ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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折れても、挫けても、失敗しても。

それでも俺は────





Ep.65 信頼に応える為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付く事を、恐れていた。

 

 

 知らない方が良かった事だってあった。

 

 

 あまりに近くて、あまりに当たり前で。

 

 

 それらが、自身の中でたくさん渦巻いていて。

 

 

 

 

 相変わらず殺風景な自身の部屋の扉を閉じる。

 見渡せば、暗い雰囲気と影が差し込み、その空間の光は消えかかっていた。

 消えかかるその小さな光は、どこか既視感を覚えた。

 この世界で悲しみを抱える全ての人の心を、体現しているように見えたから。

 壊れそうで、折れそうで、諦めそうで。

 それでいて、まだ諦めないぞと、その内に秘める闘志を燃やしているように見えた。

 

 

 リーファはずっと、無理していたのかもしれない。兄との別れを噛み締め、こうして仮想世界で同じように生きる中で、そうした気持ちを抑えていたのかもしれない。

 アスナが自暴自棄になっていた時も、みんなで楽しく食事している時も、後略に勤しんでいる時も、アキトと二人であのクエストをこなしていた時も。

 ずっと、心の中心で強く渦巻いていたのかもしれない。

 

 この世界の誰でも、現実世界の誰でも、自身の心に嘘を吐く瞬間がある。強がって、偽って、フリをして、そうして自分の気持ちを留めていて。

 それでいて、それを消し去る術は持たず、ただ苛まれ続けるだけ。後悔、疑惑、それらを捨てられず、けどその原因を潰したって、消えてくれなかったりして。

 

 

 「……」

 

 

 アキトは、自身の部屋の壁にもたれかかり、そのままズルズルと腰を下ろしていった。

 その瞳は、前髪でよく見えない。もたれる壁の向こうにはリーファの部屋があって、無意識に背中で感じてた。

 もしかしたら、まだ泣いているんじゃないかって、そう思うと辛かったから。

 

 

 「……くそっ……」

 

 

 ずっと、彼女に違和感を感じてた。

 兄の死と同時にログインなんて、そんな事出来る筈が無いと分かっていたのに。

 そんな悲しみを持ったままその直後にゲームにログインなんて、そんな事をする彼女の心はきっとボロボロだった筈なのに。

 

 何が、守るだろうか。

 

 何が、正義の味方だろうか。

 

 何が、ヒーローだろうか。

 

 

 彼女が顔に出さなかっただけで、大丈夫だろうと決め付けて、その結果があの見た事も無い彼女の泣き顔だった。

 動揺したし、困惑したし、それでいて現実を突き付けられた気がした。

 何も変われていない自身と、その自身の無知加減を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 「……なぁ、アキト」

 

 「……何だよ」

 

 「最近、リーファっちと何かあったのか?」

 

 「っ……」

 

 

 エギルの店のカウンターに、珍しくクラインが座っており、それでいて神妙な顔付きだなとアキトが思っていると、それ相応の理由がクラインの口から述べられた。

 エギルもそれは気になっていたのか、アキトの方をカウンター越しに見下ろしていた。

 

 最近、アキトとリーファの間にはなんとなく気不味い雰囲気が漂っていた。

 それは、リーファがアキトに泣き顔を見せた当日から始まっており、その時からもう既に周りは違和感を感じていたのだ。

 いつもならリズベット辺りがどうしたのかと問い詰めるのだが、二人のあまりにも暗い表情に、何も言えなくなってしまっていた。

 

 先日、85層のフロアボスとの戦闘時においても、二人は全く会話をしていなかったように見えるし、いつもは勝ち気なリーファも、心做しか無理して笑っているような気がした。

 このままではいけないと、クライン自らが意を決して口を開いたのだ。

 アキトは一瞬身体をビクつかせるも、やがて軽く溜め息を吐いた。

 

 

 「……別に何も無えよ」

 

 「本当かよ」

 

 「執拗いな……大体、お前には関係無えだろ」

 

 「なわけねぇだろうが。お前さん達が何か気不味い雰囲気出してたら攻略にも支障が出るってんだ」

 

 「っ……それは、そうだけど……」

 

 

 クラインが言ってる事が正論過ぎて、アキトは口を噤む。

 このままの状態が続けば、攻略の際の連携すらまともに取れなくなってしまう。

 最悪の場合、どちらかが命の危険に晒される可能性だって無いわけじゃ無い。

 

 

 「言えねえ事なら言わなくてもいいけどよ、せめて仲直りくらいはしてくれよ」

 

 「……分かってる」

 

 「もう86層のボス部屋を見付けたって情報があったからな、それまでには頼むぜ」

 

 「……分かってるよ」

 

 

 最近のボス部屋を見付ける速度は本当におかしい。

 上層に連れてフィールドが狭くなっているから当たり前なのだが、迷宮区の最奥にある筈のボス部屋が、こんな時に限ってすぐに見付かっても、あまり嬉しくなかった。

 

 そうして息を軽く吐くと、カウンターの向こうにいたエギルが、クラインの方をチラリと見た。

 

 

 「……そういうお前も、なんだか不景気な顔してるじゃねぇか」

 

 「……確かにそうだな」

 

 

 エギルにつられてアキトもクラインを見る。

 クラインはなんとなく不機嫌というか、落胆したような表情を終始作っていた。

 クラインは否定せず、その表情は益々不景気になっていた。

 

 

 「そーなんだよエギル、まぁアキトも聞いてくれや。86層にいる老人のNPCが攻撃スキルの習得クエストをくれそうだって情報を買ったんだよ」

 

 「……へぇ」

 

 「この上層で珍しいな。で、一体どんなスキルだったんだ?」

 

 「まあ聞けって。それでその老人のとこに行ったわけだ。そしたら延々長話を聞かされたあげく、クエストなんて起動しやしねぇ。とんだ無駄金を使っちまったぜ」

 

 

 不貞腐れた顔でドリンクを飲み干す。

 エギルはそれを聞いて眉を顰めた。

 

 

 「ソイツは災難だったが……起動条件が何か足りないってオチじゃないのか?」

 

 「……その長話ってどんなだったんだよ」

 

 

 エギルに続いてアキトが口を開く。

 するとクラインは思い出すのも嫌なのかウンザリした顔に変わる。百面相である。

 

 

 「その爺さんの若い頃の武勇伝だよ。長過ぎてあまり覚えてねーけど……確か、飛んでいるドラゴンの目を潰したとか、川向こうの扇を一撃で射落としたとか、そんな話だったかな」

 

 

 クラインはそこまで言うと、何か察したように瞳を開き、その手の片方を顎に置いた。

 

 

 「……ん?よく考えると遠くのものを攻撃した話ばっかりだったな。てことは投擲スキル系のクエストなのか?いや、でも投擲スキル持ってる奴なんていくらでもいるのに、未だにクエストが起動したって話は聞かねぇしなぁ……」

 

 

 クラインに合わせて、エギルも腕を組み考える。

 その傍らで、アキトだけは何かを理解したのか、その身体を固めた。

 

 

(遠くのもの……攻撃……射落とす……成程な)

 

 

 アキトはカップに映る自身の姿を見て、悲しげに笑った。

 隣りにいたクラインはふと、そんなアキトの笑みを見ると、その口元を緩ませた。

 

 

 「お、アキト、おめぇ何か心当たりあんのか?」

 

 「……まあ、あくまで予想だけどな。クエストの起動条件を満たしてる奴に一人だけ心当たりがある」

 

 「本当か?一体誰が……」

 

 

 エギルが身を乗り出してその名を聞こうとしたその矢先、2階から階段を下りる音が聞こえた。

 3人は一斉にそちらを見ると、そこにはシノンがいて、見られている事を察してその顔を歪ませた。

 

 

 「な、何……?みんなして……私の顔に何か付いてる?」

 

 

 そう言って顔をペタペタと触るシノンを一瞥し、アキトはクラインとエギルに向き直った。

 

 

 「……アイツが起動条件だ」

 

 「……成程な、弓か」

 

 「納得だぜ。そりゃあ誰もクエスト受けられねぇ訳だ」

 

 「……何?一体何の話?」

 

 

 シノンは話が見えないせいで、不満顔が分かりやすい。

 説明してやるか、とアキトが呆れ笑いを浮かべながら口を開きかけた瞬間、クラインがシノンからこちらに視線を動かした。

 

 

 「なあアキト、おめぇシノンさんと行ってこいよ」

 

 「……は?……え、行くって、クエストを?」

 

 「おうよ」

 

 「俺は……良いよ、別に。後で他の奴らと行った方がいいだろ」

 

 

 アキトはクラインの提案を蹴る。

 今は正直誰かに構っている気分では無いし、そんな自分がいたってシノンにも悪い。

 今現在、この場で用事が無いのはアキトだけで、他のみんなは出払ってしまっていた。なら、別に今日じゃなくてもいい訳だし、集団での方が、シノンにもパーティの連携を教えられて好都合だろう。

 

 

 「いーや、行ってこい!んで、その辛気臭い顔直してこいって。良い気分転換になるかもしれねぇだろ?」

 

 「まあ、86層のボス部屋がもう見つかってるんだ。次のボス戦まで時間も無い。新しいスキルが手に入るなら、早めに取った方が良いとは思うぜ」

 

 「エギルまで……」

 

 

 彼らの言ってる事は最もだ。

 クラインの言うように、この調子じゃ攻略もままならないだろうし、エギルの言うように、手に入るスキルは早めに取得した方が良いのは確かだ。

 だけど、この上層で手に入るスキルなのだから、楽観的に見る事は出来なかった。

 

 

 「気分転換とかいう程の難易度だとは思えない。……それに、そんな気分でいたってシノンに悪いだろ。アイツだって暇じゃ無えかもしれねえし」

 

 「別に良いわよ」

 

 

 そんな声がすぐ傍で聞こえて、アキトの身体が思わず震える。

 振り返れば、そこにはシノンが立っており、カウンターで座るアキトを見下ろしていた。

 

 

 「っ…、な、……え?」

 

 「だから、別に良いって。少しだけ聞こえたけど、何かのクエストなんでしょ?私暇だし、その……付き合っても良いけど」

 

 「……や、付き合うも何もお前限定クエなんだけど……」

 

 「?どういう事?」

 

 「えっと……」

 

 

 アキトはチラリと隣りを見た。

 クラインとエギルはこちらに笑みを作っていた。二人とも暖かな瞳をこちらに向けている。

『行ってこい』と、そう語り掛けているようで。

 

 アキトは、どこまでもお人好しな二人に、呆れたように笑った。

 席から立ち上がり、シノンの横を通り過ぎる。彼女は目を丸くしながら、こちらを視線で追っていた。

 

 

 「……後で説明してやる。手に入るなら早い方が良い。取り敢えずその街まで行くぞ」

 

 「えっ……ちょ、ちょっと待ってよ……」

 

 

 アキトのその背を、シノンは早歩きで追い掛ける。

 そんな二人を、大人二人は嬉しそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 86層の街は、最前線という事もあって、やはり賑わっていた。

 綺麗に建造物が横並びになっており、一本の道が出来ている。その上空には、そんな建物を覆うように、気や崖で傘が出来ていた。

 

 シノンは、見知らぬ土地にキョロキョロと視線を動かしながらも、アキトの背中を追い掛ける。

 それを確認しながら、アキトは無意識にシノンのペースに合わせて、歩く速度を遅らせた。

 

 そんな中、アキトはとある建物の前で、椅子にポツリと座っている赤いフードの老人がいた。あの家の主なのだろうか。

 怪しくてあまり話し掛けたくないが、もしかしたら、いやもしかしなくてもあれがクラインの言っていたクエストを起動する為にこれから長話を語るであろう老人だろう。

 今から聞くとなるととても面倒臭い。アキトは自分でその表情が歪むのを感じた。

 

 

 「シノン。あの爺さんに話し掛けてみろ」

 

 「……この人が何だっていうの?」

 

 

 ここまで何も教えてくれなかったアキトに若干の不満を感じながら、シノンは怪訝な表情でアキトに問い掛けた。

 アキトは老人を遠目に見ながら、彼女にここへ来た理由を告げた。

 

 

 「クラインが言うにはこのNPC、スキル習得のクエストがあるらしいんだが、まだ誰も起動出来てないらしい」

 

 「それで?」

 

 「さっき話の内容を聞いたら、遠距離のものを射落とす武勇伝ばかりだったんだとさ。もし射撃専用のクエストなら、この世界にこれを受けられるのはお前だけだ」

 

 「へぇ……分かった、やってみる」

 

 

 シノンは納得したように頷くと、その老人の前に出た。

 俯くその老人は、シノンの気配を感じたのか、その顔を上げた。

 

 

 「あの……こんにちは、お爺さん」

 

 

 物腰を低く、優しげな笑みを浮かべて話し掛けたシノン。

 だが、そんな彼女に、老人は突拍子もない事を話し出した。

 

 

 「おや、すまんのう郵便屋さん。それで、わし宛の荷物は何処にあるんじゃ?」

 

 「は?あの……」

 

 「郵便屋さんじゃなかったかの?じゃあ、お前さんはパン屋のマリオの子か。おおきくなったのぉ……そうじゃ、お前にはまだ話した事無かったの。あれは30年前じゃったか、村の勇士として名を馳せておったわしが……」

 

 

 と、聞いてもないのにつらつらと話し出した老人を前にして、シノンはアキトに向かって困ったように眉を顰めた。

 

 

 「……何、この小芝居?」

 

 「相当長いらしいから、我慢するしかないな」

 

 「……RPGって面倒くさいのね」

 

 

 シノンはゲンナリした状態で立ち尽くす。

 アキトはそれを遠目に見ながらも、今から始まるであろう老人の話を聞き流す準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……まさか、こんなに長いなんて……)

 

(もう1、2時間くらい経ってるだろ……!)

 

 

 「……で、わしの放った矢がぶつりと右目に……と、何処まで話したかの?」

 

 

 老人すらもボケ始める程の長話、アキトもシノンももはや目の前の老人に嫌悪感すら感じなくなっていた。

 こんなに長時間立ち尽くした事はない。校長先生が可愛く思えてくるくらいだ。

 

 

 「まあええ、こんな話をいくら聞かせようとも、わしの技が伝わる事は無いからの」

 

 「……じゃあ何だったのこの2時間」

 

 「これでクエストじゃなかったらキレて良いよな……」

 

 

 だが、各々がそう呟いた瞬間、老人が懐から鍵を取り出し始めた。シノンはそんな老人を見て首を傾げる。

 老人はそれをシノンに見せ付けながら言葉を続けた。

 

 

 「わしのスキルを受け継ぐには、試練の中で己を磨く必要があるのじゃ」

 

 「試練?」

 

 「そう、お主はこの層のダンジョンに封じられている《試練のアミュレット》を取ってこなければならん。この《鍵》で《封印の扉》は開く。アミュレットを手にしたら、またここに戻ってくるがよいぞ」

 

 

 そう言って差し出された鍵を、シノンは恐る恐る受け取った。

 その瞬間、老人の頭には『!』のマークが表示され、クエストの起動が確認出来た。

 

 

 「……えっと、上手くいった?」

 

 「……ああ。長かったな、もうこれでクエストクリアでも良いくらいだ」

 

 

 アキトは溜め息を吐いた。

 これでただ長話を聞かされるだけなんてオチだったら体術スキルが発動してしまうところだった。

 だが、他のプレイヤーは全滅で、シノンが起動させる事が出来た。そんな彼らとシノンの違いなんて、一つしか無かった。

 

 

 「やっぱり、射撃スキルが起動条件だったんだな」

 

 「って事は、要するにこれ、射撃が強くなるクエストなのよね?」

 

 「ああ、射撃強化クエストなのは確定だな」

 

 

 シノンの質問に、アキトはそう答える。

 射撃系の上級スキルか、もしくは新しいソードスキルか、いずれにしても、シノンにとって損は無いクエストなのは間違い無かった。

 

 それを聞いたシノンは、途端にその表情が明るいものに変わり、嬉しいのか、アキトのすぐ傍まで近付いた。

 

 

 「凄い!やったわね!退屈な話をずっと聞いていた甲斐があった。ねっ、アキト?」

 

 「っ……ああ……そうだな……ってか爺さんの前でそんな事言ってやんなよ……あと近い」

 

 「あ……」

 

 

 自身とアキトの距離に気付いたのか、シノンは顔を赤くし、咄嗟にアキトとの距離を離した。

 俯き、その表情は伺えないが、とても気不味かった。間にいる老人がNPCだといっても、この状況を見られているようで恥ずかしかった。

 

 だが、アキトはそれよりも不安な事があった。

 それは、このクエストを行う場所。

 

 

 「……この層のダンジョン、か」

 

 

 この層、つまり86層。

 そう、最前線なのだ。

 シノンのレベルが安全マージンギリギリな為に、そんなにすぐには行きたくないと思ってしまう。

 シノンはやる気に見えるのだが、こればかりは踏ん切りが付かない。

 リーファの事も相成って、手遅れでは遅いのだからと、アキトをいつもより慎重にさせていた。

 

 

 「……なあシノン」

 

 「……何?」

 

 「俺は、お前のレベルがギリだから、このクエスト受けるのはもう少し後でも良いと思ってる」

 

 「え?」

 

 

 シノンの瞳が、アキトを突き刺す。

 アキトはそんな彼女に慌てるように言い訳を立てまくる。

 

 

 「お前が強くなりたいって望みがあるのは分かってる。だけど命の危険があるなら、行かない方が良い。せめてこの層のボスを突破してからとか……」

 

 「アキト……」

 

 

 狡い。そう思った。

 自身の弱さが、足りない部分が顕著に出たから、急にそんな事を言い出して。

 リーファの時みたく、一人で抱え込ませたりさせるくらいなら、と思うと、行かせた方が良いのかもしれない。けれどもしまた、自身の知らないところで誰かが悲しみを抱く事があって、対処出来なかったりしたら、また自信を無くしてしまう気がした。

 

 もし、危ない目に合ったりしたら────

 

 言葉を切って、俯くアキト。

 そんなアキトに不安そうな表情を浮かべたシノン。

 

 

 だが、シノンはやがてその口元を緩め、アキトの前に一歩出た。

 

 

 

 

 「……でも、アキトが来てくれるんでしょ?」

 

 「え……」

 

 

 アキトは、シノンの事を見る。

 見開いたその瞳には、自信ありげな彼女の笑顔があった。

 

 

 「私は襲われても、助かるんでしょ?」

 

 「……」

 

 「アキトが守ってくれるから、私は死なない。そうでしょ?」

 

 「っ……シノン……」

 

 

 その大き過ぎる信頼に、アキトは息が詰まる。

 そう、彼女は自身と交わした『約束』を信じてくれているのだ。なのに、自分は繰り返したくないからと逃げてばかりで。

 

 情けない。だけど、失いたくないからと、そう思える。

 きっとリーファも、信じたかったのだ。帰ってくる兄の姿を。

 だからこそ。

 自分がここで折れてたら、きっと誰も助けられないから。

 

 

 

 

 「……助けるよ。……俺が、この手で」

 

 

 「……ふふっ……それじゃあ、お願いね」

 

 

 「……うん」

 

 

 シノンは、嬉しそうに笑う。顔を赤らめて、とても魅力的に。

 アキトはそれを見て、同じように小さく笑った。

 

 こうして何度も、彼らに諭され、思い出させられる。

 アキトは誓った筈だった。だから、こんな事にだって挫けたりしない。

 リーファの事も、必ず解決してみせる。だからこそ、このクエストを必ずクリアしてみせる。シノンを守ってみせる。

 

 

 今は、きっとそれで良いのだろう。

 

 

 アキトの中の何か(・・)が、笑った気がした。

 

 

 

 







小ネタ『ナンパ?』


Ep.18 リズベットに対して

アキト 「…だから約束する。必ず、君を守るよ」


Ep.21 シノンに対して

アキト 「…俺が…守る、から」


Ep.51 アスナに対して

アキト 「…守るよ、必ず」




シノン 「……アンタ、女の子に『守る』って言って回ってるの……?」

アキト 「タラシ的な意味で言ってるなら否定しとく」






次回『この気持ちを音に』
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