ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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一週間程、更新が止まる可能性あり。
WARNING、WARNING!


……それ程でも無いかな。
それは兎も角、今回も文才が欲しいと感じる話。
(*´・ω・`*)グスン



Ep.53 共鳴

 

 

 《バステアゲート遺跡塔 外壁》

 

 

 そのエリアの中心点、その塔の頂上。

 雲に覆われ、地上からは目視する事も叶わない、そんな頂き。

 そこでは、三人の剣士と、巨大な飛竜の戦いが勃発していた。

 

 剣と剣のぶつかり合い、その金属音が天空で鳴り響く。血によく似たエフェクトが飛び交い、互いのHPを減らしていく。

 

 

 アキト、アスナ、フィリア。そして、対するのは刃竜ゾーディアス。

 その竜はその口を大きく開く。空間全体を痺れさせる程の咆哮が迸り、その攻撃力を高めていく。

 三人はその咆哮に悲痛な表情を浮かべながら、それでも奴から目を離さない。

 ボスのブレスに素早く反応し、彼らはそれぞれに距離をとる。ボスはその中の一人、アキトに目を付けると、その翼を羽ばたかせて迫り来る。

 アキトはボスに向けていた背を反転させ、その剣を振り上げた。

 

 

 「っ────」

 

 

 剣を一気に振り下ろし、硬い音が鳴り響く。火花を散らす中、ボスはアキトの顔を見てその瞳を光らせる。

 その瞬間、アスナが側面から《リニアー》を発動し、その首元を貫通させる。

 身体をくねらせ、踠くボス。苦痛に見舞われているのは、お互い様だった。

 光線を口から吐き出す。それをスキルで防ぎ、その隙に攻撃を仕掛ける。各々の武器は、ちゃんと敵に通用している。

 

 

 「はあっ!」

 

 

 フィリアがアキトへのヘイトを減らすべく、短剣を浮遊する竜の足下を斬り上げる。

 だがボスは靡く事無く、真下のアキトに敵意を向ける。随分と好かれたものだと、嬉しくない為苦笑い。

 だが、決して背は向けない。その瞳、耳、鼻、口、感触、全ては目の前のボスの為に。

 

 

 その巨大な翼が叩き落とされ、アキトは左に飛び込む事で何とか回避する。横に流れた尻尾の剣を、自身の剣で受け止める。

 

 

 「ぐっ…!」

 

 

 弾いた先に、再び尻尾による連撃。アキトは力強く地面を踏み締め、身体を捻る事でその力を流した。

 

 

(大丈夫…何度も戦ったんだ…!)

 

 

 似た様な相手の何度も対等に戦った。画面越しだが、謎の自信。

 その眼は輝きを増す。懐かしさに浸る事も無く、ただ目の前の敵の動きとかつて戦ったゲームのモンスターの動きを刷り合わせていく。

 昔はこうだった、今はこう、共通点はどれか、違いは何か、その葛藤全てが脳内で巡る。

 

 

 ボスの僅かな機微を見逃さず、全ての動きを把握しろ。

 集中しろ。脳の細胞全てを、目の前のボスの為に使え。

 自身を偽れ、強がれ。想像するのは、常に最強の自分。

 五感全てを行使して、目の前の難敵を蹴散らせ、殺せ。

 考える事を止めはしない。もう決して止まらないのだ。

 無力だった過去に戻る訳にはいかない、失えないのだ。

 

 

 飛んで来るその爪を何とかいなす。突進して来るその巨体をギリギリ躱す。

 その連続斬りの一つ一つを弾き、それが段々と躱せる様になってくる。

 

 

(集中しろ────俺はコイツに、"慣れた"筈だ…!)

 

 

 だからこそ視える、聞こえる、感じる、分かる。

 次に相手が使うであろう攻撃手段が、それによってさらにその先の動きが。

 

 

 ボスが身体を起こした途端に、アキトは僅かに身体を左にずらした。

 その瞬間────

 

 

 ボスの剣を帯びた尻尾が、アキトのいた場所のギリギリのラインを通過した。

 動いていなければ、今のは致命的だった。だが、アキトには視えていた(・・・・・)

 

 

 「っ────いけ……!」

 

 

 そのタイミングでアキトはボスに迫る。口を開こうとしていたゾーディアスの眼前に辿り着き、エリュシデータを光らせた。

 

 片手剣六連撃技《カーネージ・アライアンス》

 

 回転し、ボスの頭を殴る様に斬り付ける。それはまるで、ボスが光線を放つのを事前に知っていたかの様な動き。

 

 フィリアとアスナは驚きで動けていなかった。アスナは以前、似た様な雰囲気を纏う彼を見た事があった。

 確か、彼が一人で76層のボスと対峙した時。ソードスキルのモーション中にボスの攻撃を躱すという離れ業をやり遂げた、その時の彼に近しいものを感じていた。

 ボスの攻撃をたった一人で躱し、捌き、いなしていった、あの時の神がかった彼と。

 《剣技連携(スキルコネクト)》というシステムを逸脱した攻撃のせいで忘れていたが、あの時のアキトは、その技術すら使わずにボスと戦っていた事を思い出す。

 

 

 「閃光!」

 

 「っ…了解!はあああぁぁぁああ!!」

 

 

 アキトとボスの攻防を縫って、我に返ったアスナがひた走る。引き絞った細剣が輝きを帯び、粒子を撒き散らす。

 今は考えなくていい、倒すべきは、目の前の竜。

 一気にボスとの距離を詰め、全力でそれを放つ。

 

 細剣多段多重攻撃技九連撃

 《ヴァルキュリー・ナイツ》

 

 AGIに補正が入るソードスキル。閃光と呼ばれても尚、その速さを渇望する姿勢。

 速く、もっと速く。その攻撃は全て、ボスの身体へと吸い込まれていく。

 だがそれは、アキトも同じ。その片方の足を後ろに下げた後、一気に振り上げた。

 

 コネクト・《孤月》

 

 その名の通り、弧を描いた蹴り上げがボスの顎に直撃する。頭をかち上げ、ボスは天空を見上げた。

 アキトは再び踏み込み、エリュシデータを横に薙ぐ。

 

 コネクト・《ホリゾンタル》

 

 白銀のソードスキルが一閃、赤いエフェクトが飛び散る。その中、アキトだけはボスから視線を逸らさない。

 

 

 「『速く…もっと速く…!』」

 

 

 片手剣奥義技六連撃《ファントム・レイブ》

 

 紫色に剣が光り、迸る。その瞳にはアキトとは違う何かが重なって見える。

 アスナは瞳が揺れていた。

 

 重なり、織り成すアキトの剣戟はボスに的確にダメージを与えていく。

 あと少し、もう少し。

 もう少しで。

 

 

(届く────!)

 

 

 アキトがトドメの一撃を放つ、その瞬間。

 勝ちを確信したアキトを嘲笑うかの様にボスが距離をとる。とても急で、とても自然で。

 その見た事の無い動きに、一瞬身体が固まった三人。

 

 

 ────瞬間。

 

 

 ボスが青白く光り、その剣を身体ごと回転させた。

 そして、その回転斬りが、空間を斬り裂いた(・・・・・)

 

 

 「な…!?」

 

 「っ…!」

 

 「え…!?」

 

 

 亀裂が入った空間が歪み、縮小し、一気に暴発し、その剣戟か襲って来た。辺りにいた全てに強大な一撃を与えるべく発せられたその攻撃は、目で追えるものではなかった。

 一瞬で身体が吹き飛び、後ろにある柱に各々が激突する。

 

 

 「がはっ……!」

 

 

 柱にヒビが入る程の威力に、アキトは苦しげに瞳を細める。こんな隠し玉があるなんて思ってなかった。

 呼吸が一瞬出来ず、焦りと恐怖に襲われる。視界の左上を見れば、HPがかなり危うかった。

 

 

(っ…! 二人は……!?)

 

 

 アキトは急いで起き上がり、アスナとフィリアを探す。

 すると、ゾーディアスの視線の先に、動けない彼女達を捉えた。HPはレッドゾーン。風前の灯火。

 アキトは思わず目を見開いた。

 

 

 「……!!」

 

 

 苦しげに歯を食いしばるフィリア。アスナは悔しそうに竜を見上げる。

 ボスはそんな彼女達を気にも留めない様な瞳で見下ろし、その尻尾を突き上げた。

 あれを食らってしまったなら、二人は、フィリアは。

 

 アスナは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン────

 

 

 心臓が、脈を打つ。

 かつて英雄が愛した少女が、視界から離れない。

 アキトの中の何か(・・)が、その身体を突き動かす。

 

 

 「『っ…ぐっ、おお……!』」

 

 

 アキトは震える腕で立ち上がりながら、小さく声を漏らす。

 視界の先、ボスのさらに先に倒れる、栗色の髪の少女を見付けて。

 動け、動け、速く。もっと速く。

 彼女だけは、何があっても、『返してみせる』。あの世界に。

 

 

 「『アスナぁあぁああっ!』」

 

 

 アキトは一気にボスに向かって駆け出す。その速度は、今までの比じゃない。

 

 

 「アキトく…」

 

 

 消え去る程にか細い声を振り絞り、彼の名を呼ぶアスナ。

 だが、呼ばれた少年は、本当にアキトだろうか(・・・・・・・・・・)

 

 

 「『うおおおぉぉおおぉああぁあああ!!』」

 

 

 片手剣突進技《ヴォーパル・ストライク》

 

 赤く、速く、弾丸の様に。その背中に剣を突き立てる。

 ボスは途端に目を見開き、苦しげに身体を捩る。背中に剣を突き立てるアキトを振り下ろそうと懸命に身体をはためかせる。

 決して離れない、集中しろ、把握した敵の全ての行動を予測し動け。それが無理なら、残り少ないHPを減らす為、死に物狂いで食らいつけ。

 

 

 だが、アキトは次の瞬間、その狭い戦闘エリアから飛び出したボスの勢いに、思わずその手を離してしまった。

 

 

 「『え────』」

 

 「なっ…」

 

 「!? あ、アキト君!」

 

 

 アキトの身体を空中を舞う。まるで時間がゆっくり進む様に、スローモーションの様に、アスナとフィリアの瞳には映る。

 

 

 アキトはボスに投げ出され、その塔の頂点から転げ落ちた。

 

 

 「『ぐっ……くそ、マジかよ……!』」

 

 

 焦るな、落ち着け。アキトは重力に逆らう事無く落下していく。

 かなりの高さだ、この残りのHPで耐えられる訳が無い。

 アキトは歯を食いしばり、落下した場所を目視すると、なんとボスまでもが滑空して追い掛けて来ていた。

 

 

 「『な……執拗い奴だ……!』」

 

 

 最早笑うしかない。アキトは咄嗟に身体を翻し、ボスを迎え撃つべく睨み付ける。

 上手く行けば、アイツを使って頂上に戻れるかもしれない。背中に剣でも指して上昇すれば。

 

 アキトは今尚落下していく中、剣を構え…………あれ、剣?

 思わずその手を二度見した。

 剣が手元に無い。

 

 

 「『え』」

 

 

 アキトは文字通り、目が点になった。

 為す術無く落ちていく中、剣が無い事に驚愕するのにほんの数秒かかった。

 

 

(な、何で…!? っ、あの時か…!)

 

 

 ボスに投げ飛ばされた時、剣を彼女達のいるフィールドに落としてしまった事を思い出す。

 こうなってしまえば、攻撃手段が無い。

 ウィンドウを開こうにも、ボスが落下するアキトにタイミングを合わせて尻尾を振りながら回転していく。

 

 

 「『くっ…!』」

 

 体術スキル《エンブレイザー》

 

 突進技であるこのスキルでどうにか身体を空中で動かし、ギリギリで躱していく。

 落ち行くその近くには塔がある為、足場として蹴り上げる事も出来るだろう。だが、このままいけばジリ貧だった。

 

 アキトは勢い良くその塔の壁に足をつける。

 火花を散らしながら未だ下降するが、その速度はドンドン落ちていく。

 

 

 「『いっ……けええぇぇえ!』」

 

 

 体術スキル《飛脚》

 

 タイミング良く塔の壁を蹴り、その場から上に高く飛び上がる。

 ボスの胸元まで飛翔し、今度はその拳を突き立てる。

 

 体術スキル《閃打》

 

 刹那の速度で放ち、ボスの動きを止める。そして、そのボスの身体に足を乗せ、再び《飛脚》を発動した。

 高く飛び上がった身体は、段々とアスナ達のいる頂きへと進む。再び塔の壁に足を付け、《飛脚》を発動すべく足に力を溜める。

 

 だが、立て直したボスは一瞬でアキトのところまで戻ると、その翼で彼を叩いた。

 そのまま壁に激突し、身体が動かないまま落下していく。

 

 

 「『くっそ…!』」

 

 

 

 

 

 

 「アキト君! っ……!」

 

 「アキト…!どうしようアスナ!?」

 

 

 何とか打開策を考えたいフィリア。アキトは今も尚、ボスと塔の下、空中で何とか対峙しているが、武器も無く、体術スキルも単発。落下の速度やそれによるダメージを考えると、アキトが絶命するのも時間の問題だった。

 

 

 何よりも、焦っていたのはアスナだった。

 このままでは、アキトが。

 また、何も出来ず、一人に。独りにしてしまうのか。

 キリトの時の様に。

 

 

『……死なないで』

 

 

 いつかの攻略で、アキトに自分が言った言葉。あの時からずっと、アキトの事が気になって、嫌って、意識していた。

 怖い。怖い。もう、私は誰かを。

 キリト君を。

 

 

 「っ…!」

 

 

 塔の下へと落ちていったアキトを塔の上から見下ろしていたアスナ。そして思わずハッとする。彼が武器を持っていないという事は、何処かで武器を落としたという事。彼女は何かを思い出したかの様に現在いるフィールドを見渡す。

 するとそこには、アスナ自身が彼に託した英雄の忘れ形見、《エリュシデータ》。持ち主を失くしたその黒き剣はフィールドの真ん中に寂しく寝かされていた。

 思わずアスナはエリュシデータの元まで駆け出す。急いでアキトに届けないと。彼のスペックなら、剣をこの場所から落としても、きっと手にしてくれる筈。

 確証は無いけど、確信はあった。無慈悲な信頼ではあったが、アスナは何故か、今のアキト(・・・・・)なら決めてくれると思っていた。

 

 

 ────だが。

 

 

 「っ…くっ……お、も……!」

 

 

 アスナにとって、この《エリュシデータ》という剣は大剣並に大きく、重い存在だった。

 当然だ、ステータスも装備している武器も、何もかもが彼と違う。キリトと違う。

 

 

 「アスナ、大丈夫!? 手伝う……っ、何これ、重過ぎ……!」

 

 

 アスナのやろうとしている事を理解したフィリアは、アスナに変わって剣を運ぼうと持ち上げる。

 だが、あまりにも重過ぎて塔から落とすどころか、持ち運ぶ事も出来ない。

 

 

(アキトはずっと、こんな剣を……!)

 

 

 フィリアは驚愕でその瞳を揺らす。

 そして、アスナはその剣を見つめながら、アキトの顔を思い出していた。

 

 

(…やっぱり…アキト君は……)

 

 

 彼は、キリトと殆ど同じステータスなのだと確信した。

 このエリュシデータは、持つべくして彼の手元に行ったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)と。

 だがこのままじゃ、アキトが。今この剣を持ち上げなければ、彼という存在が。

 

 

 嫌だ。絶対に嫌だ。アスナは段々と恐怖と焦りで心臓の鼓動が強くなるのを感じた。

 どれだけ力を入れても、フィリアと力を合わせても、それがキリトの力だと、背負って来た重みだと、そう痛感させられる様で。

 

 

(どうしよう…このままじゃ、このままじゃアキト君が……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイツ、刀も使えるんだってさ』

 

 

 

 

 「っ────」

 

 

 ふと、リズベットが以前自身に言い放った言葉を思い出した。

 アスナがメンテナンスをしに行った時、彼女の店でそれを知った。

 

 

 

 

『……って事は、曲刀も使えるって事よね?』

 

 

『そこから派生するスキルだからね。やれる事はやる主義なんだってさ。他の武器も使えるんじゃない?』

 

 

 

 

 リズベットがそうやって笑って、それにつられて自身も笑う。それ程可笑しな話では無かったのに。

 だけど、何故か嬉しかった。

 多分、リズベットの本心を聞いて、こうして真の意味で親友になれた、その喜びを分かち合っていたから、ああして笑えていたのだ。

 そして、その切っ掛けを作ってくれたのは。

 

 

(アキト君────)

 

 

 アスナはその闘志を未だその瞳に宿しながら、その場から立ち上がる。

 

 

 「あ、アスナ…?」

 

 「っ…!」

 

 

 アスナはエリュシデータを掴むフィリアの元を離れ、一気に塔の端まで走る。

 鞘に収めたその細剣《ランベントライト》を引き抜いた。

 

 確信は無い。こればっかりは確証すら無い。

 だけど、何も無いよりは戦力になるし、何より。

 やる事はやる主義で、誰にでも本当は優しい、ひたむきで真っ直ぐなアキト君なら。

 

 

 「───アキト君!」

 

 「『……!』」

 

 

 

 

 そのアスナの声を、アキトはしっかり聞いていた。

 アスナは、ランベントライトを高く頭上に上げ、一気に────

 

 

 

 

 

 

 そのまま塔の下へと思いっ切り投げた。

 

 

 「えっ!?」

 

 

 フィリアはエリュシデータを地面に置き、アスナの元へと駆け寄る。

 落ちていくランベントライトは、真っ直ぐ、まるで彼女の突きの様に、回転すること無く真っ直ぐに進む。

 アキトは思わず目を見開いていたが。

 

 

 「『っ…………上等だぜ」

 

 

 その口元に笑みを作った。ボスのその巨体を《飛脚》で思い切り振り抜き、塔の壁へと足を掛ける。

 そして、そのまま一気に壁を走りながら登り出した。

 

 

 「っ!」

 

 「う、嘘…!?」

 

 

 アスナとフィリアが目を見開く。だが、ニヤけた顔のアキトを見下ろしたアスナは、つられて自然と笑みを溢す。

 アキトの真後ろには、身体を翻して追い掛けるゾーディアスの姿が。

 だけど、不安は無い。

 アキト君なら。

 

 

 キリト君なら。

 

 

(いける…いけるよ、アキト君!)

 

 

 「アキト君!」

 

 

 アスナは思わず、その名を口にする。

 アキトはそんなアスナに驚いたのか、目を丸くした。

 だが、すぐに小さく笑ってみせた。

 

 

 「────うるせぇな」

 

 

 アキトは走って登っていた壁を蹴り上げた。すぐ後ろには口を大きく開けた飛竜の姿が。

 アキトは高く飛び上がり、その手に、アスナから託された細剣《ランベントライト》を掴んだ。

 

 

 「────いくぜ、空の王者」

 

 

 その身体を反転させ、ゾーディアスと対面する。

 迫り来るその竜の口内が淡い光に包まれる。あの強大な威力を誇る、光線が待ち受ける。

 だが、はっきり言って負ける気がしない。

 

 

 イメージするのは、常に最強の自分。

 そう、何処かの世界の英雄が言っていた。

 ならば、イメージするのは、この世界最速の剣技。

 《閃光》の異名を持つ、彼女の絶技。

 

 

 「いっけえぇええぇええ!」

 

 

 

 細剣奥義技九連撃

 《フラッシング・ペネトレイター》

 

 

 閃光の様に鋭い刃が、ボスの口内を貫く。ボスは悲鳴を上げながら、そのままアキトに食ってかかる。

 アキトはボスに攻撃されながら、ボスの上昇に乗り、そのままアスナ達の元へと近付いていく。

 やがてアスナ達よりも高く上昇したボスの真上に、アキトは投げ出される。

 そして、その瞬間。

 

 

 アキトは身体を捻り、その頭蓋に最速の技を放つ。

 閃光の代名詞。避けられるものならば、避けてみやがれ。

 

 

 

 「くらえっ────」

 

 

 

 細剣単発範囲技《リニアー》

 

 

 その正確無比に近い音速の突きが、ゾーディアスの頭を貫いた。

 ボスはその身体の内側から光が差し込み、やがてその身体をポリゴン片に変わった。

 そして、その光の粒子の中、空中から黒い猫が舞い降りる。

 勝利のファンファーレが空間に響き渡り、ミッションを遂行出来た事を実感する。

 遺跡の頂上、遥か頂きに、幻想的な風景が漂っていた。

 

 

 アスナはその足を動かし、アキトの元へと歩む。

 アキトは、近付いてくるアスナから、視線を逸らしはしなかった。

 

 

 「…アキト君」

 

 「……」

 

 

 安心した様な笑みを浮かべるアスナに、アキトはランベントライトを差し出した。

 細剣とアキトを交互に見るアスナに、アキトは小さく笑ってみせた。

 

 

 「……ありがとな」

 

 「っ……う、うん……!」

 

 

 救えた。助けられた。

 それだけで、身体の力が抜けそうだった。泣きそうだった。

 だけど、それは決してしてはいけない。

 本当は優しい彼に、心配させる訳にはいかない。

 

 

 

 その名剣を力いっぱい抱き締め、何かを堪える様に俯いた。

 

 

 






ゾーディアス『空間斬り裂くとか俺強くね?』

アキト「細剣も使えるとか俺強くね?」

ゾーディアス『あ?』

アキト「は?」



次回『少女に迫る狂皇子』


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