ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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忙しい!モチベも低下しつつあり!

急いで上げたので、拙い文章かもです。
急いで書いてても、上手く書けるようになりたいです。
誤字も目立ちつつあります。いつも報告してくださる方々、ありがとうございます!

それでは!どぞ!




Ep.51 ままならない世界

 

 

 アークソフィアにある、噴水広場に位置するカフェ、そのテラスから見える噴水には、カップルと思われる人達が何組か座っており、話に花を咲かせている。

 ふと懐かしさを感じさせるその光景に、アスナは軽く笑みを作る。

 あまり知られてはいないが、あの噴水から湧き出る水は、コップ一杯分飲むとHPが1回復するという効果があるとされている。

 前にユイと二人で街中を歩いていた時に教えて貰った事を、アスナは覚えていた。

 

 

 「……」

 

 

 アスナは何もせず、ただその様子をボーッと見つめながら座っていた。

 日はまだ高く、いつもなら攻略へと赴く時間。《ホロウ・エリア》ばかりに気を取られる訳にもいかず、上層の攻略もアスナの仕事、引いては血盟騎士団現団長としての責務である。

 だが、今日は攻略に出掛ける事もしなければ、ただカフェに入り浸り紅茶とケーキを嗜むのみ。

 それらも全て食べ終え、現在はからの容器がテーブルに並ぶのみ。本当に何もせずに惚けているだけだった。

 

 

 ただ、頭の中には、先日の光景が。

 《ホロウ・エリア》でのアキトの姿か浮かんでいた。

 

 

 「……」

 

 

 フィリアを含めた三人での攻略、その後に発見した、《ラフィン・コフィン》の残党。

 そして、その殺人ギルドのリーダー、PoHの存在。

 アスナもフィリアも確かに驚いてはいたが、アキト程ではなかった。

 その体は小刻みに震え、その両手は頭を抱えて蹲っていて。小さく漏れる声にも、恐怖の色が感じられた。

 普段あれ程強気なアキトの姿が嘘の様で、あんな彼は初めて見て。アスナは、胸が苦しくなる思いに駆られた。

 

 

 「……どうして」

 

 

 こんなにも心が痛むのだろう。彼は確かに仲間だけど、それ程仲が良い訳じゃないのに。

 何度も助けてくれたから、恩義を感じているのは確かだけど、それだけじゃない様な気がするのだ。

 

 

 

 ── 君の事は私が……私達が守るから ──

 

 

 

 「……」

 

 

 自然と出てしまった言葉だけど、嘘偽りは決して無い。あの時の怯えた彼は、確かにそんな自分の手を握ってくれたのだ。

 アスナは、自身の両手をテーブルの上に出し、それを見下ろす。

 あの時、両手で掴んだ彼の手は、とても冷たく感じた。優しくて、誰よりもみんなの事を考えてくれていた彼の、氷の様に冷たく、無機質な手。

 

 分からない。知りたい。

 何故彼が、あれ程までに変わったのか。何故、あんなにも怯えていたのか。

 PoHと以前何かあったのだろうか。それとも、何かを思い出してしまったのか。

 

 

 何も、知らないのだ。彼の事を。

 

 

 「っ…」

 

 

 アスナは、広げたその掌を、力強く握り締めた。

 怒りか、哀しみか。アスナはただ悔しかった。助けてもらっておいて、彼に対して何一つ返せていないその事実に。

 何もかも見透かして、自分の事を諭してくれたのに、自分はアキトという人間に関しての一切の事を知らなかったなんて。

 周りは彼に助けてもらっていて、彼だけは救われてないだなんて、そんな話があるだろうか。

 

 

 カフェから出たアスナは、溜め息を吐きながら街道を歩いていた。日は高い為、人通りも多く、何人ものプレイヤー達とすれ違う。

 その中に、あの黒いコートの少年はいない。最近、気が付けば彼を目で追ってしまっている事に、自覚はあった。

 初めて会った時から、その他人とは思えない雰囲気に、きっとずっと惹かれてた。キリトに良く似たその少年の事を、誰よりも強く意識していた。そんな彼が誰よりも気に食わなかったし、誰よりも嫌いだった筈なのに。

 なのに────

 

 

 「……何、してるんだろ」

 

 

 アキトという存在が、キリトと関わりの無いものに見えなくなってしまってから、ずっと彼が気になって仕方が無かった。なんていやらしい女なんだろうと自分を卑下しても、根の方は相も変わらずキリトの事でいっぱいだった。

 アキトとキリトには、何か関係があって、アキトという少年が、キリトに見えて仕方ないから、こんなに心配しているんじゃないのかと言われたら、きっと否定出来ない。

 

 

 彼に、アキトに近付くこの気持ちは、下心だろうか。

 

 

(……でも)

 

 

 それでも。

 助けてくれた事に感謝して、自分も彼の力になりたいと思ったこの気持ちには、キリトとの関係無しに嘘偽り無いものだった。

 それだけは、胸を張って言い切る事が出来るものだった筈なのだ。

 彼の抱えてるものを、少しでも共有出来たなら。彼の心を支える事が出来たなら。きっと自分の時の様に────

 

 

 「あれ……?」

 

 

 ふと、視線が目の前へと向かう。その先には、今までずっと考えていた黒いコートの少年がこちらに背を向けて歩いていた。

 

 

 「アキト君……?」

 

 

 その背中はここからは離れている為、この声は届かない。だが、ここから彼の背中は良く見えた。

 フラフラと、左右に体が揺れていて、今にも倒れてしまいそうで。

 

 アスナは、思わずその足を速めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼に悟られぬ様に、一定の距離を空けて付いていく。だが、歩むその道はとても変わっていた。

 アキトの進んでいくその道は、ドンドンと狭く、細くなっていった。街から外れ、人気の無い場所へと足を運んでいた。

 この街を根城にしているアスナでさえ、こんな抜け道は知らない。アキトが何処に行こうとしているのか、この先に何があるのかさえ、未知の領域。

 彼の事を何も知らないという事実と合わさって、胸が痛かった。

 

 

(私、知らない事ばかりだな……)

 

 

 そんな事を考えていると、やがてその建物と建物の間の細道の先から光が差し込むのが分かった。自分の現在地も分からないアスナにとって、その光は救いに思えた。

 この先に彼がいる。この先には何があるのだろう。アスナはその光に目を細め、その道を抜けた。

 

 

 

 

 

 

 「わぁ……」

 

 

 その景色に、アスナは目を見開いた。何処までも続いている様に錯覚させる湖に、ポツリと浮かぶ島の様な街、辺りに広がる芝生や、綺麗な花々。

 透き通った湖が、青い空をくっきりと映し、陽の光が乱反射している。通り抜ける風がとても心地好く、アスナは心が晴れるようだった。

 

 

 「綺麗……」

 

 

 アスナはその瞳を輝かせる。現実世界では決して見られない様な景色が、そこにはあったのだ。自然の豊かさを感じさせるこの場所は、アスナのお気に入りの場所になりそうだった。

 

 そうして辺りを見渡していると、その丘の下りに仰向けになるアキトを見付けた。

 高揚としたテンションが、一気に戻るのを感じた。そうだ、自分は彼を追い掛けてここまで来たんだ、と再確認したからだ。

 だがアキトは、アスナのいる方向へと視線を動かしただけで、特にアスナに何か言う事はせず、また視線を目の前の景色に戻した。

 

 勝手に付いて来た事に関して文句の一つでも言われるのかと思っていたのに、何も言ってこない彼に、少し肩透かしを食らったアスナ。その反面、何も言ってくれないのも癪に障った。

 アスナはその丘をゆっくりと下り、アキトより少し離れた場所に腰掛けた。そして、目の前の景色を、アキトと同じ景色を眺めた。

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……何か用か」

 

 

 何も言わないアスナに痺れを切らしたのか、アキトは溜め息を吐いてそう言った。

 だが、思ったよりも怒気を孕んでいる様には感じないその物腰に、アスナは疑問を抱いた。

 

 

 「…もしかして、付いて来てたの気付いてた?」

 

 「…まあな」

 

 「だったら…どうして何も言わなかったの?」

 

 「態々言うのも面倒だったし、別にいいかなって思っただけだ」

 

 

 その態度は、やはり先日よりも柔らかい。つい最近までは、皮肉の一つも吐いて会話をしていたのに。

 何か、彼の中で変わったのだろうか。だとしたら、それは、みんなのおかげなのだろうか。

 アスナは笑みを浮かべて景色へと視線を戻した。

 

 

 「……アークソフィアにこんな場所があったなんて知らなかったなぁ……どうやって見付けたの?」

 

 「…別に。歩いてたら普通に」

 

 「良く来るの?」

 

 「……関係無いだろ、別に」

 

 

 特に文句を言う訳でも無く、アキトは淡々とそう答える。そんなアキトにアスナは微笑む。

 

 

 「好きなんだ、この場所」

 

 「ここだって、偽物の景色だけどな」

 

 「…でも、私はここで過ごした時間は本物だと思うな」

 

 「……」

 

 

 アキトはバツの悪そうな表情になる。

 そんな彼を見て、アスナは聞いてみたかった事を聞く事にした。

 

 

 「君の、君にとっての仮想世界って…どんなもの?」

 

 

 今まで彼は、ずっと周りに嘘を付いていた。この世界は偽物、人の業、本当はそんな風に思っていなかったのに、自分の為に嘘を付いたのだと、アスナは思っていた。

 勿論、彼も心の中ではそう思っているだろうけど、それでもどこかに割り切れない気持ちがある筈だから。

 

 

 「教えて、くれる?」

 

 「……」

 

 

 だから、真摯に聞いてみたいと思った。

 アキトは暫く沈黙を続けていたが、やがてポツリと、その口から言葉が漏れた。

 

 

 「……ままならない、ところだって思った」

 

 「ままならない?」

 

 

 アキトのその発言に、アスナは首を傾げる。だが、何を言おうとしているのか、本当は心のどこかで理解していたのかもしれない。

 アキトのその遠くを見据える瞳を見て、アスナは息を呑んだ。

 

 

 「レベル制のこのゲームじゃ、その場限りの全力とか、火事場の馬鹿力なんてラッキーは無い。毎日レベル上げして、努力しないといけない」

 

 

 努力した分だけ、確実に自身の力になるのがこのゲーム。

 その自身の行いに、カーディナルは確かに応えてくれる。上げたレベル分、ステータスに反映され、それを見て歓喜して、再びレベルを上げる。

 ゲームという事もあって、この世界の人はレベル上げに関してだけは簡単に努力出来る。

 

 

 「だけど、『死の恐怖』だけは、鍛えようが無いだろ。どれだけレベルを上げたとしても、その恐怖を克服しなきゃ結局は死ぬ」

 

 

 現実世界よりも簡単に人が死ぬこの世界では、努力しようが無いその『死の恐怖』は、レベルだけではどうにもならないのだ。

 自分は強いから、レベルは高いからと、そう思っても、目の前に現れる、現実世界では決して見る事の無いそのモンスターに怯え、苦しむのは仕方が無い。

『努力』を簡単に踏み躙る程の『恐怖』、それは理不尽極まりない。自身の積み上げてきたものが、それだけで崩壊してしまうのだから。

 どれだけ頑張っても、理不尽な『恐怖』が全てを帳消しにする。

 

 

 「『努力は裏切らない』なんてのは、現実の価値観が作り出した幻想だなー…とか」

 

 

 アキトは儚げに笑ってそう答えた。アスナは何も言えずに、複雑な表情を浮かべる。

 アキトは続けて口を開く。

 

 

 「現実なら、知らない国でも飛行機で簡単に行けるけど、この世界では、知らない場所に一瞬で行くなら、アクティベートしなきゃならない」

 

 

 その伸ばした手は、虚空を掴む。

 

 

 「電話やチャットが無いから、態々メールを打たなきゃならないし、誰かの居場所を探すなら、フレンド登録しなきゃならない。現実で出来た筈の料理は、スキルが無いと作れないし。当然だと思っていた事が、何にも出来なくなってさ…」

 

 

 今まで当たり前に出来る事でも、この世界では、その一つ一つが困難で大変で、辛く険しい道のりで。

 アキトは伸ばしていた腕を下ろし、地面へと付ける。

 

 

 「現実世界で出来た事が、この世界じゃ出来なくなって。その代わり、現実世界じゃ絶対にやらない事を、この世界でして、さ。そういうもどかしさって言うか……そういうのを感じてる」

 

 「…絶対に、やらない事?」

 

 「…こんなに必死になって、剣を振るなんて思わなかった」

 

 

 アキトは目を細め、目の前の景色に視線を動かす。

 先程まで高かった日は、次第に下へと移動し、その空はオレンジ色に変色していく。

 

 アキトにとってのこの世界、初めて入った時はこの世のものとは思えない程の景色に感動したのを覚えている。

 この世界なら、きっと────。そう思っていた。この仮初めの世界なら、嘘偽りだらけのこの世界なら、きっと自分は自分でなくて良い。現実とは違う自分でいられると、そう思った。

 

 だがデスゲームと化して、この世界でも『命』の重さは現実とは変わらない事を痛感して、いつも周りを傷付けてばかりだった現実を思い出して、どこか諦念を抱いていた。

 

 ああ、この世界でも自分は、自分でしかないのだ、と。

 

 

 ────そう、

 この世界を本物だと、誰よりも強く感じていたのは、他ならぬアキト自身だったのだ。

 

 

 「利己的な目的で上げてたレベルが、誰かの為になる。そう思うと、その苦行がとても意義あるものに思えて、嬉しかった。ずっと、他人の事なんて考えてなかった筈なのに。自分が生き残る為に、そう思ってた筈なのに」

 

 

 現実で誰かを傷付けるだけだった自分が、失うだけだった自分が、仮想世界では誰かを助け、救う事が出来て、生かす事が出来て。

 

 

 「大切な誰かを生かす、活かす技みたいなものが、必要だと感じる様になって。守りたいと思えるものを、護れるだけの力が欲しくなって」

 

 

 その為だったら、何だってやった。慣れない武器を振るい、熟練度を極め、レベルを上げて。

 誰かの為に、みんなの為なら、あの頃はとても頑張れた。

 そんな自分に、一番驚いていたのは自分自身だった。現実世界での出来事、境遇、歩んで来た人生、それら全てを体感して諦観した結果が、あの頃の自分だった筈だから。

 ずっと、周りの人などどうでも良かった。ヒーローを目指していた筈なのに、救うべき人を、アキトは見つめてはいなかったのだ。

 

 

 それを教えてくれた人達も、もうこの世にはいない。

 

 

 気が付けば、辺りも随分とオレンジ色に染まっていた。シリアスなムードを作ってしまった事で我に返る。

 アキトは誤魔化す様に溜め息を吐き、上体だけを起こした。

 

 

 「…アホらしい、なんでお前なんかにこんな話───」

 

 「私も…この世界に来たばかりの頃はそうだった」

 

 

 アスナのそんな発言で、アキトの言葉は遮られる。

 アキトはふと、声のする方へと視線を動かす。

 

 

 「自分の事で精一杯で、ログアウトする事だけを考えてた。この世界でのんびり過ごしている間に、私達の現実世界での時間が失われていく事が怖かった」

 

 「……」

 

 「だけど、この世界で過ごしていく内に、見えてなかったものが段々と見える様になって……大事な友人と、大切な人が出来て」

 

 「……」

 

 「この世界で生きている時間も、私にとっては大切な、本物なんだって思う事が出来た。全部……全部、キリト君のおかげ……」

 

 

 寂しそうに笑う彼女の瞳は、目の前の水平線に沈もうとする夕日が映る。

 膝を抱えて俯く彼女のその姿は、彼の死を乗り越え切れてない事実を顕著に表していて。

 

 

『君の事は私が── 私達が守るから』

 

 

 大切な人を守れなかったアスナ。あの言葉を自分に向ける事に、どれ程の勇気が必要だっただろうか。

 約束を違え、死なせてしまったアスナ。また破ってしまうかもしれない、死なせてしまうかもしれない、そんな恐怖は無いのだろうか。

 

 そんな彼女が、再び『守る』という言葉を口にする、その勇気に、アキトはどこか申し訳なさと、悔しさを感じた。

 自分じゃきっと、同じ約束をすぐにしたり出来ない。

 思わず、その口が開いた。

 

 

 「…悪かったな」

 

 「え…どうしたの急に?」

 

 「この前、その…急に取り乱したりして…」

 

 

 《ホロウ・エリア》でのPoHとの邂逅、その際に生じた体の震え、失ってしまう事の恐怖。

 それら全てを、あの時アスナは抑えてくれた。あの時、手を握り返しただけで、ちゃんとお礼も謝罪も出来ていなかったから。

 

 この世界は、確かに現実世界と何ら変わらない。この世界でも人は空腹に見舞われるし、眠たくもなるし、そして、死ぬ事だってある。

 誰もが苦しみを抱いて暮らしていて、それはキリトを失ったアスナも、仲間を失ったアキトも同じだった。

 なのに、あの時だけは、アキトよりもアスナの方が強かった。自分がずっと、守らなければならないと思っていたのに、いつの間にか救われていて。

 キリトを失ったばかりの当初は、あんなにも荒れていたのに、今はそんな雰囲気をまるで感じない。立ち直っている訳でも、乗り越えた訳でもないのに、その表情はどこか凛としていて。

 

 これが、かつて憧れた攻略組筆頭、《閃光》のアスナなのだと、そう思った。

 

 

 アスナは謝られた理由を思い出して、軽く笑った。何を笑われているのか分からず、思わず顔を顰める。

 だかアスナから返ってきた言葉は、予想外の言葉だった。

 

 

 「困った時はお互い様でしょ、私達は仲間なんだから」

 

 「っ…」

 

 「…あの時の言葉、嘘じゃないよ」

 

 

 アスナはその丘を立ち上がり、アキトの元まで下りる。そして、アキトの横に並ぶと、そのすぐ側で腰掛けた。

 アキトは驚いて目を見開くが、アスナは膝を抱えたまま、こちらを見つめると、優しい笑みを浮かべた。

 

 

 「君の事は私が、私達が守る。だから、君も、私達を……」

 

 「……」

 

 

 私達を、信じて欲しい───なんて、そんな強要は出来なくて、アスナは思わず口を閉じ、視線を逸らした。

 今まで、ずっと自分達を守ってくれたアキト。人を助けるのは当然なのかもしれないけれど、アキトは命を懸けてまで守ってくれた。

 普通ならそんな事は出来ないし、何か理由があるのかもしれない。けれど、お互いにお互いの事を何も知らない。

 そんな相手に、私達を信じろだなんて、そんな事は言えなかった。

 

 

 ─── だけど。

 

 

 「───ああ、」

 

 「え……」

 

 

 ふと、声を出したアキトの方を、掠れる様な声で応える。アキトには聞こえていなかったかもしれない。

 自然と、その視線が再びアキトの元へ向く。

 

 

 「…守るよ、必ず」

 

 「っ…」

 

 

 アスナは、その言葉で何故か涙が出そうだった。

 あんなにも脆くて、儚い、幻の様な少年が、こうして自身に笑みを浮かべてくれて。

 

 

 それだけで、充分だった。

 アスナは、決して涙は流さず、ただただ笑顔だった。

 目の前の、キリトの面影を持った少年の前で、これ以上弱い自分を見せない様に。

 

 

 「…うん。ありがとう、アキト君」

 

 

 確かに、自分達はアキトという少年の事を何も知らない。

 アキトは、もしかしたら自分達を知っているのかもしれない。

 知らないのは、自分達だけかもしれない。

 

 

 だけど、知っていくのは、これからでも良い。今すぐじゃ、なくてもいい。

 彼が私達の事を、仲間だと思ってくれる、そう言ってくれる日を待とう。

 

 いつか、キリトと交わした約束。

 守り、護られる関係。今度こそ、その誓いを違えぬ様に。

 キリトが歩んで来た道を、自分も精一杯進める様に。

 

 アスナは軽く、アキトに微笑んでみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時間など、あまり残されていないというのに。

 

 





アスナ「ねぇ、明日はどうするの?」


アキト「…《ホロウ・エリア》の遺跡塔の上に行k」

アスナ「私も行くわ」

アキト「……階層は?」


キリトの仲間達(女性陣)、みんな戦闘好き過ぎぃ…( )

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