ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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手を伸ばせば、届いた筈なのに。

辿り着けた、筈なのに。


Ep.36 その言葉は

 

 

 

 

 

《ホロウ・エリア》管理区

 

 

 

 

「ほらよ」

 

「あ…ありがと」

 

アキトはフィリアに、メンテナンスと強化を終えた彼女の武器をシステム的に譲渡した後、改めて管理区を見渡した。

 

リズベット武具店から出た後、アキトはフィリアを待たせていた為に、すぐに《ホロウ・エリア》管理区へと赴いた。一緒にエギルの店に戻るつもりだったアスナ達、特にユイは酷く驚いていたのを覚えている。

ソワソワとしだした彼女を見たアキトは何かを察したのか、取り敢えず、すぐに帰って来ると約束してここへ来たのだ。不本意ながらも、エギルの店では彼女達が食事をしながらもアキトの事を待っているだろう。

ユイが自分に言ってくれた言葉を思い出す。

 

 

── 今日からこの場所が、アキトさんの帰る場所です──

 

 

「……」

 

帰る場所が、ある。それが、自身が認めたものじゃなくても。

自分はこれからも、頑張っていけるだろうか。キリトの守りたかったものを、守る事が出来るだろうか。

気が付けばいつも下を向いてマイナスな事を考える。『出来るかじゃない、やるんだ』と、誰かが言っていたのを思い出す。確証や合理性など考えない、必ずやり遂げると、そんなセリフ。

とても無責任で、傲慢な考えで、それでいてどこか自信がつく言葉。

 

「アキ……ト」

 

ふと隣りからそんな声がして、アキトは顔を上げる。そこにはほんの少しだけ頬を赤く染める、フィリアの姿があった。

アキトはそんなフィリアを見逃さず、不思議そうに言葉を返す。

 

「……何」

 

「……実はさ、ちょっとお宝がありそうな場所を見つけたんだけど……でもそこにいるモンスターが強くて、一人じゃ手を出せないの」

 

「……で?」

 

嫌そうな顔をしてみせるアキト。実際ここまで聞けば、フィリアがアキトに何を求めているのかは大体理解出来るものだった。

 

「…もし、よかったら…付き合って……くれない?」

 

予想通りの答えだった為、アキトは特に反応する事も無く、彼女の言葉を聞き届ける。

この《ホロウ・エリア》に蔓延るモンスターは皆、比較的レベルが高い。これまでフィリア一人でもなんとかなっていたのだが、そろそろ厳しく感じていたのだ。

アキトとしては特に断る理由もない。それに、フィリアにはこの場所の探索に付き合って貰っているし、恩を返すのは当然だった。普段周りに見せているアキトとは違い、内面はとても紳士のアキトだった。

 

「……明日で、いいなら」

 

「ホント?よかったー…」

 

アキトの了承を聞いたフィリアは目に見えて安堵しており、そして嬉しそうに口元に弧を描く。

そこまで喜んで貰えるとは、と少し驚きながら彼女を見つめる。

フィリアもフッと肩の力を抜くと、アキトの事を見返した。

 

「もしかしたら断られると思ってた。アキト、そんな感じだし」

 

「ほっとけ。それに、どのみち《ホロウ・エリア》は探索しようと思ってたから、ついでだついで」

 

誰も寄せ付けない、近寄ってはいけないと、自分を戒めるつもりで取っていた態度も、段々とメッキが剥がれてきたのかもしれない。

気持ちと行動が段々と同じになっていって、最後は自分自身となったら。

そしたらまた、あの頃の弱い自分に戻ってしまうような気がしてたから。

アキトは左右に首を振った後、フィリアに目的地を尋ねた。

 

「んで?どの辺なの」

 

「今探索してる樹海エリアの……ダンジョンの中。隠し扉を見つけてね、その奥なんだけど、そこに出てくる奴が強くて……」

 

フィリアは自身の探索したマップを可視状態にしてアキトに見せる。

初めてアキトがフィリアと出会った場所からそのエリアは続いているようで、アキトはマップの道を目で追っていく。

そのエリアは樹海にあった墓地マップの向こう側、教会のような場所だった。

フィリアの口振りからするに、既に挑んでいるのだろう。この高難度エリアのモンスターに一人で挑むとは、流石トレジャーハンターだが、悪くいえば命知らずの行動だった。

フィリアは悔しそうな顔でマップを見た後、再び顔を赤くした。

 

「でも、あん……えっと、ア……キト、が協力してくれるなら、大丈夫だと……思う」

 

フィリアはそういうとアキトから視線を外す。

アキトは怪訝な表情でフィリアを見つめる。彼女が何をそんなに赤くしているのか、大体察しがついたのだ。

 

「……名前呼ぶだけで何そんなに赤くなってんだよ」

 

「べ、別に赤くなんかなってないから」

 

「自分の顔も見ないで何でそんな事分かんだよ。赤くなってるって。あ、手鏡貸そうか?持ってるよ」

 

「な、なってないっ」

 

「いや、なってる」

 

「もう、うるさいっ!」

 

この話はおしまいだと、フィリアは背を向ける。

アキトは彼女が何を怒っているのか分からず、首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

●○●●

 

 

「……」

 

エギルの店、その扉の前。この場に立つと、何故か緊張してくる。

何をそんな、ただ店の中に入るだけ。その行為にこれといった大事な意味がある訳ではないし、何ならこの店に入る為という理由以外、他に何の意味もない。

昨日の態度だって、誰も気にしてないと、リズベットが言っていたのだし、そうでなくても関係無い。

自分は、彼らとは何の繋がりも────

 

(……何の、繋がりも無いんだよな、実際……)

 

実際、アキトと彼らはつい最近まで互いに顔すら知らない、赤の他人だったのだ。

今だって、アキトが勝手に彼らを守るんだと、そう決めているだけで。

彼らはアキトを認知していた訳じゃないし、アキトも彼らには何も話していない。今の環境が自身にとって都合の良いもので、動きやすくて。

何より、心地好かったのかもしれない。

だけど。

 

「…アイツらは、キリトの形見だ」

 

何度も自身を戒めるのだ、彼らは『キリト』の仲間。

『俺』の仲間じゃない。

 

(俺の仲間は……)

 

アキトはゆっくりと店の扉を開けた。

扉の向こうにはいつも通りの光景が広がっていた。昼はそうでもないのに、夜になると繁盛し出すこの店は、今夜も多くのプレイヤーで賑わっていた。

普段なら真っ先に階段を上って部屋に帰るアキトたが、今日はユイと約束してしまった為、顔を出さなければならない。

 

先程まで考えていた事が脳内を過ぎる。街中で自身が受ける、『黒の剣士』の肩書き。

彼らは皆、自分の中にキリトを見ているのだ。だから彼らは自分に構う。キリトに似ているから、キリトの事が好きだから、キリトの事が心配だから。

そう考えると、彼らの事を決して良い目で見る事が出来ないし、そんな事を考える自分も嫌になる。

別に、どう思われても関係無いじゃないか。彼らは、自分とは関係無いのだから。

 

(顔だけ見せてさっさと寝よう……)

 

アキトはいつも彼らが屯うカウンター前の席へと赴く。するとそこにはやはり、いつものメンバーが座っており、食後の休憩を取っていた。

彼女達はまだこちらに気付かず何かを話し合っていた。真面目な話なのだろうか、皆真剣な眼差しをしていた。

その中で、一番にアキトの存在に気付いたのはユイだった。

ユイは席を勢い良く離れ、アキトに向かって駆け寄った。

 

「アキトさん、おかえりなさい!」

 

「……ああ、うん」

 

───だからこそ、彼女の事を見ると不安になる。

彼女も、自分にキリトを重ねているのではないかと、嫌でもそう思ってしまうから。

自分がどうしたいのか、どうなりたいのか、どうして欲しいのか、ここへ来てまた分からなくなりそうだった。沢山の矛盾を抱えて、この場所に立っていて。この曇り無き眼をしたキリトとアスナの娘を見て、負の感情が押し寄せる。

そんなアキトに気付かずに、彼らはアキトを確認すると、各々挨拶をし始めた。

 

「おかえりー、アキト」

 

「アキト君、おかえりなさい」

 

「お、アキト、いい所に来た」

 

「……何だよ」

 

クラインが立ち上がり、こちらを手招きしている。ユイに後に付いて行き、彼らが座るテーブルの前で立つ。

ふと、視線をしたに下ろすと、そこにはシノンが頬杖をつきながら座っており、こちらを見上げていた。シノンは暫くアキトを見ると、小さく口を開く。

 

「……おかえり」

 

「……ただいま」

 

そのやり取りは他の者には聞かれなかったのか、クラインはそのままアキトに向かって話し出した。

 

「今、シノンについて話してたんだけどよ、これが聞いてビックリ…」

 

「ああそれ、もう知ってる。一足先に聞いたから」

 

「何だ、もう知ってんのか」

 

エギルがカウンターの向こうで目を丸くして口にする。他の者も驚いているのかこちらを一斉に見つめていた。

もしかしたら言わない方が良かったのかもしれない。アキトは溜め息を吐きつつ何とか視点を逸らそうとするべく、近くの柱に寄りかかった。

 

「んで、それがどうしたんだよ」

 

「いやよ、改めて聞いても未だに信じられなくてな、まさかSAOの外から来たって…」

 

「……凄い登場の仕方だったから何か事情があるのかなとは思ってたけど、驚いたわね」

 

クラインの後にリズベットがそう続ける。

その言葉に反応して、アキトの隣りに立っていたユイが口を開いた。

 

「カーディナルシステムへの負荷により、幾つか発生したエラーの一つだと思います。ネットワーク上のナーヴギア端末を検出してSAOプレイヤーと誤認してここに呼び寄せたんだと思います」

 

実際シノンが言うには、現在現実世界では、ナーヴギアと同じシステムを積んだ医療用フルダイブマシン《メディキュボイド》というものが存在しているらしい。

ユイの言葉を鵜呑みにするならば、一番可能性のある答えだった。

 

「な、なんだ?その、カーディナルシステムって?初耳だぞ」

 

「SAOの基幹プログラムの総称だ。前に茅場が言ってた」

 

クラインの質問にそう返すアキト。

だがその言葉にいち早く反応したのはリズベットだった。

 

「何よアンタ、ヒースクリフと面識あったの?」

 

「は?あ、いや……」

 

リズベットの言葉を真に受け、ふと我に返るアキト。その瞬間、彼女が言った言葉が脳内で響き、瞳が揺れた。

 

(……俺……ヒースクリフ、茅場と、そんな話した事なんて……)

 

 

「……しかし、そいつは不運だったな。よりによって、こんなゲームに途中参加させられちまうなんてな」

 

エギルはシノンを見てそう呟く。

確かに彼女の境遇には同情せざるを得ないだろう。気が付けばいつの間にかデスゲームだった、なんて事が実際にあったら、発狂するレベルだろう。

 

「…ま、早い所クリアすれば何も問題ねぇだろ」

 

「…うん、そうだね」

 

アキトは誰も視界に入れず、そう言葉を続ける。

その言葉に反応したのはアスナだった。テーブルの上に置かれた拳を、ギュッと握り締める。

それは誰もが願い、感じるもの。その言葉に反応し、彼らはそれぞれ闘志を燃やした。

アキトはこれで話はお終いだと態度で示し、階段の方向へと体を向ける。

だが、次のシノンの発言で、その足を止めてしまう事になる。

 

「……つまり、この世界をクリアしてしまえば、全て問題無いのよね」

 

「え?…そりゃまあ、そういう事だが……」

 

クラインが不思議そうな顔をしてそう返す。アキトは体をシノンの方へ向けた。

彼女達もシノンの次の言葉を待つが、その彼女の放つ言葉で、その顔が驚愕に染まった。

 

「なら、私もこのゲームの攻略に加わる。良いわね?」

 

「っ…!?」

 

アキトはシノンのその発言で、思わずその口を開きかけた。

シノンはまだ、攻略組に加わるつもりだったのだと察し、その瞳が大きく揺らいだ。

 

「ええっ!? ちょ、ちょっと…」

 

「おいおい、本気かよアンタ」

 

リズベットとエギルも思わずシノンに問いかける。彼らだけじゃない。リーファもシリカもシノンのその意志を初めて聞いて困惑しており、ユイもクラインもその目を見開いていた。

アスナはシノンを見つめ、少し焦ったように語りかける。

 

「それは、幾ら何でも危険だよ……」

 

「危険な事は分かってる。でも……私、やりたいの」

 

現在攻略組として先頭に立っているアスナの言葉にも動じずに、シノンは真剣な眼差しでそう返す。

アキトは知っている。そんな発言ではシノンの意志は変えられないと。

 

「ここで膝を抱えて縮こまっても何も解決しないもの。なら、私は立ち向かわなきゃ」

 

その揺るぎない言葉の数々に、彼らは何も言えない。ただ困惑した表情で、彼女の言葉を聞き続ける。

アキトは理解している。シノンがこれほどにも攻略に固執しているのは、ゲームクリアの為じゃない。もっと、何か別のものだと。

 

「……私は、もっと強くなりたい。この困難なゲームをもクリア出来る程に、強く……」

 

その思いの丈を、心の底からの気持ちを、言葉にして伝えたような、そんな声。

シノンの拳は強く握り締められていて、それでいて震えていた。

アキトは、分かっていた。

強さを求める彼女の心が、自分よりも強い事を。

彼女に、かつての仲間の面影を見たのは、勘違いだったのだろうと。

 

「……」

 

何故、自分の周りには、これ程までに強くあり続けようとする存在が多いのだろう。

恋人を失って尚、生きると決めたアスナ。

好きだった人が死んでも尚、親友の為に戦うと決意したリズベット。

力になりたかった人を失って尚、誰かの助けになりたいと、そう言ったシリカ。

家族を失って、そんな世界を知ろうとしているリーファ。

親友を死なせてしまったと後悔し、もう誰も死なせたくないと、そう固く誓ったクライン。

友人を失って尚、攻略組の行く末を、みんなの為を思うエギル。

父を失って、母に置き去りにされそうになっても、他人の事を思えるユイ。

 

そして、また一人。自分の前で。

キリトと全く関わりの無かったシノンが、たった今。

キリトの仲間入りを果たしたかのようで。

 

「で…でもシノンさんはSAOに来たばかりじゃないですか。レベルもスキルも、この階層で戦うには辛くないですか?」

 

固まっていたシリカが漸くそう切り出した。

それを聞いたシノンは、チラリとこちらを向く。それに合わせて彼らもアキトの方を向いた。

 

「…レベルはそんなに問題じゃない。武器も使えてるし、今も一人でスキル上げしてるみたいだし、何とかなるだろ」

 

「おいおい、良いのかよアキト」

 

「別に。俺には関係無い。ただお前が言うほど簡単な話じゃない。今からレベルを上げたって役に立つかは分からないし、無駄死にするだけかもしれない。それでもやるなら勝手にしろ、死んでも俺は責任は取らん」

 

クラインは慌てて聞くが、アキトはそう吐き捨てた。

本当はアキトもシノンにそんな危ない事はして欲しくない。だけど、彼女の意志は固く、自分が何を言ってもそれを変える事はしなかった。何を言っても無駄なら、この場で言っても仕方が無い。

アキトの発言に、周りは少し張り詰めた空気になる。しかし、そんなアキトを見ていたリーファがポツリと呟いた。

 

 

「……その割にアキト君、たまにシノンさんのスキル上げ見てあげてるよね」

 

「っ…」

 

「えっ、そうなの?」

 

その言葉にリズベットが目を丸くし、アキトの方を見上げる。つられて彼らがアキトの方を向き、状況は一転して最悪なものに。

アキトは一瞬だけリーファを睨み付けるが、リーファは何も無かったように平然とこちらを見るばかり。シノンはフッと笑いながらリズベットの質問に答える。

 

「ええ、付き合って貰ってるわ」

 

「……ただの暇潰し、ただの気紛れだ」

 

アキトは視線を逸らし、そう答える。だが周りは変わらずこちらを見て、中にはニヤニヤしながら見つめている者も。

そんな中、リーファが言葉を続けた。

 

「でも、アキト君がそう言うからには、きっと才能あるんだよね、シノンさん」

 

「…シノンさん、本当に大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だから」

 

アスナの心配そうな顔を見て、シノンは笑みを作って答えてみせる。それを見た彼らは、不安ながらも、嬉しそうに笑った。

実際リーファの言うように、シノンには素質があると、アキトは思っている。

だけど、シノンはやはりこの世界に来たばかりだし、如何せん不安は消えない。

アキトはシノンの訓練に付き合っていて、ずっと彼女に違和感を感じていたのだ。武器が手に馴染んでいない感じがいつまでも消えなかったのだ。

槍やメイス、大剣よりは短剣が合っていると思い、実際その他の武器よりは使えているとは思うのだが。

 

(他に、シノンに合う武器が無いととても攻略なんて…)

 

そんな事を考えていたら、シノンが何かを思い出したような表情を浮かべ、みんなに向かって口を開いた。

 

「あ……それにアキトが私の事守ってくれるって言ってたし」

 

「……え?」

 

「……は?」

 

そんな呆けた声を発したのは、アスナともう一人。アキト本人だった。

それを聞いた彼らは、冷やかすと思いきや、驚いたような表情を浮かべていた。

 

「…アキト君、そんな事言ったの…?」

 

「…アンタ、ホントにアキト?」

 

そう言ってリーファとリズベットがアキトを見つめる。普段のアキトの事を見ていると、とてもそうは考えられないから無理も無かった。

だがアキトは全く心当たりが無く、困惑の表情でシノンの事を見下ろすばかり。

シノンはこちらを見て挑戦的な笑みを浮かべており、アキトは思わず筋を立てる。

 

 

「んな訳ねぇだろ」

 

「あら、私は覚えてるけど?」

 

「いや待て…そもそも俺はそんな事…」

 

 

 

─── …俺が…守る、から───

 

 

─── 今度こそ…絶対に助けに行くから…間に合って…みせるから…だから…───

 

 

─── もう…君を、一人にしないから…だから……独りに…しないで……───

 

 

「……あー」

 

アキトはそこまで言って固まった。

何かを思い出したかのような表情を、今度はアキトが取っていた。

無かった筈の心当たりが、ここへ来て脳裏を駆け巡る。

 

あの日、77層のボスを討伐した日の夜。

シノンの陥った境遇を聞いたあの日。強くなりたいといった彼女を見て。

かつての、守れなかった、守ると約束した女の子と重なって。

思わず出てしまった言葉。

 

あの言葉は、あの時の行動は、半ば事故のようなものだったと、アキトは珍しく慌てる。

 

 

「い、いや…あれは…」

 

「シノンさんっ、あたしもレベル上げ頑張ります!」

 

 

しかしアキトの言葉はシリカに遮られ聞かれる事は無かった。

シリカもシノンと同じく攻略組を目指す者同士。共感したのかシノンの手を強く握っていた。

それに続けてリズベットも言葉を続ける。

 

 

「そうね、本当に攻略組が増えるなら、あたし達も心強いしね。改めて、これから一緒に頑張ろーね、シノン」

 

「ええ、よろしくね」

 

「なら、私も攻略組目指そうかな…」

 

 

立て続けにリーファもそう発言し、彼らはまたもや驚愕した。

そして、その輪の中は再び会話で賑わう。

クラインは何かあったら俺が守ると言って胸を張り、エギルは彼らに飲み物を提供する。

張り詰めた空気は、いつの間にか柔らかいものへと変わっていって。

 

そんな光景を少し遠くで見つめ、アキトは拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違う」

 

 

アキトは小さな声でそう呟く。その声は、他の人達には聞こえない。

だけど、アキトの心の中で、その思いは巡っていく。

 

 

違う、違う、違う、違う。

本当は、他に守りたい人がいたんだ。

ずっと守りたかったもの、守りたかった人の為の、それだけの言葉。

本当の意味で守りたかった、守らなければならなかった人に誓った言葉なんだ。

 

 

本当は、君の為じゃ、なかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君達の為じゃ、無かったのに。

 

 






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