ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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運命と絶望は、同じ道で続いてる────






憧れとの邂逅

 

 

 

 

 

 

 

 βテスターとしての知識を活かしたスタートダッシュと、強引なソロプレイによる高経験値効率のおかげで、キリトは既に最前線のモンスターとさえ渡り合える程のレベルに達していた。

 

 SAOが開始して5か月程経過した春の夕暮れ時に、キリトは当時の前線から10層以上も下の迷宮区に足を踏み入れていた。潜っていた理由は、武器の素材となるアイテムの収集だった。

 レベルの差があり過ぎたせいで退屈にすら思える単純作業。二時間程で必要なだけの素材アイテムを集める事が出来た。その間、他のプレイヤーを避けながら。

 

 だがキリトは、帰ろうと出口に向かった時にとある1パーティが撤退して来るのが見えた。通路を武装したゴブリンの一団に襲われ、その攻撃をどうにかいなしながらずるずると後退していく。

 キリトはひと目見てそのパーティのバランスの悪さを理解した。

 

 ────なんだあれは、前衛が1人しかいないじゃないか。

 

 全員、出口まで逃げ切れそうな程のHPは持ち合わせていたが、途中で他のモンスターに襲われる可能性だってある。

 助けに入るか──その考えが頭に浮上した後、心が揺れた。ハイレベルな自分が、ここで彼らを助けたらどうなるか。

 一般的に、ハイレベルのプレイヤーが下層の狩り場を荒し回るのはマナーが悪いと言う他無い。暫く続ければ上層のギルドに排除依頼が飛ぶし、新聞の非マナープレイヤーとして名を馳せてしまう恐れも。

 緊急なのだから問題無いとも考えたが、彼らの瞳にビーターと自分を嘲る色が浮かぶのが怖かった。

 

 

 けれど────

 

 

 「っ……」

 

 

 キリトは散々迷った挙句、隠れていた脇道から飛び出して、リーダーと思われる棍使いに声を掛ける。

 

 

 「ちょっと前、支えてましょうか?」

 

 「え……っ!?」

 

 

 振り返った棍使いは、キリトの顔を見て何故か固まった。

 だがすぐに我を取り戻し、

 

 

 「すいません、お願いします。ヤバそうだったらすぐ逃げて良いですから」

 

 

 棍使いはキリトの提案を即座に受け入れた。

 キリトは剣を引き抜くと、メイス使いとスイッチの合図を取る。ビーターと言われるのを恐れたキリトはこの時、使用するソードスキルを初期に覚えるものに限定し、態と時間をかけてゴブリン共と戦った。

 

 それはきっと、してはいけない過ちで。

 

 ずっと後悔する事になる過ちの始まり────

 

 

 

 

 HPを回復させたメイス使いと交互にスイッチを繰り返してゴブリンの群れを一掃した途端、そのパーティの5人はキリト自身がギョッとする程に盛大な歓声を上げた。ハイタッチを交わし、勝利を喜び合い、互いの活躍を称え合う。

 そのハイタッチは当然キリトの方にもやって来る。戸惑いながらも、キリトは差し出された手に自身の手を重ねた。慣れない笑顔を浮かべながら、手を握り返す。

 

 

 「ありがとう……ほんとに、ありがとう。凄い、怖かったから……助けに来てくれた時、ほんとに嬉しかった。ほんとにありがとう」

 

 「いや、そんな……」

 

 

 紅一点の槍使いは涙を瞳に溜めながら、何度もそう繰り返した。

 キリトは目を見開いて驚いたが、ただ、後悔しなくて良かったと、そう思った。

 助けに入ってよかった、彼らを助けられるくらいに自分が強くてよかった、と。

 前線フロアで他パーティの助太刀をしても、こんなに感謝される事は無い。助けるのはお互い様だという暗黙の了解があるからだ。助けてもお礼など求めないし、された方も軽く挨拶する程度。戦闘をいち早く処理し、無言で次の戦闘へ。効率良く自分を強化し続ける、その合理性が生んだやり取り。

 けれど、このパーティは違う。今のこの戦闘一つにここまで大いに喜び、健闘を称え合う。

 

 

 そんな仲間然とした雰囲気に、キリトは惹かれた。

 

 

 「俺もちょっと残りのポーションが心許なくて……良かったら、出口まで一緒に行きませんか」

 

 

 自分から出口までの同行を提案した事実に、少しだけ驚いた。

 ポーションが少ないなどと嘘を吐いてまで、彼らと帰る事を望んだ自分に。

 そんな嘘に、棍使い──ケイタは笑って頷いた。

 

 

 だが、出口に向かうまでの間に、キリトは彼らの視線が気になっていた。殿を務めるキリトを、前からチラチラと見ては互いに何かを確認している。

 初めは、助けに入った自分の強さが気になったのか、もしくはハイレベルなのがバレたのかと肝を冷やしたのだが────

 

 

 「……なあ、やっぱさぁ……」

 

 「ああ、似てるよな……」

 

 「……僕も最初アキトかと思った」

 

 

 小声でヒソヒソと話していて詳しくは聞き取れなかったが、どうやら彼らの知人と自分が似ているといった会話をしていたようで、内心ほっとした。

 自分に似てるという事は、自分と間違われたりしてるのかな、なんて少し気の毒に思った。自分のせいでそんな余計な火の粉が降り掛かるのは少し違うだろう。

 

 だが、後にその彼と出会う時に、キリトは理解する。

 その全身を白く覆う目立つコートを着た少年が、黒づくめのビーターに間違われる事はないだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第11層《タフト》

 

 

 「命の恩人キリトさんに、乾杯!」

 

 「「「「乾杯!」」」」

 

 「か、乾杯……」

 

 

 迷宮区から脱出した後、酒場で一杯やろうとケイタに誘われたキリトは、それにすぐに頷いた。きっと高価だったろうワインで祝杯を上げ、各々が自己紹介を始める。

 キリトが名前を告げた際に誰もが驚きの視線を向けた時は、ビーターがバレたのかと思ったが、そうでは無いらしい。理由は聞かなかったが、それも後に分かる言葉だった。

 

 みんなに感謝の言葉を再び向けられて戸惑うキリトに、ケイタはさも言いづらそうに、耳打ちするように質問をし始めた。

 

 

 「あのーキリトさん。大変失礼ですけど、レベルって幾つくらいなんですか?」

 

 「ぇ……」

 

 

 その質問は、キリトにとっては予想出来るものだった。祝杯の席を取ったからには聞かれるであろうという事は。ハイレベルだと知られれば、あの場を荒らされたと思われて当然だ。

 だからその時までに適切だと思われる偽の数字の見当を付けていたのだ。

 

 

 「……20、くらい」

 

 

 その数字は彼らの平均レベルより少し上、そして今のキリトのレベルより20も下の数字だった。

 

 

 「へえ、そのレベルで、あの場所でソロ狩りが出来るんですか!俺達とあまり変わらないのに凄いですね」

 

 「ケイタ、敬語はやめにしよう。ソロって言っても、基本的には隠れ回って、1匹だけの敵を狙うとかそんな狩りなんだ。効率はあまり良くないよ」

 

 「そう……そうか。じゃあさ……キリト、急にこんな事言ってなんだけど……君ならすぐに他のギルドに誘われちゃうと思うからさ……良かったら、うちに入ってくれないか」

 

 「え……?」

 

 

 自分でも白々しいと思う程の顔と問い返しをしたと思う。周りを見れば、みんなが笑顔を向けており、その提案に反対の色は映っていなかった。

 ケイタはふっと軽く笑いながら言い募った。

 

 

 「ほら、僕らレベル的にはさっきのダンジョンくらいなら充分狩れるはずなんだよ。ただ、スキル構成がさ……君ももう分かってると思うけど、この5人の中で前衛出来るのはテツオだけでさ。どうしても回復が追っつかなくてジリ貧になっちゃうんだよね。……ホントは、もう1人前衛がいるんだけど……」

 

 

 ケイタはそこまで言うと困ったように笑う。他のメンバーも仕方ないと言ったように小さく笑った。

 キリトは話させてはいけない事を聞き入ってしまったのかと思い、悲しげに表情を変えるが、黒猫団のメンバーがこの5人だけで無い事にキリトは少なからず驚いた。

 

 

 「メンバー……他にもいるのか?」

 

 「ああ、うん。うちの数少ない前衛で、頼りになるんだよ。メッセージ飛ばしてるのに、全然帰って来ないけど……」

 

 「人見知りだもんね」

 

 「けど、《はじまりの街》で会った時とは大違いだよな」

 

 「今日だって、アイツがいてくれたらもう少し奥まで行けたって絶対!」

 

 

 ケイタとテーブルを挟んで向かい側に立つササマルとテツオとダッカーが嬉しそうにキリトにそう告げる。

 だがキリトには分からない。このメンバーが今日、危険な目に遭っていたというのにそのもう1人は何処で何をしているのかと。この殺伐としたデスゲーム内で、これほど温かな雰囲気で居られる場所はそう多くない。

 そんな場所を蔑ろにして、そいつは今何処で何を。

 

 けれど黒猫団のみんなの反応はキリトのものとは真反対だった。彼がソロで行動している事に腹を立てているどころか、誇らしげに自慢まで。

 ギルドメンバーなのだから、勝手な行動ばかりする奴は責めて然るべきなんじゃないのかと、キリトの視線がそう言っていた。

 ケイタはそれに気付いたのか、バツが悪そうに苦笑し、説明をし始めた。

 

 このゲームが開始してからの付き合いらしいが、突然パーティに誘った事に関しての不信感と、今までずっと一緒に戦って来た事による仲間意識が綯い交ぜになって、どうしたら良いか分からない状態なのだという。

 しかし、彼は誘った時も迷う事無くパーティ参加を受け入れたし、前衛を頼めばあっさり引き受けてくれた。それはノータイムも良いとこで、まるで『断る』という行為そのものを知らない人のようだったらしい。

 初めて会った時から彼は人見知りというか、人との関わり方に慣れていない様子で、モンスターとの戦闘でさえ怯えていた。一人だときっとすぐに死んでいただろう、そういう理由で黒猫団のみんなには少なからず感謝の念を抱いてはいるようだ。

 だが、誰かと行動を共に事自体に居心地の悪さを感じているわけでは無いようなのだが、それでもみんなの足を引っ張っているのではと感じていたり、そのせいでパーティを全滅させたくないと思ってくれている節があり、その思いの裏返しが、こうしたソロでのレベル上げなのだろうという。

 キリトは後になって知るのだが、彼は特定の誰かと行動する事自体が初めてで、どうすれば良いのか戸惑っているのだ。

 本人もそれに関しては申し訳無く思っているらしく、その狩りで得た報酬の中で、メンバーが使えるであろう武器やアイテムは配分してくれたりしてるらしい。

 

 何だソイツは──とキリトは少し感じていたが、そんな話に覚えがある気がして首を傾げる。何だろう、と思ったが、それよりもそのもう1人のメンバーの行動が気になった。

 何故そんな事を、とキリトは目を丸くして聞いていたが、ケイタは仕方ないよ、と笑ってワインを口に含んだ。

 

 

 「その……人付き合いが苦手な奴なんだ。だからこういうやり方しか知らないんだと思う。あまり危険な事はして欲しくないから強く言っちゃう時もあるけど、僕らにとっては大切な仲間だよ」

 

 「……」

 

 

 キリトは黙ってそれを聞いていた。周りも同じ気持ちらしく、揃って同じように笑っていた。

 このメンバー達にここまで思われているその彼に、キリトは少しだけ羨望と嫉妬の入り交じった感情を抱いた。自分には関係無いけれど、それでも彼らはソイツを大切に思ってるんだな、と。

 

 

 「だからさ、アイツに頼られるような僕らで在りたいんだ。今まで前衛として頼ってばかりだったから、アイツが居なくてもさっきのエリアでも狩れるくらいにはなりたいんだ」

 

 

 ケイタは隣りにいるサチの頭に手を置く。サチはキョトンとしているが、ケイタは構わず言葉を続けた。

 

 

 「コイツ、見ての通りメインスキルは両手用長槍なんだけど、ササマルに比べてまだスキル値が低いんで、今の内に盾持ち片手剣士に転向させようと思ってるんだ。でも、中々修行の時間も取れないし、片手剣の勝手が良く分からないみたいでさ。良かったら、ちょっとコーチしてくれないかなあ」

 

 「何よ、人をみそっかすみたいに」

 

 

 サチはケイタに向かって頬を膨らませると、そのまま本音を口にする。

 

 

 「だってさー、私ずっと遠くから敵をちくちく突っつく役だったじゃん。それが急に前に出て接近戦やれって言われても、おっかないよ」

 

 「盾の陰に隠れてりゃいいんだって」

 

 「お前は怖がりすぎるんだよー」

 

 

 サチの不満顔を見てみんなで笑い合うのを、キリトはただ眺めていた。

 ずっと殺伐としたゲームだとばかり思っていたキリト。最前線のみでの生活の中、VRMMOというのはリソースの奪い合いとしか認識していなかったキリトにとって、彼らのそのやり取りはとても眩しいものに見えた。

 その視線に気付いたケイタは、照れたように笑う。

 

 

 「いやー、うちのギルド、現実ではみんな同じパソコン研究会のメンバーなんだよね。特に僕とコイツは家が近所なもんだから……。あ、でも、心配しなくていいよ。みんな良い奴だから、キリトも仲良くなれるよ、絶対」

 

 「アキトもこのゲームで知り合ったしな」

 

 

 その発言に、サチが微笑む。キリトはそんな彼らを見て、その表情に影を落とした。

 

 

 ────全員が良い奴のは、とっくに分かっていた。

 

 

 そんな彼らを騙して、今から自分は彼らの提案を受けようとしている。なのに、それを打ち明ける事をしない。

 罪悪感が募り、それが胸の奥で疼く中、キリトは作り笑いを浮かべ、小さく頷いた。

 

 

 「じゃあ……仲間に入れてもらおうかな。改めて、よろしく」

 

 

 キリトは身分を偽ってまで、この眩しい空間にいたいと、その欲に身を委ねてしまったのだった。

 その答えに、黒猫団は本当に嬉しそうに笑ってくれた。これからよろしく、と最初にしたはずの自己紹介を再び行う始末。彼らは各々が面白おかしく笑い、キリトもつられて笑った。

 

 

 「……ん?」

 

 

 そしてそんな中でふと、ケイタが何かに気付き、その笑みが消える。キリトから顔を上げたケイタのその視線は、宿の入口の方を向いていた。

 キリト達もつられてそちらを見ると、その入口は不自然に扉が少しだけ開き、人影が出たり引っ込んだりしていた。

 何だあれは、とキリトが思っていると、途端にケイタがその扉まで駆け出した。

 

 

 「っ……ケイタ?」

 

 「ああ、キリト、最後のメンバーを紹介するよ」

 

 

 その一言にキリトは目を丸くする。なんと、最後のメンバーが帰って来たというのだ。

 周りの4人もそこから更に笑顔を重ね、ケイタが向かう先の扉に視線が向かう。

 ケイタは嬉しそうに開いたり閉まったりする扉をおもむろに開き、その人影の腕を鷲掴みにし、そのままずるずるとキリトの方へと引っ張って来る。

 その間、チラホラと会話が聞こえた。

 

 

 「えっ、ま、待って……あの黒い人誰……」

 

 「メッセージ入れたろ、僕らの命の恩人だ。でもって、今日からギルドの一員だ」

 

 「め、メンバー?今日初めて会った人が……?(震え声)」

 

 「大丈夫だって。ホントにアキトは人見知りだなぁ」

 

 

 そうしてケイタはキリトの前まで来てその足を止めた。丁度ケイタの後ろにいるその人影の姿はキリトからは見えない。

 ケイタは嬉しそうに笑うと、自身のその位置を左へとずらし、後ろいた人影がキリトの前に現れた。

 

 

 「っ……」

 

 

 端正な容姿に、流れるような綺麗な黒髪。

 

 雪のような純白のコート。

 

 対称的に純黒の刀。

 

 彼のその姿を見て、凄まじい既視感に襲われる。

 容姿、武器、装備の色はまるで違うけれど、その身に纏う雰囲気のようなものが、何処と無く自分と似ている、とキリトは目を丸くして見上げていた。

 そして、対する目の前の白いコートの少年も、キリトを見て目を丸くしていた。何故か、妙な気分に襲われ、身体が固まっていた。

 

 

((……な、なんかどっかで見たような顔……))

 

 

 ケイタはいつまでも見つめ合っているキリトとアキトを見て苦笑いした後、一度咳払いをしてキリトにアキトを紹介し始めた。

 

 

 「キリト、紹介するよ。うちの前衛のアキト」

 

 「っ……!? き、きりと……?」

 

 

 だがキリトの名前を聞いた瞬間、アキトの顔が驚愕に変わる。ケイタとキリトを交互に見やって慌てていた。

 その態度にキリトはまさか、と背筋が凍る。まさか、彼は自分の事を知って────?

 

 けれど、アキト以外のみんなは何も言わずにニヤニヤと笑うのみ。まるで、悪戯を思い付いた子どものような。

 ダッカーは、座るキリトの肩を後ろから両手で力強く置くと、アキトを見上げて言いやった。

 

 

 「そ、お前と同じ名前!」

 

 「お、おい、ダッカー!リアルの話はマナー違反だって!」

 

 

 テツオが厳しく注意する。ダッカーは軽く謝るだけで、ケイタ達も呆れていたが、アキトと呼ばれた少年は困ったように笑みを浮かべる。

 だがキリトは、ダッカーがアキトに向けて放った言葉が気になり、思わずアキトの方へと顔を上げた。

 

 

 「同じ名前って……」

 

 「あ……えと、僕の本名が『きりと』で……みんなと初めて会った時に、間違えて名乗っちゃって……それで……」

 

 

 アキトはしどろもどろにそう答える。その間、キリトとはまるで目が合わない。そんな態度にキリトは困惑した。

 これが彼らのいう、頼れる前衛なのだろうかと、キリトは眉を顰めた。

 

 

 「け、ケイタ……あの、ギルドの一員って……」

 

 「うん、キリトは今日から僕らの仲間だ。……あっ、何も言わなかったのはその……悪かったけど……」

 

 「……いや、みんなが決めたなら、それで良いよ」

 

 

 アキトは何か反論する事無く笑ってそう答えた。

 だがケイタ達はやってしまった、とそう思っていた。アキトに黙って他のメンバーでキリトの加入を決めてしまったら、アキトを──仲間の意志を無視して決めた事と同義だからだ。

 仲間という存在に対して多くの事を感じているアキトだからこそ、包み隠さず言わなきゃならなかったと、そう思った。

 けれどアキトは何も言わなかった。いや、仲間として何か言うべきなのか、何を言うべきなのか、それが分からなかったのだ。けどそれを、黒猫団が知る術は無い。

 きっとアキトは、自分の意見を当てにしてなかったという事に少なからず傷付いたかもしれない。

 

 

 「……」

 

 

 アキトは深く呼吸をすると、一歩、キリトへと詰め寄った。

 少しばかり震える腕を伸ばし、恐る恐る手のひらを広げる。キリトは黙ったままアキトを見上げ、これから紡がれる言葉を待ち受ける。

 

 

 

 

 「えと……アキトです。よろしく、キリト、さん」

 

 

 「……キリトで良いよ。よろしく、アキト」

 

 

 

 

 その手を、キリトは柔らかく握った。

 

 お互いにこの時の印象は、きっと良くなかった。

 

 

 キリトは自分も似たようなものだから強くは言えないが、黒猫団を放って一人行動しているというアキトを。

 

 アキトは無自覚だが、自分がいない間にその枠を埋めたかのように現れたキリトを。

 

 

 

 

 けれど、この2人はこれから、その在り方を認め合い支え合う────“親友”と呼べる関係になる。

 

 

 

 

 

 これが、後にお互いがお互いに憧れを抱くようになった、キリトとアキトの邂逅だった。

 

 

 

 







キリト (……白っ)←黒のロングコート

アキト (……黒っ)←白のロングコート

END√(辿る道にさほど変化はないが、導く結果は変化する)

  • ‪√‬HERO(キリトが主人公ルート)
  • ‪√‬BRAVE(アキトが主人公ルート)
  • ‪√‬???(次回作へと繋げるルート)
  • 全部書く(作者が瀕死ルート)

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