ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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はい、オリキャラの話を飛ばした方、そして、読んで下さった方共にありがとうございます!
ということで、本編の続きです、どうぞ、


Ep.25 虚ろな瞳を持つ少女

 

 

 

 

 「っ──!」

 

 

 アキトは、気が付いたら走り始めていた。

 脳裏に映るのは見た事もない記憶のビジョン。多くの命を消しさらんとする、死神の鎌。

 あのモンスターは、その記憶を呼び起こす。

 そのモンスターは、たった一人の少女にのみタゲを取っている。

 少女は膝を屈しながらも、諦めた表情はしておらず、ただその短剣を構えるのみ。

 

 

 「っ…」

 

 

 そのオレンジ色にも似た髪を揺らし、ホロウリーパーを睨み付けていた。

 絶対に死なない、死んでたまるかと、そういう意志を感じた。

 アキトは琥珀を鞘から引き抜き、ホロウリーパーに迫る。

 ホロウリーパーは、その少女に向けて鎌を振り上げる瞬間だった。

 

 

(間に合え────!)

 

 

 アキトの刀は、いつもよりリーチが長い分、ギリギリでホロウリーパーの鎌に届く。

 その状態でスキルを発動し、その鎌をはね上げた。

 

 

(っ! 思ったよりも軽い…、これなら…!)

 

 

 アキトは仰け反ったボスの懐に一瞬で近付き、その刀を構える。

 

 刀スキル高命中範囲技< 旋車 >

 

 体を捻ってボスの腹部を叩き上げる。ホロウリーパーは一瞬怯むが、アキトの存在を認知すると、その鎌を突き付ける。

 その鎌に焦点を当て、右の拳を引き絞る。

 

 コネクト・体術スキル<エンブレイザー>

 

 黄色に輝くその右手を、鎌に目掛けて振り上げる。その鎌と拳がぶつかり、その反発力でお互いに距離が生まれた。

 アキトは、ボスのHPバーを見る。本数こそボスと変わらないが、そのHPバーの1本は既に空だった。

 自身のスキルによるダメージもあるだろうが、それだけで1本は削れない。

 すると、これまでのダメージはすべて後ろにいる少女が与えたものという事になるが、ボス相手に一人でそこまで戦えるとも考えにくい。

 だが、先程のボスの一撃の重さを考えれば、導き出される答えは一つ。

 

 目の前のボスは、そこまで強くないという事。

 

 

 ならば、このまま時間を稼げばなんとかなるかもしれない。

 アキトはその少女の方を向く。そこには、先程の少女がコチラを見て目を見開いていた。

 何かを見て驚いているようだが、アキトとしても、話している時間は無い。

 彼女を逃がす時間を作ってから、転移結晶で逃げるしかない。

 

 

 「おい、そこのオレンジ!早く逃げろ!」

 

 「っ…!あんた、どうして私を…」

 

 「早くしろっ……っ !?」

 

 

 アキトは殺気を感じて前を向く。するとその瞬間、地面と水平に鎌を薙ぐホロウリーパーの姿が目に映る。

 咄嗟に刀を構えるも、準備していなかった為に吹き飛んでしまった。

 

 

 「がはっ…!」

 

 「っ…!」

 

 

 いくら思ったよりもステータスが低かったとしても、相手はボス。気を抜けば一瞬でやられてしまう。

 アキトはストレージに仕舞っているティルファングを思い出し、リズベット武具店に顔を出しておけばと今更後悔していた。

 

 ボスは木にぶつかって身動きが取れないでいるアキトの元へと迫り来る。

 アキトは急いで立ち上がるも、まだ体勢を整えられていなかった。

 刀を急いで掴み、目の前の攻撃を必死に捌いていく。

 

 

 「チィッ…!」

 

 

 刀と鎌が削れ、火花が飛び散る。自身の顔面スレスレのその攻撃に、アキトの心音は強くなる。

 ホロウリーパーは左右と交互に鎌を出していく。

 アキトは刀スキルと体術スキルを接続していき、その攻撃を凌ぎ続けるが、段々とダメージが蓄積されていく。

 

 

(マズイ…このままじゃ転移結晶使う暇だって…)

 

 

 

『っ…!左だ!』

 

 

 

 「っ…!? くっ…!?」

 

 

 アキトは咄嗟に体の左に刀を寄せる。瞬間、ホロウリーパーの尾のようなものが、アキトの左半身に襲いかかった。

 アキトは耐え切れずに再び吹き飛んだ。

 地面を擦れ、滑っていく。アキトは刀を地面に突き刺し、その滑走を強引に止めた。

 HPはこのままいくと危険域まっしぐら。早めに後退したいが、それもさせてくれない程に、ボスとの一対一はキツかった。

 今のこの状態は、決定打にかける為、倒すにしても逃げるにしても難しかった。

 ホロウリーパーは休む暇を与えるつもりは無いようで、一瞬でコチラに詰め寄った。

 アキトは再び刀を構える。

 

 

 だが、次の瞬間、ボスの振り下ろした鎌は、乱入者によって弾かれた。

 ボスの鎌は軌道を逸らされた事で、攻撃は空を切る。

 

 

 「っ…!? …お前…」

 

 

 アキトがその乱入者を見上げれば、それは先程の少女だった。

 少女はコチラを一度見下ろすが、すぐに前方を向いてしまった。

 アキトは思わず声を荒らげる。

 

 

 「ど…どうして…!?」

 

 「あんた達のようなならず者に、借りなんて作らない!」

 

 

 少女はアキトの言葉を突っ撥ねて、ホロウリーパーだけを睨み付ける。

 ホロウリーパーは改めて、その少女の存在を認知した。

 その咆哮が、森中に響く。その振動で、ボスの周りに風が起こる。

 少女はそれを無視してボスの下へと潜り込み、その短剣をぶつける。刀を青く光らせ、ソードスキルをぶつけていく。

 ホロウリーパーは体をくねらせ、その技の連撃から逃れようとする。

 少女はそうはさせまいとボスを追う。

 だが次の瞬間、ボスは上空に跳ね上がった。

 

 

 「っ…!?」

 

 「なっ…!」

 

 

 アキトも見た事の無い動きに思わず目を見開く。ホロウリーパーは鎌を少女に向けて構え、そのまま落下してきていた。

 少女は咄嗟に短剣で防御姿勢を取るも、鎌は体を掠り、着地の衝撃で吹き飛ばされた。

 

 

 「くっ…!」

 

 

 少女はすぐに体勢を整え、短剣を構える。

 だがホロウリーパーはお構い無しに少女に突っ込んだ。

 

 

 「っ…!せああぁあぁああ!」

 

 

 アキトは少女とボスの間に咄嗟に割って入り、その刀でホロウリーパーの攻撃軌道を逸らす。

 ホロウリーパーは回転してその尾を二人に目掛けて振り抜いた。

 躱すのはおろか、防御も間に合いそうにない。

 

 アキトは咄嗟に少女を自身の身体に引き寄せ、ボスに背を向ける。

 その尾による攻撃が、アキトの背中に食い込んだ。

 

 

 「がはっ…!」

 

 「っ…!」

 

 

 アキトと少女はそのまま飛ばされるも、アキトは少女を離さない。そのまま近くの木に激突し、その二人はその場に投げ出された。

 少女は咄嗟に起き上がり、アキトのHPを確認する。

 彼女のHPはまだイエローだったが、アキトのHPはレッドにまで落ちていた。

 思ったよりも飛ばされたので、ボスも自分達を見失っている。回復するなら今の内だと考え、少女はアキトの元に駆け寄り、ポーションを取り出した。

 アキトの手に無理矢理そのポーションを収める。その間、少女は気になっていた事をアキトに問うた。

 

 

 「あんた…何で私を庇ったの…?」

 

 

 少女はアキトの瞳をまっすぐに見つめる。アキトは、弱々しくも起き上がり、その少女の瞳を見た。

 

 

 「…人助けるのに…理由なんかいらないんだってさ」

 

 「え…?」

 

 「…昔、そう教えてくれた人がいたんだよ。…ありがとな」

 

 

 アキトはそう言うと、少女から持たされたポーションを口に突っ込んだ。少女はそんな彼の発言に、信じられないといった表情を浮かべた。

 

 

 「あんた、アイツらの仲間じゃないの…?」

 

 「は…?誰だよアイツらって…」

 

 「…本当に、違うの…?」

 

 

 少女はアキトの顔を見つめる。アキトは不思議そうに少女の顔を見た。

 ボスの足音が、近付いて来るのを感じた。

 

 

 「…でもあんた、見えてるんでしょ?私のカーソル」

 

 「カーソル…?…あ、オレンジだ」

 

 「…え?」

 

 

 アキトは少女の言葉で、少女の頭上のカーソルを見つめ、初めて彼女がオレンジカーソルである事を知った。

 だが、少女はそんなアキトの反応に異議を唱えた。

 

 

 「あ、あんたさっき、私の事『オレンジ』って…」

 

 「ああ、お前の髪オレンジっぽいから…」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「………」

 

 「………え、何、何だよ」

 

 「……フフッ、何でも無い」

 

 

 その惚けた感じのアキトを見ていたら、何故か可笑しくて、少女は笑ってしまった。

 彼が逃げるように言った時、自身のカーソルを見て叫んだ皮肉だと思っていたから。

 まさか身体的特徴で呼ばれただなんて思わなくて。

 オレンジカーソルだと、そう言われた訳じゃ無くて。

 

 アキトはもしかしたら気にしたかもしれないと色々考えていた。アキトは基本優しい人間である。少女がオレンジカーソルを気にしていたのなら、先程の発言は紛れもなく侮辱だった。

 

 

 瞬間、目の前の木々が倒れ、土煙が舞う。

 アキトと少女はすぐには動けず、その土煙の方を向く。

 目の前には、ホロウリーパーが現れ、コチラを確認すると、体を反らして咆哮した。

 アキトは立ち上がり、しゃがむ少女を見下ろした。

 少女もそれに気付き、アキトを見上げる。

 

 

 「…じゃあ、名前…教えてくれるか」

 

 「……フィリア」

 

 「…いいセンスだな」

 

 

 どちらかともなく笑い合い、フィリアは立ち上がる。

 アキトとフィリアは、共にホロウリーパーを見上げた。ホロウリーパーは既に攻撃動作に移行していた。

 ホロウリーパーはその鎌を両手いっぱいに広げる。

 その鎌が、彼らを挟むべく左右から迫って来る。

 

 

 「っ…来るぞフィリア!」

 

 「分かってるっ!」

 

 

 アキトは左の鎌を、フィリアは右の鎌をそれぞれ武器で受け止めた。だが思ったよりも威力が強く、その鎌にドンドン挟まれていく。

 そしてアキトとフィリアの背中が合わさり、その危険を肌で感じた。

 

 

 「っ…!」

 

 「こ、のぉ…らぁっ!」

 

 

 アキトとフィリアは共に鎌を上にずらし、瞬間下にしゃがむ事で攻撃を回避する。

 二人はは互いに目配せし、先にアキトがボスに迫る。

 

 

 「スイッチ!」

 

 

 アキトはボスに向かってソードスキルを放つ。

 

 刀スキル<辻風>

 

 相手をスタンさせるそのソードスキルスキルを、ボスの胸部向かって放つ。

 ボスが仰け反るのを確認し、フィリアがその短剣を光らせた。

 一瞬で、ボスの元まで駆け寄る。

 

 

 「らあぁっ!」

 

 

 短剣高命中重攻撃五連撃技< インフィニット >

 

 金色に輝くその短剣は、八の字を描くようにして放たれる。

 ホロウリーパーは痛みからかその咆哮が強くなる。その攻撃は確かに効いており、ボスのHPを一瞬で減らす。

 ホロウリーパーは自身に痛手を負わせたであろうその少女を見下ろした。

 フィリアにヘイトが行った瞬間、背後からアキトが迫る。

 

 刀スキル三連撃 <羅刹>

 

 その一瞬の隙を、作ってくれたチャンスを、アキトは決して無駄にしない。

 自身に出来る事を、誰かじゃない、自分がやらねばならない事を。

 そうやって生きてきたアキトだからこそ、このチャンスは必ずものにする。

 その三連撃は全て、ホロウリーパーの足を切断した。

 ホロウリーパーはバランスを崩し、左に倒れ込んだ。

 

 

 「…凄い…」

 

 

 フィリアは、確かにそう呟く。

 アキトのその武器を振るう姿に、確かに見惚れていた。だがフィリアはすぐに短剣を構え、ホロウリーパーに迫る。

 このチャンスを、自分も無駄にさせない為に。

 アキトとフィリアは互いにボスを挟み、その刀身を輝かせる。

 

 

 「───しっ!」

 

 「───っ!」

 

 

 刀スキル五連撃奥義技 <散華>

 

 短剣スキル四連撃奥義技 <エターナル・サイクロン>

 

 

 その刀が、何度もボスの体へと吸い込まれ、その短剣は風を作る。

 ボスのHPは次第に黄色く、赤くなっていく。

 

 やはり、ボス自体はそこまで強くない。こうして、誰かと協力し合えば、きっとどんな相手にだって。

 それを二人は体現しているようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その数分後、ホロウリーパーをポリゴンにする事に成功した。

 逃げるつもりだった為、倒せた事は驚きで、アキトは可笑しくて笑ってしまった。

 フィリアも驚いたのか、放心状態にも似た状態で立ち尽くしていたが、すぐに我に返ったのか、ストレージからポーションを取り出していた。

 アキトもそれを見てポーションを取り出し、飲み干す。喉が潤い、HPが回復しているという感情に満たされた。

 そんなアキトを見て、フィリアは口を開いた。

 

 

 「ねぇ…あんたの名前、まだ聞いてないんだけど」

 

 「…アキト」

 

 「…あんたは私のオレンジカーソルを見て何とも思わない?なんで普通に接する事が出来るの?」

 

 

 フィリアはようやく聞きたかった事が聞けた事に半ば達成感のようなものを抱きつつ、アキトの瞳をまっすぐに見つめた。

 アキトも、そんなフィリアの顔から視線を逸らさない。

 

 ふと、リズベットと約束した時の事を思い出した。

 彼女の涙ながらの笑顔を、よく覚えている。

 あの時、確かに感じたから。守りたいと思ったから。

 それが偽善に満ちた行為でも、助けなんて求められていなくても。

 この手を伸ばしたいと思うから。

 

 そんな事、とても言えないけど。

 

 

 「…別に…ただの暇潰し、ただの気まぐれだよ」

 

 「っ…こっちは真剣に…」

 

 「はいはい…あー…アレだ。ここが何処だか分かんねぇから、少しでも情報が欲しくてな。助ければ見返りになんか教えて貰えると思ってよ」

 

 

 アキトのその発言は、フィリアにとってまだ信じられるものだった。ただの善行で助けられたと言われるよりも、何かメリットがあったからと考える方が自然だ。

 むしろ、そっちの方がまだ信じられる。

 

 

 「…けど、私が言ってる事が本当の事だとは限らないじゃない。犯罪者の言う事を信じられるの?」

 

 「そん時はそん時だろ。騙された俺が悪い」

 

 「…オレンジプレイヤー相手に、随分と甘いんじゃないの」

 

 「言われた事ねぇな、そんな事」

 

 

 アキトは刀を鞘に収め、ウィンドウを開く。見た事も無いマップが広がっていて、首を傾げていた。

 フィリアが俯いているのが気になったのか、アキトはフィリアをチラリと見る。

 フィリアにとって、オレンジカーソルというのはとても心にくるものなのかもしれない。

 だからこそ、ああも自身のカーソルの色を強調して、自身を遠ざけようとしているのかもしれない。

 そう思うと、何故かとても切なくて。

 アキトは、思っていた事を素直に口に出してしまった。

 

 

 「─── けど」

 

 「…え?」

 

 「オレンジカーソルの奴らが皆悪だと思ってる訳じゃ無いから。カーソルの色って、結構簡単に変わるだろ。正当防衛とかでも変わるし」

 

 「……」

 

 「オレンジカーソルの理由だって、聞いた訳じゃ無い。知ろうとも思ったりはしないけど、カーソルの色だけじゃ人となりは分かんないだろ」

 

 

『悪だと認識したその人にだって、言い分はある。貫きたい正義がある』

 かつて、そう父親に教えて貰った事を思い出す。あの頃は、難しく考えていたけど、実際は単純な事だったんだなと、今更実感した。

 フィリアは複雑そうな顔をして、コチラを伺うように言った。

 

 

 「…あんた、お人好しだって言われない?」

 

 「生憎、言ってくれる仲間がいないもんでな」

 

 「っ…ご、ゴメン…」

 

 

 アキトがそう言うと、フィリアはすぐに謝罪してきた。その様子を見て、アキトはフッと笑ってしまった。

 随分と礼儀の正しい、優しい犯罪者だ。

 フィリアは何故笑われたのか分からず、怪訝な表情をしていた。

 

 

 「そんなすぐに謝れるんだ、悪いヤツじゃないって事でもういい。だからお前はとやかく言うな、一々面倒くさいから」

 

 「…へんなの」

 

 「ほっとけ」

 

 

 フィリアはプイっとそっぽを向き、アキトは溜め息を吐く。そして、マップを見た結果、ここはどの層にも属さないエリアの可能性が出てきてしまい、アキトは割と焦っていた。

 思わず再びフィリアを見る。

 

 

 「…なあ、結局ここ何処なんだよ。階層が表示されないんだけど」

 

 「……分からない。私は一ヶ月前にここに飛ばされたんだけど、生き残るので精一杯で、殆ど探索出来てないから」

 

 「い…一ヶ月…!?」

 

 

 そのフィリアの発言に、アキトは言葉を失う。

 この未知のフィールドに、一ヶ月。それはアキトにとっては凄まじい事だった。

 もしかしたら、結晶アイテムが使えないエリアなのかもしれない。

 アキトは咄嗟に検証を開始した。

 しかし、特に禁止されているようではなかった。

 

 

 「…?アイテム使えるじゃん…」

 

 「ここの階層は分からなくなっているけど、アイテムやメッセージは通常通り使える」

 

 「階層が分からないってのが分からないな…ここはアインクラッドの中なんだろ?」

 

 「そんなの、こっちが聞きたい」

 

 

 フィリアはイラついたようにそう呟く。

 アキトは情報の無さによって、行動の方針が決められないでいた。

 ここが何処で、どういったエリアなのか。

 そして、元の場所に戻るにはどうしたらいいのか。

 

 

 だが、次の瞬間、アキトとフィリアの上空から、聞いたことも無い事象が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [《ホロウ・エリア》データ、アクセス制限が、解除されました]

 

 

 

 

 

 「っ…!?…何…?」

 

 「…アナウンス?」

 

 

 突如そのエリア全体に、女性寄りの声が響き渡る。

 それは、どう考えても何かのアナウンスだった。

 アキトとフィリアは互いに目を見開いた状態で、エリアを見渡した。

 だが、それ以前に、このシステム的なアナウンスが発生した事に対する驚きの方が、アキトにとっては大きかった。

 異世界を舞台としたこの世界で、こんなゲームイメージを崩壊させるようなアナウンスが流れるなど────

 

 

 「あ、あんた…その、手に浮かんでる紋様は……」

 

 「…?…っ、な、何だ…これ…」

 

 

 フィリアが驚いた表情でコチラを見ていた。その視線の先、自身の掌を見つめる。

 するとそこには、見た事の無い紋章のようなものが浮かんでおり、光を発していた。

 アキトは思わず目を丸くする。先程までは、こんな紋様は出てなかった筈だ。

 もしかすると、先程のアナウンスと何か関係があるのかもしれない。ひいては、ホロウリーパーを倒した事で、何かのイベントが発生したとか。

 つまり、これはクエストなのかもしれない。

 

 

 「…あんた、一体何者?」

 

 「…お前こそ何者だよ」

 

 

 この良く分からないエリアにいきなり飛ばされたアキト。そこで出会ったのは、目の前の少女フィリア。

 今のところ、アキトはフィリア以外のプレイヤーは見た事が無いし、ホロウリーパーとの戦闘を見るに、攻略組でも戦えるレベルだと思う。

 だが、彼女の事を一度だって見た事は無い。ただでさえ女性プレイヤーが少ないこの世界で、女性が攻略組に居れば気付きそうなものだ。

 

 

 フィリアは質問を質問で返されたのが気に食わなかったのか、一瞬不機嫌な顔をするが、やがてアキトに近付くと、その腕を掴んで引き寄せた。

 

 

 「っ…お、おいっ…何すん…」

 

 「黙って、この手よく見せて……やっぱり同じ」

 

 

 フィリアは無理矢理アキトの手を掴んで凝視したと思えば、何か納得したようで、目を見開いていた。

 アキトは全く付いていけておらず、フィリアの横顔を見つめるばかり。

 何が同じだというのか。

 フィリアはそれに気付いたようで、アキトの手を離し、すぐに説明してくれた。

 

 

 「それと同じ紋様がある場所を知ってる」

 

 「そこに行けば、何か分かるかもな…んじゃま、案内してくれよ」

 

 

 他に手掛かりも無い為、フィリアの言うその場所に行ってみるしかない。

 アキトはフィリアに、そこまでの道案内を頼もうと申し出る。

 何も知らないのは自分だけじゃない。フィリアも何も知らないらしい。だったら、一緒に行けば互いにこの場所を理解出来るし、情報交換も効率良く出来る。

 

 

 …決して、口には出さないが。

 

 

 フィリアは、アキトがそう言って来たことで、目を丸くしながらコチラを見ていた。

 

 

 「…別に構わない。でも、そんな簡単にオレンジ…いえ、レッドを信じていいの?」

 

 「しつこい」

 

 

 アキトはその発言を切って捨て、フィリアに背を向け歩き出す。アキトはフィリアに、付いて来いと、そう言っているようで。

 アキトという少年は、自身のカーソルについて、何一つ言ってこない。なら、自分がこれ以上何を言ったって煩わしく感じるだけなのかもしれない。

 だけど、あんな簡単にオレンジプレイヤーに気安く話しかけられるなんて。

 そう思うと、何だか不思議で。

 

 

 フィリアは何も言わずに、その背中を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アキト、そっち逆方向」

 

 

 「早く言えよ」

 

 

 








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