ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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息抜き感覚なので、お話にはあまり進まないかな……
いや、番外編とかでは無いので関係はあるんですけど、それほど気にしなくても良いというかなんというか(殴

次回から急展開行きます。


Ep.63 重ねる面影

 

 

 

 

 

 

 

 最前線、85層。

 その迷宮区でのレベリングの帰り道、アスナは溜め息を吐きながら帰路に立っていた。

 ボス部屋が見つかり、明日には会議が開かれるであろう。だが、そんな事を思っていた訳では無かった。

 

 

『最近、アキトと仲良いじゃない』

 

 

 そう言われたアスナは、酷く困惑したのを覚えている。

 メンテナンスに赴いた際、リズベットに言われた一言を、アスナはずっと頭の中で考えていた。

 

 

『……そう、かな……』

 

『……あ、変な意味じゃないのよ?何て言うか……その……』

 

『……?』

 

『……前みたく、笑うようになったわ』

 

 

 キリトがいなくなって、悲しいのは自分一人だと勘違いして、その癖親友に無理をさせて、そして出会って間もない黒の剣士に助けられて。

 それでも、アスナは漸く自身の力で立ち上がり、前に進む事を決めた。

 

 だけど、リズベットにそう言われ、考えてしまうのだ。

 キリトが死んで、まだそれ程時間が経っている訳じゃないのに、まるでそれを忘れたかのように振舞って、笑っている自身の事を。

 キリトも、自分の事でアスナが悲しむのは嫌だと思う事は分かっている。逆の立場なら、アスナもそう思うから。

 でも、理屈ではそう思っていても、割り切れない想いがあって。

 

 けど、そう思うようになってしまったのはきっと。

 アキトという、キリトに似た少年が目の前に現れたから。

 

 彼といると、キリトを思い出す。顔も性格も言葉遣いも態度も全然違うのに、根底にある優しさ、それはとてもよく似ていた。

 

 だけど、彼はキリトとは違う。

 分かっている。自分が、アキトに何かを求め、縋っているという事は。その何かも、もうとっくに理解してた。

 結局、自分はその想いも、可能性も捨て切れないでいたのだ。そんな都合の良い事など無い。有り得ない。

 だからこそ、彼といるととても心地好くて、とても辛くなる。

 

 

『……なーにアキト凝視してんのよ、アスナ?』

 

『え……べ、別にそんな事ないわよ……』

 

 

 キリトに似ているからこそ、自分はここまで意識しているのだろうか?

 初めて会った時は、嫌悪感すら感じたというのに、今ではそんな事、全く感じていなかった。

 ふとアキトと目が合う事があり、その度に逸らすのは、いつもアスナ。

 

 アキトが自分を見ているのでは無い。見てるのは自分。

 分かっていた。あれだけ自分が見ているのだ、時には目も合うだろう。

 

 そして私が見ているのは、想い人の影を纏う少年。

 もっとずっと見つめていたかった、大好きだった人の。

 

 

 「はぁ……」

 

(これじゃあ……アキト君に悪いよね……)

 

 

 思い浮かべるのは、現在の《黒の剣士》。

 アキトも他人に重ねて見られるのを良くは思わないだろう。

 

 だけど、そこまで考えて思い出してしまった。

 あれだけ自分とキリトは違うと否定していたのに、アスナ自身もそれを望んでいたのに。

 キリトに代わりはいないと、そう思っていたのに。

 だけどアキトはあの日、アルベリヒとの邂逅時に、自身が《黒の剣士》であると認めるような発言をしたのだ。

 分かっている、あれが正解である事は。妥当な判断だった事は分かっている。

 ヒースクリフもキリトもいなくなったのは、プレイヤー達には希望が無くなった事と同義。

 黒の装備を纏い、それ相応の強さを持ったアキトが、《黒の剣士》を背負うのは自然の流れだったのかもしれない。下層のプレイヤーはその二つ名だけで、顔と名前を知らない者の方が多かった。

 だからこそ今の今まで浸透し、アキトが《黒の剣士》であるという事実が確立されつつあった。

 

 怖い。

 アキトが完全にキリトの位置に成り代わる瞬間が来るのが。

 そうなったら、自分はキリトの事を忘れてしまいそうな気がして。そして、それ相応の重荷を、アキトに背負わせてしまう事が怖い。

 

 どうして。

 何故急にアキトは、《黒の剣士》を否定しなくなったのだろう。

 もっと、自分達を頼ってくれればいいのに。

 

 重ねて見えているからこそ、辿る末路も予想出来て。

 もう、何も失いたくないのに、手の伸ばし方を知らなくて。

 

 そう考えるのも、自分がアキトの事を都合良く考えてしまっているからなのだろうか?

 とても浅ましく、疚しい考えを持っているからなのだろうか?

 途端に、その心が傷むのを感じた。

 

 

(……あんまり、見ないでおこう……)

 

 

 見てしまうから、目で追ってしまうから意識する。

 期待する。願ってしまう。縋ってしまう。求めてしまう。

 キリトが、傍にいてくれたらと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(見ないで置こうと思った端からいるし……)

 

 

 何の気なしに向かった、いつしかの場所。75層の街、商店街を抜けた先にある、小さな丘。

 アキトを追い掛けて見付けた、幻想的で綺麗な場所。

 細い裏路地を抜けて、そこから小さな坂があって。

 その先には、広大な湖が広がっている。水面に映る街並みが、鏡写しになってとても神秘的で、頬を撫でる風が、とても冷たい。

 

 そんな丘で、アキトは眠っていた。

 

 いるかもしれないなと、ここに向かいながら考えてはいたけれど、本当にいるとは思ってなかった。

 丘の斜面に寝そべって、小さく寝息を立てていた。頭の後ろに両手を組んで、枕にして眠っている。

 ご丁寧に毛布まで掛けており、寝る気満々である事が伺えた。

 

 

 「……こういう所も、キリト君そっくりなんだよなぁ……」

 

 

 アスナはその丘を音を立てずに降り、アキトより少しだけ離れた場所に腰掛けた。

 そして、所謂体育座りでアキトの寝顔を見つめる。

 いつものアキトとは打って変わって大人しい。眠っているから当然だが、静かに、子どものように眠るアキトを見るのは初めてだった。

 まるで猫みたいで、アスナは小さく笑った。

 

 

(だけど……)

 

 

 アスナは、アキトの頭上、カーソルの隣りに位置するギルドマークに目を向けた。

 何処かで見た事があるような、無いような。なのに何処か引っかかる、そんなイラスト。

 三日月に寄り添う黒猫のマーク。フレーズも何処かで聞き覚えのあるものだった。

 このマークの持つ意味を、アスナは知らない。目の前の彼以外に、このマークを持ったプレイヤーを必死に思い出す。

 けれど、結局思い出す事は出来なかった。

 

 つまるところそれは、もしかしたら。

 このギルドのメンバーは、今はアキトだけなのかもしれないという事実に行き着いていた。

 

 

 「……」

 

 

 アスナはカーソルから視線を下に下ろす。

 再び、アキトの寝顔を見つめた。

 

 

(似てる……こうして目を閉じてると、余計に……)

 

 

 長めの黒髪、整った顔、真っ直ぐな鼻筋、小さな口元。

 顔や戦い方は全く似てないのに、纏う雰囲気や、本の小さな仕草。

 それでいて、こうした寝顔。それがとても懐かしくて。

 

 

(キリト、君……)

 

 

 どうして、あの時。

 自身の欲望を優先してしまったのだろう。

 何故、キリト一人に全てを背負わせてしまったのだろう。

 キリトなら、きっとこのゲームをクリアしてくれる。そんな希望を抱くだけ抱いて、何もかもをキリトに任せて。

 守ると、そう約束した筈なのに。

 

 出会って、喧嘩して、笑い合って、助け合った。

 色んな事を知って、色んな事を知らな過ぎて、その度に教えて貰って、たくさんのものをくれた。

 すれ違って、やっと両想いだと分かって。

 きっと、浮かれてた。

 リズベットの気持ちも知らないで、一人、楽しく。

 

 

 「馬鹿だな……私……」

 

 

 アキト君を見なければ、何も期待しなければ。

 キリト君を思い出して、悲しくなる事も無いのに……。

 

 

 後悔は、最初から始まっていた。

 

 

 どうして、初めてのボス戦で彼を一人にしてしまったのだろう。

 ずっと組んでいたのに、何故血盟騎士団に入って、彼を孤独にしたのだろう。

 どうして、ヒースクリフに一人で挑ませてしまったんだろう。

 どうして、もっと必死になって止めなかったのだろう。

 

 あの時、死に物狂いで身体を動かしていれば良かった。

 そうしていたのなら。もしかしたら麻痺を無視して動けたかもしれないのに。

 そうすれば。全然違う未来があったのかもしれないのに。

 

 何度も願った、違う未来が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……閃、光……?」

 

 「っ……!?」

 

 

 その小さな声に我に返ったアスナは、思わず声の方を見る。

 アキトは目を細めながら、こちらを見上げていた。

 

 

 「あ、アキト君……!? お、おはよー……」

 

 「……なんで」

 

 

 アキトは起き上がる事なく、そのまま横になった状態で隣りに座るアスナを見る。

 アスナは慌てて弁明を図った。アキトの寝起きに自分が隣りにいたら不思議極まりない。アキト自身、索敵をかけていなかったのか、アスナがここにいる事を不思議に思っているようだった。

 

 

 どうにか誤魔化そうと、アスナは笑う。

 いつもと違う、分かりやすい作り笑い。

 アキトは目を丸くして、そんな彼女を見上げていた。

 

 

 「えっと……ここ、私も気に入っちゃって……でもそしたら、アキト君が寝てたから、その……起こさないように……ね……」

 

 「……なぁ」

 

 「……だ、大丈夫よ、何もしてないから……というか、する訳ないじゃない……」

 

 「……あのさ」

 

 「あはは……ゴメンね、何慌ててるんだろ、私……えっと、じゃあ私もう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アスナ」

 

 

 「っ…!」

 

 

 その一言で、アスナの言葉が止まった。

 目を見開いて、誤魔化して笑っていたその表情を崩す。

 ゆっくりと、アキトの事を見下ろす。

 

 アキトは、自身の手を、腕を、ゆっくりと伸ばす。

 アスナの顔の方へと、遠慮がちに、段々と近付ける。

 アスナはそれに驚く事も、逃げる事も、払う事もしなかった。ただ、身体が震えて、動けなかった。

 

 

 どうして、急に名前で呼ぶの?

 顔が似ると、声も似るの?

 

 

 アスナは何も言えず、黙ってアキトを見つめるのみ。

 

 

 やがて、アキトのその腕が。

 ぎこちなく伸ばされたその手が、アスナの頬に触れた。

 アスナも、もう限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 「……泣くなよ」

 

 「っ……アキト、くん……」

 

 

 いつの間にか、募っていた想いが。溜め込んでいた気持ちが、一気に涙になって。

 アスナは、頬に添えられたアキトの手を、両手でギュッと握り締め、涙を流した。

 

 忘れる事なんて出来ない。キリトは、自分のこの世界での2年間の意味であり、生きた証。

 今まで、彼の為に頑張って、苦しんで。それなのに、急に目の前でいなくなって。

 どうして、どうして。

 どうして、いなくなってしまったの?

 一緒にいてくれるって、言ったのに。

 

 

 「キリト君……キリト君……!」

 

 

 「……」

 

 

彼女が泣くのは、当然だった。

キリトが死んで、まだそれほど時間が経ってないのだ。

あれだけ荒れていたのに、今こうして仲間と笑うだけでいられる筈が無い。

 

もう心配させたくないからと、偽って、強がって、無理をして。

悲しみを心に押し込めていたのだ。

限界まで耐えて、そうして、今それが祟って涙を流している。

 

────そして、そうなった理由は間違い無く。

 

 アキトはずっと、心が痛かった。

 自分がした選択によって、アスナは今、泣いてるのだと知ったから。

 もしかしたら彼女は、自分が来なければ、こうして泣く事も無かったんじゃないだろうかと、そう思ってしまう。

 それどころか、自分は何も救えておらず、ただ、彼らの運命の歯車を狂わせてるだけなのではないだろうか。

 

 自己満足でアスナを助けた。

 アスナは、キリトのいない世界を生き抜く事を決めた。けれど、それはキリトを乗り越えた事と必ずしも同義では無い。

 彼女が無理をして、ずっと溜め込んでいるのは明白だった。

 

 それなのに、俺は。

 自分は。

 また、彼女を────

 

 

 「……ゴメンな」

 

 

 アスナの涙を、頬に添えた手の親指で拭う。

 そんな事、本当はしてはいけないのかもしれない。配役は、自分じゃないのかもしれない。

 けれど、この場には誰も居なくて。彼女に寄り添える人を、自分は知らなくて。

 

 アキトは思った。

 自分はきっと、この手で生かした彼女に、生涯償わなきゃいけないのかもしれないと。

 こうして涙を流すのも我慢させたのも、無理をさせたのも。

 ひとえに、自分のせいなのだから。

 この夢を、この願いを。

 このワガママを通す為に、アスナに生きて欲しいと願ったのは、他でも無い自分だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 

 

 「……夢を、見るんだ」

 

 「……え?」

 

 「何もかもを失った日の夢を」

 

 

 アスナが泣き止み、こうして二人、並んで丘に座る。

 アキトがふと、アスナに向けてそう呟く。

 アスナは彼の言葉を聞き、視線を向けた。

 

 

 「毎晩毎晩、大切な誰かが死んだその瞬間を夢に見る。何度も何度も救おうともがいても、手が届く事は無くて。その度に後悔するんだ」

 

 「……」

 

 「どうしてあの時、こうしなかったんだろうって、さ。最近は見なくなったけど」

 

 「……それは、その……君のギルドの話……?」

 

 

 アスナは、恐る恐るそう聞いた。

 もしかしたら、聞いてはいけない事なのかもしれない。だけど、アキトから話してくれたのだ。だからこそ、聞いてみたいと、そう思った。

 アキトは目の前の景色を見ながら、儚げに笑って頷いた。

 

 

 「……あそこには、求めた全てがあった。一人で、独りだった俺の、たった一つの居場所だったんだ」

 

 「……」

 

 「……前にさ、『選択に後悔が無いなら、きっとそれが正解なんだ』って言ったの、覚えてる?」

 

 「……うん」

 

 

 段々と、アキトの態度と話し方が柔らかくなっていく。

 アスナはそれを感じながら、アキトの言葉に頷いた。

 

 

 「でも、いつかは必ず、選択しなかった方の未来を考える瞬間があるんだ。別の道を選べば、きっとこんな未来も望めたんだろうなって」

 

 

 それは、ほんの少しの期待と、ちょっとした予想。

 それでいて、ただの希望的観測。

 だけど、決して後悔だけじゃない。

 選ばなかった道の想像は、きっと後悔だけじゃない。

 だから、選んだこの道だって、後悔だけじゃない。

 

 

 「俺、最近は選んだこの道の未来を想像するんだ。『なんであの時、ああしなかったんだろう』って思うんじゃなくてさ。『自分で決めて選んだこの道の先には、どんな可能性が広がってるんだろう』って」

 

 「……」

 

 「……前だけ見るのは難しいし、これから先、何度も後ろを振り返ると思う。だから、別に良いと思うんだ。たくさん泣いて、たくさん悔やんで、それでも最後に、未来を見つめる事が出来るなら」

 

 

 後悔したって、もう何も変わらない。

 なら、嘆けば嘆くだけ、それは死んでいった彼らに失礼だし、報われないと思ってる。

 アキト自身も、かつての仲間の事を乗り越えてなどいないし、決して忘れる事なんて出来ない。

 だけど。

 

 

(いつか俺が死んで、みんなと再会した時に、胸を張って居られる自分になりたいから……だから……)

 

 

 だからこそ、もう悔やまない。

 たとえこの道が、自分自身が間違っていたとしても。

 それを信じた事に、後悔だけはしないように。

 

 

 「……アキト君」

 

 「……要は考え方だけどさ、君には、分かち合える仲間がいるんだし。だから、あんまり無理しないで、ゆっくりな」

 

 

 柄にもなく語ってしまって、アキトは若干照れてしまう。

 よりにもよってアスナ相手に、こうも自分の考えを述べるだなんて不覚極まりない。

 本当に、なんで彼女にこんな話を。

 

 

 「……アキト君にも」

 

 「え…」

 

 

 アキトは、ふいにアスナの事を見つめる。

 アスナは瞳が揺れ、それでと真っ直ぐにアキトを見ていた。

 

 

 「君にも、私達がいるから……」

 

 「……」

 

 「もっと……もっと、頼ってよ……」

 

 

 アスナは、アキトの地面に置かれた手を見つめて、そう告げた。女の子のように細く、それでいてどこか大きく見える手。

 孤独を走り、一人で背負い、そうして何かに一生懸命になれる彼のその想いは、キリトの生き方そのものに見えた。

 

 だからこそ、もう置いていって欲しくない。

 これ以上、キリトと同じ道を歩んで欲しくなかった。

 また。

 また、私は。

 大切な人を失ってしまうかもしれない。

 

 今でもアスナは、キリトを想っている。

 だからこそ、キリトに似た彼が、同じように一人で進むのを良しとしたくなかった。

 アキトは今までずっと、自身を助けてくれた。だからこそ、自分達にも、アキトを助けさせて欲しい。

 

 

 「……そう、か」

 

 

 アスナはその声を聞いて、顔を上げる。

 そこには、片目が黒く染まりつつあった、アキトが小さく笑みを溢していた。

 

 

 「今の俺には……君達がいるんだ……」

 

 

 気が付かなかったかのように、そう呟いた。

 守る、背負う、それだけで。自分一人で決め付けて。

 

 アキトはこれまでたくさんのものを失って、手に入れて。

 何もかもが初めてで、知らない事が多過ぎた。

 何を望んで。何が欲しかったのか。

 それを失わぬように、守る為にと強さを渇望した。

 そればかりで。

 

 だからこそ、アキトはまだ。

 誰かを頼る事を、知らなかった。

 

 何もかもを背負い込んで、隠して。

 辛い事、悲しい事も、心の中に閉じ込めて。

 周りが危険に晒されないようにと、ずっと一人で。

 過去に、色んな事があって、それを聞く事はまだ出来ていない。だけど、そんな苦しみさえも、独りで抱えて。

 

 

(そんな、とこまで……)

 

 

 そんなところまでそっくりで。

 キリト以上に危なくて。脆く見えて。

 アスナは取り繕おうと、誤魔化すように、笑顔になった。

 

 

 「…そうだよ、アキト君にも私達がいる。守られるだけじゃない、私達も君を絶対に守るから。だから、信じて欲しい……」

 

 「……疑ったりなんて、した事無いよ」

 

 

 アキトは困ったように、照れたように笑った。

 それを見て、アスナも身体の力が抜けるのを感じた。

 

 互いに大切なものを失って。

 互いに荒れて、それでも前に進もうと、今こうしてここに座っている。

 

 アスナはキリトを一人にして。

 アキトはかつて、仲間を失い独りになった。

 どこか似てる二人が、こうしてまた、小さな『約束』を交わす。

 

 

 

 

 彼らの目の前の湖には、オレンジに輝く太陽が沈みつつあった。

 






小ネタ

アスナ 「アキト君、明日の予定だけど」

アキト 「あ?何で俺の予定聞くんだよ、関係無えだろ」

アスナ 「……」

アキト「……何」

アスナ 「……さっきはもっと優しい口調だった」

アキト 「うっ…」

アスナ 「頼ってって言ったのに……」

アキト 「い、いや……えと……」

アスナ 「ユイちゃんには優しいのに……まさか、アキト君、ユイちゃんの事────」

アキト 「明日はその!……ボス戦に向けたレベリングを迷宮区で行おうかと……」

アスナ 「じゃあ、パーティ組みましょうか」

アキト 「……はい」


※アキトもキリトもアスナには頭が上がりません。

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