ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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独自解釈があります。ご容赦ください。





Ep.2 その黒い剣士の名は

 

 

 

 

  「…キリト…くん…?」

 

 

  アスナは小さな、震える声でその名を呼ぶ。

 シリカも、リズも、クラインもエギルも、その驚きを隠せない。

 攻略組の誰もがその黒き装備の男を見た。

 上半身は、黒いシャツの装備を下に、黒いコートが装備され、下半身は黒いズボンに黒いブーツ。

 その姿は、75層で死んだキリトを思わせる姿をしていたのだ。キリトと間違えても不思議はない程に。

 

 その少年は、鋭い視線をアスナに向けており、その瞳には明らかに怒気が含まれていた。

 アスナは思わず一歩後ろに下がってしまう。少年はそれと同時に一歩、また一歩と、アスナの元へと近づいていく。

 

 

  「ご大層に言ってるけど、お前がやろうとしてんのは殺人となんら変わんねぇよ。ラフコフと同じだ同じ」

 

  「っ…何を…」

 

  「それに、NPCがお前の思うように動いてくれる保証も無いだろ。作戦にもなってねぇよ……それにだ」

 

  「っ……!?」

 

 

  アスナの目の前まで辿り着いたその少年は、いきなりアスナの胸ぐらを掴み顔を引き寄せた。

 アスナはいきなりの事で何も出来ず、至近距離で少年の顔を見る事に。

 しかし、その少年の顔は、決してやましい事を考えてるようには見えず、さっきと変わらず怒りの表情だった。

 ハラスメントコードの表示などお構い無しに、少年はアスナにしか聞こえないように呟いた。

 

 

  「デスゲームで……人の形をした奴をモンスターに殺させようなんて、いい度胸してんな」

 

  「っ……!」

 

  「お前だけが辛いと思うなよ、小娘」

 

 

  彼の言い分は最もだった。

 ここはデスゲーム。人が死ぬ、決して遊びではないゲーム。誰もが、人が死ぬ瞬間を目の当たりにしている。それは、いつまで経っても慣れるものではない。

 NPCとはいえ、人が死ぬ瞬間を目の当たりにするのは、あまり気分が良いものとはいえないだろう。

  アスナは何も言えない。何も口から発しない。

  少年は、アスナから手を離す。アスナを一瞥し、周りの攻略組に目を移す。

 彼女のおかげで攻略組の覇気が高まったといっても、やはりキリトの死は大きいものだったのだろう。見れば分かるほどに、攻略組の雰囲気が暗い。

 

 

  黒い少年は、そんな彼らを見て、鼻で笑った。

 

 

  「……キリトとヒースクリフがいなくなっただけでこの体たらくか……案外情けないな、最前線も」

 

 

  その言葉は攻略組、アスナにとって、許せる範囲のものでは無くなっていた。

 

 

  (いなくなった……『だけ』……?)

 

 

  アスナは、その怒りを隠せない程になっていた。

 その表情は周りから見ても、彼女がどのような感情を抱いているのか見てとれる程に。

 

 

  「……何ですって……?」

 

  「最前線で攻略してんだ、死ぬかもしれないってのは分かってんだろ?人が死んで一々ショック受けて攻略が滞るなんてアホか」

 

  「っ……あなた……」

 

  「今日から攻略組になろうって時に最前線がこんなんだったら志望者なんて来ねぇぞ。切り替えろ」

 

 

  攻略組のメンツは、何も言えず下を向く。

 しかし、彼らはその少年に、少なからず怒りを抱いていた。

 確かに少年の言っている事は、一見正論に聞こえる。彼の言うように出来れば、それが理想だろう。しかし、そう出来ないのが人間である。死に近い場所で戦う攻略組なら尚更だ。

 それを、今日初めて見る新顔が、何も知らずに語るその言い様が、あまり気に食わなかった。

 

 

  「……おお、なんだよお前ら。俺、何か間違ったこと言った?」

 

 

  周りの空気に気が付いた少年は、ニヤけた顔で周りを見返す。

 その態度に、彼らは益々怒りを増していく。シリカもリズも困惑気味だ。久しく見ていない、まさに一触即発の雰囲気だった。

 

 

  「もうやめろ。みんな落ち着け。こんな時に言い争いをしてる場合じゃない」

 

 

  その雰囲気を壊すのは、エギルだった。

 攻略組のメンツは、我に返ったのかエギルの発言に下を向いたりする奴もいれば、舌打ちしたり、何か少年に文句を言いたそうな輩もいた。

 エギルは、アスナと少年の元に近寄り、少年を見下ろした。

 

 

  「……お前さんもだ。少し落ち着け」

 

  「俺は落ち着いてる」

 

 

  少年はそっぽを向き、部屋の出口の方へと歩いていった。

 その後ろ姿まで、キリトにそっくりで。

 エギルはつい呼び止めてしまった。

 

 

  「っ……おい、……アンタ、名前は?」

 

 

  それはきっと、ここにいるみんなが知りたい事の一つだったはずだ。

 アスナも、シリカも、リズも、クラインも、攻略組も。みんなが少年へと視線を動かす。

  少年は、気だるそうにコチラを振り向いた。

 だが、気だるそうに見えただけでその視線は鋭く、睨みつけられてるのかとさえ思う。

 

 

  「…アキトだ。…以後、よろしく見知りおけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

  攻略会議が終わり、シリカはリズが新しくアークソフィアで建てた店、<リズベット武具店>の2号店で、武器のメンテナンスをして貰っていた。

 ボス戦の備えて、武器も調整しないといけない。

 シリカもリズも、その店の工房で座って飲み物を啜っていた。

 しかし、その雰囲気は少し暗い。

 

  理由は言うまでもなく、攻略会議に現れた少年だ。

 

 

  「……キリトに、よく似てた」

 

  「……そう、ですね……私もそう思いました」

 

  「装備もそうだけど……雰囲気っていうか……どことなく、ね」

 

  「……きっと、アスナさんも……」

 

  「……そう、ね……」

 

 

  アスナのあの顔は、驚愕というか、焦りといった感情が窺えた。

 確かに、彼はキリトによく似ている。

 アスナもきっと、そう感じたのだろう。

 

 

  「けど……見た事ない人だったわね」

 

  「確かに……私も見た事ないです」

 

  「下層から来たのかしら……装備は見た感じ、最前線の攻略組のよりレアなのかもって感じたけど……」

 

 

  リズは、彼の装備を思い出していた。

 キリトによく似ていた事の驚きで、あまり防具に目を向けてなかったが、あの装備、見た限りではレベルの高いものだと感じた。

 あれほどの装備なら、下層でドロップしたとは考えにくい。

 上層で手に入れたとしても、それほどの実力者なら名前くらい聞いたことがあっただろう。

 

 

  「『アキト』なんてプレイヤー、聞いた事無いわね」

 

  「どーいう事なんでしょうか…?」

 

 

  二人は同時に腕を組む。そのタイミングがピッタリで、途端二人はお互いの顔を見合わせる。

 すると不思議と、笑みが零れる。

 お互いにクスクスと笑い合う。

  久しく、笑ってなかった気がする。

 キリトの突然の死、アスナの変化。色んな事があって、泣いてばっかの気がする。

 二人は不思議と、暖かい気分になった。

 

 

  すると、店の入り口の開閉音が聞こえた。誰かが店に入ってきたようだ。

 シリカとリズはそれに気付くと、お互いに立ち上がった。

 

 

  「さてと、仕事しないとね!」

 

  「あ、私もお手伝いします!メンテナンスのお礼って事で!ね、ピナ」

 

  「きゅる!」

 

  「ありがとっ」

 

 

  彼女達は勢いよく、工房の扉を開ける。

 そして、客を確認する前に、客への挨拶を忘れない。

 

 

  「いらっしゃいませー!リズベット武具店にようこそ!……って……!?」

 

  「武器のメンテ、頼みたいんだけど」

 

 

  二人の目の前には、先程の攻略会議に乱入してきたあの黒き少年、アキトが立っていた。

  シリカもリズベットも、アキトを目の前に視線を外せない。アキトは、そんな二人を不思議そうに見つめる。

 黒く長めの髪に、綺麗な青色の瞳。その容姿は女性に好まれるであろうものだった。

 背に担ぐ剣は、黒というよりは紺色で、刀身までもがその色で覆われている。

 別人だと認識出来るが──やはり、どことなくキリトに似ていた。

 

 

  「……あの」

 

  「え……あ、ああ!メンテ、ですよね、はい!」

 

  「……?……えと、じゃあよろしく」

 

 

  アキトは、そう言って背にある剣を取り外そうとする。

 しかしシリカもリズも、アキトに違和感を覚えていた。

 

  攻略会議の時と、どこか雰囲気が違う。

 会議の時は、アスナを言いくるめたり、攻略組にケンカを売ったりと、自信家というか、勝手な印象があったのだが…。

 今ここにいるアキトは、口調が丁寧で、態度もなんだか柔らかいように感じる。まるで別人のようだった。

 そんな事を考えていると、アキトが剣を差し出してきた。我に返ったリズは、アキトの剣を受け取る。

 

 

  「っ……お、重っ……!」

 

 

  アキトのその剣は、キリトの<エリュシデータ>に匹敵する重さだった。リズはうっかりその剣を落としそうになる。リズはその剣のステータスを恐る恐る確認し、そのステータス要求値に目を見開いた。

 

 

  「な、何よこれ……魔剣クラスじゃない……」

 

  「ええっ!?」

 

 

  シリカも驚きを隠せない。そのステータス画面を可視状態にし、シリカにそのアホみたいなステータスを見せる。

 シリカも驚きを隠せないようで、もの凄く目を見開いていた。

 

  固有名: 《ティルファング》

 

  リズは身を乗り出して、アキトに近づく。

 

 

  「…アンタ、これどうやって…」

 

  「……モンスタードロップ……だけど」

 

  「何処で手に入れたの!?」

 

  「何処だっけ……あー、確か72層の……見た事ないボスのドロップで……えと…それ以上はちょっと分かんないかな……あと近い」

 

  「っ…!? あ、…えと…ゴメンなさい…」

 

  「リズさん…」

 

 

  興味津々に聞くリズだったが、アキトの引いたような表情と言葉で我に返ったのか、すぐアキトから離れる。その顔は若干赤かった。

 シリカはそんなリズをジト目で見る。

 リズはそんなシリカから視線を反らす。そして、わざとらしく咳をしてアキトに向き直った。

 

 

  「えっと…いつまでにやったらいいかしら?」

 

  「これからフィールドに出るから、なるべく早く。けど無理しなくてもいいよ、そしたら別の剣で行くし」

 

  「常に万全にしないと駄目でしょ!…この剣一本なら時間は掛からないから、少し待ってて」

 

  「あ、ああ……分かった。じゃあ、頼む」

 

  「はいはい。シリカ、表よろしくね」

 

  「は、はい」

 

 

  リズはシリカに店を任せると、工房の扉を開き、入っていった。

 アキトはその扉が閉まるのを確認すると、店に並ぶ剣を拝見し始める。

 シリカは、そんなアキトをただただ見つめた。

 しかしどれだけ見ても、キリトの面影がチラつくだけで他には何も考えられなかった。キリトの死は、想像以上に心にきたという事だ。

  シリカはこれまで、最前線で戦うキリトの役に立ちたい一心で、必死にレベル上げをしていたのだ。ピナの件でもお礼がしたいと、今度は自分が力になりたいと。

 そして、75層攻略後。ようやく追いついたはずのキリトは、もうこの世界の何処にも存在してなくて。それを知った時、自分はどんな顔をしていただろうか。

  シリカは自然とその表情を暗くする。ピナも、そんなシリカに気付いたのか、悲しげな表情に見える。

 

 

  「……どうしたの」

 

  「え……?」

 

 

  顔を上げると、アキトが店の剣を持ちながら、シリカを見ていた。

 その瞳は何もかもを見透かしているようで、シリカは途端に顔を赤くする。

 

 

  「あ……い、いえ!何でもありません!」

 

  「……」

 

  「何でも……あれ…?」

 

 

  シリカは自分の頬に何かが伝うのを感じた。触れると、それは水滴、涙だった。

 拭っても拭ってもその涙は止まらない。涙腺が決壊したかのように、ぽろぽろの流れていく。

 

 

  「きゅるぅ…」

 

  「あれ……あれ、何でだろう……ご、ゴメンね、ピナ」

 

 

  キリトが死んだショックはアスナの方が大きいだろうと感じていたシリカ。

 そのアスナが泣かずに攻略に励む姿を見て、泣いてはいられないと、自分も頑張らなくてはならないと、気を張っていた。けれどシリカは、まだ14歳。そう簡単に割り切れるわけもなかった。

 今まで我慢していたものが、アキトを見ていた事によって解かれてしまったようだ。

 

 

  「す、すいませんアキトさん…わ、私…」

 

  「…えっと…え?な、なんで泣いて…ど、どうすりゃあ…!」

 

 

  泣いてる原因が分からず、アキトはオロオロするしかない。どうすればと考えていると、工房の扉が開く音が。

 そこにはアキトの剣を抱えるリズの姿が。

 

 

  「お待たせー……って…え?」

 

  「うう…ぐすっ…り、リズさぁん…」

 

  「……アンタ…何女の子泣かしてんのよ……っ!」

 

 

  泣いているシリカを見て、リズはアキトが泣かしたものだと一瞬で判断した。間接的には正解なのだが、アキトは何も分かってなかった。

 

 

  「はっ……!? お、俺は何もしてないぞ……」

 

  「問答無用!この…っ!」

 

  「危ねっ!? …ってちょ、それ俺の剣!」

 

 

  要求値が足りていないはずなのだが、凄い勢いで振り回すリズ。説得するのは骨が折れるであろう事は明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「……アキトさん、すみませんでした」

 

 

  「いや、別にいいけど……」

 

 

  「全く……アンタが泣かせたんじゃないなら最初からそう言いなさいよー」

 

 

  「……言いましたが……」

 

 

  リズの勘違いにより酷い目にあったアキトは、リズを力なく睨み付ける。しかしすぐに、何か疑問に思ったのかシリカの方に目を向けた。

 

 

  「…そういや、何で俺の名前知って…」

 

  「アタシらも攻略会議に出てたのよ。それに、もう噂になってるわよ」

 

  「…あの場にいたのか」

 

  「…ちょっと…アスナが心配でね」

 

  「…アスナ…ああ、閃光か」

 

 

  アキトは思い出したかのようにアスナを口にする。

 リズは、アキトにあの時の事を色々聞きたかった。

 

 

  「アンタ…なんであんな風に攻略組にケンカ売ったわけ?今のアンタの態度を見た感じだと、あの時言ったのわざとでしょ」

 

 

  今のアキトは、攻略組にいた時の雰囲気や態度が違って見える。

 今のアキトが本当のアキトならば、攻略会議でのあの態度は演技なのでは、というように見えた。

 

 

  「確かにあの作戦は、アタシも聞いてた気分の良いものじゃ無かったけど…」

 

  「…別に。間違った事は言ってないだろう。76層まで来て毎回葬式みたいなムードだったら攻略組に入りたいって思う奴だって減ると思うし」

 

  「…けど、人が死んでるのよ…?すぐに切り替えなんて…出来ないわよ…」

 

 

 むしろ、 アキトの言うように出来たらどれだけ楽だろう。大切な人を失った悲しみは、一日二日じゃ拭えない。

 アスナだって表面上は冷静に取り繕っているが、実際の所は分からない。

 シリカも、顔を下に伏せる。

 

 

  「だからだよ」

 

  「え…?」

 

  「ここはデスゲーム、人の死には敏感だろ。NPCだからって、人の形をしたものを殺してる間にボスを倒すって…道徳的にどうなのかと思ったんだ」

 

  「あ……」

 

 

  シリカもリズも、そこまで言われて納得した。アキトのやろうとしていた事が。

 

 

  「あの時の態度は…その…そんな作戦を立てた奴に腹が立ったからってのも間違いじゃない。…まあ他にも理由はあるけど」

 

  「…そっか…意外ね。会議で感じた印象とは大違いだわ」

 

  「……」

 

 

  アキトは何も言わずにそっぽを向いた。リズはアキトのそんな態度にフッと笑みを浮かべる。

 

 

  「…で?シリカはなんで泣いてたわけ?」

 

 

  リズは、思い出したかのようにハッとした後、シリカの方へと顔を向けた。

 シリカが泣き出した理由を問うことにした。

 シリカは、顔を少し赤く染め顔を上げる。恐らく、泣いた事を思い出し、羞恥に見舞われたのだろう。

 

 

  「その…アキトさんを見てたら…キリトさんを思い出して…それで…」

 

  「…シリカ…」

 

 

  リズは、シリカの気持ちが痛い程分かっていたし、我慢していたであろう事は察していた。きっと、キリトの面影があるアキトを見て、その我慢が解かれてしまったのだろうと。

 リズも今でこそ泣いていないが、キリトの死を知らされた日はとても冷静ではいられなかった。好きだった人が、自分の知らないところで死んだのだ。ショックでないはずがない。

 けれど、アスナが心配で、泣いてばっかではいられなくて。

 きっと、自分も我慢してる。

 

 

  そう、シリカもリズも。

 アスナが泣かないから泣かない、泣けなかった。

 

 

  黙るシリカとリズを、アキトは見つめる。

 

 

  「…アンタら、キリトのこと…知ってるのか」

 

 

  口を開いたアキトは、表情が暗い感じに変わっていた。

 アキトのその問いに、シリカもリズも、表情を暗くさせる。

 

 

  「…友達よ」

 

  「…キリトの最後…知ってるか」

 

  「…断片的な事は、エギルとクラインから聞いたわ…ヒースクリフが茅場晶彦だったっていうのも。ゲームクリアを賭けて、キリトが私達の為に戦ってくれた事も」

 

  「…そう、か…」

 

 

  アキトはそう言うと、顔を下に向ける。シリカは、そんなアキトを見て、口を開く。

 

 

  「…キリトさんとは…お知り合い…なんですか…?」

 

 

  アキトのその反応に、シリカは疑問を抱く。

 リズもシリカと同じ事を考えたようだ。

 その姿は、キリトのそれとよく似ている。無関係とは考えにくい。

 

 

  「…まあ、有名だからな」

 

  「違うわよ。個人的に…何かあるんじゃないの?」

 

  「……アンタらには、関係ないだろ」

 

 

  その口調は、なんとなく苛立ちのようなものを感じた。

  アキトは、そう言うと立ち上がる。ティルファングを鞘に仕舞い、店の扉へと歩き出す。

 シリカもリズも、アキトの態度で聞くのをやめた。

 しかしその後、リズはすぐに閃いたように口元を歪める。

 

 

  「…じゃあ、もう行く。武器、ありがとう」

 

  「ああアキト、ちょっと待ちなさい」

 

  「…?何?」

 

  「フレンド登録しましょう。76層から下にはバグで降りられないんだし、鍛冶屋とのコネはあって損は無いと思うわよ」

 

  「…そう、だな…分かった」

 

  「あ、あたしも!」

 

 

  リズのフレンド申請に、アキトは少し考えた後了承した。シリカも立ち上がり、アキトとリズの元へ駆け寄った。

 

 

  「…シリカにリズベット…。…キリトの友達…か」

 

  「ん?何か言った?…何ニヤけてんのよ」

 

  「いや、別に」

 

 

  フレンドリストにシリカとリズベットの名前が載ったのを確認したアキトは、何故か嬉しそうで。

 頬が緩んだのを、シリカとリズは見逃さなかった。

 不思議に思いながらも、二人はアキトの名前を自分のリストで確認する。

 すると、二人はアキトのプロフィールで気になるものを見つける。

 

 

  「アキトさん、ギルドに入ってるんですか?」

 

  「あ、ホントね。…てか気づかなかったけど、カーソルの横にギルドマーク付いてるじゃない…」

 

  「……」

 

 

  アキトのカーソルの隣には、ギルドに加入している事を証明するギルドのマークが表示されている。

 キリトに似ている事の衝撃が勝り、マークが目に入って無かったのだろう。

 リズは呆れたように笑った。

 

 

  「こんなに見やすい場所にあるのに…。…見た事ないマークね、月に黒猫なんて」

 

  「……」

 

 

  アキトは何も言わない。リズは構わずそのマークに目を凝らす。

 三日月に乗るように座る、黒い猫のイラスト。上層では見た事もないマークだった。

 リズはシリカに目配せする。どうやらシリカも知らないギルドのようだ。

 二人はアキトに視線を向ける。

 

 

  「…アンタ、ソロのイメージがあったから意外ね」

 

  「なんて名前のギルドなんですか?」

 

  「…それは…」

 

 

 アキトはそこまで言ったっきり、黙ったまま何も言わない。ただただ下を向くだけだった。

 シリカとリズは互いに顔を見合わせる。

 言いたくない事なのだろうか。そう思っていると、アキトが顔を上げた。シリカとリズはそれに反応して、視線をアキトに戻す。

 

  しかし、次にアキトが口を開こうとした瞬間、扉を開く音が聞こえた。

 三人は、入り口の方へと視線を移す。

 入ってきたそのプレイヤーは、アキトを見ると、顔が強ばった。

 アキトも、そのプレイヤーを見た瞬間、顔が先程と打って変わって豹変した。

 

 

  「…貴方…さっきの…」

 

 

  「…よう、閃光」

 

 

  アキトの黒い笑みの先にいたのは、攻略の鬼アスナ。

 シリカもリズも、この場から逃げ出したいような、これから始まるかもしれない言い争いを止めさせたいような、二つの気持ちで葛藤していた。

 

 

 

 








アスナ「……」

アキト「……」

シリカ・リズ((に…逃げ出したい…!))



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