ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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お気に入りが1000件を越えたァ!マジかぁ!
嬉しいです、感無量(涙)

今回は一旦の、話の区切りです。文字数少なめ、読まなくても問題無いですが、読んでもらえたら嬉しいです!
まあ、訳分からん話なんで、首を捻って下さい(意味不)


閑話 とある夢の予兆

 

────これが夢だと、すぐに分かった。

だけど、無意識に忘れてしまっていて。

 

 

ここが何処かと言われれば、この世界の何処かとしか答える事は出来ない。だが、それでも、何故かこうするべきだと思うから。

だから、今自分は走っているのだと、そう思うのだ。

 

 

「はぁ…はぁ、はぁ…くっ…」

 

 

ただひたすらに迷宮区に似た道を走る。デジタルな雰囲気を漂うその空間は、壁や天井の溝、線から一定の間隔で光が走る。まるで、何かが起動し始めるかの様に。

この場所に見覚えはある。かつて、大切なものを失った場所。

 

 

「なっ…!」

 

 

進めば進む程に、その道を獣が塞ぐ。こちらの行く手を阻もうとする。その種類も数も多く、とても無視出来るものでも無い。

背中のその黒い剣を、一気に引き抜いた。

その表情には、焦りと怒りが見てとれた。進行を妨げる奴ら全てに、憎悪の視線を向けていた。

 

 

「……邪魔を、するなあああぁぁあぁあ!!!」

 

 

その黒いコートを靡かせた少年は、周りのもの全てを斬り伏せる。砕き、抉り、削ぎ落とす。殺し方に形は無い。ただ、一瞬で絶命すればいい。

こんな事をしてる場合じゃない。自分は、もっと先へ、今度こそ。

斬って、斬って、斬って進む。自身の何かを失ってでも、前に進まなければならない理由があるから。

 

 

「間に合ってくれ────!」

 

 

約束したんだ、自分が助けに行くと。

誓ったんだ、自分が守ると。

その思いだけでこの足を動かす事が出来る。この意志だけでこの有象無象を斬り潰していける。

 

 

言ってくれたから、守ってくれと。

自分は、私のヒーローだと。

 

 

(だから────!)

 

 

目指すべき場所はただ一つ。今度は、間違えない。今度は、見失ったりしない。今度こそ、守ってみせる。

間に合え、間に合え、間に合え、間に合え。

 

 

それは、この世界にいるはずもない神に懇願するかの様に、切実な願いだった。

 

 

「っ…!」

 

 

目の前に映る光景に、思わずその瞳が開く。モンスターに襲われて、今にもこの世界から命を絶ってしまいそうな、大切な仲間達。その心に余裕が出来た。

まだだ、まだ間に合う。この手を伸ばせば、届く筈。少年は、その腕を懸命に伸ばして走る。

 

 

だが、次の瞬間、その内の一人、ケープを羽織ったプレイヤーが、光の破片となって上空を舞った。

 

 

「っ…ダッカー!」

 

 

その少年は、大切な人の散る呆気なさに、その瞳が揺れ動く。心臓を握り潰されそうな不快感と、悲壮感に苛まれる。

けど、まだ、まだ助かる人がいる。絶望でこの足を止めてはいけない。

 

 

「ササマル、テツオ…!」

 

 

だが次の瞬間、視界からまた二人、大切な存在が消滅して。消えゆくその時の表情は、今から死ぬなど考えられないものだった。

少年は更にその足の速度が上がる。意識的か、無意識的か。けど、もうやめてくれ、もう消えないでくれ、消さないでくれと、そんな思いが強くなっていた。

 

 

「動けっ…はや、く……速く動けよ…!」

 

 

その命令を、その懇願を、言葉に込めて足に放つ。苦しくとも、辛くとも、痛くとも、この足を止めない為に。

けど────

 

 

「……!ケイ、タ……ケイタ!」

 

 

気が付けば、また一人。こちらを見て悲しげな笑みを浮かべ、やがて消え去った。自分を認めて、手を差し伸べてくれた恩人。少年の足は更に加速する。

だが、それでも間に合わない。

 

 

「っ…!?……嘘、だろ……!?」

 

 

視界に映るのは、あと二人。少年と同じ様に黒い装備を纏ったプレイヤーと、槍を持った少女。二人はこちらを見て、寂しそうに笑った。

 

 

「き、キリト!サチ…!」

 

 

近付いても近付いても、段々と塵になっていく二人。彼らは未だ少年を見据えていて、申し訳なさそうに口を動かした。

 

 

『ごめん』

 

 

「待って……待ってよ……待ってくれ!」

 

 

その少年は走る。なのに、その距離は縮まる気がしない程遠く感じた。

もう一歩、あと一歩。そう思って伸ばした手も、全く届いていない。

まるで、お前の手は決して届かないのだと、断言された様に。

 

 

そしてその通り、少年の出したその手は間に合う事無く、空を彷徨った。二人は少年が辿り着く前に、光の破片となったのだ。

 

 

「あ……あ、ああ……ああぁぁあ……ああああああああぁぁぁぁあああぁああああぁぁあぁあああぁぁぁああああ!」

 

 

その光が消えてしまわぬ様にと、必死に手を挙げ掻き集めようとする。だが、手に取った瞬間、それは溶けて消えていく。まるで少年を嘲笑う様に。

少年はその場にへたり込む。一見周りを見れば、宙に舞う光が幻想的に見えた。だがこれは、死によって作り上げられた世界。決して感動の涙は出ない。

これは、哀しみから出る涙だ。

 

 

「…また……俺、は……僕は……!」

 

 

結局こうなるのだ。何度やっても救えやしない。伸ばしたって届きはしなかったのだ。

少年────アキトの頬からは、涙が滴り落ちる。留まる事は無く、体は震える。誰もいない、たった一人になったこの空間で、絶望の叫びを上げた。

だが、ふと後ろを向けば、また新たに守りたいと思った彼らが立っていた。

 

 

「…シリカ……リズベット……なんで…」

 

 

震える声でそう呟く。どうして、なんで、こんな所に。

その名を呼んだ瞬間、二人の体は砕け散った。先程の彼らの様に。

アキトは、その感情を露わにした。

 

 

「う、そ……ま、待ってくれ…!」

 

 

別の方向を見れば、またキリトの仲間達が。新たな知人達が。

エギルやクライン、リーファにシノン、ストレアにフィリア。みんなこちらを見て、笑って消えていく。手を振っている者もいて、それがアキトを更に焦らせる。

 

 

「待って……待って……頼むから、待ってくれよ……!」

 

 

力無く座っていたアキトは、力を振り絞って立ち上がる。振り向けば、そこには親友の想い人と、その娘が立ち尽くしていた。

 

 

「『ユイ…アスナ…!待ってろ、今…!』」

 

 

力強く地面を蹴り、視線はただ目の前の二人だけに集中する。

このまま彼らを死なせてしまったら、認めるしかなくなってしまうから。自分はこの世界で、何も出来ない人間なのだと。

『誓い』も『約束』も果たせないのだと、感じてしまうから。

 

 

「そこを、どけぇ!」

 

 

突如地面から湧き出る様に現れたモンスターを一撃で沈める。ダメージを与えられる事無く躱し、いなし、斬り伏せる。

その攻撃は、もう()()()と言わんばかりで、まるでどう来るのか()()()()()かの様だった。

 

 

キリトの大切な人、アスナとユイ。

二人だけは、必ずこの手で────

 

 

「っ────、………………え」

 

 

だが、モンスター全てを塵と化したその視線の先には、無の空間が広がっているだけだった。

何も無い。プレイヤーも、モンスターも。光の粒子が上空へと飛び去り、その場所には、ただ『無』という事実が残るだけだった。

 

 

「……アス、ナ……ユイ……?」

 

 

声に出してその名を呼んでも、返ってくる事は無かった。無音の部屋に、アキトの声が響くだけ。

何故二人がいないのか、本当はもう分かっていた。分かっていたけど、認めたくなかったのだ。

 

 

「…どこ、行ったんだよ……揶揄うにもタイミングが、ある…だろ……頼むよ……冗談は、やめてくれよ……」

 

 

髪をくしゃくしゃにしながら、言葉が溢れる。その場にいるのは、たった一人で独りの剣士。

何かを守ろうとした結果、アキトに残されたものは何も無かったのだ。

瞳から零れ落ちる涙は、重力に逆らう事無く地面へと落ちて弾けた。

 

 

「……僕は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───どうすれば良かった?

 

 

「……僕さえ、いなければ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───どうスレば良かッタ?

 

 

「独りでも……生きられる強さがあれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ドウスレバ良カッタ?

 

 

 

「……強さがあれば」

 

 

 

アキトは、力無く立ち上がった。

本当はずっと思ってた。この世界に来る前から、求めていたのは一つだけだった筈なのだ。

なのに回り道ばかりして、段々と遠のいていった様に思えたのに、本質はすぐ側にあって。その居心地の良さのせいで、今までそれに気付く事など無かったのだ。

 

 

独りでも生きられる強さが。

守りたいもの全てを手に入れる力が。

不運や不幸を蹴散らす力が。

この世界に抗える力さえあれば。

統べる力が、この手にありさえすれば。

 

 

欲しかったものは、たった一つ。自分にとっての、大切だと思える、温かで、それでいて帰る場所と思える空間。

それは誰のものでも無い、自分のものだった。

 

 

 

そう、俺は、僕は────

 

 

 

 

 

「────が欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『─── ソレガ、君ノ望ミカ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 

「っ……!?」

 

 

勢い良く、その体を起こした。瞳孔は開き、呼吸は荒く、汗が目立って見えた。

辺りを見渡せば、暗がりの広がる空間。殺風景だと感じる中にも、大きなベッドに机もあり、生活感が漂う場所だった。窓を見れば、外はまだ暗い。時間を見れば、まだ朝と呼ぶにはあまりにも早い時間。

既視感の強いその場所は、いつも睡眠に使っているエギルの店の宿屋だった。

 

 

「はあ…はあ…はあ、……夢、か……」

 

 

アキトはそう呟くと、安堵したのか、大きく息を吐いた。そして、袖で額の汗を拭った。こんな嫌な気分で目が覚めたのは久しぶりだった。

 

 

「……」

 

 

夢を見た。このまま進めば辿り着くかもしれない、そんな光景を。

決して有り得ない訳じゃない、そんな夢。いつか先の未来を想像させる、そんな悪夢。

正夢になる可能性を感じる、そんな夢だった。

 

 

「……ははっ」

 

 

何度も何度も見た筈の夢に、初めてアスナ達が現れて。その夢は、アキトの失うものを増やしていく。

大切だと認めてしまいそうになったその瞬間に、こうして夢に出てくるなんて、この世界の神様とやらは随分非情な奴だなと、そう割り切って笑うしかない。

アキトは小さく冷笑し、その片方の手を額に持っていった。

 

 

「……くそっ……なんて夢だ……」

 

 

かつて、求めた世界があった。それはとても小さくて、傍から見れば価値の無いものに見えたかもしれない。

今はもう存在していないけど、そこに確かに存在していて。それを過去にしたくなくて、ずっと弱かった自分を否定してきた。

 

ずっと英雄と比較して、その度に弱い自分に幻滅して。だけど、それでも良いと感じていたのだ。ただ、大切な人を守れるならば、と。

万人の味方じゃなくていい。自分はずっと、『誰かの為のヒーロー』になりたかったのだ。

あの世界を守る、ただそれだけの存在に。

 

 

「……させない」

 

 

アキトは静かに、その拳を握り締める。

あんな夢の様な光景を、二度現実のものになんてさせない。

正夢になんかさせてやらない。絶対に守るのだ。彼らの笑顔と、あの空間を。

 

 

アキトは音を立てずにベッドから降り、装備を整える。まだ早朝とよぶには早い。だけど、じっとなんてしてられなかった。

英雄の剣を背負い、その扉に手を掛ける。

 

 

「……」

 

 

ふと、部屋へと視線を戻す。

何も無い空間、夢で見た虚無な場所と似たものを感じた。

 

 

「……行ってきます」

 

 

決して帰ってくる筈の無い挨拶。だけど、アキトは笑みを浮かべてそう告げると、扉を開けて出ていった。

その黒いコートを靡かせて、みんなで帰る道を開きに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──── 行ってらっしゃい、アキト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、一匹の黒猫の物語。

 

 

大切なものを守りたかった、一人で独りの剣士の、本来語られる事の無い、何処か別の世界の物語。

 

 

もう何も欲しくないと思っていた彼が今、気持ちを新たに攻略へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─── ここから、物語が動き出すのだ。

 




一区切り付けるための話です。取り敢えず終了!
次話から、物語が段々と進んで行きます!ちょっとずつしか進んでなかったものが、一気に進みます。
アキトの過去、Linkの謎、ホロウ・エリア編や、ストレアの秘密など、盛り沢山ですね、死んじゃいます(白目)

今後とも、『── 月夜の黒猫──』をよろしくお願いします!
(`・ ω・´)ゞビシッ!!

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