましょう?皆待ってるわ」

 

「俺は頭数に入ってないだろ」

 

「エギルに呼んできてって頼まれたのよ。アンタも打ち上げのメンバーに入ってる」

 

「っ…」

 

 

その一言が、何故か胸を打つ。

仲間として認められたと感じる。

それが、何故か嬉しくて、何故か切なくて。

何故かたまらなく嫌だった。

 

 

アキトはその足をエギルの店へと踏み出す。

その店の奥では、エギル達以外にも、攻略の打ち上げをしているプレイヤー達がチラホラと見えた。

アキトは、ゆっくりと歩き出す。

その隣りを、シノンが並んで歩いていた。

 

 

「…ねぇ、聞いていい?」

 

「…なんだよ」

 

「…アンタ、攻略組になったばかりだってこの前言ったわよね。どうして、戦おうって思ったの?」

 

 

その質問は、距離的に考えてもアキト以外には聞こえていない。

シノンのその確信めいた質問に、アキトは目を逸らす。

 

 

どうして、前線で戦おうと思ったのか。

その答えなど、もう一年前から決まっている。

 

 

成し遂げなければならない目的があるから。

守らなければならない約束があるから。

果たさなければならない誓いがあるから。

 

 

手に入れたいと欲する、願いがあったから。

 

 

 

「別に。ただの暇潰し、ただの気まぐれだよ」

 

 





…なんか分かりにくい。

自分でも何言ってんのか分かんないなぁ。

そう言う感想が来たら書き直すと思います。

処女作とは言え、文才無くてすいません。

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